原作丸写しでない限り好きなキャラを好きな風に動かす物、見る人も書く人も分かっている事です。オリジナル小説ですら言ってみれば好きな世界観で好きな感じのキャラを動かしたい、ですからね。
この意見とは正反対の意見の方も居るでしょう。私の作品が気に入らない人もいるでしょう。
評価は自由です。でも、同じ趣味の集まりのサイトですし、お互いに文章の内容には気を付けましょう。罵倒する文体送っても嫌な想いをさせるだけですよ。評価で馴れ合いはしなくても、その程度なら構わないでしょ?
僕と彼女の始まり
初めて『彼女』を目にしたのは父さんに連れられて向かった北極での事だった。フィールドワークも重要で、こうした経験は若い内からしておくべきだと魔力で温めたミルクのマグカップを渡しながらと父さんが言っていたのをよく覚えている。
「所でお仕事の方は良いの?」
「私には優秀な部下が多いし、人を思い通りに操るのは得意分野だからね。こうして親子の時間を作る方が大切なのだよ」
帰った後で側近に椅子に縛り付けられて書類仕事をすることになる父さんだけど、この時はとても悪い顔をしていて、皆が父さんを反面教師にしなさいって言う意味がよく分かったんだ。
そして三日目、僕は運命の出会いをする。
「昨日の地震で発生したクレバスの中にこの様な物が存在するとはね。......事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものだ」
興味本位で入ったクレバスの底、氷漬けになった彼女を見た僕は思考を奪われた。花嫁衣装に似た服を身に纏う彼女は美しく、そして明らかに人では無かった。赤みを帯びた髪で隠されたオッドアイ、そして両側頭部と額に存在する機械のパーツ。父さんは顎に手を当てて考え出した。
「まさかフランケンシュタインの怪物という奴かね? いや、廃棄されたはずの花嫁か?」
一度だけ読んだ事のある本にその存在は出てくる。『完全なる人間』の創造を目指したフランケンシュタイン博士は死体を繋ぎ合わせて造り出した怪物に恐れをなして逃げるんだけど、成長した怪物は博士を見つけ出し、共に永遠を生きる伴侶を求める。
結局、博士は怪物が増えることを恐れて花嫁を廃棄し、怒り狂った怪物は博士の友人と伴侶を殺害。最後に北極まで追い詰めた博士の死を知り憎むべき相手も憎まれる相手も失った怪物は死を選ぶ。
「私の予想通りなら、小説の登場人物でしかないと思っていた者達は驚きそうな話だ」
「其れ、父さんが言う? あの探偵の事務所らしき場所は実際あるらしいし、実在を信じる人も多いそうだけど」
僕の言葉に父さんは返事をしないで黙り込む。この後、僕達は氷から彼女を取り出し持ち帰った。どうも父さんは学者として興味が湧いたらしい。
「......夢か」
実家の中庭に存在する花畑の中、僕は目を覚ます。あれから長い年月が経ち、今では僕も高校生。背も伸びたし、随分と変わった。
「ウ!」
「ああ、お早うフラン」
僕の頭を膝に乗せ、ジッと顔を覗き込んで来るのは、あの時から全く変わらなく見える彼女。今は省略するけれど色々あって僕と彼女は恋に落ちた。いや、あの時から僕は彼女に恋をしていたと言った方が正確だ。
今の彼女は名無しの怪物じゃない。僕が付けたフランという名を持つ一人の少女だ。僕の両頬を挟み込むように手を当てている彼女の頬に右手を伸ばしてそっと触れる。ひんやりとした冷たく、そして手触りの良い滑らかな肌の感触が伝わってきた。
「そろそろ起きようかな。久し振りに花で冠でも作ってあげようか?」
「ウ、ウゥ......」
フランは迷った様子で左右に顔を振り、そっと僕の頭を押さえつける。もう少しこうしていたいって事だ。会話に難があるフランだけど、十年以上の付き合いで何となく言いたいことも理解出来るようになった。
「じゃあ、もう少しだけ......ほら」
「ウ!」
