インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「…………」
数分後、一夏は今、学園から出て、校庭付近にある道路を歩いていた。
学校で規定された鞄を背中に当てるように持っているが彼は表情を険しくしていた。
さっきあった千冬との会話であった。彼は千冬とは会話をしたくなかった。
が、千冬は自分に対して、自分の周りに起こった出来事を話し、更には自分と和解したいと言い出してきた。
しかし、彼はそれを断ると同時に一方的に会話を終了させたのだ。
千冬は納得できなかったが一夏の事を思い、何も言えなかった……。
「……ここか」
刹那、一夏は立ち止まり、目の前に建てられている建物を見た。
白を基準とし、学園と同じくらいかそれ以上あるであろう建物。
窓は幾つもあるが玄関も少し大きい。一夏はその建物をまじまじと見ていた。
感想の言葉を述べる訳でもない、見据えていた。そこは学生寮であった。
生徒達が寝泊まりする場所でもあり、海外から来た生徒を寝泊まりさせ、本州にいながらも遠い所から来た生徒達が暮らす家でもあった。
一夏は今日からこの学生寮で生活する。
決められた事であるが一夏には関係なかった。それに彼の部屋は『1013』であり、ルームメイトはまさかの楯無であった。
そうなったのは彼女がこの学園の生徒会長であり、それを権限を利用する形で使用したからであった。
一夏から見れば、ルームメイトは誰でもなければ、一人でも良かった。
が、楯無ならば彼女の側近としてでもあり、利用する形で守る事もできるからだ。
一夏はそう思いながらも学生寮の中へと入るために、再び歩き出した……。
「ひぐっ、うぐっ……!」
その頃、部屋が幾つもある通路では一人の生徒が女性に縋りながら泣きじゃくっていた。
そんな生徒を女性は、いや、教師は優しく宥めていた。
周りには生徒達が何事かと、何が遭ったのかと、野次馬の如く集まっていた。
彼女等は、ある二つの出来事に困惑していたのだ。
一つは泣きじゃくる生徒の叫び声、もう一つは窓の割れるような大きな音である事に。
そして、泣きじゃくる生徒はセシリアであり、宥めているのは真耶であった。
「お、オルコットさん、どうかなされたのですか?」
真耶は困惑しながら、未だ泣いているセシリアに訊ねた。
「い、いましたの……クズっ、な、何かが……!」
セシリアは泣きながら答えた。が、真耶はセシリアが何を言ったのかは解らなかった。
真耶は不意に視線を目の前の方へと向ける。
目の前にはセシリアと、もう一人が生徒が寝泊まりする部屋。
扉は開いているが窓は破られていた。真耶はそれを見ただけでも生唾を吞んだ。
誰かがいる。そう思うと、身体の震えが止まらなかった。
まだ部屋の中にいるのだろうか? そう思った。
セシリアがここにいるのは泣きながら部屋から出た後であり、難を逃れたに過ぎない。
しかし、誰かが部屋に入らなければ……入れるのは、教師の自分しかいない。
生徒を守る、そういう義務があった。が、一向に動く事はできなかった。
相手は武器を持っているのと、何人いるのかは判らないのだ。
真耶は義務と恐怖の間に挟まれる。周りも誰かいると言う恐怖で怯えはじめている。
「何の騒ぎだ?」
刹那、声がし、真耶は声がした方を見る。そこには、腕を組みながら立っている一夏であった。
鞄は足下に置いている。が、表情は険しかった。
「お、織斑君?」
「山田先生、どうした? それにその女、なぜ泣いている?」
一夏はセシリアを見て首を傾げる。一夏の言葉にセシリアは泣きながら睨む。
一夏を嫌っている事が窺えるが、一夏は何も言わず、視線を扉の方へと向けた。
「…………」
一夏は無言で見ていた。すると、彼は何を思ったのか、扉の方へと歩く。
「お、織斑君!?」
真耶は一夏の行動に驚くが彼は無言で部屋の中へと足を踏み入れる。
周りも驚くが真耶は一番驚いていた。
「い、いけません!! 部屋から出て下さい!!」
真耶は一夏を心配し、呼び止める。教師として、生徒を守る義務があるからこそ、であった。
しかし、一夏は真耶が後ろから呼び止める声を背中で受け止める形で無視していた。
一夏はセシリアやもう一人の生徒が寝泊まりする部屋の奥へと進む。
部屋には誰もいなかった。が、窓ガラスは破られている。内側に散乱しているが外から侵入した形跡を物語らせている。
一夏はベランダ付近に散乱している窓ガラスの方へと歩くと、その場で片膝を突きながら跪くと、ガラスの破片を手に取る。
