インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第84話

「それにしても……織斑先生、何を考えているの、かな?」

 

 数時間後、ここは食堂。今の時間帯は正午を少し過ぎた頃であるが女子生徒達で溢れていた。が、和やかな会話はない。周りは食事しながらも、彼女等の視線は、ある場所へと向けられていた。

 そこは窓際であるが一つのテーブルがあり、二人の男女が向かい合うように座っていた。簪と一夏である二人は談話をしているが一夏が軽く相槌を打っているだけであった。しかし、彼女等が見ているのは一夏であった。

 理由は昨日の試合でもあるが、昨日の今日で一夏は有名人になった。名誉なことではない、恐怖の対象としてであった。あの戦い方は怖く、戦慄さえも走らせる。

 ジャック・ザ・リッパーが原因でもあるが彼女達は怖がっていることに変わりはない。同時に、ある噂も飛び交っていた。彼女達はそれをひそひそ話でする。

 

「ねえ聞いた? あの織斑って男子生徒、クラス代表になったらしいわよ?」

「うっそマジで!? 有り得ないじゃん!?」

「それが織斑先生の判断でもあるみたい」

「どういうこと? 先生方は反対しなかったの?」

「なんか、先生達は反対できなかったらしいわよ?」

「なんでなの!?」

「なんでも、あれはクラス代表を賭けた試合、勝った方がクラス代表に就く。それが試合のルールらしいのよ。現に織斑って生徒は勝ったから、そのルールに従うしかないって」

「そんな……それじゃあ、あの化物と戦うの? 私達の所のクラス代表……きついわよ!?」

 

 生徒達は微かに噂する。それは一夏がクラス代表になったことであった。数時間前の話とはいえ、学園中に広まっていた。女は噂好きというだけであってそこは凄いとしか言いようがなかった。

 差別ではないが仕方ないことだろう。同時に微かに困惑している。自分達のいるクラスのクラス代表が一夏と戦う。それだけでも困るのと、セシリアの二の舞になる危険もあったからだ。

 戦って負けることは仕方ないとして、心に傷を追われたら、流石にそれだけは見て見ぬ振りはできない。同じクラスの生徒としてでもあるが一夏がクラス代表になっただけでも、危険は避けられないからだ。

 それだけではない、教師達も一夏のクラス代表になることを危険視していた。自分の受け持つクラスのクラス代表を思ってでもあるがルールには逆らえないからだ。

 周りはそれで戦慄と恐怖する中、一夏と簪は話を聞いていた。簪は困惑しているが一夏は無言で食事を進めていた。彼が食しているのはミートソースのパスタであり、簪は掻き揚げうどんである。

 本音はある理由でいないが、今は二人だけであることにも変わりはない。

 

「お、織斑さん……み、皆、一夏さんの噂をしている、よ? ……」

 

 簪は周りを見渡しながら一夏に訊ねる。彼女は心配しているが一夏は気にもしていない。関わる気は毛頭ないようであった。いや、ムダな行動を嫌うからだからこそだろう。

 しかし、一夏はクラス代表になったことにも変わりはない。彼はクラス代表と聞いて眉をひそめていた。周りもざわついたがセシリアは肩を震わせていた。

 ルールに則っただけであるが周りは反対どころか、それができなかった。理由は……一夏がクラス代表になれば、微かに安心すると思っていたからだ。

 クラス代表は色んな行事で呼び出されることが多く、授業に出られないことが多い。それが理由でもあるが彼女達は一夏を推すことにしたのだ。身の安全のために……。

 

「ね、ねえ、気にならないの?」

 

 簪は食事の手を止めない一夏に再び訊ねる。彼は、このような状況でも冷静になっている。簪から見たら凄いとしか言いようがない。逆に心配さえもする。

 一夏はもう、学園中では畏怖の対象とされている。彼の唯一の味方は更識姉妹、布仏姉妹、十蔵、千冬と真耶くらいだろう。しかし、彼はそれを気にせずに食事を摂り続けている。

 

「……食べたらどうだ?」

「えっ?」

 

 一夏が口を開く。指摘していた。簪は一夏の言葉に目を見開くが一夏は言葉を続ける。

 

「……食べなければ、次の、残りの二つの授業についていけないぞ……」

「あっ……う、うん」

 

 簪は一夏の言葉に困惑しながらも頷き、うどんを啜る。が、彼の言葉に驚きを隠せなかった。彼は自分を心配していることを言ったのだ。が、彼は単に周りを気にしている簪に対して、呆れているのかもしれない。

 彼は周りの視線とひそひそ話に耐える自信はあった。が、それ以上に簪に見られながら食事をするのはつらいわけではないが、気に障るからだ。

 守るべき者達の姉妹の妹とはいえ、それだけはやめてほしかった。簪はうどんを啜るだけでなく、掻き揚げを小さく咀嚼する。一夏はパスタをフォークで丸くしながらそれを口に入れ、咀嚼する。

