好きな言葉はパルプンテ   作:熱帯地域予報者

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久しぶりで勘が戻ってないけど、とりあえず続けてみました。


ガルナ島にて

普段は『休憩所』の運営をしているのだが、それ以外にも副業も数多く抱えている。

 

魔法工学の論文発表も期日が迫っており、貴族の社交場にも招かれている上に今回のクエストの報酬の一部もパルプンテ神の御神体に献上しなければならない。

休憩所の庭に建てた御神体にはお供え物の他にも金や宝石などの価値の高いものもお供え物としてカウントされる。我が神の感性は意外と俗にまみれているため、相手が外道であるなら如何なる処遇を下しても笑って許してくれるのだ。

 

この前は孤児に売春を強要させていた悪党をゲル状にしたのが記憶として比較的新しい。

 

実際には頻繁にお供えもしなくていいのだが、ほったらかし過ぎるとへそを曲げて余計な被害を出しかねない。

数年も前だが、ほったらかし過ぎて御神体から不可視の拳が飛び出して腹パンを食らったことがあった。

幸いにも警告だったのか腹に風穴が空いて血反吐を吐くだけで済んだのだから御の字だろう。幸いにも穴が開いた時には誰もいなかったことと庭に飛び散った血肉は庭の芝生に吸収されたために穏便に済んだ。

 

そんなことにならないように石製の御神体に金を置いて合掌、瞑目して目を開けると金が無くなったのを確認して一日が始まる。

既にギルドに行ったルーシィもいないため、子供たちに家の戸締りを頼んで家を後にする。留守番のときの教育は徹底させたのでそこは心配していない。

 

『休憩所』は孤児院として成立しているため、クエストなどの高額の仕事はフェアリーテイルに行くしかない。あまり期待していないが、高難易度のクエストもあるかもしれない。

 

そう思ってフェアリーテイルの入り口前に着くと、何やら騒がしい。

 

 

いつもと違う騒ぎように何かあったと思いながら戸を開けるとギルド全員の目が集まる。そして、焦った様子のマカロフが慌てた様子を見ると明らかにただ事ではない。

 

 

「おお、丁度いいところに来てくれた! お主に頼みたいことがあるんじゃ!」

 

私を見つけたと思ったら切羽詰まったように駆け寄ってくる。何やら面倒事が起こったのは火を見るよりも明らかである。

 

「ナツたちがS級クエストに行ってしまったんじゃあ! 何としても連れ戻さねばならん!」

 

聞けば昨晩、ハッピーが夜に忍び込んでS級しか扱わない依頼書を持って行ったとのことだ。

しかし、S級ですらないナツは依頼を受ける権利はもちろん、実力的にも無謀でしかない。いくら考えるのが苦手とはいえ、仮にもギルドに所属しているのだから、その辺の事情も重々承知のはず。

 

しかもルーシィまで関与しているという話ではないか。昨晩、帰りが遅かったのも関係しているのだろう。

 

事の顛末を聞いた私にはたった一つ、ナツを連れ戻すように頼まれた返事を返す。

 

 

 

なぜ私が奴らの尻拭いをしなければならない。自分で蒔いた種は自分で刈らせろ。

 

 

この答えは至極まっとうな部類だと思う。なのに、その一言にギルドが騒然とした。

 

「そんなっ!」

「お主、ナツたちを見捨てるというのか!?」

 

マカロフだけでなくミラまでもが絶句したのを確認しながら私は断固拒否する。

 

 

そもそも私はフェアリーテイルのメンバーではないのだから普通しないだろう。そういう身内同士の問題で第三者の関係者が一番損をするのだ。見え見えの泥船に好き好んで乗る趣味はない。時と場合によるが。

もっと言えば今回の件はナツの命令違反もあるが、ギルド側の不手際でもある。

 

そこまで言うとマカロフも心当たりがあるのか言葉を詰まらせた。普段の彼であればこんなミスはしないが、身内が絡むと脇が甘くなる。美点といえるが、裏を返せば弱点ともいえる。

