好きな言葉はパルプンテ   作:熱帯地域予報者

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今回はアッサリと終わったファントムロード編の簡単なダイジェスト回


終わりよければ全てよし

鉄道業界においてハートフィリアの名を知らない者はいない。

一世代のうちに何もない所から急成長を遂げ、一大企業にのし上がった豪傑こそがジュード・ハートフィリアだ。

 

自他に厳しく妥協を許さない執念で商業ギルドから成り上がり、貴族へ格上げした彼はやり手の経営者であることは間違いない。

 

しかし、名誉と権力、財力を得るにつれてジュードは変わった。

増えた財をさらに増やそうと邁進し、執念は執着へと変わった。

 

その兆候は日々強くなり、それは幼い娘のルーシィにまで及ぶようになった。

 

父親の顔を隠して貴族の体面を守り、ルーシィを貴族として育ててきた。

 

それがルーシィの反抗心を助長させ、魔導師としての道を選ばせた。

 

徹底しすぎた教育の果てに家出した娘を3年間放置し、政略結婚のために娘を連れ戻す。

そのためにファントムへルーシィの保護を依頼した。

 

 

 

「今、なんと仰いました?」

 

ハートフィリア邸の応接間の中央のテーブルに腰かけるジュードは対面する人物に向かい合い、元から強張っていた表情をより一層歪めた。会社を最盛期まで導いた者に相応しい気迫を叩き付ける。

 

それに対し、ジュードの対面に座る人物は臆さない。それどころか口角を上げてお客様対応を崩さない。

 

その人物こそファントムのギルド長であるジョゼはにこやかに用件を伝えた。

 

「もう一度言いましょう。あなたのご息女であられるルーシィ・ハートフィリア様捜索の依頼、お断りさせていただきます」

「何をいまさら……あなたはプロではなかったのですか?」

「それは誤解というもの、我々は魔導師であり、あくまで国の管理の元に身を置く団体ですよ。人さらいみたいな真似して睨まれるのは嫌なんですよ」

「誘拐ではない。家出娘を探しているだけだ」

「それだけでギルド同士を敵対させるのはこちらも困ります。何でもやると言っていますが、あくまで法の範囲内での話です」

 

ニコニコと姿勢を崩さないジョゼにジュードは苛立ちを募らせる。つい最近まで自分の依頼を快諾したどころかルーシィを迎え入れたフェアリーテイルへの恨みや醜聞を自慢げに聞かせていたというのに。今では意地でも依頼を受けない、ルーシィと関わりたくないと言わんばかりのジョゼに不信感を抱き始めた。

 

だが、そんなジュードの思惑も関係なく、ジョゼは話が終わったと言わんばかりに腰を上げた。

 

 

「それでは、私もやることがあるので失礼しますよ」

「おい待て! 話は終わっていない!」

「終わったんですよ。ルーシィ様は少々面倒なところに身を置いている……それで十分でしょ? 3年間も放っていた程度の認識なら無理して連れてくる必要も」

「ふざけるな!!」

 

意地でも帰ろうとするジョゼにジュードは声を荒げてゆく手を阻む。どうせ金に目がくらみ、依頼料を吊り上げようと画策しているのだと踏んだ。だからこそ、この相手を逃がすまいとジョゼを本気で籠絡しようと試みる。

 

金に目がなく、大手ギルドのファントムは今後として利用価値があると踏んだのだ。金額にがめついということは、金額次第で仕事に対する本気度を変える連中だ。金を積めば積むほど全力で取り組み、気に入られようとする魂胆が丸見えだ。

 

そう思っていた。

 

「今回の婚約が決まれば私の地位も確固たるものとして確立するそうなったときは君のギルドを私のお抱えにしてやることもできる! 名誉も金も思うがままだ!」

「いや、ですからね……」

「我々に逆らうものは君の武力と私の財力で叩き潰せばよい! フェアリーテイルも、娘を垂らしこんだ奴も!!」

 

 

 

「黙れえええええええええええぇぇぇぇぇ!!」

 

遂に、ジョゼの感情が爆発した。

迸る魔力を爆発させ、魔導師ではないジュードでさえも本能的な危機を覚えさせた。

魔力でシャンデリアが砕かれ、応接間にとどまらない屋敷の全てに亀裂が走る。

 

聖十の中では実力は劣るものの、短期間でギルドを急成長させた手腕を魔法の発展に繋がると買われたジョゼだが、それでも実力は一般の魔導師とは一線を画す。

そのジョゼの魔力に充てられて怯んだジュードの胸ぐらを力任せに掴む。

 

「何も知らねえ貴様がベラベラ勝手なこと言ってんじゃねえぞ!! フェアリーテイルの背後にいる奴がいなければ、そいつがあの街に留まっていることさえ知っていれば手を打つこともできたんだ!! もう手遅れだ、ルーシィ・ハートフィリアが奴の養護施設に入居した時点でな!」

