インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

62 / 198
第62話

「すまない、織斑はいるか?」

 

 楯無が一夏に対して扇子を突きつけ、ジェイソンが槍を持ちながら警戒している中、扉の方から声が聞こえた。その声に更識姉妹と本音は扉の方を見やる。

 楯無は肩越しで見ているが一夏から視線をそらしてしまう。刹那、一夏はその隙に視線をジェイソンの方へと向けた。刹那、彼は小さく呟いていた。

 一夏の行動にジェイソンは微動だにしないが彼が何て言ったのかを知るや否や風のように消えた。

 

「なっ!?」

「「っ!?」」

 

 楯無達は驚くがジェイソンはその場からいなくなったことにだ。しかし、扉の向こうにいる者の声は続く。

 

「いないのか? 更識妹の所にいるのだと言うことには気づいている」

 

 扉の方から声が聞こえ続ける。同時にノックされている。

 

「あっ……本音、開けてあげなさい」

 

 楯無は本音に命令した。これには本音も驚くが楯無は深く頷く。当主としての命令でもあるため、本音は駆け足で扉の方へと向かうと、扉を開けた。

 そこに、扉の向こうに居たのは、千冬であった。千冬は困惑している。一夏に用があるのだが一夏は千冬から目を逸らしている。彼女は手には鞄を持っていた。

 一夏の物であるが彼は通路に置き忘れていたのだ。しかし、彼女が来たのは一夏に洋画あるのもそうであるが千冬は「失礼する」と軽く一言いうと、部屋の中へと入る。

 楯無は扇子を下ろすが、千冬はこの異様な空気に気づいた。

 

「どうしたのだ? なんか暗いぞ?」

 

 千冬は彼らに訊ねる。誰も言わなかった。さっきまでジェイソンがいることを黙っていた。が、一夏は、ある事を言う。

 

「それよりも何しにきた?」

 

 一夏は千冬に訊ねる。千冬は一夏の言葉に気づき、微かに身体を震わせる。

 

「あっ、いや……それよりも織斑、話がある。寮長室へと来い。異論は認めん……鞄はここに置いておく」

 

 千冬はそう言いながら鞄を壁の方へと起き、その後、踵を返す。教師の命令は絶対、そう訴えていた。その言葉には微かに哀しみが帯びているようにも感じられたが一夏は眉間に皺を寄せる。

 彼は不意に近くにいる三人を見る。楯無は一夏を見て何も言わない。簪と本音は少し困惑している。が、一夏は千冬に言いたいことがある為に千冬の言うことを聞いた。

 本当は話等したくないのだが、彼は簪のISの件を問い質すためでもあった。彼は無言で歩き出す。楯無の横を通り過ぎた。

 

「部屋で待ってるわ。鞄は部屋へと持っていってあげるわ」

 

 刹那、楯無はそう言った。その言葉を一夏は聞き逃さなかったが彼は返事はせず、立ち止まらず部屋を出て行った。

 

 

 

「さて織斑……いや、一夏……大丈夫か?」

 

 

 ここは寮長室の中。無論、中は生徒達が生活する部屋とは違った。微かに広い。寮長であるが故と、教師であるが故でもあるだろう。

 部屋には千冬は一夏としかいない。どちらも立ったままであるが一夏は扉の近くにいた。が、千冬は一夏を見てかすかに困惑していた。

 恐らく、セシリアの話を聞いていたからだろう。彼女から大男の存在を聞いたに違いない。が、千冬は一夏を見てかすかに安堵さえもしている。

 大男は誰かなのを知った。いや、そう思えざるを得なかったのだろう。大男、マスクを付けている大男のことだろう。千冬はセシリアから聞いたからでもあるが彼女から特徴を細かく訊ねたに違いない。

 が、そこまでは判らないため、一夏はそこまで考えなかった。

 

「大男の件もあるが……白式は使わないのか?」

 

 千冬が一夏との話をしたいのはそれであった。一夏には使ってほしい……そう願っていた。が、一夏は、ISを聞いて、あることを思い出し、指摘した。

 

「貴様、何をした?」

 

 一夏は訊ねた。簪のISの件であった。が、千冬は何も解らないのか瞠目している。恐らく、知らないのだろう。

 しかし、一夏は暗部の従者となっていた。簪を傷付け、泣かした千冬や手の平返しをした者達に対して、怒りでもあったのだ。

 

「な、なんのことだ?」

 

 一方、千冬は一夏の言葉を理解できない。が、一夏は厳しい口調で言葉を続ける。

 

「とぼけるな……! 貴様、自分の弟のためと言って簪さ……簪のISを見送る事態にさせたんだぞ?」

 

