インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

98 / 198
第98話

 ジェイソンが簪を守るために赤い機体を破壊した丁度その頃、会場席を除いたアリーナ全体では黒い煙に覆われながらも、一夏と楯無が黒い機体と何かをしていた。

 しかし、黒い煙のせいで何が起きているのかは、外にいる者達には判らない。が、何かを叩く音だけが何回も聴こえるがそれだけでは判断できない。

 放送室にいる真耶や数名の教師が固唾を呑んで見守るが誰一人、声を出さない。同時に会場席の方では微かだが徐々に人がいなくなっていく。

 避難は完了しつつあったのだ。避難誘導した女子生徒達の行動が功を奏したのだ。しかし、会場席にはある人物達がいた。それは、セシリアである。

 

「あ……ああ……!」

 

 セシリアは黒い煙を見て肩を震わせる。いつ見ても恐怖でしかなかった。が、立ちすくんでいた。黒い煙はあの時の戦いをフラッシュバックさせている。

 セシリアは身体を震わせ続けている中、彼女の肩を掴む者がいた。セシリアは「っ!?」と驚きながら振り返る。そこにいたのは、虚であった。彼女は避難誘導していた生徒の一人であったのだ。

 

「貴女も逃げなさい!」

「で……でも……!」

 

 セシリアは肩を震わす。が、虚は彼女を無理矢理振り返らせると今度はもう片方の肩を掴みながら彼女に言う。

 

「あの時のことは、あの戦いは仕方ありません! ですが今は自分の命を優先しなさい!」

「……っ!」

「怖いのは誰だって同じです! それに……今の私達は逃げることしかできません! あれは会長と織斑さんに任せるしか他はありません!」

 

 虚はセシリアを論する。虚はセシリアに激昂していた。彼女はあの時の戦いを気にしている。あの戦いは彼女自身が経験したために良く覚えているだろう。 

 同時に彼女は他ならぬ恐怖を誰よりも身に染み込ませている。今の彼女は弱気であるが虚は避難させるために論しているに過ぎないだろう。虚はセシリアに言う中、機械的な叫び声が響き渡る。二人はビクッと反応し、声がした方を見やる。

 彼女等だけではない、避難誘導を終えつつあった女子生徒達も反応する。その機械的な声は青い機体であった。青い機体は黒い煙を仰ぐ。刹那、黒い煙から何かが飛び出てきた。

 それは一夏と黒い機体であった。一夏はランスを片手で持っていた。黒い機体は至る所が凹んでおり、火花を飛ばしている。が、一夏は黒い機体の頭をもう片方の手で鷲掴みしながら青い機体に迫る。

 青い機体は突然のことで驚きはしないが一夏は青い機体に迫りながら黒い機体を青い機体目掛けて投げた。黒い機体の巨躯が一夏に難なく投げられていた。

 青い機体は一夏の攻撃とも言える、投げられた黒い機体を見て驚きはしないが躱す。黒い機体は青い機体の横を通り過ぎる。刹那、一夏は青い機体目掛けて迫ると、ランスで薙ぎ払った。

 青い機体は一夏のランスで薙ぎ払われるが横へと吹っ飛ばされた。が、一夏は瞬時に加速すると青い機体の真上に迫り、ランスで叩き落とした。

 青い機体は地面に叩き付けられるがクレーターが発生し、一夏は青い機体の真上を通り過ぎると、上昇すると、ランスを解除し、ある武器を展開する。

 それは、グレネードランチャーであった。これもレザーフェイスを連れた青年の物であるがこれも奪って、第五の武器にしたのだ。一夏はグレネードランチャーを青い機体に向けながら引き金を引く。

 刹那、グレネードランチャーの銃口から擲弾が放たれ、擲弾は青い機体目掛けて突き進むと、直撃し、爆発した。辺りに爆風が木霊するが、アリーナ全体に被害が及ぶ訳ではなかった。

 

「…………」

 

 一夏はグレネードランチャーを肩に掛けながら眉をひそめる。警戒しているようにも思えるが、彼は何も言わず真下を見ていた。が、煙は徐々に消えて行くが影が見えた。

 それは、クレーターの中央に倒れながら火花を飛ばしている青い機体であった。動く気配はないが、一夏は不意に黒い煙の方を見る。黒い煙は徐々に消えて行くが一人の影が見えた。

 あの影は……そう、その正体は影自身、つまりその者が黒い煙の中から出てきた自ら姿を晒した。楯無であった。手にはランスを持っているが一夏の近くまで来た。

 

「織斑君……っ!?」

 

 楯無は真下にいる青い機体を見て顔を引き攣らせる。が、楯無はそこをうごかなったのは一夏に言われたからであった。

 理由はあの二機は楯無を狙っているのと、あの二機は一夏が相手にすると一夏自身が言ったのと、楯無には黒い煙、その場を動かないように一夏に言われたからでもあったのだ。

 楯無は歯痒い思いであったのだが一夏は利用する意味での彼女を守る義務があったのと、あの二機は自分を狙っているのと同時に、一夏には手を出せないからでもあった。

 楯無はそれに気づきながらも一夏の言い分は正論であり、自分は生徒会長でありながらも事態の収拾を彼に任せたことに対し、自身はやるせない気持ちで一杯だった。

 楯無はそう思っている中、一夏は口を開いた。

 