 しかし、どちらも会話はない。淡々と食事をしていた。周りは食事をしているがひそひそ話を続けている。満足に食事ができないでいるようにも思えるが、彼女達は身の安全を最優先にしているのだ。

 一夏を恐れている事に変わりはないが、一夏と簪は食事を進める手を止めないことにも変わりはない。

 

「……」

 

 ふと、簪は不意に一夏を見る。彼はパスタを食し続けている。が、簪は何かに気づき、慌てて頬を紅くしながら食事を再開する。簪は少しだけ彼を見続けていた。いや、見つめてしまっていた。

 彼女はそれに気づくと、自分は何をしているのだろうと思ってしまったのだ。同時に、彼を見て心が揺らいでいる。自分は彼に何かの感情を抱いている。

 それは自分でも判るか判らないかは判断できない。自分は彼に恋しているのか? それとも憧れているのか、と? そのどちらかが判るまで、簪は判らないでいた。

 誰かに相談しょう、そう思った。二人は食事を続ける。周りは相変わらずであった。このまま自分達は食事を終えるのか、何も話題にせず、そのままであるのか。

 簪はそう思っていた。そんな中、一人の女子生徒が二人に近づく。

 

「ちょっと、いいかしら?」

 

 その女子生徒は二人に訊ねる。二人は食事の手を止め、声がした方を見やる。そこにいたのは、鈴であった。彼女は少し困惑しているが哀しい表情を浮かべている。

 

「……お前か」

「い、一夏……そ、その、久しぶりね」

 

 鈴はぎこちない笑みで一夏に挨拶する。が、彼と接触するのは二度目であった。あれから話しかけていないからだ。が、今は一夏に用があった。色々と訊きたい事があるようにも思えた。が、一夏は鈴の様子に気づき、眉をひそめる。

 

「な、何よ? 話しかけちゃダメなの?」

 

 鈴は一夏を見て軽くジト目を向ける。しかし、一夏は更に眉をひそめる。そんな一夏に簪は一夏と鈴を交互に見る。顔見知りである事に気づいた。

 あの時で確信しているが改めて見ると、二人はなんらかの関係であることには気づいた。簪はそう思うと、微かに胸がチクリとした。嫉妬さえも感じたが簪はつらそうに目を逸らす。

 そんな簪に鈴は気づく。

 

「ところで貴女は? 確か一夏の部屋に居た……」

 

 鈴はあの時のことを思い出し、指摘した。これには簪は微かに驚くが、自己紹介する。

 

「あっ……わ、私は更識簪って言います……」

「そう……私は鳳鈴音、中国から来たわ、宜しくね」

「こ……こちらこそ、宜しく」

 

 簪を見た鈴は微笑みながら頷く。

 

「……なんの、用だ?」

 

 そんな鈴に一夏は訊ねた。これには鈴は目を見開くが、鈴は答えた。

 

「べ,別に……」

「だったら何しにきた? 答えろ」

「……あ、あのさ一夏、クラス代表になったんだって? おめでとう」

「……ああ」

「そ、そんなに素っ気無くてもいでしょう?」

「……別に」

 

 一夏は軽く相槌を打つだけであった。ムダな会話を好まないようにも思えた。ゲームの関係する物以外は極力、話を避けていた。そんな一夏の様子に鈴は軽く下唇を噛んだ。

 一夏は変わった。そう感じた。あの試合では、相手のセシリアを難なく倒したのもそうであるが警戒さえもした。彼は只者ではない、同時に、あることで、ある行事で戦うことになる。

 鈴は警戒していたが今は、幼馴染みとして会話をしたかった。なのに彼の反応は薄い。他人事のように接しているのだ。鈴は一夏を見て微かに顔を引き攣らす。

 刹那、一夏は何かに反応し、ポケットの方を見る。そして、手を入れると、ある物を取り出した。振動しているスマートフォンであった。一夏はスマートフォンを睨む。画面には,メールなのか手紙らしき物が映っていた。が、それは赤い手紙であった。

 一夏はその手紙を見て微かに舌打ちした。このメールは恐らく……。

 

「どうしたの一夏?」

「織斑さん?

 

 が、一夏の様子に鈴と簪は気になっているのか、訊ねる。一夏は二人に気づくがスマートフォンをポケットに入れると、立ち上がる。

 二人は驚くが一夏は簪に言った。

 

「すまない、次の授業は訳あって出られない、山田先生にそう言ってくれ」

「えっ……?」

 

 簪は惚けるが、一夏は皿が上にあるトレーを持って、カウンター近くの返却口へと歩いていった。

 

「っ、い、一夏……!?」

 

 しかし、鈴に対しては素通りしたのだ。一夏は気にもしないようにも思えたが鈴は驚きを隠せない。鈴は彼を呼び止めようとした。が、彼は鈴を気にもせずに返却口へと向かった……。

 周りの視線が痛いが一夏はそれも気にもしなかった……。なぜなら、ある人物からの連絡があったために、そして、周りに関わるのは、ムダな行動であるが故に,だった……。

 


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