そっと差し出した手が宝物のように優しく包み込むように握られる。あの時、僕がこうして手を差し出したから今の僕達があると思うと感慨深い物が有るよね。
「僕は君と居られて幸せだよ。君もそうだろ?」
フランは静かに頷く。本当に僕は幸せ者で、この時間がずっと続けば良いとさえ願う。
「セルジュさーん! 旦那様から今月の課題が届いたっすよー!」
「......幸せって続かないものだね」
空気を読まず、土煙を上げながら猛ダッシュで接近してくる馬鹿に溜め息を吐き、僕は上半身を起こす。背中に張り付くように寄り添うフランが心なしか唸り声を上げている気がした。
「君に彼女が出来た? 水晶玉とか壷とか買わないようにね。ああ、ボイスレコーダーを用意すれば証拠になるよ」
「あのなぁ、幾らお前でも怒るぞ?」
僕が通っているのは日本の学校、名を駒王学園。本当は実家の近くにある学校に通うべきなんだけど、凝り固まった思想での教育だけでは宜しくないと言い出した父さんによって留学が決定した。と言っても通いの家庭教師に必要な事は教わってるし、集まりには参加しているんだけどね。
そんな忙しい僕にも友人はいる。今、僕に初めての彼女を疑われて怒っているイッセーこと兵藤一誠が其の一人。仲良くなった切っ掛けは一年生の時に教室でエロ本を広げていたイッセー含む三人に僕が言ってやったんだ。
「こういった物は人気がない場所でコソコソ楽しむものだよ? 何時誰か来るか分からないスリルを感じられるし、悪いことをしているって背徳感も味わえるからね」
猥談って物は声を潜めて楽しむものだ。その辺の浪漫が分かっていない三人に色々と教えている内に仲良くなった。因み三人が偶にする覗きには参加しない。僕にはフランが居るし、エッチな本を見るのと目の前にいる女の子の裸を見るのとじゃ違う気がするんだよね。
でも、一応其の手の本は巧妙に隠している。僕の部屋を掃除するメイドにだって見つかるはずがない。
「僕も相思相愛の相手が居るから怒る気持ちは分かるけど、イッセーだって自分の悪評が広まっているのは知っているよね?」
「ぐっ!?」
流石に其の子を知りもしないで言うのは悪いけど、他校にまで変態の噂が流れているイッセーに告白するとか疑いたくなる。一緒に居れば悪いところも良いところも分かるんだけど、常日頃の行動だけ見ていれば欠点しか目に入らない。話を聞く限りじゃ覚えていないけど何かから助けたとかじゃないみたいだし。
「痴漢だって有罪率が高いんだ。何か其の手の罪を着せられた時、不利なのは男だよ。ましてやこの前も覗きが見付かったよね? 友達として忠告しているんだよ、僕は」
最初は適当な対応だったけど、今度ばかりは真剣に進言しておく。後はイッセーと、初対面で告白してきたって言う彼女次第。立ち入るのは野暮な話だ。......一応腕の良い弁護士を紹介する準備はしておこう。
「似...合う......?」
必要な物があるから実家に帰ったらメイド服のフランが出迎えて居た。非常に眼福で抱き締めたいレベルの可愛さだけど意味が分からない。
取りあえず感想を伝えた後、格好の訳を訊いたら本を差し出してきた。隠していたはずのエロ本(メイド物)だ。どうやらこう言った服装が僕の好みだと知って着てくれたらしい。可愛い上にそんな気遣いまで出来るなんてフランは最高だと再認識するけど、張られていたメモが非常に不吉だ。
父さんの顔のイラストが端に描かれたメモにはこう書かれていた。
『この本をメイド長に差し出してメイド服を着せて貰いなさい』
「......え? 見せたの?」
「ウ!」
コクコクと機嫌良く頷くフランは僕の感想がお気に召した様子。一方僕はすれ違った使用人の表情を思い出し、感じていた違和感の理由を知った。
「取り敢えず写真に撮らせて。勿論動画も」
これは暫く堂々と実家に戻れないな......。フラン以外と接触しないようにしないと......。
取り敢えず父さん、今度会ったら殴らせて下さい。でも、有り難う。素敵な物が見れました。
活動報告で募集事項有りです