好きな言葉はパルプンテ 作:熱帯地域予報者
やってしまった。
私は街の真ん中にポッカリと空いたクレーターの中でそう思った。
一緒にクレーターの中に入った村人たちは私を悪魔か何かを見るかのような目をしている。だが、私は至って普通の人間だ。そんな目を向けられるのは甚だ遺憾とだけ言っておこう。
クレーターからジャンプで抜け出し、私がいた場所へ視線を向ける。
エリックたちの声が穴の中から聞こえるということは運悪く落ちてしまったんだろう。
それにしてもやはりこの街はお世辞にもいい街とは言えない。店の品ぞろえも街の雰囲気も悪く、道路の整備も充実していない。私が踏み込んだだけで陥没するのは如何なものか。
「な、な、な、何なんだよお前は!?」
穴を覗き、いの一番に叫んだのは追われていた少女だった。見た感じ、怪我はなさそうだ。無事で何より。
「無事じゃねーよ!! 怪我どころか大惨事じゃねーか!! 周りをよく見ろ!!」
怪我の他に何かあったらしい。もしかすればこの時代の常識というものに触れた恐れがある。色々と聞きたいが、先に穴から出してやることにした。このまま穴の中に置くのは不憫だ。
「とりあえず、助けてくれないか? こうなったのは先生が原因だしよ」
エリックの言葉ももっともなので、念のために持っていたロープを下ろすと、エリックたちはそのまま登ってきたが、少女だけは訝しげな表情を向けてくる。
だが、この状態は望むものではないのだろう、しばらくしてから最後にロープで登ってきた。
全員を引き上げた時、村人たちは私たちを取り囲んで武器を向けていた。
「な、なんだよお前らは!? お前も悪魔の仲間か!?」
何やらひどく怯えているように見えるが、私が何かしてしまったのだろうか?
まだ威嚇ぐらいしか身に覚えがないのだが、それだけでそこまで怯えるものなのだろうか。
だが、私が疑問に思ったのはそこじゃない。村人が言った『お前も悪魔の仲間』というのが引っかかる。
まるでこの場に悪魔がいるような口ぶりではないか。その意味について尋ねても村人たちは落ち着きを失って私に武器を構えて威嚇する始末。それどころか狂気すら感じ取れる始末だ。
かなりまずい流れだ。私はともかく子供たちにも被害が及ぶ可能性が高い。
雰囲気が険悪なものになる。なればこそ、こういった雰囲気をぶっ壊すにふさわしい魔法を私は持っている。今ここで使うのは不安ではあるが、死人は出ないので問題はないと結論付けた。
私は少しの魔力を解放させるとクレーターから砂ぼこりが舞い上がり、突風となって村人たちに噴きかかる。
そして、後方の少女は固まっていた。
「な、なんだよ……あのバカでかいモンは……」
少女が畏れと驚愕を含んだように呟き、エリックたちはこれから起こるであろうパルプンテに備えて身構えている。
「気持ちはわかるが、早く逃げるぞ。先生の魔法はマジでヤバいからな」
「おい待てよ! そんなヤバいものを村の人たちに使うのか!? 死んだらどうすんだよ!?」
「オレもそう思うが、先生ならそこらへんは考えてるだろ。魔法自体には人を殺す効果は無いが、生死の境に追いやるくらいだって言ってた」
「聞くだけでヤバいシロモノじゃねーか!!」
「言っとくけど素手でやらせたら手加減の具合分からないから本気で殺しかねないぞ」
「どっちにしても最悪じゃねーか!」
エリックたちと言い合っているが、そういうのは後にしてもらいたい。
私は彼らが少女を立たせて逃げる準備をしたと確認し、パルプンテを唱えた。
呪文はやまびことなって消えた。
無駄になったパルプンテを頭から追いやり、私は拳を握って構えた。
こうなれば塵殺覚悟のステゴロ戦法でいくしかあるまい。
「おい! 魔法失敗したぞ、どうすんだ!? 素手で戦おうと言わんばかりに構えてるぞ!」
「失敗じゃねえ! 先生が失敗したら他人を巻き込んだ自爆を起こすんだよ!! だから山びこは当たりなんだよ!!」
「んなもん知るかあぁぁ!!」
少女の気持ちいいくらいに響いたツッコミを聞き届け、私は魔力を無駄にした分を素手で補うことにした。
相手は村人とはいえ、こちらの主張も聞かずに武器を構えたのだ、多少は痛い目を見せても問題はあるまい。ただ、普通に戦えば間違いなく村人は死ぬため、狙うなら足か腕だろう。
四肢を砕いてやれば不殺の状態で制圧は完了する。もちろん、私に一般人をいたぶって悦に浸る趣味は無いが、できないわけじゃない。