「……更識」

 

 一夏は彼女に訊ねる。

 

「何かしら?」

「……お前は簪様の所に行け」

「えっ?」

「……まだ判らないのか?」

「……っ、簪ちゃん!」

 

 楯無は簪のことを思い出した。一夏は先を続ける。

 

「……今は簪様の所に行け、あの二機は俺が調べておく」

「でも!」

「今は簪様の所に行け、今はジェイソンが見てくれている」

「えっ!?」

 

 楯無は驚きを隠せない。ジェイソンが簪を見てくれている? それは楯無にとって驚愕しかなかった。しかし、一夏はジェイソンに簪を守るよう命じたために安全であるが、一夏は楯無に言ったのだ。

 今の簪は怯えている。ならば、楯無が傍に居た方がいいと思っていた。勿論、気遣う意味ではない、楯無がいる限り、あの二機は楯無を狙い続ける。

 楯無は邪魔であるのと、あの二体は自分の獲物だと思っているからだ。一夏はそう考えているが、楯無は気づいていない。

 

「奴は簪様には手出ししていない。が、奴よりも身近のお前の方が一番いい」

「…………」

「……俺はその後に合流する。安心しろ」

「……お願い、するわ……!」

 

 楯無はそう言った後、アリーナを出入りできる方へと向かう。同時に一夏も真下の方へと降りていく。楯無は簪の様子を見に、一夏は青い機体の方を調べるつもりであり、それぞれ行動を起こそうとしていた。

 一夏は青い機体の方へと降りていき、楯無はピットの出入り口付近まで移動した。

 

『IS強制解除!』

 

 刹那、一夏と楯無のISから機械的な声が聴こえた。

 

「……!?」

「えっ!?」

 

 これには一夏は眉を顰め、楯無は驚く。直後、二人はISを解除する。いや、IS自身が強制解除してきたのだ。二人は地面に着地したが幸いなことに、地面の近くであったからだ。

 

「な、何が!?」

 

 楯無は驚きを隠せない。一夏はISが解除されたことに不信感を抱く。

 

「ギガガァァァ!!!」

 

 直後、近くから機械的な叫び声が耳に響き、一夏と楯無は声がした方を見やる。そこには、身体中に火花を飛ばしつつも、身体中にへこみや切り傷がありながらも起き上がる黒い機体がいた。

 声の主は黒い機体であるが、黒い機体は全身の力を、いや、微かに残った力を全て賭けるように起き上がる。一夏は身構え、楯無は下唇を噛むとISを起動しょうとした。

 

「……!?」

「なんで!?」

 

 しかし……なぜかできない。いや、IS自身が主人に逆らう意味で拒んでいた。これには二人は驚く。が、黒い機体は微かなスピードで楯無に迫る。楯無は驚くが逃げようとした。

 だが、それ以前に黒い機体の方が行動が早く、楯無の直ぐ近くまで来ていた。同時に腕を刃物のように振り上げていた。黒い機体は彼女の脳天を叩き割ろうとしたのだ。

 

「あっ……!」

 

 楯無は目を見開いた。このままではやられる。そう直感したのだ。躱すことはできるがそれもタイミングが遅いのかもしれない。楯無はそう感じたが死をも直感した。

 刹那、何者かが楯無の前に風のように現れ、彼女を抱き締める。これには楯無は驚くがその何者かは楯無を抱き締めながら横へと倒れようとした。同時に、黒い機体の腕は振り下ろされる。

 刹那、何かの切れる音が辺りに小さく響き渡る。

 

「あぁぁ……!!!」

 

 直後、悲鳴に近い叫び声がアリーナ全体に微かに響く。それは激痛であった。しかし、楯無はその声を間近で聞いて目を見開く。

 

「「キャァァァ!!」」

 

 放送室から真耶の悲鳴が聞こえた。更に会場席からは虚の悲鳴も聞こえた。しかし、それは恐怖で支配されていた。が、楯無はその悲鳴を聞いて驚いている。

 が、それ以上に自分を抱き締めている者の右腕に違和感があった。血飛沫が聴こえるのと同時に楯無は自分を抱き締めてくれた者と共に横向けに倒れていた。

 が、楯無は悲鳴に近い叫び声を上げた。

 

「お、織斑くーーーーん!!!」

 

 楯無は自分を抱き締めてくれた者が一夏だと気づいた。一夏は楯無を守るために風のように現れたのだが彼はある物を失った。それは右腕であった。

 そう、彼の右腕は黒い機体に斬り落とされたのだ。そして、彼の右腕は近くに転がっていた。周りに血の海ができているが断面には肉や骨が見えるが、元は一夏の右腕だった物となってしまった……。




 入れ忘れていましたが、次回の土曜日での投稿はお休み致します、次回は日曜日からの投稿です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。