好きな言葉はパルプンテ   作:熱帯地域予報者

2 / 28
レベル上げて魔力と物理でゴリ押し

早速だが、私は現在進行形で遭難している。だだっ広い海のど真ん中に浮かんでいる孤島に取り残されてから既に数週間が経つ。

なぜ、そんなことになっているのかと言うと、アクノロギアとの決着の際に唱えたパルプンテが原因だとしか言えない。

 

最後に覚えているのは特大のブレスに対抗するためにパルプンテを唱えたこと。

 

そして気が付けばこの孤島で重症のまま倒れていた。怪我自体は呪いのこともあって数日で完治した。ブレスで流動体となった腕とか折れた全身が完治するところを見ると恩恵なのか分からなくなってきた。

 

そんなわけで私は久しぶりにのんびりと過ごしている。

 

長年、アクノロギアに報いを受けさせようと思っていたが、最後の最後に情けない声で挑発する姿は実に愉悦だった。こっちも重傷を負ったが、結果オーライ。

あの様子ならしばらくは近寄ってこないだろうと思う。

 

 

 

 

だが、いつまでもこのままという訳にも行かない。

ここでパルプンテで運試しついでにあわよくば陸地に転移できればいいけど、失敗した時に島が破壊されることは避けたい。このまま溺死しても生き返るから問題ないが、私とてできるだけ死にたくはない。

 

このまま泳いでいこうかと本気で考えていた時、沖の方で船が通るのを見た。

渡りに綱とはこういうことか。この機を逃すわけがない。

私は声を張り上げて船を呼んだが、気付いていないのか進路を変える様子はない。

 

元から小さかった船の形がどんどん遠ざかっていき、最後には豆粒程度にしか見えない。

普通であればこのまま諦めるだろうが、私は違う。

あちらから来ないのであれば泳いで追いかければいいだけなのだ。パルプンテを使おうものなら船を壊す可能性が高い故に使えない。

このまま船に乗れなくても確実に陸はあるだろう。私は船を追いかけるべく海へ飛び込んだ。

 

 

 

長い旅路だったと私は海に濡れた体に纏わりつく砂浜の砂を落としながら思った。

船を追いかけた結果は正解だった。二日間かけて泳ぎ続けた結果、ちゃんと陸地に着くことができたのだから。岸にたどり着く直前に少し離れた場所へ行って服を乾かしたりしていた。

 

 

ただ、個人的な礼がしたいと思い、離れた場所に停留している船へと向かった。

丁度5人の子供と色黒のオールバックの男性一人が出てきていた。

大きい船にしては乗組員の数が少ないと思いながらも観察していると色黒の男にばれた。

元から気配も消していなかったし、姿を現すと男は舌打ちをした。

 

すると、有無を言わさずに男は私に魔力を放って攻撃してきた。

ただ、アクノロギアのブレスと比べると撫でる程度の威力だったために片手で弾くことができた。すると、男は驚き、本気で私を始末しようとしているのか魔力を高めた。

その時に男はブレインと名乗る。

 

 

もちろん、ブレインの魔力などアクノロギアのブレスをモロに浴びた私にとっては水鉄砲でしかない。次々と闇魔法っぽい攻撃を受けても痛みも無ければダメージもない。

ただ、本当に撫でられたようにむず痒くなる程度だった。

豆鉄砲程度な攻撃が効かないと知るや否や頭を押さえて発狂したように転げまわる姿は流石の私も引いた。

 

傍から見ていた子供たちも引いている。

 

 

そこで変化が起きた。発狂していたブレインは急に落ち着いたかのように静かになり、ゆったりと立ち上がった。

服も魔法で変わり、ギラついた目で私を見据える。

 

話を聞くには、ブレインは二重人格の持ち主で普段からは知識を好む性格であるが、一定の感情が振り切った時は破壊を好むゼロという名の性格が出てくるとのこと。

話す最中も正気とは言えないほどの支離滅裂っぷりから事実なのだろうと分かる。

 