鋭くも触ると危険であった。が、一夏は破片を睨むが、犯人の目星はついていた。
ジェイソン……彼しかいない。窓ガラスを破る事ができるのは彼だけだ。
彼ならば……一夏は何かに気づくと共に、後ろを見る。
扉は開いていたが、向こう側の通路にはセシリアが泣きながら真耶に縋り付いており、真耶はセシリアを優しく抱き締めながら困惑していた。
どちらもジェイソンの事だろう。真耶は兎も角、セシリアは目撃したために彼の存在を知ったのだろう。
しかし、一夏は二人を見て何も言わず、再び窓ガラスの方を見る。
「…………」
刹那、足音が聴こえた。一夏は振り返る。
通路にはセシリアと真耶しかいないが誰かが間を割って入るように横から出てきた。
この学園の生徒会長でもあり、同室でもある楯無であった。彼女は一夏を見て驚いていた。
同時に楯無は怪訝な表情を浮かべながら部屋の中に入り、一夏の方へと歩み寄る。
「織斑君、何してるの?」
楯無は一夏に近くにまで来ると訊ねた。が、一夏は楯無から顔を背けるように床に散乱している窓ガラスを見る。
楯無は一夏の行動に驚く。が、彼女も床を見ると、屈んだ。
「これって……何者かが侵入したのね?」
楯無は一夏に訊ねた。彼女は何か遭ったのかを察知したが、何者かまでは判らないのだろう。
一方、一夏は無言であったがさっき手に取った窓ガラスの破片を睨んでいた。
楯無は一夏の様子に気づくが不意に辺りを見渡す。部屋自体、何の異常もなかった。
ベッドやテレビは壊されておらず、衣服を荒らした形跡もない。
金目当ての犯行とは思えなかった。セシリアを見たからなのかは判らないが、それが原因なのかも楯無は気づいた。
しかし、その侵入者はどこにいるのだろうか? 隠れる所は無いに等しい。
トイレや浴室ではないかとも思ったが今も隠れているのでは……。
「まさか……」
楯無は浴室へ向かおうとして立ち上がる。
「いや、違う……奴だ」
一夏は答えた。その言葉に楯無は反応し、彼を見た。
彼はガラスの破片を調べているが振り返る気配はない。
しかし、彼は、この部屋の侵入者は誰かを知っているようだった
「……っ!?」
楯無は何かに気づいた。まさか、あの大男,ジェイソンではないのかと、楯無は気づいた。
彼はここ、IS学園に来ているのか? 楯無はそれに気づき一夏に指摘しょうとした。
「まさか……何を考えているのよ!?」
楯無はジェイソンに対し怒りを覚えた。一夏に対してでもあったが一夏は肩越しで彼女を見る。
彼は無表情であった。侵入者を知っていながらも何も言わない。
「奴は、ここに来てるの!? 何を目的に!?」
楯無は怒りを抑えていない。ジェイソンがIS学園に来ている事への怒りだろう。
しかし、一夏は無言で首を左右に振る。逆に知っている事を裏付けていた。
「……俺は知らん……が、奴は俺の命を実行すしたに過ぎない」
「えっ……!?」
楯無は一夏の言葉に驚くが、一夏はガラスの破片を床に置くと、重い腰を持ち上げるようにゆっくりと立ち上がった。
しかし、彼は眉間に皺を寄せると、その場から離れるように部屋を出ようとした。
「ま、待ちなさい!!」
刹那、楯無は一夏の手首を掴む。
「……なんだ?」
一夏は彼女の行動に驚きはしないが、無表情で彼女を見る。
楯無は少し怒っていた。一夏に対してでもあるが彼がジェイソンを使って学園内に探らせている事でもあるだろう。
しかし、彼がなぜジェイソンを使ったのかは判らない。
同時に一夏への不信感があった、彼は何が目的で何をしょうとしているのか?
従者の立場であり、自分は当主だ。楯無はそれを指摘した。
が、なぜか耳元で囁いた。理由は、一夏が従者である事を学園中の者達は知らない。
自分や簪、従者の布仏姉妹しか知らないからだ。耳元で囁いたのも、当主と従者としての会話でもあった。
「織斑君、私は貴方の当主よ。貴方が勝手な行動をするのは、私としては許さない」
「…………」
「貴方の目的は何かは知らない……でも、私は貴方の独断を許した訳ではない……」
楯無は一夏に対してそう呟いた。彼の独断に怒っているからであった。
しかし、今怒っても、後の祭りだ……入学初日で、ジェイソンの噂は広まるからだ。
セシリアの話しを信じるか信じないかは、周りの判断に任せるしかない……。
同時に、セシリアは入学初日で悪い印象を与えられたために、信じる者はいるかどうかは、周りが判断するしかないだろう……。