好きな言葉はパルプンテ   作:熱帯地域予報者

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明けましておめでとうございます。
この作品が立ち上がって初の年越しとなりました。

最初は悪ふざけで作ったこの作品がまさかのランキングに載ったところから色々とありました。
作品自体も悪ふざけですが、皆さんの悪ノリが私の励みになります。

ただ、今年に新社会人となったというのもあり、中々仕事との折り合いを付けるのに苦労し、更新がまばらになってしまいました。

今年はプライベートも仕事も両立できるような社会人になることを目標とします。


それでは、今年初のパルプンテのやらかし劇場をご覧ください。


閑話:雷竜との戦いの合間に

ジェラール・フェルナンデス

 

エルザとともにゼレフを信奉する邪教集団に拉致され、奴隷として酷使された過去を持つ。

 

爆発する首輪によって自由を奪われ、人間としての尊厳を奪われてもなお光を失わず、強い心を持っていた。

過酷な状況でも仲間を集い、来るべき自由の日を待って耐え続けた。

しかし、その作戦は失敗に終わり、全ての責を背負おうとするも、代わりにエルザがその犠牲となった。

 

仲間を助けられなかった無力感とエルザを見捨てたという罪悪感に正義漢の彼の心は限界を迎えた。

 

それでも最後の力を振り絞ってエルザの救出に向かった彼はーーーこれ以上にない理不尽を見せつけられた。

 

片目を失った彼女の姿にジェラールは壊れた。

 

 

彼女を胸に抱きしめて慟哭を上げた時、『それ』は現れた。

 

 

禍々しい力を魅せつけられ、甘言を吹き込まれた彼はその言葉をすんなりと受け入れた。

謎の存在によって目覚めさせられた力に溺れ、彼は闇に堕ちた。

 

 

自分の無力を呪ったその日から、この力を与えてくれた『ゼレフ』こそが呪われた人生を覆してくれる神だと信望した。

 

 

 

その日から彼は変わった。

エルザを島から追い出し、残った奴隷仲間たちを騙して楽園の塔の建設を続けた。

 

 

歪んだ彼はそれが正しい道だと信じ込み、ただ妄信した。

あの頃の優しい彼の心は謎の力に魅入られたまま囚われている。

 

それすらも自覚せず、ジェラールはゼレフ教の所有する情報から天体魔法のことを知り、力をつける。

 

 

これでいい、全てがうまくいっている。

そうほくそ笑んでいた彼に人生の転機が訪れていた。

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ!」

 

顔に入れ墨を施した少年、ジェラールは体力の限り奔走していた。

他の奴隷が見ていたのなら、今のジェラールは普通ではないと分かるだろう。

 

力を手に入れ、何事にも揺るがなくなったジェラールがまさか、汗を流して息を切らしているなど。

 

 

魔に魅入られたジェラールが恐怖の色を浮かべているなど、誰も想像していないのだろう。

 

「何なんだ奴らは……あんな存在がどうやって、何故こんなところに!!」

 

疲労でもたれかかった壁を殴りつけ、彼を追い詰めている『理不尽』に怨嗟の声を上げる。

必死に恐怖を抑えようとしているようにも見える彼は明らかに疲弊していた。

 

奇妙なことに労働中の奴隷が誰一人としていない。全員が寝静まるような時間帯ではない。

場所は楽園の塔で間違いないはずなのに、どこか異質な雰囲気を感じる。まるで楽園の塔の形をした別の空間に飛ばされたような……

 

「どこかで見ているんだろう!? 隠れてないで姿を現したらどうだ!?」

 

馬鹿馬鹿しい、そういい捨てるように姿なき襲撃者に向けて敵意を向ける。魔力を滾らせて臨戦態勢に入る。

まだ日が浅いとはいえ、希少な天体魔法を会得できるジェラールの力量は並の魔道士などはるかに凌駕する。

 

そして何より、ゼレフの啓示を受けたという自負が彼の闘争心を動かす。

 

どんな襲撃にも備えられるよう構えていると、背後から気配を感じた。

 

 

 

 

 

 

「やらないか?」

「っ!?」

 

