インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第96話

「たあっ!」

「ふん!」

 

 一夏と楯無は機体に対し、二対一と言う狡くも圧倒的な戦力で押していた。機体は一夏と楯無と言う、学園内では強者の部位に入る実力ある二人に手も足も出ないでいた。

 周りに発生している水で重力を奪われているのもそうでもあるが、機体は戦況を覆すことはできない。事実でもあり、徐々に追い詰められている。

 機体の至る所は凹んだり、掠り傷が目に付き始める。そして……一夏と楯無は真正面にいる機体をランスで突く。

 

「ギガガ!」

 

 機体は吹っ飛ばされる。いや、二つのランスの攻撃が渾身の一撃とも思えるように重かったからだ。機体は巨躯ではない、ISを纏っている彼等と同じくらいの背丈である。

 周りに発生している水のせいではない、最初は楯無だけであったが今は一夏も一緒であったからだ。機体はそのまま吹っ飛ばされるが背中から受ける。

 機体は火花を飛ばしているが動く気配はない。死んでいるのかや機能が停止しているのかも判断できない。

 

「「…………」」

 

 そんな機体を一夏と楯無はランスを持って身構えている。まだ起きるのではないのかと警戒していた。機体からは起きる気配はなくとも、警戒を緩めてはいない。

 二人は何を考えているのかは判らないが警戒していると言うことに変わりは無い。そんな中、二人はある音に気づき、上を見やる。徐々に大きくなっていく。何かの飛ぶ音であった。混ざり合うように大きな音でもあった。

 二人は音に警戒する。直後、天井からさっきよりも微かに大きな割れる音がした。ガラスであった。破片は地上に降り注ぐが、その前に二つの物体が隼のように地上に降りてきた。

 二つの物体は機体の前に着地すると、身構える。

 

「っ!?」

「…………」

 

 楯無は目を見開き、一夏は眉をひそめる。その二つの物体はそこに倒れている機体と同じであった。禍々しさや不気味さも全く同じで、危ない雰囲気を醸し出している。

 雰囲気や形は共通しているが色は違う。片方は黒で、もう片方は青であった。しかし、一夏と楯無から見れば、新たなる敵の出現でもある。

 倒れている機体の援軍でもあるが敵であることにも変わりは無い。が、それは周りにも衝撃を与えていた。いや、会場席にいる女子生徒達にであった。

 

「キャァァァ!!」

「また来たぁぁ〜〜!!」

 

 女子生徒達は更なる恐怖で直面しているかのように怯えると、我先にと逃げ始める。一体だけできついのに、更に二体も現れたら死ぬ確率も大きくなる。

 それだけでも判ると、冷静さを失い、出口へと行ことする。が、そんな女子生徒達に避難誘導している者達も驚きを隠せない。自分達だって怖い中、必死で行動を起こしている。

 しかし、彼女等の方が騒がしく、持ちこたえることもできない。そんな女子生徒達に楯無は気づく。

 

「大変だわ! まだ逃げ遅れている娘達が!」

 

 楯無は視線を逸らしてしまう。会場席の方を見てしまったの。刹那、二体の機体は楯無を見て迫る。狙いを定めていたのだ。

 

「……!」

 

 一夏は二体の機体が楯無を狙っていることに気づき、即座にウィングスラスターから黒い煙を噴き出させる。黒い煙は辺りを包むが、二体の機体をも巻き込んだ。

 楯無は驚くが一夏は彼女を自分の方へと引き寄せると、一夏は楯無を連れたまま瞬時に上昇するように加速し、黒い煙から出てくる。が、なぜかウィングスラスターからは黒い煙が噴き出し続けていた。

 

「…………」

 

 一夏は楯無と共に宙に浮かぶと、楯無を放す。刹那、彼は楯無を抱き締める。

 

「お、織斑君!?」

 

 楯無は驚くが一夏は何も言わない。彼はランスを片手で構えていた。あの黒い煙の中を睨んでいた。あの中には二体の機体と、さっき倒したであろう機体や、気を失っている鈴がいる。

 が、彼は警戒していた。機体がどこから来るのかを。

 

「お、織斑君?」

 

 そんな中、楯無は一夏の行動に戸惑いを隠せない。彼は突然抱き締めてきたのだ。彼がそう言った行動をしていることに疑問を抱いているのだ。

 彼それは楯無にとって一夏の行動は突然のようにも思えたのだ。

 彼女は一夏に訊ねるが、彼は聞く耳を持たない。黒い煙を睨み続けている。

 

「織斑君、ねぇ織む!」

「……俺の傍を離れるな」

「えっ……?」

 

 一夏は口を開いた。それを聞いた楯無は目を見開くが予想外の言葉でもあった。しかし、彼は言葉を続ける。

 

「……傍を離れるな……それだけだ」

「そ、それってどういうことなのよ!?」

 

