インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
一夏がジェイソンにセシリアを怖がらせろと命じたことを楯無に隠しつつ、簪の(嘘の)安否を気にし、簪がいる部屋へと向かっている頃、ここは霧に囲まれた精神病院。
その建物の中にある、とある一室。そこは病室でもあるがベッドや簞笥、机やテレビ等が置かれている。
しかし、壁にはナイフやハンドガン、ショットガンやアサルトライフル等の重火器や凶器が飾られていた。
最近使用した物ばかりであり、どれも傷があった。歴戦の兵士が使っている、そう感じられた。
「……っ……」
そんな病室のベッドには一人の青年が上半身だけを起き上がらせながら歯を食い縛っていた。
彼は上半身裸であるが身体中、包帯が巻かれており、目元にも包帯が巻かれていた。
彼の表情は見て取れない。が、怒っていることだけは判断できる。
そして、彼は数週間前に一夏を殺害するために更識家の従者達の半分を殺し、なおかつ夢見一彦と織斑一夏の二人に不意打ちで瀕死の重傷を負った青年でもあった。
彼は数週間前のことを思い出していた。
「織斑一夏……夢見一彦……!!」
青年は二人に不意打ちされたことに怒りを覚え、両手を拳に変えながら力を入れる。思い出すだけでもはらわたが煮えくり返る。
あの二人は自分を弄ぶように追い詰めてきたのだ。大半は一夏であるが一彦のせいで目を負傷しているのだ。
本当なら回復してもおかしくないのだがまだ回復していない。同時に彼はここを動けなかった。
理由は一つ、目の負傷や一夏の拷問と言う形での身体を負傷している。
動けば後遺症が残るからだ。それだけでなく、彼は、この病院内を囲むように流れている霧を頼りにしていた。
この霧はプレイヤー達の体力を大幅に上昇させるが、ISを扱える意味で混乱させる細胞をも変化させるだけではない。
自然治療と言う形での身体を治してくれる。彼が動けないのも完全に再生できるまで時間は掛かるからだ。
食事は彼が作っているが作るだけでもままならず、困惑していた。が、最近は自然治療での影響で回復しつつある。
しかし、身体の回復が良くても、彼の心は回復しない。彼は一夏と一彦に対しての憎悪を募らせていた。
奴等は最後に取っておくか、最初の獲物としても仕留めるべきかを考えていた。
なのに、考えれば考える程、奴等の自分を見下すような表情を思い浮かべてしまう。
刹那、彼は歯軋りした。憎い、とても憎い……あの二人だけは許さない。そう考えてしまった。
「……入れ」
すると、彼は何かに気づき、顔を扉の方を無けながらそう呟いた。
彼の言葉の後、扉が開く。そこには、一人の大男が立っていた。青い作業着に白いハロウィンマスクを被った大男、ブギーマンであった。
彼の半霊ともいえる殺人鬼であり、彼の背中を預ける者でもあった。ブギーマンは無言で部屋の中に入ると、青年に近づき、青年を見下ろす。
不気味ともいえるが無言なのが更に引き立てている。しかし、青年はブギーマンが見下ろしていることに気づいていた。
目は見えなくとも誰かの気配までは微かに覚えつつあったのだ。そんなブギーマンに青年は舌打ちした。
「どうしたブギーマン……いや、マイケルの方が呼び易いな……」
青年は何かを思ったのか不意に口の両角を微かに上げる。笑っているのだ……が、彼は直ぐに下唇を噛むと、項垂れた。
同時に彼は微かに身体を震わせる。
「忘れもしない……あの日に起きたことや……俺が……デスゲームのプレイヤーになったことも……!」
青年は下唇を噛みながらあの日のことを思い出す。
あれは三年前……アメリカで起きた、特別な行事。それは毎年の十月三十一日で行われる一大行事、ハロウィン。
彼はアメリカの裕福な家庭で生まれ、そこで育った。
優しくも厳しいIS関連を研究者している父。温もりを与え、間違ったことを優しくも指摘してくれる母。自分に良く甘えてきてくれる元気で可愛らしい妹。
自分はその家庭で楽しくもつらい日々を過ごしてきた。その中でも家族は別格であるが彼がそれ以上に嬉しかったのが、自分には恋人がいた。
美しいブロンドの髪に琥珀色の瞳。あどけなくも美しい人がいた。大切な人でもあり、将来を誓い合いたい程の仲であった。
彼女にはどれほど救われたのかも判らない。同時に彼女は家族には気に入られ、妹にも姉のように好かれていた。
「彼女は……澪香は俺の全てだった……なのに……あの日が……!」
