インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第94話

「ああっ!」

 

 クラス代表決定戦の第一試合、一夏と鈴はISを纏いながら激闘を繰り広げていた。が、一方的に一夏が押していた。彼はランスで鈴を突き続ける。

 鈴は押されているが武器を落とす気配はない。

 

「ぐっ!」

 

 鈴は両手にある二つの青龍刀で一夏に斬り掛かるが片方だけであった。一夏はランスで片方で受け止めるが腹が無防備になる。鈴は「チャンスよ!」と言いながら、もう片方の手にある青龍刀で使おうとした。

 刹那、鈴が動くのと同時にウィングスラスターから黒い煙が噴き出される。鈴は驚くが彼女も黒い煙に巻き込まれてしまう。これには会場席にいる女子生徒達や職員達は驚くが、モニターを観ている更識姉妹も驚く。

 

「っ……!」

 

 そんな中、会場席にいたセシリアはあの黒い煙を見て肩を震わせながら自分を抱き締めるように腕を掴む。あの黒い煙は自分が敗退したのと、心に暗い影を落とした物であった。

 セシリアから見ればそうであるが鈴はその第二の犠牲者ではないかとも思っていた。セシリアだけではない、周りもそう思っており、更識姉妹もそう思っていた。

 黒い煙は一夏と鈴の周りで発生しているが全体ではなかった。周りに不安な空気が流れ始める。刹那、黒い煙の中から大きな破裂音と共に、一機のISを纏った者が煙からい追い出されるように飛び出してきた。いや、吹っ飛ばされてきた。

 会場席にいる者達や、モニターで観ていた更識姉妹は驚くがその者は、鈴であった。彼女は一夏に吹っ飛ばされたのだ。鈴は手に持っていた青龍刀を落とすが、彼女は仰向けに倒れていた。

 

「ウグッ……!」

 

 鈴はなんとか起き上がるが腹に激痛を感じていたために上手く起き上がれない。しかし、そんな鈴をよそに、黒い煙は徐々に消えていく。一人の、一機のISの影が見えるが一夏であった。

 が、彼は武器を持っていない。いや、武器はあるが違っていた。それは煙が微かに残る中、彼の姿が完全に確認された時であった。彼は武器を変えていた。ランスから、ショットガンへと。

 

「!?」

 

 会場席にいる者達は目を見開き、驚きを隠せないでいる。彼はいつの間にか、新しい武器を手にしている。それは彼のISに備われている武器はナイフ、ランス、弓矢だけであると思っていた。

 しかし、彼は新たなる武器を加えていた。ショットガンであった。が、それは、そのショットガンは彼の物ではない。そのショットガンはレザーフェイスを引き連れていた青年の物であった。

 あの時、彼が青年の武器を拾ったのは、ISの新たなる武器として加えるためであったのだ。ショットガンはもう、青年の物ではない、織斑一夏と言う新たなる持ち主の物になったのだ。

 

「ッぐ……!」

 

 鈴はなんとか起き上がると、彼を見据える。彼は眉をひそめながらショットガンを持っている。一夏を見て鈴は歯を食い縛る。彼は武器を、新たなる武器を隠し持っていたのか、と。

 

「ひ、卑怯よ一夏! 武器を隠し持っているなんて!?」

 

 鈴は一夏指差しながら怒る。しかし、それは戦法でもあった。武器を隠し持って戦う者等、ごまんといる。卑怯と言われているがそれは違う。

 素手で戦う場合は反則であるが、数で勝る場合は元より、武器を使っての一対一だ。武器を使っているため、武器を隠し持って戦うのは反則ではない。数で勝る場合は武器を使っても文句は言えない。

 鈴は一夏に怒るがそれが更なる問題を起こした。

 

「そうよ! 武器を隠し持っているなんてずるいわ!」

「えっ!?」

 

 刹那、会場席からの声に鈴は驚く。が、更に我先にと会場席から幾つもの声が飛び交い始める。

 

「最低な男!!」

「武器は幾つ持ってるのよ!?」

「弓矢だけで心細いから、新たな武器を手に入れたのね!?

「それも周りに黙ってたの!?」

 

 会場席にいる者達からもブーイングが飛び交い始める。女尊男卑主義者であった。彼女達は鈴を応援していたが彼の卑怯な戦法に文句を言い始める。

 彼はずるいことをしたのだが武器を使った戦いである為、ズルをしている訳ではない。隠し武器は相手を錯乱させるための作戦でもあるが、周りから見れば、女尊男卑主義者から見ればずるいとも思われていた。

 

「ひ、酷い……!」

 

 モニターで観ていた簪が悲痛の声を上げる。楯無は軽く奥歯を噛み締めながら目を逸らす。姉妹は一夏へと投げられている心ないブーイングに対し、憤りを感じていた。

 あれでは一夏が可哀想であった。彼は武器を隠し持っていただけであり、それを責めるのは筋違いだ。姉妹はそう思っているが、更に別の所にいる者も怒りを隠せないでいた。

 

「い、一夏……お前、っ……ふ、鳳!?」

 

 千冬であった。彼女は放送室にいるが鈴の言葉に怒りを覚えていた。一夏に非があるようにも思えるが、隠し武器なんて戦略の一つである。

 それは誰にも教えていないが自分にも教えていない。いや、彼はそのこと事体を誰にも言ってないようにも思えた。敵を欺くなら、まず味方から、という言葉があるがそれであった。

