インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「簪様に……本音……ご無事で、何よりです」
一夏は今、簪と、簪のルームメートである本音の部屋に居た。彼女等の部屋は『2017』であり、少し離れた場所の部屋にいた。
部屋の中はセシリアの部屋と全く同じであった。いや、どの部屋も同じ作りになっており、置かれている物も全く同じであった。
平等と言う意味で用意された物であるが流石と言えるだろう。一夏はシングルベットの窓側に隣同士で腰を下ろしている二人を見て、安堵と言うよりも演技であるが一応、胸を撫で下ろす。
が、本当はジェイソンには簪と本音の部屋には近づかないように命令したために彼女等は無事である。
そんな一夏に簪と本音は互いを見合わせた。彼がいることで安堵しているのか、それとも彼の言葉に驚いているのだろう。
二人は互いを見合わせた後、不意に一夏を見やる。彼は目の前に立っていたが表情は険しい。
言葉とは正反対で、困惑した。が、簪は彼の言葉に応えた。
「う、うん……一応、ありがとう……私と本音は……無事、だから」
簪は一夏を見ながら言う。
「それに……っ」
しかし、彼女は一夏を見て頬を紅くすると、恥ずかしそうに目を逸らす。彼女は、さっきのことを思い出していた。
セシリアに言い負かされそうになった自分を、背中で隠す意味で守ってくれたことを思い出してしまったのだ。
あれは簪にとって想定外かつ、ドキッとする出来事であった。あれは一夏の従者としての役目としか言えないが、彼は簪を守るべき更識姉妹の妹を守ろうとしたに過ぎない。
簪から見ればだが、一夏は利用するための信頼を得ようとしての行動に過ぎない……同時にセシリアに対して憎悪と怒りを沸かせてしまった。
「……簪、様……どうかなされたのか?」
一夏はいぶかしげに簪に訊ねる。すると、簪は一夏の言葉に我に返ると慌てて首を左右に振る。
「な、なんでもない……なんでも、ない……!」
簪はそう言いながらつらそうに俯く。
「そうですか? 何か暗いようにも感じる……どうかしたのですか?」
一夏は疑わしい目つきで彼女を睨む。ムダな会話は嫌いであるが彼女は当主の妹であるため、会話を終わらせることはできないのだ。
彼女は何かに困っている。そう察知した。悩みがあるのだろうか、と。しかし、自分が言っても彼女は言わないのだろう。
一夏は簪の様子を疑問視しつつも、不意に視線を本音の方へと移す。本音は簪の様子を気にしているのかオロオロしている。
何かを隠している……確信と共に察知した。一夏は本音の様子と簪の恥ずかしそうな表情を見て溜息を漏らす。
「……何を隠している?」
一夏の言葉に二人は肩を竦めた。気づかれた、と言った表情で一夏を見やる。彼は鋭い目つきで自分達を睨んでいる。
二人はバレた、と少し愕然としていた。言わなければ、何かをされる。そう思った。二人は一夏の威圧的な視線に肩を震わすと冷や汗を流した。
しかし、言わなければ何かをされる。そう思った。なぜなら二人は、あることを話していたのだ。それはIS関連のことであった……。
「どうした? 何を隠しているんだ? 言え」
一夏は二人に言う。すると、簪は冷や汗を流しながらも答えた。
「じ、実は織斑さん……そ、その、ISのことで……」
簪の言葉に一夏は首を傾げる。が、簪はつらそうに答えた。
「そ、その貴方が扱うべきだった、白式のことなの……」
刹那、一夏は眉間に皺を寄せた。聞くだけでも腹が立つ。同時に怒りが沸いてきた。しかし、簪は一夏を見て怯えるが、更に言葉を続けた。
「そ、その白式で……私の……ISは……ダメになった……」
そして簪はつらそうに言葉を続けた。
「……なんだと……!」
一夏は簪の言葉に怒りを沸かせた。それはある人物に対してであった。その人物は千冬、彼女は簪に対して、酷いことをしたのだ。
それは白式の件であった。なんでも簪の専用機でもあるISが、ある理由で完成間近で見送りにされたのだ。
千冬が、簪のISを制作している倉持研究所に圧力をかけたのだ。圧力と言ってもISを造ってくれと依頼したからである。
いや、圧力は政府がしたに過ぎない。しかし、倉持研究所は快く了承したのだ。あの千冬の弟の専用機を造れるのならば有名になれるのと、使ったとなれば依頼がバンバンと来るという薄汚い欲望があった。
資金は政府からの援助もあるのと、それの人員も増やしてくれたからである。同時に簪のISを見捨てたのだ。
しかし、簪はつらそうに言葉を述べていた。さっきのよそよそしい様子も一夏に対しての怒りをぶつけたいのだが、彼に対して微かに複雑な思いがあるため、葛藤していたのだ。
本音はそんな簪を宥めているが、簪は言葉を述べ続ける。