 

今後、それが元で死んでしまわないかが不安である。

 

そんなことを思っていると、二階から顔を出して嘲笑を上げる輩がいる。

 

「だから言っただろ。そいつはぜってえに行くわけがねえってな」

 

イヤホンをつけてタバコを吹かせながら私を見下ろすのはマカロフの孫であるラクサスだった。見た目も相まって完全なDQNそのものである。

 

そういえばグレイも前までは喫煙していたが、最近は見てないな。タバコ咥えてポーズもとってたこともあったのに。今度聞いてみよう。

 

「決まりだな。奴らが戻り次第破門確定だ……つっても、生きて帰れるかも分からねえがなぁ」

「ラクサス……! あなたって人は!」

「なんだよ。言いてえことがあんなら力で示せよ。なぁ?」

 

確かにラクサスの言うとおり、このままでナツたちは物言わぬ骸として戻ってくる可能性も否めない。

ナツの土壇場に出す爆発力はギルド随一、ピンチを乗り越える力はあるが、現実はそんなに甘くない。

 

それに便乗したルーシィもルーシィだ。ここ最近の彼女は真面目なことと時折見せるたたずまいから『いいとこのお嬢様』だと思っていた手前、とんだじゃじゃ馬だった。

行動力があるのはいいことだが、今回はルーシィに非がある。

 

もっとも、今回で一番責任が重いのはナツとハッピーなのは言うまでもない。長年、ギルドに属していながらギルドの基本的な掟に反したのだから何も言えない。自分の尻は自分で拭くべきなのだ。

 

 

ただ、行き先のガルナ島が気になる。

 

ここ最近で怪しげな集団が出入りしているとのことだ。何か巨大なものを運び込んでいるという目撃情報まであるのだから。元々からガルナ島の遺跡にも興味あったからある意味ではいい機会かもしれない。

 

「ていうか、なぜナツの行き先が分かったんじゃ!? まさか知っておったのか!」

 

そんな訳ないだろう。もし見ていたら不可避の腹パンをくらわせている。一応、このギルドで仕事をもらっているのだから全ての仕事くらい頭に入れているのは当然のことだ。

昨日まであった仕事と既に受理されていた仕事を照らし合わせた上で、今ここにない依頼書を探せば自ずとわかる。

 

「全部覚えてるって、ここにあるだけでも100はあるぞ。レビィは分かるか?」

「無理だよ。そもそも足りなくなった依頼書を別の件で埋めてるし、消去法も通用しない」

「どんな記憶力だよ……」

 

そんなことよりも、一先ずは今日の予定は決まった。私はガルナ島に行き、自分の用事を済ませる。ナツたちの件には関わらない。ただし、クエストが成功したのを確認したら私が制裁を下す。失敗したら事の成り行きを見守る。

 

 

これが最大限の譲歩だが、それでいいかと聞くとマカロフはため息を吐いた。

 

 

「仕方あるまい……わし等の問題に巻き込んですまなかったの」

 

了承と捉えた私はすぐに唱えた。

 

 

 

パルプンテ

 

 

 

その瞬間、眩い光と爆発音とともに私はマグノリアから姿を消した。

 

 

 

 

「相変わらずよくわからん魔法じゃのう……」

 

すさまじい爆発の後、ギルドの天井に空いた穴から見える晴天の空に、マカロフの呟きはギルドの中に響いた。

 

 

 

 

 

 

ガルナ島で一つの事件が終息しつつあった。ナツたちが手違いで受けたクエストの依頼主は悪魔だった。

悪魔は元々人であり、遺跡で怪しげな儀式を行っている何者かのせいで悪魔の姿へ変えられたと言った。

その言葉に従ってナツたちが遺跡で見たものは氷づけにされた悪魔、過去にグレイの故郷を焼き払った『デリオラ』

 

その悪魔の復活を目論んでいたのがグレイと同じ門下で励んでいたリオンだった。

彼は師匠のウルを超えるために自らの力でデリオラを倒すことを目的に動いていた。

 