 しかし、周りは一夏を責めている。鈴がことの発端でもあるが千冬から見れば鈴の言葉が周りを促す言動にもなっていた。千冬は憤りを隠せないでいた。

 

「あ……ああ!」

 

 その元凶とも言える人物である鈴は周りを見て驚きを隠せない。自分の言葉が彼を責めるだけでなく、周りをも巻き込ませていた。どれも一夏への罵倒であった。

 突然とはいえ、鈴から見れば時既に遅しであった。鈴は周りに戸惑う中、不意に一夏と目を合わせてしまう。

 

「ひっ!?」

 

 刹那、鈴は悲鳴を上げそうになる。彼の、一夏の視線は鋭い物であった。怒っているようにも思えたがそれが物語らせていた。彼が怒っているのは、鈴もそうであるが彼は周りにも怒りを感じていた。

 ああ、こいつら、やはり腐ってるな、そう思っていた。奴等は自分を迫害していた者達と同じであった。いや、既にISのお陰で腐っているのだった。

 彼女達が悪い訳ではないが、一夏から見れば虫唾が走るだろう。一夏はそう思うと、鈴を見て舌打ちした。交友ではない、憎悪の炎を滾らせてしまった。

 鈴が悪い訳ではないが一夏はショットガンを空目掛けて発砲した。大きな破裂音が響き渡る。

 

「!?」

 

 一夏の行動に周りは黙る。しかし、それは一夏の怒りを吐き出す意味での行動でもあった。ショットガンを撃ったのも彼なりの静かな怒りでもあった。

 一夏の行動に周りは黙るが彼が怒っていることを察知した。微かに肩を震わせるが、モニターで観ていた更識姉妹は一夏の行動に気づくが見守ることしかできない。

 千冬も見守るが生唾を吞む。セシリアは、いまだ肩を震わせ続けているが、ある人物も、肩を震わせていた。

 

「い、一夏……!」

 

 箒である。彼女は一夏の変わりようと隠し武器について憤りを感じているが、さっきの罵声でそれは消え、今度は一夏に同情を感じていた。が、一夏の行動で彼女も肩を震わせている。幼馴染みであり想い人の変わりように怯えているのであった。

 周りは一夏の行動で怯え、肩を震わせる中、鈴は一番に肩を震わせていた。自分の言葉が彼を怒らせた、彼を嫌いにさせてしまった……そう思っていた。

 鈴は肩を震わせながら後退りするが一夏はショットガンを解除する意味で武器を消す。刹那、一夏はある武器を展開した。それは……一本の鋭いナイフであった。

 

「ひっ!?」

 鈴はそれを見て微かに声を上げる。あのナイフ……鈴の脳裏に、ある出来事が過る。それはセシリアとの試合であった。あれは、あのナイフが使われた試合でもあった。同時に、セシリアを恐怖のどん底に陥れた武器でもあったのだ。

 鈴はそれを見て微かに後退る。戦意は既に喪失しているが恐怖で支配されていた。一夏はナイフを逆手に持ち変えると、身構える。鈴に止めを刺す警告でもあった。鈴はそれに気づき、更に後退るが、直ぐ後ろは壁であった。最早逃げ場は無かった。

 

「い、一夏……!」

 

 鈴は目に涙を浮かべる。自分は彼を怒らせた。できることなら謝りたい、そう思ったのだ。しかし、一夏はそれに聞く耳を持たない、最早、鈴に対して怒りしかなったのだ。

 一夏はナイフを軽く動かし、鈴に迫ろうとした。

 

「……?」

 

 刹那、一夏は何かに気づき、上を見上げる。同時に直ぐに天井の、いや、アリーナ全体を包むガラスが割れた。周りはガラスに反応するが同時に、ガラスの破片の雨が降りしきる中、それらを素通りするように、ある物体が落下してきた。

 

「……!」

 

 一夏は直ぐに後退りした。が、その機体は一夏の近くに着地した。しかしそれは、ある禍々しい赤い機体であった。

 

「な、なんだあれは!?」

 

 千冬は声を上げるが、赤い機体は一夏を気にもせずに鈴に迫る。鈴は目を見開く前に赤い機体は鈴の直ぐ近くまで来ると彼女の頭を鷲掴みする。

 

「あがっ!!?」

 

 鈴は激痛で声を上げるが機体は鈴の頭を鷲掴みしたまま、彼女を壁の方へと投げた。刹那、鈴が壁に背中から激突すると共に大きな煙が発生した……。

 

「キャァァァ!!!」

 

 同時に、会場席にいる者達は逃げ始める。突然の乱入者に恐怖したのだ。周りは我先にと逃げるが出口の方へと向かっていた。中には教師達も逃げていたが冷静さを失っている。

 教師としては生徒達を守る立場にいるにも関わらず、あるまじき行動でもあったが自分が可愛いだけであった。

 

「…………」

 

 周りが逃げる中、一夏はその機体を見ると、身構える。しかし、機体はなぜか一夏を気にもしていなかった。まるで、彼を空気のようにも思っているようにも思えた……。

 

 


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