好きな言葉はパルプンテ   作:熱帯地域予報者

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遅くなりましたが、新年初の投稿なので正月仕様の内容です。
正月休みを満喫した結果、一週間遅れてしまいました。
すみません。

また次回は本編になります。


閑話:年始の手合わせ

フェアリーテイルギルド前は賑わっていた。

いつも賑わっているには違いないが、今回は事情が事情なだけにその騒めきは大きい。

 

ギルドメンバーの注目は広場にいる6つの影にある。

 

「久々に先生との手合わせとは腕がなるな」

「昔とは違うってとこ見せてやるぜ!」

 

エルザとエルフマンは久々の先生との手合わせに胸を躍らせながら戦う姿勢を見せる。

幼少より先生から手ほどきを受けている彼らにとって自分の成長を見てもらう機会は貴重であるため、その意気込みは人一倍強い。

 

二人の他にも3人、戦意を滾らせる者がいる。

 

「ギヒ! ぶっ飛ばしてやる!」

「俺が凍らせるんだ!」

「俺が勝ーつ!」

 

エルザたちと比べて本気で打倒を目指すガジル、グレイ、ナツは今にも飛びかかると思うくらいに魔力をこめている。

 

周りはクジとはいえ、先生と手合わせするメンツにもしや、と考えてしまう。

そもそも、今は新年会の最中であったが、流れとして戦うこととなった。

飛び入り参加していた先生も新年会で弛んだ生活に舞い込んだイベントにノリノリで参加した。

 

本当はマカロフが既に半壊し始めたイベントを守るために咄嗟に出た意見だったが、本人たちがノリノリだったために胸を撫で下ろしたていたのをナツたちは知らない。

 

「うわぁ……ありゃもはやイジメだね。当たらなくてよかったよ」

「先生と戦いたいなんてナツ達くらいだよね」

「それでもエルザたちを一気に相手するのはちょっとね……」

 

新人のルーシィはともかく、古参のカナとレビィは先生の実力をよく知っている。

二人だけでなく他のメンバーも結果が見えているという心待ちで余興を楽しむ腹づもりだった。

 

だが、その後の先生の発言に全員が度肝を抜かれる。

 

それは、手合わせで賞品を用意するとのことだった。

もしも自分に勝てれば50億Jを自腹で出そう、と。

 

「50億!?」

「マジかよ!! 何かの冗談か!?」

「いや、でもあの人に限ってそんな嘘はつかねえと思うが…」

 

額が額だけに周りはどよめき、現実ではお目にかかれないような大金にナツ達までもが動揺する。

その後の先生の話は続いた。

 

渡した50億は均等に分配するなり、新年会で使うなり好きに使ってもいい。

制限時間を設け、時間内に立っていた人数1人分につき10億を払う。

 

つまり、時間内に先生を倒せなくても1人さえ立っていれば10億Jは払われるという。

 

先生はどんな内容の話でもこういった冗談を言わないことは周知の事実だ。信じられないような内容であればあるほど信憑性は高くなるという謎の法則がある。

そういった信用もあり、達観していたギャラリーが湧きに湧いた。

 

「お前らああぁぁ! 絶対に勝てよおぉぉ!」

「今日は宴会だあぁぁぁ!」

 

余興程度のイベントが盛り上がり、誰もがテンションを上げる中でナツ達は険しい顔をして相手を見据える。

 

「あの野郎、オレたちを賭けに使いやがった」

「オレたちじゃあ相手にならねえってか」

「ナメやがって……ぜってーぶん殴ってやる」

 

血の気の多いナツたちは自分たちをイベントの盛り上げ役程度にしか見られていないと思って更に気合を入れる。

尊敬の念が強いエルフマンとエルザも同様だった。

 

「ここまで虚仮にされたんじゃあ漢が廃る。姉ちゃんの名にかけて勝つ!」

「そこまで力の差があるのは承知しているが、あまり気持ちのいい話ではないな」

 