そんなリオンの思惑を止めるためにナツたちは途中で合流したエルザと共に立ち向かい、決着を迎えた。

 

 

かつての師匠、ウルが命と我が身をかけた魔法はデリオラの命を削り、その身を砂のように崩している。

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を遠目で見ていたザルチム……老人に変装したウルティアが遠くから見ていた。

 

「あ~あ、結局こうなったのね」

 

どこか残念そうに、それでいて面白いのか笑みを浮かべていた。

 

「ま、私にはもう関係な―――」

 

何かを思っていたのも束の間、その背後から色濃い気配を感じて振り向いた。

 

 

 

 

目と鼻の先で巨大な斧を自分の首めがけて振りぬこうとする△の被り物をした異常者がそこにいた。

 

 

 

「うわああああぁぁぁぁぁ!!」

 

女性とは思えない奇声を発しながら持っていた水晶球でサイズに見合わない、恐るべき速度で振るわれた斧を受け止めた。拮抗すらせず水晶球は真っ二つに斬られたが、一瞬のタイムラグで何とか身をかがめてよけきった。

刃が通り過ぎた後の空間が歪んでいる、そんな一撃をためらいなく振るう人物に心当たりがあったウルティアは変装を止めた。

 

「何すんのよ! 殺す気!?」

 

持つだけでも脱臼するであろう巨大な斧を片手の指先で弄びながら急に現れた精神異常者はさも当然のように答えた。

 

 

 

でえじょうぶだ。どうせ死なないから

 

 

その答えにウルティアは、言葉のキャッチボールくらいしろ、と毒づいた。

大方、今回の騒動を嗅ぎ付け、自分がその騒動の元凶だと思ったのだろう。

 

(ただでさえジェラールもめんどくさくなってきているのに、こんなのを相手にしてたら命がいくつあっても足りないわ)

 

聖十魔導師などと呼ばれているが、それでも目の前の男にとってはただの称号でしかないのだろう。

事実、聖十魔導師の第一位を苦も無く下した光景を見た後であるならなおさらだ。

グリモアハートの総力を挙げたとしてもこの男は怯まない、それどころか嬉々として向かってきそうだ。

 

かといって手さえ出さなければこの男も襲ってはこない。

男の情報網であれば自分の正体も既に割れているだろう、それでも男は仕掛けてこない。

 

 

毒にも薬にもならない厄介な男、それがウルティアの印象である。

 

 

 

 

そんなことを思われているとは知らず、男は△の帽子を被ったままウルティアに今の状況を問う。

それだけなら問題ないとウルティアも今までのことを洗いざらい吐いた。

 

悪魔の村、ムーンドリップ、デリオラの全てを

 

そこまで聞いて大変に興味がわいた。ムーンドリップはどんな魔法でも、強固であっても魔力構成を崩壊させる貴重な魔法だ。

原料は月の光であり、それに魔力を注ぎ込んでできる自然魔法<ネイチャー・マジック>。

万能な魔法解除魔法でありながら夜にしか使えず、効率よく月光が当たる場所、満月であることなど運だよりの要素が最適な条件でなければできないことから、ムーンドリップのレア度は推し量れるだろう。

 

まさかとは思っていたが、ムーンドリップを回収できる場面に出くわせたのは今年最大の幸運といえる。

ゼレフ書の悪魔であるデリオラもできれば従属させたいが、グレイとかの因縁を考えると今回は見送った方がよさそうだ。もとより、理性がないという時点で望みは薄かったが。

 

 

「もういいでしょ? 帰らせてくれない? 今日は疲れたのよ」

 

ウルティアがウンザリした様子で帰ろうとするのを私は了承する。

かなり上位の闇ギルドに籍を置く彼女は常に警戒すべきだが、今回は非常に有用な情報をくれたということで見逃していいだろう。

 

