インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

93 / 198
第93話

 数日後、ここはIS学園近くにあるアリーナ。この日は全学年のクラス代表が集まっていた。同時に会場席には学園中の生徒や職員達(少数は学園のテレビで観戦)がいた。

 生徒達はまだか、まだかと待っている。彼女達は自分のいるクラスの同級生、つまり自分達のクラス代表を応援するために来たのだ。ある物が掛かっているためでもあった。

 しかし、中には、あることをも危惧している者達がいた。一年一組のクラス代表である織斑一夏の存在。彼女達はあの時の試合で彼に恐怖している。

 自分達のクラス代表がセシリアの二の舞になるのではないかと心配していた。が、それは一部であり、大半は忘れているようにも思えた。それは、クラス代表決定戦で好成績の者と、その者がいるクラスの生徒達が貰える、ある物が目的のためでもあった。

 その物だけに周りは応援しているのであった。が、それは衰えることは無く、激しさを増していた。そんな中、クラス代表決定戦に参加するクラス代表達は表情を険しくしている。重すぎる使命としか思っていないが、中には一夏と当たらないことを祈っている者達もいた。

 しかし、必ず当たることになるため、無理に等しいだろう。

 

「凄い……沢山、いる」

 

 一夏がいるピットでは一夏、楯無、簪がいた。簪はピットにあるモニターに映し出されている映像を観てそう呟いた。しかし、そう言うのも無理は無いだろう。

 簪の言葉に楯無は何も言わずに頷いた。一方で一夏は無言で準備運動をしている。これからの戦いに備えてでもあるが気を引き締める意味でもあった。

 一夏は軽く準備体操をしている中、楯無は彼に訊ねる。

 

「織斑君、緊張している?」

「……いや、むしろ後悔していない」

「えっ?」

 

 一夏の言葉に楯無は目を見開き、簪はキョトンとした。が、一夏は準備運動をしながら思考を走らせていた。彼は猛者との戦いを軽い手慣らしと思っていた。

 彼女等はセシリアよりも強いか弱いかは判らない。しかし、プレイヤー達よりも強いかどうかも判らない。が、自分を呆れさせる程の存在ならば容赦しないとも考えていた。

 相手が誰であれ、優しさを掛けるつもりも無い、情けをかけるつもりも無い。一夏はそう考えているが、スピーカーから声が流れる。

 

『ではこれより、クラス代表決定戦を行ないます』

 

 刹那、アリーナの会場席全体から歓喜の声が飛び交う。楯無と簪はモニターを観るが反応したのである。

 

「…………」

 

 しかし、一夏だけは違った。彼は準備体操をしているが冷静であった。いつでも出れる、そう思われているが彼は自身があるようにも思えた。

 負けるつもりは無いのと、勝てない訳ではないからだ。彼は、この学園の生徒達の中では楯無と千冬同様、死地を乗り越えたのだ。ここの生徒達はISを遊び感覚か勉学しに来たのかもしれないが、彼はゲームを制するためにも来たのだ。

 彼の戦いは、いつまで続くかは判らない。が、彼がそれを終えるまで、彼の戦いは終わらない。IS学園での勉学はゲームの次でしか考えていない。

 一夏は準備体操を終えると、モニターを観る。歓声が響き渡るが娯楽目的としか思えなかった。何を愉しんでいるのか? そうとしか思えなかった。

 一夏は彼女等を観て舌打ちした。

「織斑君?」

「織斑さん?」

 

 その舌打ちに更識姉妹は気づく。二人は一夏を見やるが彼は目を逸らしていた。更識姉妹は彼を見て別々の反応を見せる。楯無は軽く眉をひそめ、簪は少し困惑していた。

 反応は違うが共通していることは、どちらも一夏に声をかけていないことであった。彼が何を思っているのかは割らない。が、何か嫌なことを考えているのではないかと思っていた。

 正解でもあるがそれを口にはしなかった。見守ることを選んだのだ。すると、スピーカーから声が流れる。

 

「これより第一試合は、一年一組の織斑一夏と……』

 

 一夏はスピーカーの声に反応するが、その先で眉をひそめた……まさか、最初の相手が奴、と思っていた。しかし、相手が誰であれ、関係ない。

 叩き潰すだけであり、恐怖させることしか考えていなかった……。

 

 

「…………」

 

 数分後、アリーナには一人の少女がISを纏いながら待機していた。そのISは紫掛かったピンクと黒に黄色のラインがある軽装的なISであった。

 近くには丸い、というよりも周りが少し禍々しい物がある球体が二基浮いている。が、そのISを纏っている少女は鳳鈴音、そう、鈴であった。同時に彼女の相手は……刹那、アリーナを出入りできるピットから一機のISが飛び出してきた。

 そのISは鈴の近くにまで来るが、鈴はそのIS……いや、彼を見て顔を引き攣らす。

 

「待ってたわよ、一夏!」

 

