インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第90話

「…………」

 

 翌朝、朝日が昇る午前六時。ここはIS学園近くにある学生寮の屋上。

 屋上には制服姿の一夏がいた。彼は朝日を無言で眺めていた。表情は険しいが何も行動を起こす気配はなかった。が、内心、怒りで支配されていた。

 昨日の鈴の宣戦布告とも思える言葉と鈴の行動。あれは自分に対して何かをしたいようにも思えたのだ。が、一夏から見ればムダな行動に等しい。

 ムダな行動は嫌いであり、時間のムダでもあるのだ。同時に、彼女とは戦うことになるのは想定外であるが事実でもあった。実は数日後にはクラス代表決定戦がある。

 行事とはいえ、自分はクラス代表であり、鈴はニ組のクラス代表。武器を交えることにもなるが仕方のないことであった。クラス代表決定戦は簪から聞いたから知ったのと同時に、鈴がなぜ、自分に関わってくるのかを疑問に思っていた。

 友人として接してしくるのなら兎も角、あれは異常と思えた。何か裏があるようにも思えたのだ。自分の過去を知りたいがための、単なる思い込みとしかも思えないが不信感を募らせていく。

 

「……何を考えている、あのおん……」

 

 一夏はそれ以上は言えず、舌打ちした。なぜかは判らない、鈴をあの女と呼びたかったのに、それができなかった。自分はあまちゃんなのか、そう思ってしまった。

 

「……ッ、仕方ない」

 

 同時に彼は、軽く目を閉じる。いや、話題を変える意味で思考を走らせ始めていた。他のプレイヤー達の動きを探っていた。ここにいる間は、ここは自分の陣地だ。

 ISもあり、青年が使用していたショットガンやグレネードランチャーもある。青年の死体はあの後、霧のように消えた。ゲームの掟とはいえ、彼は敗退した者に過ぎなかった。

 一夏は自分が専用機にしているIS,ジャック・ザ・リッパーもある。今の所、優勝候補であることに変わりはない。が、話がそれてしまっていた。

 一夏は本来のことを考えている。他のプレイヤー達はどう動くのかを警戒している。ブギーマンを引き連れている青年、青年が口にした夢見一彦、他の二人の殺人鬼の動きも気にしていた。

 奴等の動きは、まだない。活動範囲は愚か、殺しの手口が見つからないからだ。判る物とすれば、青年の変死体くらいだ。あれは夢見一彦か、或いは……他の者達がやったのは疑わしいからだ。

 同時にジェイソンが選んだであろう、フレディならば容易いだろう。夢見一彦が引き連れているのならば、いや、他の殺人鬼という線もある為、一人に搾ることはできない。

 一夏は様々な思考を走らせているが彼は更に思考を走らせる。とりあえず今は……一夏は何かを思ったのか、瞼を開けると、風のように消えた。

 

「…………」

 

 ここは学生寮の一夏と楯無の部屋。楯無は今、ハンガーに掛けている制服を着ている。無言であるがどこか寂しそうであった。理由は一夏の言葉でもあるが、彼が自分を頼らないことや周りに頼らないことであった。

 楯無から見ればつらいが彼は心を開かせないのと、笑わないからだ。同時に人をも殺している。彼はもう、後戻りできない場所までいる。自分が手を伸ばしても、届くことのない、場所にまでいる。

 楯無はそう思うと強く目を閉じると、肩を震わせる。彼はどうすれば心を開くのか、どうすれば笑ってくれるのかを考えていた。しかし、考えても考えても判らない、その手掛かりさえもないのだ。

 楯無は自分の無力さに憤りを隠せないでいる。その感情を吐き出さないために冷静を保ちつつもそれを抑えるのが精一杯であった。

 

「……早いな」

 

 刹那、楯無は後ろから声がしたことに反応する意味で目を見開くと、後ろを振り返る。そこには、壁に凭れ掛かりながら腕を組んでいる一夏がいた。

 彼は眉をひそめているが楯無を睨んでいるようにも思えた。楯無は一夏がいることに戸惑いつつも、彼に言う。

 

「お、織斑君!? いつからそこに!?」

「……ついさっきだ」

「っ!? ……ま、またなの?」

 

 楯無は一夏の行動に戸惑いながらも頭を抱える。何度目なのだろうか? 彼が風のように現れ、風のように消えるのは。その所為で自分は何度も驚きを隠せず、戸惑いさえもした。

 忍者、そう思いたくもなった。闇夜に暗躍し、影の存在でもある忍者とも思いたくなった。同時に彼は任務を完璧に遂行しており、忍者とも言える。

 気配を悟られることもない、忍者その者であるが彼女は一夏の行動に戸惑いつつも、視線を彼へと向けた。彼は眉をひそめ続けていた。が、楯無は何かを思ったのか、哀しそうに目を逸らす。