「私は悔しかった……やっと完成できると思ったのに……それなのに、周りは……あなたの、織斑さんのISを造ると言った……あの人達の顔は忘れる……ことは、できない……」
簪は彼等の顔を思い浮かべる。どこかよそよそしいがどこか嬉しそうであった。一夏のISを造ることになって悦びを隠せなかったのだ。
刹那、簪は項垂れながら目に涙を浮かべる。
「とても、悔しかった……そのISは、私が完成させなければならなかった……でも、そのめどが……あんまり立たなかった……うぐっ、えぐっ」
簪は嗚咽をあげる。自分のISは自分で完成させなければならない。
しかし、そのめどは愚か、完成する切っ掛けがない。簪は自分の無力さと完成できないこと、大人の醜い一面を垣間みたことに哀しみを込み上げ、吐き出す意味で泣いてしまった。
悔しい……とても悔しい……。思い出すだけでも涙が止まらなかった。簪は自身無力さに己を責める。そんな簪に本音は宥めるがもらい泣きしそうであった。
親友の困っている姿を見たくないのもそうであるが従者としてや、彼女の努力がムダになっていることを自分は見ているだけであることに怒りが沸いてくる。
しかし……そんな簪を見た一夏は無言であるが俯くと歯軋りした。同時に身体を震わせるが両手を拳に変えていた。
自分の姉のせいで簪がつらい目に遭った。醜い大人達の欲望を垣間みた。一夏は大人達の醜さに怒りを隠せない中、一夏は簪を見下ろす。
簪はまだ泣いており、本音は慰め続けている。一夏は視線を二人を交互に見るように動かした。が、彼は何を思ったのか声を掛ける。
「簪様……お顔を上げろ」
一夏は彼女に訊ねた。その言葉を聞いた簪は泣きながら顔を上げる。一夏は無表情であった。彼が何を思っているのかは判断できない。
簪は一夏を見て困惑するが涙は止まらない。悔しい思いが勝っていた。そんな簪に一夏は何も言わず、手を伸ばす。
「……ひっ!?」
簪は彼の言葉に怯える。刹那、彼は簪の眼鏡を取った。
「……えっ?」
簪は驚く。刹那、彼女は誰かに抱き締められた。簪は更に驚いたが近くにいる本音は恥ずかしい声を上げた。
が、簪を抱き締めたのは紛れもなく、一夏であった。理由は自分や一夏、本音以外誰もいない。本音ではないことに気づいていたが一夏が抱き締めてきたことに驚きを隠せない。
「お、織斑、さん……」
簪は一夏に訊ねる。が、一夏は彼女を無言であり、簪の顔を自分の腹へと当てながら彼女の頭を撫で始める。
簪は更に驚いたが彼は、一夏は微かに呟いた。
「泣けばいい……」
彼はそう呟いた。その言葉に簪は驚くが彼は言葉を続ける。
「泣けばいい……自分の無力さを噛み締めながらも、誰かに甘えればいい……」
「織斑さん……」
「勿論、俺がやるのはこれが最初で最後だ……俺はムダな行動は嫌いだ……が、今は本音以外、俺とアンタ以外誰もいないが、従者の一人に過ぎない……が、今は泣け……思いっきり、誰かに甘えろ……今は、アンタを抱き締めている俺だけだがな」
一夏は静かに言葉を続けた。しかし、その行動はデスゲームを制するための作戦ではない。
千冬や腐った大人達に対しての怒りは、簪と言う一人の少女の哀しい犠牲に同情していない。
彼は普段、そんなことをするのは皆無に等しい。が、今はただ従者の一人として、簪を慰めているのであった。
「織斑さん……っ……うぐっ、えぐっ」
簪は一夏の言葉を聞いて、更に泣き出すと彼に縋り付きながら泣いた。口調は冷たいが言葉は温かかった。
そう思うと自然と涙があふれてくる。そんな簪に本音はもらい泣きしているのか泣いていた。一夏の、仲間の従者が簪を慰めている。
親友を慰めてくれるのは嬉しかった。同時に彼が仲間であることに微かに嬉しいと感じた。二人は一夏の行動や言葉に泣いている中、一夏は違った。
彼は簪の頭を撫でながらも何かを考えていた。それは最悪なことであり、最も血の雨を降らすような物であった。
彼は無表情でありながらも内心、怒りを隠していない。そして、こう思っていた。
……奴等には、血の雨が相応しい……。そう考えていた。
それはある者達への怒りでもあり、同時にジェイソンに命令しょうかとも考えていた。そして彼はそう思いながらも簪を慰め続けている。
部屋には簪の泣き声響き渡るが泣き止むまでの間であった……。
実は皆様にお知らせ致します。今日でこの小説の投稿時間を六時か十一時以降に致します。
理由としては最近寝不足であり二時以降でなければ寝られなくなることが起きてしまいました。
夜中の十二時以降に投稿するのにちょっと疲れがたまっているからです。
勝手なご報告を致してしまい、申し訳ありませんでした。
そしてどうか、これからも宜しくお願い致します。
予約投稿もありましたが自分は基本、直ぐ投稿する方です。