インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第65話

「…………」

 

 翌日、朝の八時。今日は土曜日であるために学園は休日であった。大半の生徒は出掛けたり、帰宅したり、部活に顔を出しにいったりしている。

 そんな中、一夏は学生寮の自分の部屋に居た。彼はイスに腰掛けながらある日記に目を通していた。それは、ジェイソンが倉持技研絡で持って帰ってきた日記でもあった。

 彼は日記を読んでいるが胸糞悪く感じたのか、眉をひそめる。日記の内容には自分のISや更識姉妹のことだろう姉妹のことが書かれている。

 一夏は従者として、怒りが沸いてくるのと同時に簪には見せられないと感じた。これが事実、いや、事実であることが裏付ける証拠でもある。

 最悪、倉持技研はバッシングを喰うだろうし、政府も何も言えないだろう。が、揉み消すことも可能であり、証拠にもならない、とは言えないが打撃を与えるには充分過ぎる物だった。

 一夏は日記に目を通す中、部屋を出入りできる扉が開く。一夏は扉の方を見るが誰かが足早で近づいてきた。楯無であった。しかし、彼女は怒りに満ちているのか険しい表情をしている。

 一夏は彼女を見て何も言わなかったが怒っている理由だけは知った。楯無は一夏の前にまで来ると、彼を見下ろしながら……。

 刹那。室内に乾いた音が木霊する。楯無が一夏の頬を叩いたのだ。一夏は横を向いているが叩かれた頬は少し紅くなっている。

 が、彼は何も言わずに楯無の方を見る。楯無は表情を崩さないでいる。怒っている理由は解る。いや、解っている。一夏はそのことを指摘しなかったが楯無は口を震わせていた。

 

「どうして……どうしてなの!?」

 

 楯無は一夏の胸ぐらを掴む。彼は無言で楯無を見据えているが楯無は言葉を続けた。

 

「どうして、どうしてあんなことをしたの!?」

「……何がだ?」

 

 一夏は惚ける振りをした。が、楯無は更に怒ると、彼から離れると、テレビを点けた。そして、指差す。

 

「これを観なさいよ!」

 

 楯無が指差したテレビはニュースをしていた。が、ある事件を報道している。

 

『昨夜未明頃、倉持技研の研究所にて六人の惨殺死体が早番の研究員により発見されました。被害者は全員、鋭利な刃物か首を絞められており、警察は無差別殺人か、強盗殺人の線で捜査を調べております……』

 

 それは、昨夜起きた無差別殺人事件。それは今朝起きたばかりであり、警察も到着してから一時間も経ち、二時間も経ってない。楯無のが見えるが周りには警察や報道陣がいる。

 警察は本来の仕事を全うし、報道陣は僅かなネタを手に入れようと奮起していた。しかし、楯無はジェイソンの仕業であり、彼が起こした物だと気づいた。同時に彼がジェイソンに命令したのではないのかと推測した。

 楯無から見れば当主としての怒りが沸いてくる。従者の一夏に対しての怒りである。が、楯無が怒っているにも関わらず、一夏は目を逸らす。

 

「織斑君……っ!!」

 

 楯無は再び一夏に歩み寄り、一夏の胸ぐらを掴む。顔を一夏の方へと近づける。鼻と鼻が触れる距離であった。一夏と目を合わせる意味でもあり、逃がさない意味でもあった。

 一夏は楯無の行動に気づくが目を逸らす。楯無は一夏の行動に気づくが沈黙が流れる。刹那、テレビの方から泣き声がした。

 楯無はテレビから流れる泣き声に気づき、テレビの方を観る。そこには……。

 

『貴方! 貴方っ!』

『パパっ! パパっ!』

 

 テレビには銀のシートに覆われながら担架で運ばれようとしている遺体。その近くには警察官に止められながら泣きじゃくる女性と十歳くらいの女の子。

 二人は、死んだ研究員の、寝ていた所をジェイソンにより鉈で刺された研究員の妻子であった。彼女等は夫であり、父でもある男性の死を警察から伝えられ、飛んできたのだ。

 二人は男性の死で泣いていた。そんな二人を警官はつらそうに止めるが報道陣の、マスコミのカメラマンは撮影していた。同情でもあるが最高の瞬間をとっているようにも思えた。

 しかし、視聴者から見れば同情か嘆き悲しむだろう。楯無は視聴者の一人に過ぎないがつらそうであった。彼女等は家族を失った。それも死別と言う最悪の形で。

 

「……っ!」

 