 さっきのことでまだ悩んでいたからだ。彼を見るだけでも、いつもの彼としか思えないからだ。そんな楯無に一夏は更に眉をひそめる。

 

「……どうした?」

「……なんでも、ないわ」

 

 楯無はそう答えると、制服を整え終えた。そして、あることを訊ねる。

 

「それよりも織斑君も早いのね……?」

「……まあな」

 

 一夏はそう言うと、壁から離れ、ベッドに腰掛ける。そんな一夏の行動に楯無は首を傾げる。

 

「どうしたの?」

「……別に」

 

 一夏はそう答えるが振り返る気配はない。が、楯無から見れば不信感しかない。彼は座る所は見たことはあるが、背中を向けているのがそうであった。

 彼は背中を向けるのはおかしかった。相手に背を見せることは死を意味する。一夏は背を向けるのを嫌うが、後ろから襲われても、迫ってきた場合でも一瞬で振り返り、反撃するのだ。

 それなのに彼は背を向けているのだ。自分に対して……。楯無は一夏の行動に不信感を抱きつつも訊ねた。

 

「お、織斑君,どういうつもりなの?」

「……何がだ?」

「何がって……私に背を向けているじゃない?」

「……それがなんだ?」

 

 一夏は肩越しで彼女を見る。眉をひそめ続けていたが疑問に抱いているからであった。自分は単に背を向けているが座っているだけでもある。

 楯無は自分を疑っているが自分は座っているだけだ。楯無から見れば疑いの眼差しを向けられているが彼は楯無に対して睨んでいるだけでもあった。

 一夏は楯無を肩越しで見据えているが楯無は肩を震わす。彼の鋭い眼差しが彼女を金縛りに遭わせるようにしていた。が、楯無は固唾を呑むが更に答えた。

 

「だ、だって……っ」

 

 楯無はそれ以上は言えなくなった。彼の視線に耐えられなかったからだ。が、楯無は冷や汗を流している。同時に腰を落としそうになった。

 刹那、一夏は風のように消える。そして、彼は風のように現れた、倒れそうになっている楯無を支えながら……。

 

「えっ……」

 

 楯無は彼の行動に戸惑いつつも彼を見る。彼は無言で彼を見ているが楯無は驚きを隠せないでいた。彼の行動が楯無から見れば信じられないからだ。

 しかし、彼は楯無を普通に支えただけであった。従者としてでもあった。が、楯無は一夏を見続けているが微かに頬を紅くしてしまう。彼の行動が紳士とも思ってしまったからだ。

 楯無は彼から目を逸らすが、一夏は眉をひそめ続けながら楯無を見ている。そして二人の間には、色んな意味での空気が流れはじめていた……。

 

 

 

 

「フンフンフ〜〜」

 

 その頃、ここはアメリカにある、

とある基地の地下深くにある部屋。その部屋は薄暗いが一機のISが置かれていた。とても寂しそうにも思えるが誰の目にも触れられないからであった。

 理由は強大すぎるのと、それを扱える者がいないからであった。そのせいでそのISは見捨てられる意味でほったらかしにされている。が、そんな部屋には一人の青年がいた。薄緑色のシャツに黒いジーパンを穿いている青年であった。彼は鼻歌をしながらISを見ている。そして、その青年はプレイヤーの一人であり、フレディを相方にしている夢見一彦であった。

 一彦はISに用があり、ここに現れたのだ。無論、不法侵入と言う形で……。

 

「相変わらず、薄気味悪い部屋にほったらかしだね?」

 

 一彦はそう言いながらISを見上げる。黒く禍々しいISであった。が、埃も被っており、動くかどうかも判らない。いや、動くのは動く。

 が、それを扱える者がいればの話であった。一彦はそのISを見ているが言葉を続ける。

 

「生憎、僕は君を動かす程の力量はないよ? それに僕は色々と忙しいから」

 

 一彦はそう言うがISに言っているようにも思えた。周りが見れば変だと思われるが一彦はそれに気づきながらも恐t場を続ける。

 

「でも、君を扱える者は近い内に現れるよ? それも、女性ではなく、男の人がね?」

 

 一彦はそう言いながら両手を後ろの腰に当てながら身を翻す。が、彼は肩越しでISを見るが軽く笑っていた。

 

「僕はもう行くけど、また来るよ? ゾディアック」

 

 一彦はそう言った後、風のように消えた。が、そのISの名はゾディアックであった。それは全米を震撼させた殺人鬼、ゾディアックの名からとったISであった。

 そして、一彦が消えた後、IS、ゾディアックが置かれている以外、再び暗い部屋となった。それは一彦が来る以外、いつもの部屋としか、変わりなかった……。


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