 一夏は淡々と言葉を述べながら腕を組む。簪のISの件であった。簪のISはもうすぐ完成する筈だった。しかし、そのISを未完に終わらせたのは千冬の鶴の一声であった。

 千冬だけではない、政府も一夏のISを造るよう依頼したがためにそうなってしまったのだ。千冬と政府にも原因はあるが一夏は姉のやり方に腹が立っていた。

 自分は道具ではない、一人の人間でもある織斑一夏であるのだ。が、一夏は千冬を睨み続ける。千冬は一夏の視線に冷や汗を流すが千冬は知らなかったのだ。

 自分が依頼した研究所、倉持研究所がそんなことをしたことに気づいていなかったのだ。もし知っていたら其方を先に制作しろと言ったのかもしれない。

 しかし、もしもそれが本当……いや、事実ならば自分はとんでもないことをしでかしてしまった。千冬はそれに後悔しつつも言葉を失っている。

 そんな千冬に一夏は知らないのだと気づいたのだが、あえて知らないフリをして彼女に追い討ちをかける。

 

「兎に角、貴様が何を考えているのかは俺には関係ない……が」

 

 一夏は眉間に皺を寄せる。

 

「アンタは周りのことを気にしなさすぎだ。その所為で多くの物を失ったのだろ?」

「っ!?」

 

 千冬は図星なのか言葉を詰まらせた。一夏の言葉は正論だと思っているのだ。

 自分は自分のことしか考えていなかった。その所為で一夏が見つかるまでの間、一夏を喪ったのだ。政府が黙っていたとは言え、千冬はつらかったのだ。

 白式も彼女なりの責任なのだろう。が、それも研究所が利益のために働いたとなれば彼女の重大な見落としでもある。

 千冬は白式の件が自分のかけ声だけでなく、身勝手な人間達のしたことに怒りを感じた。同時に彼等の行動に怯えていた。そんな彼女に一夏は何も言わず踵を返す。

 

「ま、待ってくれ!」

 

 千冬は一夏を呼び止める。刹那、一夏は肩越しで彼女を見る。

 

「……知るか、貴様の戯言等、聞きたくもない」

「うっ!?」

 

 一夏の言葉に千冬は瞠目した。彼の拒絶の言葉に一瞬だけ息が止まる感覚に陥る。余程ショックだったのだろう。

 千冬は身体を震わせると、腰を落とす。そんな千冬に一夏は何も言わずに部屋を出た。そして部屋には千冬しかいなかった。

 千冬は一夏の言葉に倉持研究所が自分とは別の意味で利益を得ようとしたことを知らず、同時に更に墓穴を掘ったようにも感じられたのだ。

 千冬は部屋の中で腰を落とす中、彼女は酷く落ち込んでいた。一夏と、弟との溝が更に深まったことをも感じたのであった……。

 

 

 

 その頃、一夏は通路を歩いていた。人は疎らだが殆どが部屋の中にいる。が、大半は怯えているだろう。理由は大男の、ジェイソンの存在だ。

 彼女達はセシリアは兎も角、更識姉妹と布仏姉妹、千冬しか目撃していないため、どんな者かは判断できない。マスクと言ってもそれだけでも特定はできない。

 少女達は部屋の中で怯えているのも存在だけではない。自分達の部屋にも来るのではないのかと思うと、余計に恐怖しているのだろう。

 一夏はそんなことを考えていながらも関係ないと思いつつ、自分の部屋『2013』の前にまで来ると、カードキーを使って部屋の中に入った。

 カードキーは、学校にいた際に、最後の授業終了の後に、千冬から放課後居残るように言われた際に真耶から渡されたのだ。楯無とは同室なのは、本音が教えてくれたために知っている。

 一夏は部屋の奥へと進と、不意に横に誰かがいる事に気付いた。横の、玄関から死角になる壁には一人の少女が壁に凭れ掛かりながら腕を組んでいるのだ。

 楯無であった。彼女は一夏を睨んでいる。ルームメートが理由でもあるが待っているようにも思えた。

 

「……待ってたわよ?」

 

 楯無は一夏を見てそう呟くと壁から放れ、一夏に歩み寄る。

 

「…………」

 

 楯無は一夏を見上げる。自分よりも背が高いのもそうであるが彼女は一夏を見上げ続けている。表情は険しいが口を開かない。さっきの話しの続きなのだろう。

 そんな楯無に一夏は何も言わず見据え続けている。表情は険しいが相手にすると言う意味でもあった。

 一夏と楯無、どちらも互いの相手を見ている。どちらも視線をそらす気配はない。が、話しだけはあった。睨んでいるのも相手に対しての威圧でもあった。

 が、どちらも睨み合っているため、どちらかが口を開かない限り、会話は進まない。が、不穏な空気が流れ始める。誰も邪魔はなく、ジェイソンもいない。

 なぜならジェイソンは今、倉持研究所へと向かっているのである。それも一夏の令で、だった……。




 次回の金曜日の投稿はお休み致します、次回は土曜日ですが血祭りとなります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。