 

先ほどまでの笑みが消え、憤怒に染まった表情で威圧していると思うが、ジュードは違った。

 

絶対に触れたくない恐怖に怯えてるとしか思えなかった。

人を見て商売する目を鍛えてきたジュードだからこそ抱いた感想だ。

 

「そ、それなら施設の誰かを人質にでも……」

「それが一番の悪手なんだよ! 奴は身内には深い愛情を注ぐが、敵と認識したものにはどこまでも残忍になる! 人質など奴が最も許さねえ所業の一つだ!」

「では、施設の買収とか権力で法的に……」

「奴の身柄は既に確固たるものとなっている! 奴が何をしようが、評議員も王国も傍観を決めている!! 法に訴えることとなれば真っ先に我々が国に潰される!!」

 

聞けば聞くほど訳が分からない。

聖十のジョゼが恐れ、評議員でさえも手が出せない存在

 

そんなのが世の中に名も知らされずに潜んでいるものなのか?

そもそも、その話が本当なら、どうして放置されているのだろうか、そんな疑問が絶えずに沸いてきた。

 

 

強い憤りを吐きだして落ち着いたのか、魔力の暴走は止み、ジョゼの怒りが消えて疲弊した表情に戻った。

 

「奴は高い戦闘力に加えてずば抜けた技術力を有している。それ故に国は奴に称号を与えてコントロールしたいと望んでいたが、奴は権力に縛られることを強く嫌った。財力も奴の手腕でいくらでも増やすことができていたために金による買収も叶わなかった……そこで終わればよかった。折り合いをつけるべきだったんだ」

「……何が、起こった」

 

ジョゼの体が震える。掴んでいた胸ぐらが解放された。

 

「一部強硬派の評議員が奴の事業を妨害し、犯罪者として検挙及び養護施設の子供の保護という名目で奴の捕縛作戦が決行された。戦力として一部の兵と聖十魔導師が駆り出された」

 

マカロフやジュラのような穏健派を除いていたが、序列一位も作戦に参加していた、と続けた。

 

「場合によっては子供を人質にしても構わないとして作戦が決行された結果……地獄だ。この世にして文字通りの生き地獄を味わった」

 

ジュードの喉がゴクリと鳴った。

 

「怒れる奴にとって聖十魔導師などただの木偶に等しい。聖十最強のゴッド・セレナも瞬殺だった。聖十は崩壊、軍も全滅……我々が敗北するのに一時間もかからず、奴を一歩も移動させることすら叶わなかった」

 

当時を思い出し、冷や汗を流すジョゼ。既に唇が渇ききっている。

 

「もっとひどいのは計画を実行した評議員だった。人の形を奪われ、声を奪われ、自由を奪われて自ら死ぬ権利すらも奪われた光景は生き地獄そのものだ。聖十は命令に逆らえなかったと懇願して見逃してもらったがな」

 

力なく笑い、遂には力なくソファーに座った。

 

「奴の魔法は一瞬で、解析不可能な謎の魔力で構成されているために元評議員は今でも悪夢にうなされて自傷行為に走っている……どういうわけだか知らんが、決して死ぬことができない呪いもかけられて」

「そんな……ことが……」

「それ以来、評議員は作戦を強行した廃人に全ての責任を押し付けて見逃してもらった……決断が遅すぎたと、過去の自分を殴ってやりたい気分だ。あれは、人の敵う相手じゃない」

 

妙に達観したような物言いが話に真実味を満たせている。

ジョゼの話が終わり、事の重大さにジュードは少しずつ恐怖感を抱きつつあった。

そして、さらなる衝撃がジョゼの口から出てくるとは予想もしていなかった。

 

「畳みましたよ。ファントムの旗を」

「な!?」

 

本日最大の驚きだったのは言うまでもなかった。まさか、ジョゼがギルドを解体するなど夢にも思っていなかったから。

 

ジョゼは野心家だった。己の旗を誇り、ギルドを大きくするために犯罪紛いなことをすることもあった。

そんな貪欲さから過去の自分を連想させたジョゼだからこそ彼を信用したのだ。

 

最初に出会った頃の印象は今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。

紳士の皮を被りながらも、その目は野心に燃えていた。だからこそその熱意を買った。

 

 

それがどうした、今ではまるで枯れ木のようではないか。

覇気を失い、僅かな力だけで折れてしまいそうな危うさの他に、どこか吹っ切れたように楽そうでもある姿は何なのか。

これが、野心に燃えていた男の姿なのか!?