そしてこのゼロはブレインの人格とは上手く折り合いも付いていないのだろう。連れてきている子供たちを“生体リンク素材”やら“使い捨ての駒”とかあざ笑っている。

子供たちはゼロを信じていたようで、その独白に泣き出して崩れ落ちた。

私が言うのもあれだが、大人の風上にも置けない。

 

 

元から子供は好きな方だし、余程のことさえなければ傷つけようとは思わない。私はそこまで人間やめていないのだ。

少しお仕置きを兼ねてゼロの攻撃を全て素手で防ぎ、直接ぶん殴るスタイルを貫く。ゼレフからの特訓とアクノロギアでのレベリングで鍛えた私の腕力と魔力のゴリ押しは着実にゼロを追い詰めた。

 

実力で敵わないと悟ったゼロは子供に向けて全力の魔法をしかけた。

咄嗟に子供の前に出てそれを防ぐ。決闘において他者を巻き込むのは私の本意ではないのだ。

だが、ゼロにはそんな矜持がないようで子供の前に立ちふさがる私に魔法を連発する。

いい加減、うんざりしてきた私は奴の攻撃の最中にパルプンテを使った。

 

 

 

 

 

ゼロは姿を消した。

 

 

 

 

さっきまで爆弾みたいな攻勢がピタっと止んだ。そしてその場には子供たちと私だけが残された。

恐らくだが、ゼロは死んでいないのだろう。パルプンテ自体に人を殺す効果は無いからである。ただどこか遠くへ飛ばされただけか、相当に厄介な場所に飛ばされたのは間違いない。瀕死寸前にまで追いつめられるような所だろうと予想できる。

 

 

貴重な情報源が消えたことで途方に暮れた私に子供たちが弟子入りを懇願してきた。

急にそんなことを言われても困る私はとりあえず理由を聞いた。

 

何でも彼らは急に邪教集団に両親を殺され、攫われた挙句に奴隷として労働を強制されていた。そんな時、ジェラールと名乗る少年が一揆を起こして邪教集団をねじ伏せて新たな指導者になったという。労働は消えなかったものの、待遇はマシになったということで納得はしていたようだった。

 

そんな時、ブレインがやって来て子供たちを引き受けたという。ジェラールと何らかの契約を結んだのか知らないが、自分たちが選ばれて楽園の塔という場所から船に乗り、魔法を教わりながら自由を得るための旅を続けた。それで今日に至る。

 

しかし、ブレインは善意からではなく自身の欲望のためだけに魔力の高い子供を選定して引き取ったと知った彼らは奴隷から解放された意義を失いかけた。

そんな時、私とゼロの戦いを見て奮起したらしい。強くならなければ楽園の塔に残された家族も取り戻せないとのことだ。

 

 

ここまで聞いてしまったら断ろうにも断れなくなり、旅の同行を認めた。

この知らない土地のことは子供たちの方が詳しいだろうと判断した、という理由もある。

子供たちはそれぞれエリック、ソーヤー、リチャード、ソラノ、マクベスと自己紹介を受けた。

 

互いに紹介をした後、ゼロのいた場所に取り残されていた髑髏の杖が気になって手に持ってみた。何の反応も示さないが、確実に生きていることが何故か分かった私は近くにあった木にむけてフルスイングするとアッサリと正体を明かした。それに怯えたソラノの背中を擦ってやる。

 

生きたアイテムという珍しいものに興味があった私はこの世界におけるナビゲートを頼んでみた。

 

渋る杖に断れば殺すと言ったら地面に額をこすり付けて承諾してくれた。

 

 

 

 

旅の準備は完了した私は杖を片手に知らない土地の地面を踏みしめた。




パルプンテの法則

①人を殺す力はないが、生と死の間に追い込む程度の力はある

②お供え物を献上すると1日限定で10分の1の確率で状況に適した効果が発現するようになる。連発するとありがたみが薄れる

③子供には優しいが、異端者には容赦なし(ロリ疑惑あり)

④成長と共にバリーションが増える

⑤全てはパルプンテ神の気まぐれ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。