インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第99話

「お、織斑君!!」

 

 楯無は自分を守るために右腕を失った一夏を介抱する。が、一夏は激痛で顔を歪めている。冷や汗を流しているが痛みを我慢するように歯を食い縛っていた。

 彼の右腕は肩から下までは無い、黒い機体により斬り落とされたからだ。断面は肉や骨が見えるが血は止まる気配はない。一夏を見た楯無は一夏を介抱しながら目に涙を溜める。

 

「織斑君! 織斑君!」

 

 楯無は目に涙を浮かべながら一夏を呼び続ける。彼は自分を守るために我が身を犠牲にした。右腕を犠牲にした。それは謝っても許されないことであった。

 彼の右腕の断面から血が出続けている。止血する様子は無い。このままでは失血死してしまう。楯無はそれに気づくが彼女は黒い機体を、憎しみが籠った視線を向ける。

 黒い機体はなぜか後退った。火花を飛ばしているが覚束無い。後悔しているようにも思えたが、なぜそう考えているのかは誰にも解らない。逆に楯無の視線にたじろいでいるようにも思えた。

 

「一夏ぁぁぁっ!!」

 

 刹那、鈴が出てきたピットの方から一機のISが出てきた。その声に楯無、放送室に居た真耶達は驚く。そして、そのISを纏っているのは、千冬であった。

 そして、千冬はISを纏っているが白を基準としている。凛とした彼女に相応しくも魅入られる。が、彼女の表情は怒りに満ちているが困惑も見える。

 しかし、千冬が纏っているISが……そう、ある事件で物的証拠として回収され、数日後に介抱されたIS、白式であった。白式はなぜか彼女の手元にあるが織斑千冬の専用機として、活動することになったのだ。

 千冬は白式を不憫に思い、専用機として受け入れたのだ。千冬は白式と共に、一夏と鈴の助けに入ったのだが目を見開いていた。

 

「一夏……!?」

 

 千冬は一夏を見て戦慄した。一夏は楯無に泣きながら介抱されていた。近くには黒い機体がいるが、誰かの腕らしき物が転がっている。それは、一夏の腕である事に気づくのはそう遅くはなかった。

 一夏の右腕はない。彼の右腕は地面に転がっている。それは千冬から見れば驚きと怒りが沸いてくる。彼の腕を斬り落としたのは、誰でもなく、黒い機体であるからだ。

 証拠に、黒い機体の腕には返り血が付着していた。楯無は一夏の返り血を微かに浴びているが泣いている。千冬から見れば犯人の目星はついていた。

 

「き、貴様あぁぁ!!!」

 

 千冬は怒りで我を忘れ、刀を展開しながら黒い機体に迫る。黒い機体は驚きはしないが油断してしまい、動くタイミングが遅くなる。千冬はチャンスとは思っていないが黒い機体の身体を……。

 刹那、何かを切るような轟音が響き渡る。直後に黒い機体は上半身と下半身に分けられていた。いや、千冬は刀で黒い機体を真っ二つにしたのだ。

 黒い機体の固い身体が一本の、立った一本の刀で柔らかい豆腐のように切られたのだ。いや、千冬の怒りが勝っていると言い替えればいいだろう。

 千冬は一夏を攻撃し、負傷させた黒い機体に対して怒りを覚えている。いつも凛としている彼女とは思えない程、冷静、自我を失っている。同時に一夏を喪うかもしれない恐怖に嘖まれているようにも思えた。

 千冬は黒い機体を攻撃し続ける中、黒い機体はぴくりとも動かない。身体を真っ二つにされた時点で機能停止と言う形で死んでいるのだ。しかし、千冬は続けていた。

 黒い機体は玩具のように扱われているが千冬の怒りは消えない。

 

『お、織斑先生、止めて下さい!!』

 

 そんな千冬を放送室にいた真耶が叫ぶ。彼女も千冬の異常性には気づいたが口で言うしか無かった。あの場にいる訳ではない。できることなら近くで止めたかったのだが無理に等しい。

 あれは化物の化身とも言えるのだ。弟を想う姉が故であるため、仕方ないことであった。そんな千冬に周りは戦慄する中、楯無は一夏を介抱しながら冷や汗を流しつつ驚きを隠せない。

 彼女もまた、千冬の様子に気づいたが楯無は一夏を見る。彼は冷や汗を流しているが表情は青く感じられる。まるで、血の気が引いたようにも思えた。

 

「お、織斑君……!」

 

 楯無は一夏の様子に気づいた。彼はこのままでは死ぬ。暗部の当主としても気づいたのだ。早く治療させなければ……楯無はどうすればいいのかを、直ぐに判断できた。

 

「織斑先生! 織斑君が死んでしまいます!!」

 