明らかに見せる反骨精神とプライドに先生は満足そうに笑みを浮かべる。

これ以上の煽りは無用と判断したのか先生も手足をプラプラさせて準備運動をした後、ナツたちに向き直る。

これ以上の言葉は不要と感じたのか、最初に動いたのはナツとガジルだった。

 

「火竜の鉄拳!」

「鉄竜棍!」

 

炎と鉄の打撃は何にも阻まれることなく先生の腹部に直撃する。その後に続くようにグレイとエルフマンの追撃が襲う。

 

「アイスメイク……ランサー!」

「うおおお!!」

 

氷の槍が突き刺さった直後、全身ビーストソウルで繰り出された拳が槍を深く突き刺すように押し出す。

釘を打つハンマーのような一撃は先生の体ごと地面を叩き割った。

 

怒涛のような攻撃の直後、空高く跳んでいたエルザは換装していた。

 

投擲能力に富み、パワーも貯蔵する鎧の中でもピカイチの鎧に変わっていた。

 

「巨人の鎧」

 

巨大な鎧の手には換装で顕現した特大級の投擲槍が陽の光で光る。

投げることに特化した鎧を可動域ギリギリまで動かし、力を溜めた。

槍自体にも膨大な魔力がこもる。そして、最高のパフォーマンスを発揮できると感じた時、それを解き放った。

 

「はあああぁぁぁ!!」

 

全力の力を込めて地面に陥没したであろう先生にめがけて全力で投げた。

寸分違わず先生の倒れた場所に着弾した瞬間、魔力の大爆発が起こり、周りの建物を巻き込んだ大破壊が起こる。

 

あまりに容赦のかけらもない嵐のような攻撃に周りはもちろん、ルーシィは顔を真っ青にする。

 

「あれ、やりすぎでしょ! 止めなくていいの!?」

「先生ならあれくらい大丈夫と思うけど……」

「流石に不安だよね……」

 

カナとレビィも流石に心配したような声を出すが、その後の光景に心配は綺麗に消える。

陥没した地面から何事もなかったかのように這い出てくる先生にギャラリーは驚愕を隠せなかった。

 

「おいおい、嘘だろ!?」

「あれだけ喰らって全然効いてねえ!」

「ありえねえよ!」

 

全ての攻撃が外れた、そう言われてもおかしくない健在ぶりだったが、腹部に突き刺さる巨大な槍が全てを物語っていた。

あえて攻撃を受けることで成長、ガジルに至っては実力を確かめていた。言うなれば、ただの前準備でしかなかった。

どれだけの実力で挑むかを測った行為がナツたちに精神的なダメージを負わせることとなった。

 

「相変わらずふざけたタフさだ」

「とんでもねえ漢だ! 流石は俺たちの先生だ!!」

「言ってる場合か! てか、槍刺さってんのにノーダメージってどうなってんだ!」

「いや、正確には腹筋で止められただけだ。あの強靭で柔軟な筋肉は並の剣では斬ることすらできない」

「欠伸しやがった!! ナメんじゃねー!!」

 

ガジル以外の精神的ダメージは比較的浅い方だったが、それでも落胆はあった。

ここから、攻撃を全て受けてくれるほどサービスは出してくれないだろう。

 

落ち込んだ気持ちを再び奮い立たせ、構えると先生は空間を歪ませた場所へ手を突っ込む。

魔法ではない、『アビリティ』というこの世界でも特異な力で武器庫を呼び出し、そこから複数の武器を取り出した。

 

それは正月でよく見る道具一式だった。

 

餅つきセット

 

 

コマ

 

習字用の筆

 

あまりに武器らしくない一式に周りはポカーンと放心するも、先生は既に持参していたもち米を臼と杵で餅にしている。

柔らかくなった餅を見て呑気に満足げな笑みを浮かべる光景に沸点の低いナツとガジルはナメられたと思って盛大にキレた。

 

「呑気に餅食ってんじゃねえ!」

「本気でやれやコラぁ!!」

 

炎と鉄の鱗をまとった2人が襲いかかり、思い思いの魔法を繰り出していく。

 

「火竜の翼撃!」

「鉄竜剣!」

「火竜の鉤爪!」

 

怒涛の嵐を繰り出す2人の攻撃を先生はかいくぐり、飄々とした様子で餅を頬張る。

それどころかナツの炎を逆に奪い取って精密に操り、焼き餅へ調理していく。また、ガジルの再生する鉄の鱗をナツの炎で集めて接合、加工を繰り返して食器を作り上げたりしている。

 

ひどい時にはナツとガジルの避けた攻撃を使って別の料理へ調理していく。

 

磯辺焼き!

