好きな言葉はパルプンテ 作:熱帯地域予報者
多きいプレッシャーはありますが、嬉しい気持ちが上回っています。
仕事が忙しくて更新頻度はあんまりですが、これからも気長にやっていこうと思います。
エリックたちが旅に同行するようになってからというもの、私は様々なことを学んだ。
まず、この世界は私がいた時代よりもおよそ400年も経過した未来だった。最初は街の話だとか聞いてみたけど、色んな所の地名が変わっていたことから互いの話がかみ合わなくなり、突き詰めて聞いてみたらようやく判明した。その証拠にこの大陸もイシュガルと呼ばれていたのは昔だという。
まさかパルプンテで400年もの時を越えたなどと言えるはずもなく、エリックたちには真実を伏せている。
そして話していくうちに判明したのが私の友だったゼレフがこの時代において歴史に名を残していたことだった。
ただ、黒魔法だとか死者蘇生だとか明らかに人理に反していた研究ばっかしていたため一種の邪神のようになっている。
何してんだお前、と思いながらこの時代における彼の扱いに少し同情した。思えば会話の節々に危うい面があったことも一種の前兆だったかもしれない。
その結果、ゼレフ教なるものが好き勝手暴れて子供を攫って奴隷にしたりと各地で暴れまわっているという。
あのお人よしが知ったら問答無用で信者を打ち首獄門レベルの所業である。私としては生まれた時代は現代よりも命の価値が低かったため、宗教絡みの殺生については好きにやってくれと思うだけだ。
ただ、想像の中で作り上げた神ではなく、ゼレフは実際に存在した人間だ。
そんな人物を勝手に祀り上げ、好き勝手に解釈して「ゼレフのため」だとほざく狂信者だけは気に入らないとさえ思う。
暴走信者がゼレフの名を免罪符にしているように思う。ただでさえ、イメージの押し付けといった類のものが嫌いな私はその話題だけで機嫌が悪くなるのを感じる。
とはいえ、400年も経っており、ゼレフとて考えも変えている可能性だってある。
呪いが解かれていなければ今もこの世のどこかで潜んでいるのだろう、そんな人物のことであれこれ言う必要はない。
道を違えていれば倒す、それくらいでいいのだ。
それはそうと、杖から聞いた話ではラクリマというものがあり、それによって魔法の進歩は著しいものとなった。
聞いた話に限るが、私の時代にあった魔法の一部がロストマジックになっていたり、昔では考えられないようなユニークな魔法もある。柄ではないが、そういった新しいものに惹かれるのは人間の性である。
そして、子供同伴とはいえ今の世の中を実際に旅して見て回るのは悪くないと思いながら私は各地を渡り歩く。
もちろん、その合間にエリックたちへの稽古もしている。
子供たちを集め、今後の稽古について彼らと話し合っている。ただしソラノは夕食の準備をしているためここにはいない。
何か聞きたいことはあるかと尋ねると真っ先にエリックが手を上げた。
「先生はどうやってそんなに強くなれたんだよ?」
「秘訣ってあるのか?」
あれ以来、エリックたちは私のことを先生と呼んでいる。私としても別に問題はないため、以降はそのように統一しているのだ。
それはさておき、エリックからの質問は至極当然のものである。私としてはそのまま強くなった経緯を教えてもエリックたちのためにはならないと思っている。
私は神の呪い、もしくは祝福によって死んでもすぐに生き返るのだから強くなる方法は至極単純だった。自分よりも強い相手に勝つまで挑み続ければよかっただけである。
もちろん、そんな話をそのまましても信じられないという以前に私以外ではゼレフしかできなさそうだから却下。
そのため、一部の真実を誤魔化して伝えることにした。
①実戦
②鍛錬
③ドーピング
一通り伝えた時、エリックたちは引きつった顔で私に視線を向ける。
「「「えぇ……」」」
全員がシンクロして嫌な声を上げた。遠くで聞いていたであろうソラノは声は出さないもののエリックたちと同じ表情だった。
ここまで息があっているのであればチームで戦う方法も期待大だ。私は子供たちの思いがけない強さの秘訣を発見できたことで少し自分のことのようにうれしくなった。拍手と花丸を送ろう。
「先生は自分の話をおかしいとは思わないのかよ……」
「今更だと思うけどね」
ソーヤーとマクベスがお喋りしている。後で気にかけてみよう。
そう思っていると、リチャードが質問をぶつける。
「あの、①と②は分かるんですが、最後のドーピングとは一体……」
簡単に言えば私の魔法で偶然手に入れた産物だが、私の魔法にしては有用なものだった。
これを初めて手に入れた時はワイバーンに苦戦した時にイチかバチかで唱えたら種が出てきたのだ。もちろん、その後にワイバーンの尻尾をモロに喰らって折れたアバラが肺に刺さって呼吸困難になったことも今にして思えば笑える話になったものだ。
「おい、なんかエグい話を笑い話にしようとしてるんだが……」
「時々思うんだけどね、僕たちは師事する人を間違えたんじゃないかって不安になるよ……」
「知ってた」
子供たちの反応を見るとイマイチだったようだ。子供のツボというものは私には難しい話だ。
私も彼らの頃であれば子供心も分かってやれたのではないか?