青年はつらそうに言葉を続ける。しかしあの日のハロウィンの日、彼は大切な人を家に招き入れて、家族でハロウィンパーティーをした。
カボチャを使った料理や、家にくる子供達にお菓子をあげたりした。無邪気で、仮想をしている子供達は可愛らしいかった。
しかし、彼は急用ができたのだ。友達が遊びにいかないかと誘われたのだ。
青年は困ったがなんでも、ハロウィンにうってつけのホラー映画があるらしく、青年はそれを気にしてしまった。
映画が気になるのもそうであるが彼は家族や澪香に話しをした。家族は快く了承し、澪香は怖いのは苦手であるため、家でお留守番すると。
青年は家族に許可を貰うと、澪香を頼むと言って家を出た。
その後、青年は友人達の家でホラー映画を鑑賞していた。その内容はハロウィンの日に現れる殺人鬼が無差別に人を殺しまくる物であった。
友人達と悲鳴を上げたり、時には彼や彼女が殺されたりと思いながら観ていた。そして、映画が終わると、友人達で軽くはしゃぎ合ったりもした。
が……携帯が鳴った。彼は携帯を手に取ると、誰が連絡してきたのかを確認した。彼は驚愕した。それは、警察からであった。
警察は彼にあることを教えた。彼は戦慄した。家族や大切な人が惨殺された、と。
これには青年は驚くが彼は即座に友人宅を出ると、駆け足で自分の家に向かった。そして……。
「周りには警察がいた……近所の顔見知りの人達の野次馬もいた……救急車も来ていた……それに……」
青年はそれ以上はいえなかった。家族は無惨にもナイフで首を切られたり、胸を刺されたりした。
父は首筋を切られ、母は胸を刺され、妹はナイフで腹を刺された。そして澪香は……。
「澪香は……彼女はナイフでメッタ刺しにされた……警察は怨みによる犯行で家族は巻き添えを受けた、ということで捜査していた……なのに……」
青年は泣き叫んだ。同時に犯人を憎んだ。なぜなら犯人は捕まっていない。同時に警察の調べは曖昧であった。
理由は上層部による圧力であった。犯人を庇う意味でもあるが彼は犯人を憎みつつも、彼は後悔していた。
なぜ友人達とばか騒ぎしたのか、なぜ自分だけが生き残ったのか、と自分を怨んだ。
「俺は死のうと思った……だが、そんな俺にお前が現れた……」
青年は口を閉ざし、心を閉ざした。家族を失い、大切な人をも喪ったのだ。彼は絶望に包まれ最後には自殺しょうとした。
刹那、そんな彼の前に一人の大男が現れた。ブギーマンであった。
「俺は驚いた……お前が現れたことで俺は死ぬのではないかと思った。だが、お前は俺を殺さず、俺を気絶させると、どこかへと連れて行った……まあ、ここだな」
青年は顔を上げ、ブギーマンを見る。彼は無言であるが深く頷いた。なぜなら彼は、ブギーマンは青年を連れてこいと主催者側に命令された。
彼は目を覚まし驚きと恐怖した。が、主催者側は彼にデスゲームに参加する資格を与えたのだ。
彼に他にプレイヤーを殺し、デスゲームを制しろと言ってきのである。
彼は困惑したが主催者側は制した者には願いが与えられ、自分が叶えたい願いを全て叶うことができると言うことであった。
これには彼もデスゲームに参加することにした。願いと言う言葉を聞いて、叶えたい願いがあるからであった。
「俺の願いは……家族や澪香を殺した奴を破滅に導き、家族を生き返らせ、大切な人を生き返らせることだ……」
青年はそういうと目元に巻かれている包帯を取る。まだ直っていないのだが、彼はなぜか外した。
彼はもう大丈夫だと思っていた。しかし、治っているのかも判らないのにも関わらず、包帯を取った。
目元は微かに焼けた痕が残っていた。瞑目しているが彼は微かに目を開けた。
しかし、まだ完全に治りきっていなかった。そのため彼はつらそうであるが、ブギーマンにいう。
「マイケル……そこの、机の上に置かれている二つの写真立てを取ってくれ」
青年がそう言うと、ブギーマンは、マイケルは青年の言葉に反応すると、机の上にある二枚の写真立てを取ると、それを彼に差し出す。
青年はそれを受け取ると、二枚の写真立ての中にある写真を、なんとか頑張って見ようとした。
一つは自分の両親と妹が写っていて、もう一つは大切な人、澪香が写っていた。
どちらも、四人とも笑顔を浮かべていたが澪香は微笑んでいた、撮影者が青年であるが彼は写真を見て下唇を噛みながら抱き締めた。
絶対に生き返らせる。家族や大切な人を生き返らせるのなら、人を殺してでも生き返らせる。
青年は、いや、黒峯一也はそう決意していた。そして、そんな彼をブギーマンこと、マイケルはジッと見下ろしていた。