インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第55話

 数時間後、ここは学園内にある食堂。今の時間来は昼であるが、昼食の時間でもあった。

 その意味は人が溢れているのだ。この学園の生徒が大半であるが、中には教師もいる。

 生徒達は食堂で食事をしながら談話をしているが楽しそうであり、相槌を打ったりしている。

 また、感銘の声を上げている者がいるが美味いからだろう。が、おばちゃん達が腕を振るったからであり、生徒達のために頑張ったからであった。

 食堂内は騒がしい中、食堂内にある一つのテーブル。そこに一人の男子生徒と、向かい側には二人の女子生徒が座っていた。

 近くのテーブルには見ている女子生徒達もいるが、二人の女子生徒は困惑している。

 一方で男子生徒は気にもせずに食事をしていた。

 

 そして、その生徒は一夏であった。二人の女子生徒は更識簪と、布仏本音である。

 三人は今、食事をしていた。一夏はカレーライスと軽めのサラダ、簪はさぬきうどん、本音はチャーハンであった。

 しかし、一夏は無言でカレーライスを食しているが、簪と本音は周りを気にしながら食事していた。

 周りが自分に向ける視線には好奇と憎悪が別々の意味で分けられるように籠められている。

 二人はそれを気にしていた。

 

「気にするな……平然と食せばいい……」

 

 刹那、一夏は二人の助け舟となる意味で口を開いた。二人は驚くが一夏はそれ以上言わない意味で食事を続ける。

 

「あ……う、うん」

「む〜〜」

 

 簪は頷き、本音は気になりながらも唸るが、二人は食事をした。

 しかし、会話はなかった。これといった話題がない訳ではない、話題その物を言えなかったからだ。

 一夏はムダな会話が嫌いであったからだ。彼が喜びそうな話題がないのと、従者でもある彼が命令に背くのではないかとも、簪は思ったのだ。

 簪は不意に視線を一夏の方へと向ける。彼は視線をカレーライスの方へと向けながら食事していた。

 刹那、簪は慌てて視線を逸らし、うどんを啜る。なぜか頬を赤くしていた。

 一夏に対して、ある感情が芽生えているからだ。それはセシリアの時に自分を慰める時に彼がしてくれた行動。

 頭を撫でてくれた事であった。それが簪の心に大きな変化をもたらしているが、彼は従者の身でありながら思いに答える気はない。

 簪が一夏に対して、神座用を抱きつつある中、一人の少女が食事が載ったトレーを手にしながら近づいてきた。

 

「すまない、ここいいか?」

 

 少女の声に三人は声がした方を見やる。そこにいたのは、箒であった。

 箒は一夏に声をかけていた。が、簪に気づくと微かに悔しそうに顔を歪める。

 簪は箒の様子に気づき、肩を震わせた。本音は簪に気づき困惑するが一夏は箒を見ながら呟いた。

 

「篠ノ之、何か用か?」

「隣いいかと聞いているのだ。いいか?」

 

 箒はそう言った後、勝手に一夏の隣に座る。一夏は驚いてはないが眉間に皺を寄せた。

 簪と本音は箒の行動に驚く物の、箒は食事をする前にある事を一夏に訊ねた。

 

「それよりも一夏、さっきのはどういう事だ?」

 

 箒は怪訝そうに説明を求める。一夏は箒の言葉に何かに気づくが、「知るか」と答えた。

 

「惚けるな、さっきの千冬……織斑先生が専用機を用意してくれたのに、なぜわざわざ拒んだのだ?」

 

 箒は専用機の事について指摘してきた。それは二時限目の始まる前に千冬が発した言葉であった。

 しかし、一夏は千冬が政府が用意した専用機を使わない意味で拒んだのだ。

 これには千冬も何度も説得しょうとしたが彼女は何故か、一夏の言い分を呑んだのだ。

 が、箒はそれを納得しなかった。彼があの時言った事を一夏に返す意味で言う。

 

「それに、刀一本では勝てない。専用機は愚か、一般の奴がいきなり専用機を持つ等、馬鹿げている、と」

 

 箒は厳しい口調で彼に指摘した。箒の言葉を聞いて一夏は不愉快そうに顔を引き攣らすと、反論した。

 

「貴様は馬鹿か?」

「なっ、なぜだ!? 馬鹿げているのはお前ではないか!?」

 

 箒は一夏の言葉に怒る。が、叫びにも近い大きな声であったために周りも何事かと見やる。

 箒の言葉に一夏は微かに眉間に皺を寄せるが、彼は逆に指摘した。

 

「考えてみろ、なぜ一般の奴が専用機を持つ? 普通なら実戦を積み重ねた奴が貰うべき物だろ?