それよか、今回はジェラールも関わっているのかと聞いてみる。

私の予想ではこんなまどろっこしいことをするとは思えない。

 

「今回は私だけよ。数週間前からわいせつ罪で地下牢に入ってるわ……評議員のジジイどもは全部私に押し付けるし、マスターも私に任せるの一点張りだし、皆死ねばいいのに」

 

いつも通りで安心する。ブレずに我が道をゆくジェラールには一種の尊敬すら抱く。

今は姿なき勇者に敬礼を送っているとウルティアは小さい声で物騒な破滅願望を唱えているようだが、今はそっとしておこう。

 

くたびれた社会人のように背を向けて帰っていくウルティアに最後だけ気になったことを聞いてみた。

 

 

 

また太った?

 

 

「あ”あ”あ”あ”あ”ちくしょうがああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

この手の話題は彼女にとって地雷だったようだ。ジェラールの付き人という設定である以上、彼に巻き込まれて筋トレとプロテインのバルク食いをしているのだろう。そう思いながら私は足に力を入れて跳躍した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴らは何かを隠している」

 

グレイとリオン、因縁の戦いはグレイの勝利で幕を下ろし、デリオラも師匠・ウルの魔法によって朽ち果てた。

長年のわだかまりは不完全とはいえ、和らいだこともあり、フェアリーテイル違反組とグレイとエルザを含めたメンツが和やかなムードで終わろうとしていた。

 

「早く依頼を終わらせてギルドに帰るぞ。処罰についてはそこで決める」

「えぇ~、せっかくS級をクリアしたっつーのによ」

「あい、今回はルーシィに無理やり……」

「罪をなすりつけるな! でも、報酬の鍵だけは欲しいかなー、なんて……」

 

エルザはナツ、ハッピーとルーシィを睨めつけると三人は目をそらす。

 

そもそもエルザは勝手にS級を受けたナツたちを連れ戻しに来たのだが、クエストを途中で放り出すのはギルドの信条に反すると共にクエストを受けたのだ。

 

そして、残すは依頼主である悪魔に変えられた人たちからの依頼を果たすだけとなった。

 

いい意味でも悪い意味でもマイペースな彼らにエルザはため息をつく。

 

「折檻は先生にしてもらうとのことだ。その態度がいつまで続くか見物だな」

 

 

その瞬間、ナツとハッピーは顔を真っ青にして固まった。ルーシィは申し訳なさそうに顔を顰めたが、ナツの尋常ではない恐怖の意味が分からない。

これまでに生活してきたが、優しく気の回る先生だという印象がルーシィの中で強く残っていた。

 

だが、ルーシィは知らなかった。

 

 

彼が問題ばかり起こすフェアリーテイルの面子とは、また更に格が違うということを

 

 

 

 

仕置き

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、エルザとナツ、グレイは言い知れぬ恐怖に身を起こした。

空気さえも震える寒気に疲れた体も本能的な警報に突き動かされた。

 

「伏せろおおおおぉぉぉぉ!!」

 

ナツはハッピーとルーシィを、グレイはリオンの頭を押さえて伏せた。

突然の奇行に疑問を感じた瞬間、ルーシィたちは自分たちの首があった場所が一瞬だけ歪んだ気がした。

刹那に遅れることしばらく、辺りに暴風が巻き起こった。

 

「うぐぐ……」

「きゃあああぁぁぁ!」

「何が……」

 

まともに呼吸ができない暴風も1分弱で収まった。とはいえ、暴風の脅威にさらされたルーシィたちにとっては長い時間に思えた。

 

「いたた……何なの急に……え?」

「やべえ……大魔王が来ちまった」

「間違いないな……これは少なからず怒っていると見れるだろう」

 

ルーシィはナツに文句を言おうとして起き上がり、言葉を失った。起き上がって視線を向けた先の風景がきれいさっぱり消えていた。

 