耳に入るだけで寒気を感じる声だった。無駄にいい声はジェラールの背後から聞こえ、はぁはぁ、と息を吹きかけられているのがわかる。

何か、別の意味で危険な侵入者がすぐそこにいるというのに体が固まって動けないのだ。

今日まで戦う覚悟も準備もしていたのに、この声を聞くと竦み上がってしまうのだ。命の危険とはまた別の危険性を孕んだ感じだ。

 

さっきからカチャカチャと布の擦れ合う音が聞こえてくる。何をしているかわからないが、嫌な予感だけがビンビンと感じる。

 

 

怖い、恐ろしい……得体の知れない何かがすぐ近くにいるのに動けない。

 

 

呼吸が荒くなり、心臓の鼓動が感じられるほどに緊迫したジェラールの耳に再び響いた。

 

 

 

 

「ウホッ、いい男だ」

「うわあああああああぁぁぁぁ! 流星!」

 

まるで爆弾が弾けたように高速で声の主から離れた。何かおぞましいナニかから逃げるために。

現に今でも声を間近で聞いた瞬間、ヒュンとしたのだ。どこかは言わないが。

 

戦うとか以前に面と向き合うだけでも耐えられない気がした。そうすれば何か大切なものを失う気がして。

 

ひたすらに出せるだけのスピードを出して逃げた。

 

 

本能の底から感じる悍ましい予感を置き去りにするように駆け抜けた。

 

駆けて

 

 

 

駆けて

 

 

 

 

「あらやだ、逃げるなんてツレないじゃない」

「はっ!?」

 

筋骨隆々の肉ダルマ二人に先回りされた現実に絶望の色を浮かべた。

流星を止め、ジェラールはクネクネと吐き気を催す腰付きの男二人に戦慄する。

 

「わはは! 元気のいいおのこじゃ! 子供はそうでなければいかん!!」

「元気があっていいわぁ、ジュルリ」

「ひっ!?」

 

自分を見て舌なめずりをした男にかつてない悍ましさを感じる。

 

そもそも今まで出会ったことのない人種、いや、珍獣の見た目からして危険だとわかるのだ。

 

 

まるで服を着ずに全裸といってもおかしくないほどに際どい水着はまるで筋骨隆々の体を見せつけるかのような自信を感じさせる。

恥部だけを巧妙に、ピンポイントで隠すが故にその部分が強調され、嫌でも目がいってしまうのだ。主にモッコリ部分なのだが。

 

この時点で生理的に拒否反応を起こし、動悸と吐き気が起こっている。胃からせり上げてくる酸っぱいものを無理矢理我慢する。

 

それはジェラールの意地に他ならない。

本能的に逃げ出したい衝動を押さえつけ、ジェラールは思い出す。

 

 

奴隷として苦汁を舐めさせられた日々を。

ずっと自由のために歯を食いしばり、屈辱にまみれながら耐えてきたのだ。

そんな経緯で得た力があるはずなのに、今の自分はどうだ?

 

目の前の試練(?)に怖気付いているのではないか?

また弱い自分に戻るのか?

 

 

自己批判

 

 

弱い自分を否定し、恐怖を押さえ込んだ彼は魔力をためる。

まだ、本格的な攻撃魔法はマスターしていない。だが、その未熟さを補うほどの魔力ならある。

 

先天的に秘めた膨大な魔力を全力でぶつけさえすればいい。

事実、ジェラールはその方法で楽園の塔に巣食っていた醜いゼレフ教団を葬ってきたのだから。

 

 

「おお!? これが青春を謳歌する少年の底力っ!!」

「あぁん! こんなのを私たちにぶつけて〜〜〜っ!! どうなっちゃうのかしらあぁぁぁん!!!」

「ぬふふうううううぅぅぅん!!」

 

不気味な筋肉お化けが身を悶えさせているが、気にしない。いや、むしろ殺意が湧いて自分の全力以上の魔力をひねり出せていることに気づく。大方、怒りで潜在能力以上の魔力を捻り出せたのだろう。

魔力も、殺意も最高潮に達した時、ジェラールは獣のような声と共に魔力を解放した。

 