そんなことを思っているとエリックがざわつき出した周りを咳払いで黙らせ、話を続ける。
「つまり、薬を使って無理矢理強くするってことか?」
少し違う。
簡単に言えば潜在能力を解放させやすくなる物だ。
「潜在能力……急に強くなるって訳じゃねえのか」
薬で寿命を縮めて得た筋肉で腕力が強くなったとしても、それはハリボテに過ぎない。そんな一時的な力ではなく、元々から存在する、一生のうちで目覚めるか分からない力を叩き起こすようなものだ。
言い方は物騒だが、違法薬物よりかは確実で安全である。
「そんな物があったなんて知らなかった……」
反応からしてあまり信じられていないようなので実物を出してみる。
荷物の中にあった4つ袋を取り出し、それぞれの袋から種を取り出す。色が付いているから見わけも付けやすい。
「これは、種か?」
子供たちが興味深そうに覗く姿は子犬を連想させ、微笑ましくなる。
「こんなもので強くなれるのか? ただの種みてえだし」
効果の程は保証しよう。
これらは力の種、守りの種、魔力の種、不思議な種だ。
文字通り、食べれば腕力、耐久力、魔法の攻撃力と魔力量を上げてくれるものだ。
ただ、少量だけ食べても効果はない。
種を死ぬ気で食いまくることが大事だ。それこそ一日だけでもいい、この中のどれか一種類に集中して食べ続ければ一日だけで別人のように変わる。
「なんか話が美味しすぎる気もしないではない……」
「実際にしてみないと分からないよね」
もちろん、エリックたちには今日からこれを食べてもらうつもりだ。この種はとにかく土と水さえあれば1時間で増える。何もなくてもそこら辺からモンスターを捕まえて捕食するから飼育も結構楽なのである。
よって、種は腐るほどあるから気にしなくてもいいと伝える。
「じゃあ、実食といきましょうか」
「あぁ、まずはオレからいくぜ。万が一毒があってもオレなら耐えられる」
「ねえ待って。普通に流したけど凄いこと言ったよね? え? これってモンスター食べるの? それって大丈夫なの?」
些細な疑問は後で答えるとして、最初はエリックから食べてもらおう。ソラノも来た所だからちょうどいい。
まずは力の種を手の平一杯に注ぐ。並々に注がれた種を前にエリックは唾を飲み込んだ。
エリックも臭いから無毒なのは分かっているが、効果が効果だけに気後れしてしまう。だが、強くなりたいと願う彼は少しの恐怖を抑え込み、手の平一杯の種を一気に口の中に放る。
緊張したまま咀嚼すると、予想通り無味無臭の種に拍子抜けした。
(毒も中毒成分もなし……か。本当にこんなもので強くなれるのか?)
身構えていたことが馬鹿らしく思いながら十分に噛み砕いた種を飲み込んだ。
瞬間、エリックは言い知れぬ嘔吐感に襲われた。
「……っ!? おえええぇぇぇぇ!!」
「エリック!?」
突然の異変にエリックは抵抗する間もなく食道を通過していた咀嚼後の種を一気に吐き出した。その様子にマクベスたちは集まった。
心配されて介抱を受けるエリックは訳が分かっていない様子だった。
さっきまでエリックが食べていた種には味について何の問題もなかった。
無味無臭、毒物の味も臭いもしなかった無害な穀物に対して自分の体が勝手に拒否反応を起こしたのだから当然である。
魔法を覚えて以来、食中毒にすらかかっていなかっただけに久しぶりの嘔吐は深いダメージを負った印象がある。
エリックは得体のしれない種を巡視しているところで私は文字通りの種明かしをする。
事実、エリックは分かっているようにそれらの種には毒物や中毒作用などを啓発する物は一切ない。味も無く、強烈な悪臭を放っているわけではない。その種自体は本当に安全なものだ。
「じゃ、じゃあ何で……?」
信じるか信じないかは彼らに任せる。
それは、エリックの体が拒否しているのではない。拒否しているのは“本能”そのものだ。
「え? 何それ?」
簡単に言えば、毒は無いけど私たち本能がその種を毒物だと“勘違い”しているということだ。
その種のもたらす恩恵は凄まじく、食べるだけで生命力を上げ、強くなると知られれば乱獲されて絶滅するかもしれない。
だから、その種は他生物からの捕食から逃れるために“本能”に作用する何かを分泌しているのだ。言い換えれば、肉体を蝕むのではない精神を蝕む毒みたいなものだ。
「そ、そんなものどうやって食べろと……」