島の木々が綺麗に抉れ、半円状の跡が海にまで続いていた。時間が止まったように海までもが抉れていたが、やがて波音と共に海が元の平らな海原へ戻った。

あまりに現実からかけ離れた光景にルーシィは唖然としていたが、背後から色濃い気配を感じた。

 

背後を見ると、遠くでピラミッドのような仮面をかぶり、人の身長よりも倍以上あるサイズの斧を片手で持ち、肩にかけている人物を見た。

抉れた跡がその人物から始まっているため、今の惨状を引き起こした張本人だと言うまでもない。

 

「な、なんだあいつは……あんな奴、知らないぞ……」

 

リオンは圧倒的な実力と異様な姿に臆し、震えている。

それはルーシィも同じだった。

 

とんでもない実力に顔を隠した得体のしれない人物。いくら頼もしい仲間がいるとしても未知なる脅威への恐怖は簡単には拭えない。

それでも鍵に手を伸ばして臨戦態勢に入ろうと緊張で乾いた目を瞬きさせた時だった。

 

「え?」

 

斧を持った人物が消えた。遠くの小さい影が忽然と消えたのだ。

 

「なんだったの……」

 

訳が分からないと首をかしげながら緊張を解いたのがいけなかった。

 

 

 

 

 

濃い気配と呼吸音がすぐ後ろから聞こえた。

 

 

 

 

ルーシィは自分の心臓が止まったと錯覚した。

ついさっきまで遠くにいた影が一瞬のうちに自分の背後に回っていたのだ。

 

 

超重量級の武器を持って瞬間移動なんてできるわけがない、そう思い聞かせて現実を否定しようとする。

それでも恐怖を拭うことはできない。

 

そう思っていた時、最初に動いたのはナツだった。

 

「火龍の鉄拳!!」

 

炎を纏わせた拳をルーシィの背後の人影に向けて突き出した。

 

 

だが、相手は三角の兜を投げてナツの顔面にぶつけた。

 

「ぶへぇ!」

「ナツ!」

 

ハッピーが倒れたナツに駆け寄る中、ルーシィは突然の来訪者の顔を見て驚愕した。

 

「先生!? なんでこんなところに!?」

 

自分がお世話になっている人の登場にさらに混乱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

今回、ナツたちが起こした不祥事はハッキリ言ってギルドと依頼主に対する多大な背信行為だ。

 

ナツたちはS級クエストの受注を許可されていないのは、未だに高難易度のクエストに対応できる実力と心構えが未熟だというところが大きい。

それなのに、ナツはその掟を破り、周りの人間さえも巻き込んだ。

 

 

ギルドの上の組織は依頼主からクエストを受け、その難易度を厳正に設定したうえでギルドに依頼を提供している。それは貴重な魔導師の犬死を最大限に減らす配慮である。上の人間はその他にもきな臭いことを思っているだろうが、今は置いておこう。

 

また、依頼主は普通の力では解決できない事件を大金をはたき、藁にもすがる思いで依頼を出し、金まで払っているのだ。確実に解決できそうな人物が行くのが当然であり、依頼主への手向けとなるのだ。

 

 

ナツたちはその二つの信用を裏切り、私欲へ走った。現状に不満があり、自分でもできると自信があったならまだ情状酌量の余地はあった。

だが、聞くところによれば、ナツたちは確たる情報収集を怠り、道楽気分でクエストを受けた。

 

 

あらゆるギルド、依頼主、そしてギルドメンバーの信用を裏切ったナツたちに私は久しぶりにパルプンテを使った。その結果、起こったのはフォームチェンジ、エルザの言う換装だった。

 

 

モデル・ピラミッドシング

 

奇抜な三角の兜は個人的にも気に入っているので大当たりでもあり、今まさに相応しい恰好だろうと思った。

このモデルの『処刑人』『罪を裁く存在』を象徴している。

 

装備を一新した私は武器である斧を振りかぶってナツたちに振るった。今回は威嚇だが、本格的な仕置きはまた後日に行うこととしよう。

私は縮地でルーシィの背後に回り、襲いかかってきたナツを抑えた。

 