 楯無は彼の言葉を理解できないでいた。いきなりそんなことを言われても困惑しか無いのだ。が、一夏はランスを構えながら黒い煙を睨む。

 刹那、煙は微かに消えるが二体の黒い影が煙の中から出てきた。それは、黒と青の機体であった。

 

「や、奴等だわ!」

 

 楯無は一夏から離れようとしたが彼は放そうとはしなかった。

 

「ちょ、ちょっと放しなさい織斑君! このままではやられるわ!」

「…………」

「織斑君!!」

 

 一夏は聞く耳を持たず、楯無は暴れる。しかし、二体の機体は微かに離れながら二人の前に浮くと、片腕を突き出してきた。

 

「まずいわ! このままじゃあ……!」

「安心しろ」

「えっ!?」

 

 一夏はそう言い放った。それを聞いた楯無は目を見開くが、一夏は何かを考えていた。奴等は片腕を突き出したまま、一歩も動かない。出方を伺っているようにも思えたが、あることでも動く気配は無く、攻撃もして来ないのだ。

 

(まさか……となると、コイツらは……)

 

 一夏は気づいた。奴等の目的は、ある人物に出会う事に気づいたのだ。それはさっきの赤い機体もそうであり、さっきの二体の行動もそれを物語っていた。

 それがそうならば、恐らく……。そんな一夏に楯無は訊く。

 

「ねえ織斑君!? どういうことなの!? ねえってば!?」

「…………えだ」

「えっ?」

 

 一夏は何かを呟いた。楯無は聞き取れず惚けるが、彼は言った。

 

「奴等の目的は恐らく……お前だ」

「えっ!?」

 

 一夏の言葉に楯無は再び驚く、それは抱き締めてきたことよりも更に衝撃なことでもあった。奴等の目的は自分? それは楯無にとって驚きしかなかった。

 が、一夏はその理由を言葉を続ける意味で教えた。

 

「……奴等の目的は、お前だ」

「そ、それって……!?」

「……俺にも判らない……が、俺達は一つに固まっているのになぜ奴等は攻撃してこない?」

「えっ……」

 

 一夏の言葉に楯無は目を見開くが不意に左右を見る。二体の機体は片腕を前に突き出したまま動く気配はない。確かに自分達は一カ所に固まっているにも関わらず、蜂の巣にできるチャンスなのにも関わらず微動だにもしない。

 楯無から見れば疑問しかないだろう。が、一夏は先を続ける。

 

「……奴等は学園を襲撃してきたのだが、標的がいた筈だ。最初の奴は俺と戦っていたのに、軽く相手をしていた。なのにお前が来てから最初の奴は標的をお前に変えた」

 

 一夏は先の戦いを思い出す。赤い機体との戦いの際、赤い機体は自分と戦っているにも関わらず、軽くあしらっていた。まるで標的はお前ではないと言わんばかりであった。

 余裕さえも感じているのかは判らないが、一夏は不信感を抱いていたのだ。が、楯無の援軍、というよりも乱入で不利な状況になったにも関わらず、赤い機体は自分よりも楯無を狙いはじめたのだ。

 自分よりも楯無がいいのか、そう思っていたのだが乱入してきた楯無への怒りの方が強かったのだ。一夏はそこまで考えていなかったのだが、奴等が一向に動かないこと、会場席にいる女子生徒達を狙わないことのも変であったのだ。

 今の奴等も自分よりも楯無を狙っていた。二対二にも関わらず、楯無しか狙っていなかった。自分よりも楯無、会場席にいる女子生徒達よりも楯無。どう見ても、楯無しか狙っていないようにも気づいたのだ。

 自分が彼女を抱き締めたのは、奴等の標的が楯無ならば、楯無以外の自分、つまり無関係者出ある自分を巻き込むことはしないからであった。

 それは賭けでもあるが一夏はそう直感しているのだ。事実、奴等は動こうとはしない。動向を探っているようにも思えるが一カ所に固まっているにも関わらず、攻撃してくる気配はないからだ。

 楯無は一夏がそう考えているのをよそに、訊ねる。

 

「で、でも私を狙うのなら兎も角、奴等は織斑君を狙わないの!?」

「……それは俺にも判らない……だが現に俺を狙っているのならば……」

「どうしたの?」

 

 刹那、一夏は何かに気づき言葉を詰まらせる。それ以上は言わなかった。いや、彼は何かに気づいたのだ。奴等の狙いが楯無ならば……となると……。

 一夏は奴等をよそに、辺りを伺う。黒い煙は考えている間に少ししか残っていないがアリーナ全体を見渡せるまで消えていた。

 鈴は兎も角、ある機体がいないのだ。それはさっき倒した赤い機体の奴である。奴はどこにもいないのだ。狙いが楯無ならば、奴も楯無を狙う筈だ。

 

「……まさか」

「織斑君? どうしたのよ!?」

 

 一夏は何かに気づいた。まさか奴は……刹那、一夏は微かに呟いた。

 

「……簪様を守れ……ジェイソン!」

 


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