 

お雑煮!

 

ぜんざい!

 

おはぎ!

 

 

ナツの火力を相殺して適度な火加減にコントロールした甲斐もあって何一つ調理に失敗したものはない。

美味そうな餅料理がこれでもかという数まで増えたところで2人の息が上がる。同様におちょくられたことへの怒りも込み上げてくるのを感じる。

 

「あんにゃろー! バカにしやがって!!」

「ぜってー当ててやる!」

 

接近戦は勝ち目がないというのもあるが、怒りに身を任せたこともあり、2人は滅竜魔法共通の大技の準備に入った。

肺に空気を溜めるために息を吐いた瞬間、先生は動いた。

 

2人では反応どころか視認できないほどの速度、最低限の動作で餅を2人の口めがけて投擲した。

その結果、息を吸ったタイミングで餅を飲み込む羽目になった。

 

「火竜の」

「鉄竜の」

 

「「ほうこ……おぶ!?」」

 

呼吸したタイミングで意図せず餅を飲み込んだ2人は喉を詰まらせて2人は悶絶する。

地面を転げる2人を先生は持ち上げ、背中に気を込めた一撃を叩き込んだ。

 

「ぐえ!」

「ギッ!?」

 

餅が口の中から出てきたと同時に手痛い一撃に2人はダウンした。

 

「ナツとガジルがやられた!? 嘘でしょ!」

「それも完全に遊ばれたね」

「勝負にすらなってない。いや、する必要もないってとこだろうね」

 

あまりの終わり方にギャラリーは笑うどころか戦慄する。

それでも残ったエルザたちは一切怯まない。

 

「餅如きでやられるとは情けねえ! アイスメイク・プリズン!」

「漢なら拳で語り合わんか!」

「勝手に突っ込むな! 互いにフォローしながら攻めろ!」

 

言うと同時にグレイが先生を分厚い氷でできた檻、鉄壁で幾重にも重ねて閉じ込める。

それだけでなく、氷の手枷と足枷で拘束した上に首以外の箇所を凍らせた形となっている。

 

体を動かすことすらままならない状態にも関わらずエルザは魔法で複数の剣を操り、包囲する。

エルザの得意とする鎧、天輪の鎧を駆使して剣を操り、八方に拘束された先生に剣を放つ。

 

しかし、先生は気を操って体を活性化、体温を最高潮に上げて一気に氷を溶かす。

 

「んなのアリかよ、体温どんだけだ!?」

「熱い漢だ!」

 

エルフマンを無視してもう一度拘束しようとするが、そこでおかしい点に気づいた。

まず一つ、体を覆っていた氷は一瞬で水蒸気に変えてしまったのに手足の枷だけがそのままの形で残っている。

そのままでは移動もままならないし、攻撃も限られてくる。

ここまでナメられるとナツでなくても頭に血がのぼる、今にも沸騰しそうだったグレイが目にしたのはタコ糸だった。

 

「なんだ、これ?」

 

手の中から伸びている糸に目を奪われて怒りは収まり、代わりに疑問が湧く。

いつの間にあんな物を仕込んだのか、それよりもその糸が自分の後ろまで回り込むように続いているのに嫌な予感を感じて振り向いた時だった。

 

「うお、なんだこりゃ!?」

「それは、凧か!?」

 

突然、最初に出した凧から怪しげなアームが生えており、それがグレイを拘束した。

 

先生の華麗な凧捌きと過剰に改造した機能によって戦闘用凧と昇華したソレはロケット噴射でグレイを空に打ち出す。

 

「うおおおぉぉ離せええぇぇぇぇぇぇ!!」

 