 

「まさか師匠が直々に来るなんて思ってませんでした。見事な一撃です」

 

エルザは私に賞賛を送り、一歩引く。エルザも私がこれからいうことを理解しているのだろう。

驚愕するルーシィとナツに縋り付くハッピーに聞こえるように口を開く。

 

 

 

初のS級はどうだったかと聞くと、ルーシィとハッピーは目に見えて震えている。だが、ナツだけは炎を纏った拳を振り上げてきた。

 

「S級をクリアした俺に不可能は―――」

 

 

反射的に反撃してナツの腹部にニーキックを繰り出した。膝が突き刺さり、内臓が圧迫される感覚を感じた後、ナツは言葉を発することができずにその場に崩れ落ちた。

ゴロゴロと転げまわるナツに顔を真っ青に染めたルーシィはナツと私の間に視線を彷徨わせてうろたえていた。

 

グレイとエルザは静かに黙とうを捧げ、見知らぬ白髪頭の少年は目を全開に見開かせていた。

この場で切り捨てようと思ったが、様子からして既に疲労困憊で動けないのだろう。

 

あともう少し、右の位置にいたらさっきの一撃で体がパッカーンしたであろう。大地の切れ目は少年の寸前に迫っていた。

 

それはともかく、私はルーシィに視線を向けていった。

 

ギルドの信頼を裏切り、依頼者の必死の助けに対して「実力が足りなかったので無理でした」と言い訳してギルドの評判を地に落とす危険を考えずに行ったクエストはどうだったかと。

 

「あの、言い方……いえ、すいません。調子に乗りました。反省してるのでその斧を下ろしてくださいお願いします何でもしますから」

 

言い訳を続けるようであれば一発決めておこうと思っていたが、反省しているので今は不問にしよう。今だけは

 

大事なことを二回言うとルーシィは高速で首を縦に振った。それを機に一区切りつくと、静観していたエルザがようやく口を開いた。

 

「それはそうと、早くこの依頼をクリアしてしまいましょう。この馬鹿どもの折檻はその後で」

「だが、どうすんだよ。リオンが何も知らねえって言うんじゃどうしようも……」

 

話からすると、この島の異変を解決することになったようだ。久々に魔法を使ってやらねば腕もなまってしまう。

魔法に必要な魔力を集めるとエルザたちはその意図に気づいた。

 

「な、なに……この魔力……」

「あ、ありえん。これほどの力、ジュラさんでも感じたことは……」

 

毎回思うが、そこまでのものだろうか。間違っても自爆など起こさないために必要最低限の魔力しか使っていないのに。

そして、私が呪文を唱える時と唱え終えたときに視線に入れている対象物だけが魔法の影響を受ける確率も高くなる。

 

隠されたパルプンテのルールを適応させるため空の赤い月を見上げて唱えた。

 

 

パルプンテ

 

 

 

 

 

空に巨大な亀裂が入り、空が割れた。

 

現実を破壊する空の割れ目から巨大な右手だけが顕現した。

 

鋭い爪と赤い皮膚、手首に巻かれた鎖が空の亀裂の中へ続いている。

 

超常の存在は紅い月を鷲掴みにし、まるでグラスを割るように月を紅く見せていた結界を跡形もなく消し去った。

 

 

 

 

 

 

全てが夢幻のように非現実的で、あまりに強大な出来事に皆は汗が噴き出る感覚を味わっていた。

 

見ただけで底冷えし、敵意がなくても平伏してしまいそうな本能を鎮めていた。

 

 

そんな周りのこともお構いなしに私は召喚獣を引っ込めた。

 

 

 

 

固まる皆を置いて遺跡の中へ入り、ムーンドリップの採集に思いをはせた。




今回のパルプンテ

ルーラ:元ネタはドラクエ、お馴染みの転移魔法

レッドピラミッド:元ネタはサイレントヒルの△様。無駄に恐怖を与える存在

封印されしエクゾディア(右腕)のような存在の召喚

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