たとえ相手が子供だろうが幼女だろうが老人だろうが、悪意を以て害をなすなら私は差別せず相応の対応で当たらせてもらう。
武器を持った村人全員の手足を砕くことに決めた私が一歩を踏み出す前に背後から私の腕を掴んで静止させた少女がいた。
「早まるな!! 今はとにかく逃げるぞ!!」
私としては逃げる理由は無いが、ここでエリックたちのことを失念していたことに気付いた。
彼らは確かに魔法を習い、そこらの同年代とは比べ物にならないほど強くなっている。この少女もまた、力強い力を感じさせる。今のエリックたちと同等、もしくはそれ以上かもしれない。
ただ、彼らはまだまだ子供だ。旅の最中にモンスターや私を相手に鍛えてきたが、同じ人間相手、しかもあまり傷つけずに戦うのは心情的にも技術的にも無理だろう。
万が一、私が取り逃がしたりする可能性も無いとは言えない。
少女の静止で落ち着けた私は彼女の頭を撫でて構えを解く。
「な、なんだよ! 馴れ馴れしくすんな! そんなのはいいから逃げるぞ! こっちだ!」
本人は力強く否定したため撫でるのを止めてすぐに行動へ移す。
逃げる場所は知らないが、彼女には心当たりがあるのだろう。少女は私たちに先行して付いてくるよう促した。
私が彼女に付いて行くと、エリックたちも芋づるみたいに一列に並んで付いて行くのだった。
しばらく村から離れた場所の小山に家があった。
家は朽ち果てたようにボロボロではあるが、中から二人いる気配がする。そうなると、あの家は間違いなくこの少女の家でもあるのだろう。
「普通に走ってきたけど、誰も追いかけてこなかったな」
「あんな複雑な裏道を縫うように逃げ回ったんだから振り切ったと思うけど」
「単純に先生にビビっただけかもしれないゾ」
マクベスたちの談笑を聞きながら少女を先頭に家へ目指していく。
ここまで村と隔絶された場所に住むのは色々と不便そうだ、と思っていると少女は歩きながら私たちに顔だけ向けた。
「悪かったよ。あんたら巻き込んで」
申し訳なさそうに謝罪してきた。どうやら彼女は私たちのことを気にしているようだ。
偶々出会っただけで一緒に村から逃げる羽目になったことを悔やんでいるようではあるが、それは間違いである。
あれは私たちが勝手に手を出した結果だ。それを他人に心配される覚えはない。
あの状態であれば彼女を見捨てることもできたし、勢いに乗って彼女と敵対することもできた。
だが、私たちはあえて彼女と逃げる選択を選んだ。ただそれだけのことだ。
「『たち』って、先生が勝手に首突っ込んだだけなんだが」
「てか、ノリノリだったな」
「反対する暇もなかった、デスネ!」
ソーヤーを含めた全員のジト目に反省を示すと、少女はさっきまでの表情とは裏腹にプっと噴き出して笑った。
「何だよ、変な奴らだな」
そこに侮蔑や嫌味のような感情はなく、嬉しさに似た気分の高鳴りを感じた。
元気になったのは何よりだ。さらに言うなら、このまま一夜だけでいいから家屋でもなんでも使わせて泊めて欲しいと交渉してみるが、如何なものか。
「馬鹿正直すぎだろ……それは別にいいよ。何だかんだで助けられたのは事実だし」
やはり言ってみるものだ。私たちは本日の雨風凌げる宿にありつけることとなった。
日頃の行いが帰って来たのだとパルプンテ神に祈りを捧げる。
エリックたちも皆喜ぶ姿に少女は苦笑する。
「そういえば助けられたし、一晩過ごすなら名前くらい知っておいた方がいいよな? 私はミラジェーン・ストラウスだ。兄弟いるからストラウスじゃなくてミラでいいからな」
少女が名前を明かした時には既に家のドアに手をかけていた。
このままこちらも自己紹介するのが筋だが、それはまた家に上げてもらってからにしよう。
最初に追われていたころとは別人のように笑いかけ、私たちはその家に招かれた。
今までのパルプンテによって出た技など
・メラ系
・ヒャド系
・バイキルト等の補助魔法
・マヌーサ等の妨害魔法
・いてつくはどう、くろいきり等のステータス初期化
・ベホマ、ベホマズン、ザオリク等の回復魔法
・ドラゴラム
・メガンテ
・マダンテ
・etc……
別作品枠
・メテオ
・アルテマ
・はかいこうせん
・だいばくはつ
・じばく
・ゆびをふる
・召喚(次話にて追記)
特殊
・呪われた装備の出現(後話に追記)
その他色々、多岐に渡るため、全ての追記は不可能
未だ確認されていない効果、技などは未知数、これからも増える可能性は極大