 鈴はそのISを纏っている者を一夏と呼んだ。そう、鈴の、いや、一夏の最初の相手は鈴であったのだ。何がの因果かは判らないが二人は初戦でぶつかることになったのだ。

 一夏から見れば臨画相手は想定外かつ仕方なく、鈴は一夏が最初の相手であることは想定外かつ好都合だとも思っていた。なぜなら……鈴は一夏を見ると彼を指差す。

 

「待ってたわよ! 一夏!」

 

 鈴は彼を指差しながら訊ねる、一夏は眉をひそめているが聞く耳を持たないようにも思えた。が、鈴は言葉を続ける。

 

「アンタだけには負けない! クラスの皆の思いを背負っているのと、本来のアンタに戻って、アンタに何が遭ったのかを洗いざらい教えて貰うわよ!?」

 

 鈴はそう宣言した。前者はクラスのことであり、クラス代表としての使命であった。後者は一夏の過去を知るためでもあった。想いを寄せているがためでもあるが本来の優しかった彼に戻ってほしい。

 鈴の、想いを寄せている少女としての純粋な願いであった。中国政府の話ではない、鈴個人の願いでもあった。この試合に全てを賭ける。一夏を戻す意味でもあるが自分が変わったことを教えさせていると言う意味でもあった。

 鈴はそう決意を固めている中、一夏は鈴を冷ややかな目で見ていた。が、不意に口を開いた。

 

「……戯言だな」

「なっ!?」

 

 一夏の言葉に鈴は驚くが一夏は言葉を続ける。

 

「戯言だ……貴様の言ってることは全て戯言だ」

「な、何よ!? 私はアンタに戻って……」

「それが戯言だ……貴様は単に自分の我が儘を押し付けているだけだ……」

 

 一夏はそう言いながらランスを展開すると、ランスの穂先を鈴に向ける。

 

「貴様は単に俺を変えたいが為の我が儘だ、俺には痛くも痒くもない」

「な、なんでそんなことを言うのよ!?」

「言い訳は戦ってからにしろ……時間をムダにしたくないからだ」

「っ……い、一夏……!」

 

 鈴は泣きそうになった。彼は変わった。彼の言葉には棘があるようにも思えた。彼の本音とも思えた。が、最初に言い出したのは自分であり、彼ではない。

 鈴はそれに気づきつつも、彼女も武器を展開する。二つの大きな青龍刀であった。それは鈴のISの武器、双天牙月であった。鈴は二つの青龍刀を軽く振り回すと、それを一夏に向ける。

 

「一夏、絶対に負けない……絶対に……!」

 

 鈴はそう言いながら目に涙を溜める。彼の変わりようにもそうであるが彼を取り戻すために戦うしかない。が、彼を恐れている。セシリアの試合が原因でもあるが、鈴は一夏が相手ならば仕方ないとも思っていた。

 勝てばいい、勝たなければならないのだ。鈴はそう考えているが一夏は溜息を漏らすと、ランスを持ちながら身構える。臨戦態勢であった。

 

『で、では、クラス代表決定戦第一試合、織斑一夏選手対鳳鈴音選手、始め!』

 

 アリーナに設けられているスピーカーから声が聴こえた。が、会場席は沸き立つ。鈴を応援しながらも鈴がセシリアの二の舞にならないことを祈り、一組は一夏を応援しているがどこか怯えている。

 他の学年の生徒達は鈴を応援している。一夏を倒してほしい、と願っていた。が、周りの歓声を身体中に受け止め、嫌と言う程耳に響く中、二人は身構えている。

 相手の出方を伺っているようにも思えた。動くのは吉と出るか、凶と出るかで悩んでいた。それは鈴の考えであった。鈴は生唾を吞むが彼女は両手に持っている青龍刀で一夏に迫る。

 

「たあぁっ!!」

 

 鈴は青龍刀を振り上げながら一夏に迫ると、青龍刀を振り下ろす。が、一夏はランスで軽く受け止める。二つの青龍刀とランスが唾競り合う形になるが鈴は奥歯を噛み締める。

 

(っ……お、重い!)

 

 鈴は攻撃を受け止められたことに驚きはしなかった。が、彼のランスと鍔競り合いになっているとはいえ、彼のランスを重く感じていた。

 ただのランスだと侮っていた。

 しかし、それは間違いであった。ランスが重いと思いながらも鍔競り合いで済むだけだとも思っていた。鈴はそう考えている中、一夏は眉をひそめながらランスに力を入れる。

 鈴はそれに驚くが一夏はその隙を突くように軽く二つの青龍刀を弾いた。

 

「っ……!?」

 

 鈴は驚くが腹が無防備になった。刹那、一夏はそこを隙の如く突くように鈴の腹目掛けて回し蹴りした。

 

「がはっ……!」

 

 鈴は腹を蹴られ吐きそうになる。しかし、一夏は手を休めない意味で今度は鈴の腹をランスで突いた。鈴は吹っ飛ばされるが、一夏は瞬時に移動すると、再びランスで攻撃した……。

 そして、試合は一夏優勢での始まりとなった……。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。