 楯無は叫んだ。刹那、千冬はピタッと行動を止める。彼女は楯無を見る。そして、一夏に気づくと、彼女は困惑しながら。

 

「い、一夏ぁぁっ!!」

 

 彼女はISを解除して、一夏と楯無の所へと駆け寄った……。

 

 

 

「ど、どうしょう……!」

 

 その頃、ここは束のラボ。束はパソコンに囲まれながらも目の前にあるパソコンに映し出されている画面を見て青褪めていた。そこには、右腕を失った一夏と、その彼を介抱する楯無、彼を見て泣きじゃくる千冬が映し出されていた。

 が、束は罪悪感に嘖まれていた。後悔の念に押しつぶされそうになっていた。なぜなら赤、青、黒の機体を造り、学園へと赴かせ、そして一夏と楯無のISを強制解除させたのは束であった。

 あの時の考えは、このためであり、千冬や箒を除いた、一夏の周りにいる更識姉妹やジェイソンを排除しょうとしたのだ。が、計画は序盤までは上手くいったが、一夏の行動で全ての歯車が狂ってしまった。

 楯無の乱入と言う形の援軍は想定外であり目的の人物の一人であることに驚きはしなかったが、彼女は楯無を排除しょうとした。が、一夏の余計な行動かつ、ジェイソンのお陰で全ての機体は機能停止に陥ったのだ。

 同時に彼女は楯無だけでも排除しょうと楯無のISにハッキングし、強制解除をしたが一夏もしたのは彼が行動を起こさないようにするためであった。

 これで楯無だけでも排除できる、そう思ったが一夏の三度目の行動で失敗に終わり、同時にとんでもないことをしてしまったのだ。それは一夏の右腕を斬り落としてしまったことであった。

 束はそのことで後悔した。が、それは後の祭りであった。

 

「ど、どうしょう……そんなつもりじゃなかったのに……!」

 

 束は後悔の念に押しつぶされながら膝を突いてしまう。自分は更識姉妹とジェイソンを排除したかっただけなのに、一夏の右腕を落とすつもりはなかった。

 どんなに謝っても、後悔しても、一夏の右腕を斬り落としたことに変わりは無い。束は自分の行動で大きな失敗で自身を責め続ける。刹那、束は目に涙を浮かべると、泣き叫んだ。

 

「う、うあぁぁーーーーっ!!」

 

 束は泣き叫びながら頭を抱える。なんてことをしてしまったのだろうか、自分は只……が、どんなに考えても過ぎたことを、してしまったことの後戻りはできない。

 束は自分の愚かな行動に嘖まれながら泣き叫んだ。自分が一夏の腕を引き千切った行動をした。それは謝っても許されることではない、一夏が怒らない訳ではない。

 束はそれに気づきながらも泣くことしかできなかった。束は泣き叫ぶ中、誰も彼女に手を差し伸べることはできなかった。

 いや、そんな彼女を、このラボを出入りできる出入り口から身を半分だけ出しながら心配そうに見ている少女がいた。十代前半に差し掛かり、腰まで伸びる長い銀髪に瞳の色は判らないように目を閉じている。

 黒と紫を基準としたゴスロリ服を纏っているが彼女は泣き叫ぶ束を心配そうに見ていること以外、その場を動かなかった。

 

「束様……」

 

 少女は束を見ながらそう呟く。しかし、自分には彼女を慰めることや自身は無い。出来るのは出来るのがその理由さえも無いのだ。一夏の右腕を斬り落としたことは許されることではない。

 右腕とはいえ、身体の一部なのだ。右利きの者ならば大事な身体の一部なのだ。それを奪うことは許されることではないのだ。少女はそれに気づきながらも束に声を掛けることは出来ない。

 今はそっとしとくべきなのか。が、束は一生、罪悪感に嘖まれるだろう。それだけは事実であり、覆すことは永遠に出来ない。少女はそれにも気づきながらもその場を動かない。

 そんな少女の悲しい気持ちをよそに、束は泣き続けていた。一夏は自分の親友の弟だ。親友を傷付けたことの重過ぎる事実に耐えきれないでいた。

 しかし、彼女はそれでも前に進まなければならない、彼女のしたことはずっと親友には腸が煮え返る思いをされるだろう。それでも、束はそれを罪の意識として認識しなければならない、

 束がそれに気づくまで、時間は掛からない。が、彼女は強い、ISを造ったのは彼女であり、それ相応のメンタルは強いからだ。今は後悔しているが束が泣き続くのならばそれで関係ない。

 束が泣き続ける中、パソコンに映し出されている画面には楯無や千冬が一夏をどこかへ運ぶなどの行動を起こしていた……。


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