魔力を封じる石を装着した無駄にゴージャスな凧とともにグレイは脱落

最後、空高くで花火と共に悲鳴がマグノリアに鳴り響いた。

 

「まだまだオレがああぁぁぁぁ!!」

 

全身ビーストモードのエルフマンが先生に渾身の拳を振りかぶって一歩、踏み出した時に異物を踏んだ気がした。

 

「ぬおおおおぉぉ!?」

 

指先で踏んだそれは非常に不安定だっったためその場で盛大に転がった。

巨体が倒れたところにコマが一緒に転がった。

 

先生は封じられた手で器用にコマを回していた。それも、エルフマンの歩幅や腕のリーチからこの場所に踏み込むだろう、そう計算した上で。

そして思惑通り転げたのだが、その実は少しだけ期待していた。

 

擬似的にト○ロみたいに乗ってくれるだろうと。だが、結果としてみればそれに及ばなかったのだから落胆は隠せない。

実現したらしたで面倒だな、と思いながら倒れたエルフマンに意識を断ち切るツボを足で押して昏倒させる。

 

エルフマン、リタイヤ

残るはエルザのみ

 

「相変わらず戦い方がデタラメだが、まだここまで差があるのか!」

 

残るエルザは先生が凧を揚げたりコマを回していた時も追撃を加え続けていた。並の魔導師であれば一気に押しつぶす物量での連撃だったのに。

 

それを避けながらも彼は遊びながらグレイとエルフマンを片手間で沈黙させた。つまり、自分の剣筋を完全に見切られていることに他ならなかった。

 

だが、エルザは落ち込みも怒りもしなかった。

味方がいなくなった今の状況に勝ち目を見出すのは絶望的だった。それでも、完全に負けたわけではない以上、降参する理由はない。

 

元より、こうして一対一で相手してもらうのは昔に戻ったみたいで懐かしささえ感じるほどだった。

自分の成長を見てもらう、いや、刻みつけてやろうと意気込みながらエルザは勝負に出た。

 

「換装、飛翔の鎧!」

 

豹柄の鎧に変えて先生の周りを縦横無尽に駆け回る。ギャラリーの殆どがエルザの姿を見失い、突風が舞い上がる。

突風のドームの中心にいる先生は手足を拘束されながらも焦ることなく、目を瞑ってリラックスしている。

そして、その手には習字用の筆が握られている。

 

(まだだ、まだ焦るな)

 

神速を保ちながらエルザは先生の隙を伺っていた。

普通に攻めたのであればいくらスピードを上げていても捕らえられる。

そんな相手にはわずかな隙を突くしかない。

 

いくら先生でも人間である以上、隙は必ず見せる。

それまで耐え忍ぶことを決意しながら時折、フェイントや軽めの斬撃を放つ。

その尽くを先生は塞ぎ続けていた時、その時はきた。

 

(ここ!)

 

少しよろけたのか左足を僅かに一歩退いた姿を見て判断した。

 

攻めるならここだ、ここしかない。

 

崩した姿勢を直す1秒以下の刹那の瞬間に全ての力を集結させた。

魔力を解放させて全身の筋肉を酷使し、神速の一撃を遠慮なく叩き込んだ。

 

はずだった。

 

次にギャラリーが見たのは不自由な手で筆を持っている先生と、高速で動き回っていたエルザが剣を振り下ろした姿で佇んでいるところだった。

 

その首筋に黒い線を描かれてエルザは目を見開いていた。

 

(ば、バカな!?)

 

エルザは信じられなかった。今の一撃は間違いなく、今の自分が出せる最高速の絶対不可避の一撃だった。

それを一瞬とはいえ隙を見せた相手では絶対に避けられるわけがない。だからこそこの異常性がより大きく感じた。

 

エルザが見たのは先生が姿勢を一瞬だけ崩す姿と、振り返って自分を静かに見つめる先生の顔だった。

 

(ハメられたっ!)

