インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第73話

「……悪くない」

 

 数分後、一夏はアリーナにいた。彼はジャック・ザ・リッパーを纏っていた。しかし、形は違う。彼が纏っているISは色や模様は同じであった。

 が、彼の周りにはスラスターが浮いている。コートのようにも思えたが黒を基準としている。現代に蘇ったジャック・ザ・リッパーをも思わさせている。

 それはついさっき、インストールを終えたばかりであり、IS自体が一夏と合わせるように変わったのだ。今はピットを飛び出して、ここにいる。

 しかし、彼は無表情で感想を呟いた。自身が纏っているジャック・ザ・リッパーは、この前乗った乗ったラファールよりも扱い易い訳ではないがどこか違うと感じていた。

 専用機であることがそうかもしれないが自分の専用機でもある。一夏はそれに気づきながらも軽く運動していた。動かして数分であるが慣れるためでもあった。

 彼はISを一通り動かした後、武器を展開する。刹那、彼の手元に渦上の現象が現れる。同時に形と変わっていく。そして、一夏の手にはナイフが握られていた。

 鋭くも妖しい輝きを放っている。切れ味も良さそうであるがジャック・ザ・リッパーの愛用している武器としか思えなかった。名前だけでなく当時の物を再現しているとしか思えなかった。

 一夏はナイフを眺める。これは刀よりは短いが接近戦には有利な物になると思っていた。が、一夏はナイフを眺めているのを、放送室から見ている者達や会場席から見ている者達がいた。

 放送席には千冬、真耶、十蔵の教師陣と更識姉妹、布仏姉妹、箒の女子生徒達である。十蔵と彼女等はそれぞれの場所で一夏のISを見ている。

 見守っている者達はいるが千冬と箒は一夏を心配そうに見ていた。あんな縁起悪い名前を使ったISをいけ好かなく思っていた。

 しかし、彼が選んだ以上、文句は言えないのだ。二人はそう思っている中、一夏はナイフを眺め続けていた。

 

「…………やはり、悪くない」

 

 一夏は微かに呟いた。気に入ったのだ、このISを。イギリス政府からのプレゼントを気にいったのだ。が、思惑をも感じているが一夏はナイフを眺めるのを止めると不意に振る。

 縦に振り、横に振り、突いたりした。ナイフの攻撃方法を覚えようとしていた。前から覚えているが一応、初心に帰る意味でも覚えようとしていた。

 

 

「織斑君……」

 

 そんな彼を、会場席から見ていた楯無は呟いた。表情は険しいがどこか怯えている。それもその筈、彼は倉持技研と政府を破滅に追いやったのだ。

 彼を怒らせると、彼を怒らせた者達は破滅すると思っていたのだ。しかし、同時に諸刃の剣だとも認識していた。彼を暗部に入れたのは間違いでもあり、間違いでもなかった。

 あれほどの冷酷かつ、躊躇なく殺しができるのと、任務を完璧にこなす人材はなかなかいない。暗部から見れば喉から手が出る程欲しいのと、他の裏組織も欲しがるだろう。

 なのに身体の震えが止まらなかった。自分が怖がっていることを意味しているが楯無はそれを周りには見せなかった。生徒会長が恐怖していると知られれば、笑い者だ。

 源次や美和からは失望され、簪からも軽蔑されると思っているからだ。従者達にも見せていないが自分の姿を見てしまった一夏だけは違う。

 彼女は彼の怖さを最初に目撃した人物でもあるからだ。彼女は一夏のルームメイトでもあるが、監視役でもあったのだ。彼が何かをしないかを警戒しているのだ。

 いや、もう既に勝手な行動で多くの人を破滅に追い込んだ。時既に遅しであるが楯無はそう考えながらも彼がISを動かしているのを警戒しながらも見守っていた。

 

「会長」

 

 すると、楯無に声を掛けてきた者がいた。虚である。が、険しい表情を浮かべていた。

 楯無は虚を見て眉をひそめる。

 

「どうしたの虚ちゃん?」

「大丈夫ですか?」

「えっ? 何が?」

 

 楯無は少し驚くが虚は先を続ける。

 

「いえ、何かいつもの会長らしくないからです」

「私らしくない?」

 

 楯無の言葉に虚は頷く。

 

「はい。いつもの会長なら少し喜んでいるからです」

「私が?」

「はい。会長は誰にも明るく接しています。なのに昨日今日の会長は変です

 

 虚は楯無の様子を不審に思っていた。なぜなら彼女は一夏が来る前までや、一夏が側近の間でも楯無の従者であると同時に親友でもあるのだ。

 何年も一緒にいたら自然と相手のことが分かる。女性の感でもあるが虚は心配しているのであった。

 従者としてでもあるが親友としてでもある。

 

「会長、何か隠していませんか?」

「えっ……い、いえ、なんでもないわよ?」

 

 楯無は笑う。作り笑顔としか思えなかった。虚は不信感を抱くが更に訊ねる。

 