 

「……理由をお聞きしても?」

「モンスターのいる檻の中で小動物との覇権争いに勝って、喜ぶ気は起きませんよ」

「モンスター……ですか」

「とびっきりの化物ですよ。台風や地震が起きたときは、伏して災害が過ぎ去るのを待つほかありません。そう思うとここらで潮時だと思いましたよ」

「その後は?」

「人気のない場所に別荘でも立てて余生を過ごそうかと。いい所知ってるんですよ」

「それは是非、教えてもらいたいですな」

 

これ以上、ジョゼとの話はむりだと悟ったのだろう、しばらく沈黙の時間が過ぎた。

そして、ジョゼは重い腰を上げるようにソファーから立ち上がり、出口へ向かいながらジュードに背を向けたまま告げる。

 

「あなたは最後の依頼主にして我がギルドを懇意にしてくださった恩がありますので、老婆心ながら一つ……ルーシィ様は人の世には戻れませんよ。奴が手放さない限り」

 

まるで助言のように告げてジョゼは応接間を出て行った。

一人残されたジュードはゆったりとネクタイを解いた。

 

「私は……」

 

問いのない独り言に答えを返せるものは誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

紆余曲折あったものの、私はマグノリアへ帰ってきた。

私がガルナ島から帰ってきてからフェアリーテイルで一悶着あったことを知った。

 

まず、ギルドが鉄の棒で串刺しになっている姿に驚いたが、ファントムの仕業だと聞くと少し納得した。

ただ、その後にレビィたちが鉄のドラゴンスレイヤーのガジルに襲われたところ、遠征から帰ってきたエリックたちに助けられ、ガジルを捕虜にしたこと。

 

そして、反撃の準備をしていた矢先にジョゼが全面降伏したことだ。

当初はやられた分をやり返すと息巻いていたメンバーも毒漬けにされた惨い姿に怒りもそれなりに萎えたそうだった。後は両者の間で今回の件で話をつければいいということで私はノータッチだ。

 

 

 

その後、ジョゼの狙いがルーシィだったことと、ジョゼが自主的に聖十の称号を返還したなどと色々あった。

 

 

当のルーシィは真実を知って責任を感じ、正体を偽っていたことに負い目を感じていたようだが、私は気にしていなかった。なぜなら。

 

「知っていたんですか!? 私のことを!?」

「えぇ、ルーシィがここに入った時から当たりをつけて、その数日後に素性も含めて確信したんですって」

「な、なんで……」

「えっと……ルーシィって魔導師であるなら知っているはずの聖十魔導師を知らなかったことから、十分な情報が入ってこないような場所で、それでも十分すぎる程度の教養を身に着けていたことに疑問を持ったことが一つ。試しにテーブルマナーを試したところ、完璧にこなしてたって言ってたわね」

「うわ……ほとんど初日じゃないですか……」

「後は、歩き方に貴族特有の上品な名残があることから貴族の親族だと目をつけて、すべての条件が当てはまり、家出しているような貴族娘を調べたらハートフィリアにたどり着いたって」

「ひええぇぇぇ……当たりすぎて怖いですけど……」

「そういうことで、彼は最初からすべて承知済みであなたを置いてたんだからそんなに気にしなくてもいいと思うわ」

「は、はぁ……」

「それと、知識をひけらかして世間知らずのお嬢様の身分を隠すのは逆に不自然だから次は気をつけろ……だそうよ」

「ガ、ガンバリマス……」

 

ルーシィが私を見て表情をこわばらせる頻度が増えたのは気のせいだろうか。

ガジルにも興味があったが、今はエリックたちで教育中とのことで顔合わせは叶わなかった。

 

 

残る問題とすれば

 

 

 

 

 

「あなた、これはどういうことかしら?」

「父上、この女は何なのですか?」

 

現在進行形でミラの前で宙づりにされている。吊るされた私にラーケイドが聞いてくるが、今はこっちに集中させてほしい。

 

私はギルダーツのように不貞を働いた覚えはないし、責任から逃れた記憶などない。

ただ、いろいろと事情が重なって真実を言っても信じてもらえないのだから

ひとまず一部はぼかして真実を6、虚偽を4といった内容を伝える。要は捨て子が私を父と勘違いしているとのことと。

 

 

 

そこから更に畳みかけるようにして説得し、最後には許してもらうということで私はミラの言うことを3つ聞くこととなった。

 

 

特に悪いことした覚えはないのだが、掘り返すと面倒になることと、要求自体は優しかったので良しとした。




主人公は善でも悪でもなく、敵対者には無自覚の悪意と悪辣さを存分にまき散らす。

スキル

悪意の報い:郷が深く、罪深いものには苦痛のみを与える。自死は不可能


今後は滅多に出てこない効果がダイジェストで出ました。
あまり話も進まないですが、長い目で見てもらえると嬉しいです。

次回にはミラを含めて話を進め、ひっそりとあの人気キャラを出します。
それでは、また次回にお会いしましょう!

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