 

ここでエルザは自分が誘い込まれたことに気づいた。

 

恐らく、自分の思惑を看破しただろう先生は私を誘き寄せるために、あえて隙を見せたのだ。

今思えばあまりに出来すぎた。私が焦っている時に餌を見せつけるかのように望んでいたシチュエーションが実現したのだから。

先生があからさまに隙を見せた時点で疑問に思うべきだった。

 

首に書かれた一筋の線……これが筆でなく短剣だったら間違いなく死んでいた。

 

「うおおおおおぉぉ!!」

 

飛翔の鎧の速度を保ちながら両手剣を両手、そして両足で掴んで仕掛ける。

たゆまぬ努力の末に身に付けた常人離れした剣術はギルダーツであろうと完全に見切るのは難しい。

 

神速の四刀流が先生に襲いかかるが、それでも先生は怯むことなく冷静に対処する。

四刀流を最小限の動きで避けたり両手の枷で受け流す。

その隙をかいくぐってエルザの体に一線を描いていく。

 

首はもちろん、心臓部や鎧の僅かな隙間、体の中心線に線が描かれていく。

攻めているエルザが逆に追い詰められていく姿に今まで騒いでいたギャラリーを含め、復活したナツたちも絶句して目を離せずにいる。

 

鎧を変えて攻撃力を上げても容易くいなされ、防御特化した鎧で防ごうとしても僅かな隙間を縫って黒い墨汁を付けていく。

 

剣戟が終わる頃にはエルザの全身は殆ど墨汁で描かれ、これ以上書く場所がないというところまで真っ黒だった。

疲労がピークに達したことと、自分が出せる実力を出した満足感、先生から感じる圧倒的実力差に膝をついて動きを止めた。

滝のような汗と息切れを起こす一方で先生は息切れすら起こさず、整った呼吸とともに手足の枷を力づくで壊した。

 

「あ、ありがとう、ございました」

 

疲労がピークに達しているエルザは礼をしてその場を去っていった。

 

 

 

「あのエルザが、何も出来なかった?」

 

ルーシィは目の前で起こった光景が信じられなかった。

まだ日が浅いにしてもエルザとクエストを行い、ナツとグレイさえも畏怖させる実力を持ったエルザが何も出来ずに屈したことに少なくないショックを受けていた。

 

そして、今まで側に最強の魔導師がいたことに戦慄を覚えていた。

しかも、マカロフやカナたちから聞いた話では、先生は今回の戦いで魔力のような力を一切使っていない。

使えば広範囲に渡って破壊を引き起こす魔法さえも使わずにナツたちを圧倒したというのだから驚きを通り越して呆然とする。

 

「エルザの奴、最後に手合わせした時よりもかなり強くなったんだけどね」

「魔法も使わないなんて、もう無茶苦茶だよ」

 

カナもレビィも改めて先生の力を見せつけられたように目を見開いている。

小さい頃から破天荒なその人の本気を見ることはこのギルドの一種の悲願でもある。ガジルを含めた面子が本気を引き出させてくれると期待していた分、その落胆も大きかった。

 

「すごっ、先生ってどんだけ強いのよ。ナツたちも苦労してるのね」

「何いってんの、一番苦労するのはルーシィの方でしょ」

「え?」

 

他人事のように呟いたルーシィにカナが現実を叩きつける。

何が何だか分からないという顔をするとレビィが言葉を選ぶように続ける。

 

「基本的に先生は敵と味方に対する扱いの差が激しいんだ。味方にはすごく優しいけど敵には本当に容赦ない……もう人間扱いすらしてない」

「えぇ、それは想像できないけど……」

「その時になれば分かるけど、先生ってすごく感情的だから周りで止めるのも一苦労だよ。暴れ回った後に評議員に怒られるのはフェアリーテイルなんだから」

「なんで!? それって関係ないんじゃ……」

「評議員は基本的に先生と敵対したくないんだよ。それだけ怒らせると怖いってこと」

 

話を聞いたルーシィは身震いした。今後、先生と仕事した時の苦労を想像したのだろう。

ガルナ島でも既に片鱗を見せているのだから尚更、これから降りかかる不幸を想像したのだろう。

 

想像できるだけならまだ幸福であると、ルーシィはこの一年を通して思い知ることとなるのは、また別の話である。


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