 楯無はテレビを見てつらそうであった。が、一夏を見るや否や歯を食い縛る。一方、一夏はテレビを見てなんとも思っていない。

 無表情であった。いや、同情してもいない。いつものことだと感じている。楯無は一夏を見て再び頬を叩こうとした。

 再び乾いた音が室内に木霊……しなかった。楯無が頬を叩こうとした瞬間、一夏が楯無の手首を掴んだのだ。楯無は驚くが一夏は無言であった。

 二度目の攻撃には気づいてた。さっきしなかったのはワザとであった。油断させるつもりでもあった。しかし、楯無は驚く中、一夏は手に持っていた日記を差し出す。

 楯無は日記を見て「何よこれ?」と疑問を抱く。しかし、一夏は無言で日記を差し出しまま何も言わない。読めと言う合図でもあった。

 楯無は首を傾げるが一夏の行動を直ぐに知る。彼女は日記を手に取ると、ゆっくりと開いた。刹那、楯無は目を見開いた。ページの内容に驚きと戦慄した。

 

『三月二十四日。ISがもうそろそろ完成する。だが、金に目が眩んだ連中は織斑一夏のISを充分と言える程よくできるように造っていた。だが、俺は日本代表候補生の娘が心配だった。それだけが気になる。なぜなら俺は、娘を持つ父親でもあるのと、ISを扱うとなると、金に目が眩む連中のせいで悲惨な人生を送らせたくない……』

 

『三月二十五日。ISが完成した。俺達は互いの気苦労を言い合うが突然、上がとんでもないことを言いはじめたのだ。『更に完成させろ』と。理由は男性操縦者である織斑一夏に気遣う意味でも更にいい出来にするように言ってきたのだ。俺達の気苦労も知らないで……』

 

『三月二十六日。俺達がISを再び治す意味で造る最中。とんでもないことを知ってしまった。それは偶然だった、上司達の話を偶然聞いてしまった。一ヶ月前、日本代表候補生のISには欠陥と思われる箇所があったのだ。それも、命に関わるかもしれないのだった。彼等はそれを急遽直していたが、もし、もしもそのままだったら……ゾッとする。手抜きではないのか、と?』

 

「な、何よ……こ、れ……!?」

 

 楯無は日記の内容を見て身体を震わせる。その日記は倉持技研の研究員が残した……いや、遺した日記とも言えるだろう。が、楯無は日記の内容を目に通しているが簪の件も入っていた。

 しかし、倉持技研の連中が金や名誉で目に眩み、そのようなことをしているのには気づかなかった。それだけではない、自分が文句を言いにきたのにも関わらず、軽くあしらわれたことも書かれていた。

 同時に、最後の日記とも言える内容は、更に戦慄させる。

 

『四月七日。俺は嬉しさが込み上げてくる。なぜなら明日、娘の誕生日だからだ。明日は土曜日のために会社はない。休暇を貰ったのだ。俺はそう思うと気分は軽い。しかし、今日は寝泊まりするために仕方ない。が、明日、娘の誕生日を祝うとなるならば、悪くない……』

 

 楯無は最後の日記の内容を見て戦慄していた。なぜなら、その日記の持ち主は誰なのかに気づいた。恐らく……楯無は日記を持つ手を震わせながらテレビの方を観た。

 画面は切り替わっているが二人のアナウンサーは困惑しながらも何かを話している。無差別殺人という、朝から悍ましい事件に言葉を失いつつも、事件の概要をを纏めている。

 しかし、楯無はさっき観た女性と娘が泣いていたことを思い出す。それは銀のシートに覆い隠された男性のことであった。もしもあれが、もしも……楯無は認めたくなかったが、微かに震えながら、呟いた。

 

「ま、まさか……この日記の持ち主って……あの男性、の、なの?」

 

 

 

 

『この馬鹿が!』

 

 その頃、真耶の部屋では一人の女子生徒がどこかへと電話していた。いや、向こうからかけてきたのだが女子生徒は向こう側からの者に叱られていた。

 叱られているのは私服姿のセシリアであった。彼女は申し訳なさそうに肩を震わしていた。そして、彼女を叱っているのはイギリス政府の役人であった。怒っている理由は昨日セシリアがした言動。

 それは一夏や簪を侮辱したことであった。それは日本人を侮辱し、イギリスを悪いイメージにしてしまうことでもあった。政府はそのことをセシリアがしたことに激怒し、叱っている。

 セシリアは「申し訳ありません……」とつらそうであった。しかし、彼女はジェイソンの件で弱気になっていた。今は真耶の所で寝泊まりしているがまた出てくる恐怖に駆られているため、そうなっていた。

 セシリアは平謝りする中、政府からの厳しい言葉は続けられていた……。真耶はおらず、それだけでも救いであったが、真耶がいれば気遣っていただろう。

 同時にイギリス政府は、ある思惑があることに、セシリアは気づいていなかった……。


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