これは数をこなして慣れるしかない。本能レベルで拒絶する種を受け入れられるようになるのはちょっとやそこらの月日ではまるで足りない。
もしかすれば、死に直面した瞬間、「どんな手を使ってでも生き残る」という強い覚悟さえあればその種を克服できるかもしれない。
最後の経験談だけは心の中に仕舞っておく。
全ての説明を受けた子供たちは種を微妙そうな表情で見ながら遠ざかっていく。
エリックの見事なぶちまけっぷりを目の当たりにした故に食べたいと思わないのだろう。
「ドーピングは分かった……実戦はどういったレベルを求められるんだ?」
そこは本人たちの実力や才能を見極めてから判断する。
私のやっている実戦や鍛錬では間違いなく2日経たないうちに破裂するのは確実だからオススメはしない。
「オレたちの先生が人外すぎてまた吐き気が湧いてきた」
それはいかん。あまりに吐き過ぎると癖になって吐きダコができる。
どこかの村に着いたら処方箋を処方してもらおう。
本日の授業を切り上げ、食糧を探しに行っていた杖が帰って来たところで私たちは昼食を食べ、村を探して再び歩き出した。
その日は運よく村に辿り着いた。
山の峠近くに位置する集落というわけで都市のような人の賑わいもなく、品ぞろえも期待できない。
とはいえ、旅立ってから数日は野宿だったため人里というのはありがたい。
エリックたちも久しぶりにベッドに寝れると期待しているのか目を輝かせている。
この時代の金はブレインが使っていた船から徴収済みだ。
「いや~、ようやくオレたち以外の人間を見た気分だな」
「今日は夜の見張りも必要なさそう、デスネ!」
「シャワーは浴びたいゾー!」
「寝たい……」
「お前、そればっかだな」
期待に沸き立つところ申し訳ないが、あまり期待しない方がいい。
最悪、買い物だけ済ませてこの村は出た方がいいと私は思う。
「何でだよ? 金なら少しくらい使ってもいいだろ?」
エリックに続いて皆が文句を垂れるが、問題は金ではない。
先ほどから入り口付近からでも漂ってくるが、この村からは負の感情というものがヒシヒシと伝わってくる。
突き刺すような空気の鋭さはさながら、一触即発というところだ。近いうちに暴動か戦争が起こるかもしれない。
「きっと気のせいだゾ! あったとしても今日じゃないなら問題ないゾ!」
ソラノも言うことも一理ある。なにもこの村を出ると決まったわけではない。
この嫌な予感も私の経験則からでた結論なのだから確定ではない。
「じゃあ探ってみるか? 分かれて村の中を散策とか」
散策には賛成だが、ここは固まって動いた方がいいだろう。
見た所、この村は潤っているわけではないから金持ってるのがバレたら襲われる可能性が大きい。そもそも、こういう村の人はよそ者を嫌うのが常だ。少なくとも信用はしない方がいいだろう。
「めんどくせえな……オレの聞く魔法があれば楽なんだがな」
今はないものねだりしても仕方ない。ここは一種の社会勉強だと思って行動しよう。
杖やキュベリアスは荷物の中に隠した方がいいだろう。
今にも朽ち果てそうな村の中へ意を決して入ると、同時に多くの視線が集まるのを感じた。
予想通りの内容はもはや様式美と言ってもいいだろう。あまりいい感情は感じられない。
だが、私たちはそう言う所も分かり切っていたことなので全員で視線を無視する。
視線を向けていた住民は睨んでも無駄だと知り、吐き捨てるように視線を外して仕事に戻っている。
「なんか感じ悪いゾ」
「この村に愛はありませんね」
案の定、ソラノとリチャードが村の現状に気付いて顔を顰めていた。他の面子も口には出さないが、同様のことを考えていることは明らかだった。
そして村の陰気さを表すように露店の品ぞろえは予想を超えて酷かった。
スカスカの商品棚の前で酔いつぶれる店主や齧りかけの果物を平気で売っている店もチラホラ目立つ。どこもかしこも店と店主の質が最悪だった。
「なんかもう、気分悪くなってきた」
「こんな所じゃ寝れそうにないよ」
「それよりも……こいつらの目が気に入らねえ」
さっきまで村での宿泊に乗り気だったソーヤーたちも意気消沈どころか機嫌が悪くなってさえいた。
どこまで行っても変わり映えしない陰湿な雰囲気に流石の私も音を上げたくなる。
露店が並んでいた大通りを抜けて皆の表情を見ると、少しやつれているように見えた。
完全に意気消沈しきっていた。こんな状態でこの村に泊まったら逆にもっと疲れそうだ。