「死ね化け物どもがあああああぁぁぁぁ1!」

 

 

瞬間、閃光と爆発が世界を覆った。

極大の魔力は筋肉の体にぶつかり、爆発を起こした。

 

 

凄まじい爆風にジェラールの身体は投げ出され、壁にぶつかるまで転がり続けた。

だが、壁にぶつかった激痛も、全ての魔力を消耗させた疲労も感じていないかのように爆発の先を見据えていた。

 

 

「は、はは……まさか、ここまで力を振り絞ったとはな」

 

疲労困憊で自分の秘められた力に驚嘆した。

相手が相手だっただけに純粋には喜べないが、それでも成長には違いない。

 

あの侵入者は何だったのか、なぜ自分以外の者が騒ぎに気づかないのかと気になることは尽きない。

 

ただ今だけは一つ、高みに至ったことへの余韻に浸って地面に倒れた。

あるのは満足感、長らく感じていなかった清々しさを懐かしむように堪能する。

 

(ふっ、余計な力を発散させるのも悪くないか……)

 

まるで何かの憑き物が取れたように、彼の目には光が宿っていた。

それだけではない、今まで心に渦巻いていた野望や執着、自由へ望郷さえも何だか空しさを感じ始めた。

まるで、今まで何者かに操られていたのに、今更になって解放されたような気分だった。

 

それと同時に自然と一人の少女の姿が脳裏に浮かんだ。

 

(何を今更……)

 

眩しい光に目がくらみ、瞼を閉じて頭の中の幻想を振り払おうとした時だった。

 

 

 

 

 

「いい身体だ。唆られるな」

「…………ん?」

 

動けない自分の真上っからダンディな声が響き、目を開けるとそこには『いい男』がいた。

現在進行形で青いツナギのジッパーを下ろしている男の姿にジェラールは頭の中が真っ白になった。

 

「いきなりでこんなことを言うのもあれだが、オレの尻にぶっかけろ」

「はひ?」

 

真顔で意味不明なことを言ってくる。何を言ってるのか分からないし、分かりたくもない。

ぞぞっと鳥肌が立つのがわかる。

 

だが、悲劇はそれだけでは終わらない。

 

「君の手でこの爪切りを握って私の爪を切ってくれないか?」

「ひっ!?」

「その両足の太ももで私の顔を圧迫してくれないか? 圧迫祭りだ」

「な、なんだお前たちは!?」

 

倒れ伏したジェラールを囲むように逞しい身体の男たちが群がっている。

それぞれが何を言ってるか分からないが、絶対に碌なことでないことは確かだ。

 

一難去ってまた一難

 

 

手足の一本も動かせないジェラールは抵抗もできずに持ち上げられた。

 

「おい! 何をする気だ! 貴様らなど木っ端微塵にいいいぃぃ! 誰だオレの尻に指を突っ込んだのは!?」

 

流れるように運ばれながらも身体を弄ばれるジェラールは運ばれる先を見て

 

絶望した。

 

 

 

彼の行く先には数多の手が待ち構えていた。

まるで地獄へ同類を引き込もうとする地獄からの亡者のような。

 

ただ、その手全てが筋肉質であり、どこか艶やかな動きをしているのは気のせいだろう、気のせいであって欲しい。

 

 

「ひあ、止め……エルザっ!」

 

その場にいない少女に助けを求めるくらいに彼は必死だった。

この先に行けば、きっと自分は大切な物を失ってしまうだろう。

 

彼は必死に抵抗し、視界が筋肉質な手で覆われるその瞬間までその少女へ詫び、求めた。

 

 

 

 

 

 

 

アッーーーーーーーーーー!!

 

 

 

どこかの誰かの魔法が歪んだ彼の洗脳を解き、罪悪感とともにその全てをリセットする効果が発動した。

 

 

 

後に闇へ身を堕とす彼の運命は今、この瞬間に変わった。

それが幸か不幸かは今後の彼次第




新年早々になんちゅーもんを書いたのか自分でも思いました。

とりあえずガキつか見ながら書いたのでこう言うものになりましたが、最初の構図通りなのでご心配なく。

ジェラールは同性愛者にはならないのでご安心を

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