「……嘘としか思えません」

「ほ、本当に何もないのよ? 虚ちゃん、私はいつもの私よ?」

「……そうですか?」

 

 虚は眉をひそめる。

 

「ほ、本当に何もないわ。そ、それよりも織斑君の方を見ましょう?」

 

 楯無は話題を変える意味でもアリーナの方を見る。一夏はナイフを振り回し続けていた。しかし、そんな楯無に虚は。

 

「(お嬢様……何を隠しておられるのです?)」

 

 虚は未だ楯無に対して不信感を抱き続けていた。従者としての直感でもあった。が、それ以上は追求できなかった。自分は仕えている身、僭越なことはできないのだ。

 心配しているのも事実だ。しかし、それ以上は追求できない。できることなら彼女の力になりたい。虚はそう思った。虚は不意にアリーナの方を見る。

 一夏はナイフを振り続けている。以上としか思えないが彼が何を考えているのかは分からない。虚はそう思うのと同時に、あることを思い出す。

 彼なら何かを知っているのではないか、と。彼は楯無のルームメイトだ。彼に関係することではないかとも疑っていた。後で聞こう。そう思った。

 今は彼がISが上手くなるまで、アリーナの貸し出し時間が終了するまで、見守ろう、と。彼は自分と同じ従者だ。楯無の側近でもある。自分は事務関係でのサポートでもあるが、彼は戦闘面でのサポートをしている。

 どちらかと言えば、楯無と共に行動するのは彼の方が多いのだからだであった。しかし、虚がそんなことを考えているのをよそに、一夏はナイフを振り回し続けていた。

 

 

 

 

 

 

 その頃、ここは東京にある、とある某所。今の時間帯は夕日が沈みつつあった頃でもある。しかし、その場所は高層ビルが並び立つ場所でもあった。

 道路には街行く人々がいる。仕事帰りか買い物が主にそうであろう。彼等彼女等は行くべき場所を把握しているようにも歩いている、同時に走っている何台もの車も目的は同じであった。目的の場所へ行くために走っているのであった。

 高層ビルにも灯りがともなっているが残業する者達なのだろう。

 

「う〜〜ん。いつ見てもここが日本の首都、東京だな?」

 

 そんな中、高層ビルの屋上には二人の男性がいた。一人は十代後半金髪に青い瞳の白人青年であった。来ている白いシャツと青い上着、青いズボンを穿いている。

 青年は高層ビルの屋上から下をを見下ろしていた。しかし、隣いにいる者は異様であった。いや、その者は男性であるが異形な存在である。

 それもその筈、彼は青年が引き連れている半霊の殺人鬼、レザーフェイスであった。そして、レザーフェイスと一緒にいる青年は一夏や一也、一彦と同じプレイヤーであった。

 レザーフェイスは手にはチェンソーを持っている。獲物を探しているようにも感じるが殺すべき相手を捜しているようにも思えた。彼も青年同様、屋上から下を見下ろしている。

 レザーフェイスは何も言わない。いや、元から言うのはあるかないかであるが笑うのと、叫ぶことや何かの仕草もできる。それは青年が良く知っているが青年は口を開いた。

 

「なあ、レザー」

 

 青年の言葉にレザーフェイスは青年を見る。青年は少し不貞腐れているが先を続ける。

 

「奴は、織斑一夏は俺達と同じかよ?」

 

 青年の言葉にレザーは首を傾げる。が、青年は下を見下ろしながら疑っていた。彼は、織斑一夏は自分と同じプレイヤーなのか、と。勿論、彼等が日本に来たのは一夏が目的であった。

 彼が一夏がプレイヤーなのかを疑うのは感でもあったからだ。いや、既に彼の感は当たっている。理由は一夏がIS学園に現れたことであるのと、日本で起きた青年の変死事件がそうでもあった。

 が、彼の判断は間違っていない。日本に来たのもプレイヤー達が日本に集中しているのではないかと疑っているからだ。一夏の行動も他のプレイヤー達をおびき出すためではないか、とも思っているのだ。

 

「……まあ、お前に言っても無駄か?」

 

 青年はそう言いながら笑う。レザーフェイスは首を傾げ続けるが、青年は笑いながら言った。

 

「まあ俺達の目的は織斑一夏をおびき出すことだ……待ってろよ織斑一夏!」

 

 青年は笑いながら言った。それは自信があるようにも思えるが青年が思っているだけであった。しかし、かれは笑い続けていた。

 そして、そんな彼を見ていたレザーフェイスは笑い始める、真似しているようにも思えたが笑わずにはいられなかったからである。

 そして、一夏の二人目の相手は彼であることに変わりはない。一夏は知らないが彼との対決は、セシリアとのクラス代表を賭けたクラス代表決定戦と同じ日であることも、知らない……。




 次回の金曜日の投稿はお休み致します。次回は土曜日での投稿となります。

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