皆には申し訳ないし、私も残念だが今日にでもこの村を出ることを伝えると皆は打って変わって賛成した。
このような何もない街に留まる理由がなくなった私たちはこの村を出ようとしたその時だった。
「いたぞストラウスの悪魔だ!!」
「消えろ! ここはお前みたいなのが来るところじゃねえ!!」
「今日こそ退治してやる!!」
穏やかではない声が村の中から響いた。今しがた出て行くことを決めたためにあまり関わりたくなかったが、そうはいきそうにもなかった。
私がパルプンテ神に憑りつかれてからというもの、こういったハプニングの遭遇率は100%
どんなに逃れようとしてもそれを許さないがごとくハプニングは形を変えて私に降り注ぐ。
こういう時に限ってパルプンテを使うと面白いほどハプニングをより一層大きいものと変えていく。逃れるどころか火に油もとい、ダイナマイトにロケットランチャーを放つくらいには事態が大きくなる。
ちなみにダイナマイトとロケットランチャーは過去に一度、草むしりの仕事の最中に楽しようとしてパルプンテを使ったときに出てきた武器だ。
使い方誤って芝生どころか依頼主の屋敷すらも木っ端みじんになったのをよく覚えている。
その話は置いておき、このようにイベントに触れてしまったら私に逃れる手はない。
それならば取る手は一つ、私から厄介ごとに首を突っ込めばよいのだ。
「おい、先生がアップを開始したぞ」
「もう嫌な予感しかしない……なにこの人外」
「やべえよ、やべえよ……」
そうと決まれば覚悟完了、いつでも事態に対処できるように構えると面白いくらいに都合のいいタイミングで私のすぐ傍の通路から厄介事が舞い込んできた。
「うっ!」
ボロボロの外套で全身をすっぽり羽織った人物が私にぶつかってきた。声からして女に間違いない。
全力でぶつかった女性は尻もちをつき、その拍子に外套で隠していた長い銀髪をさらけ出した。それは薄汚い外套とは正反対に綺麗な銀髪とよく整った端正な顔立ちの美少女だった。
間違いなく原因の騒動はこの少女だ。私たちを見て明らかに狼狽している。
ここでこの少女をひっ捕らえればこのイベントを最短且つ、効率的に収めることが可能だ。
だが、目先の結果に囚われるのは愚策である。
見た限りだと彼女は後ろを気にしているから追われているのだろう、ならもう少しで来る追う者を見て処遇を決める。
少女が逃げないように牽制しながら待ち構えると、鍬や斧を持った村人らしきものたちの武装集団が現れた。
「くそっ!!」
少女の反応からして間違いないだろう。彼らがもう一つの騒動の原因だ。
そうなれば私へ降り注ぐイベントの解決法はいずれかに属し、敵を排除することである。
となれば、私は迷わず少女の味方をしよう。
このような少女を大人数で追い回す人種にいい印象は抱かない。
村人とはいえ、多勢に無勢で少女を追い回す愚行を目の前で見て現実的な打算をするほど人間性は捨てていない。
それに、武器を持って私たちの元へ向かってきているのだ。もはや大義名分は我にあり
私は全ての方針を決め、村人の元へ走る。
踏み込んだ瞬間に足場が崩れて少女を含めたエリックたちが急にできたクレーターの中へ悲鳴を上げて落ちるのを気にせず、私の突進に驚く村人へ意識を向ける。
呆けている村人たちに私はため息を漏らす。
そんな心構えでよく他者の命を奪おうと思ったものだ。
明らかに戦いを嘗めている村人への落胆からわずかに残っていた私の罪悪感は消えた。
それと同時に遠慮が消えた私は村人の集団へと飛び掛かり、“少しの”魔力を拳に込めた。
「へ?」
誰かがマヌケな声を漏らした。魔力の余波で民家が倒壊したのは些細なことだ。
これでも手加減しているのだから勘弁してほしい。
まるで自分だけが止まったかのような世界の中で私は脅しの意味合いで村人の足元に魔力のこもった拳を叩きこんだ。
その瞬間、村の一角は民家や商店をいくつか巻き込んで陥没した。
クレーターを作るまでが挨拶であり、チュートリアル
今回ではフェアリーテイルでは欠かすことの無いあのキャラが出ました。ネタバレするならミラです。
今回からドラクエでお馴染みのドーピング枠である「たね」も出しました。
パルプンテ神の加護により主人公は絶対に厄介事からは逃げられません。
主人公はイベントを受動的ではなく、能動的に関わりました。
どちらにせよこの村に碌なことは起こりません。