 それに刀一本ではどうする事もできない」

 

 一夏は反論する、しかし、それは正論でもあった。専用機を一般の者が持つのは馬鹿げている。

 それだけでなく、刀一本だけでどうこうできる訳ではない。

 槍とか弓矢、盾や斧、重火器等のバランスいい武器でなければ意味ないのだ。

 個人で、それぞれ得意不得意の武器を見つけなければならない。

 得意な武器ならば扱えば扱う程、上達する。逆に不得意な武器は上達しなければ一生、扱う事ができないのだ。

 が、夏はそのどちらでもない。彼は刀一本で勝てる要素はない事を指摘していた。

 だが、箒は反論する。

 

「それは違う! お前は織斑先生の実弟だからだ。それに唯一の男性操縦者だからだ!」

 

 箒はそう言った後、立ち上がり、一夏を指差す。

 

「それにお前は特別だ! 千冬さんの姉でもあるが、男性操縦者は今のところ、お前しかいないのだぞ!? それなのになぜ拒むのだ!?」

 

 箒は一夏に対して、不信感を爆発させた。一夏が拒んだ事だろう。

 周りも箒の言葉に驚くが中には特別な存在と聞いて不愉快そうかつ、哀しそうに俯く。

 簪は箒の言葉に下唇を噛み、本音はつらそうに俯いた。刹那、一夏は微かに粒いた。

 

「……るな……」

「むっ? 何をだ?」

 

 箒は一夏の言葉を聞いて眉間に皺を寄せる。一方、一夏は歯を食い縛ると、直ぐに答えた。

 

「ふざけるな……俺は特別と言う言葉は嫌いなんだよ……!」

「なっ!?」

 

 箒は驚きを隠せない。が、一夏は箒に対し、言葉を続ける。

 

「俺は特別という言葉を聞きたくない……俺はそのせいで酷い目に逢ったからだ……!」

 

 一夏は怒りながら箒に言った。それには理由があった。

 一夏は千冬の実弟である。しかし、そのせいで周りに苛められ、迫害されたのだ。

 千冬の弟だから特別な存在だ、そのせいで彼はつらい日々を送っていた。

 周りは有名人の弟である自分を色眼鏡で見ている。

 本来の織斑一夏ではなく、千冬の弟、織斑一夏としてみたり、接したりしていた。

 苛めや迫害は、千冬のせいで家庭崩壊し、仕事を辞めさせられたり、冤罪をかけられたりした者達であった。

 一夏はつらかった。孤独までとは言わないが、独りぽっちだった。

 本来の自分を見てくれている者達としか笑顔を見せなかった。

 しかし、三年前のあの日から更識家に預かるまでの間、彼は孤独の日々を過ごしていた。

 ジェイソン以外にしか心を開かなくなり、三年間もの間、誰にも再会できなかった事が、彼の性格を歪ませる。 

 特別な存在は、幼き頃の自分を思い出させる言葉でもあり、千冬の弟としてみられる事をも思い出せるからだった。

 

「俺はもう、特別な存在としてみられたくない……」

「い、一夏……」

 

 一夏の様子に箒はとんでもない事を口走ってしまった事に気づく。

 口は災いの元というが、まさにそれだった。そんな一夏に簪と本音は彼の様子に気づいた。

 彼は怒っているようにも思えるが、どこか違和感を感じた。

 何かまでは判らない。判るとすれば、千冬を嫌い、特別な存在である事を否定しているのだと。

 専用機を否定したのも、弟である事への特別な存在として見られるのを快く思わなかったのだろう、と。

 二人は一夏に対して、複雑な感情を抱く。しかし、それを言わなかった。

 一夏を追い詰める要因にもなるのと、彼を怒らせてはいけない事にも気づいた。

 二人は戸惑いつつも、周りも困惑していた。一夏と箒の間に何か起きるのではないかと危惧していた。

 同時に重苦しい空気が流れはじめていた。周りにいる者達は食事の手を止めている。談話さえも聴こえない。

 彼女達が二人のやり取りに集中するようにまじまじと見ていた。

 

「……俺はもう、特別な存在になりたくない……俺は一夏であり一夏ではない……その意味は、織斑千冬の弟、織斑一夏としてではなく、一人の織斑一夏として……な」

 

 一夏はそう言うと、立ち上がり、トレーを持ち上げた。カレーやサラダはまだ少し残っていた。

 が、彼は食欲が失せたのだ。箒との会話が彼の食欲を奪ったのだ。勿論、それを奪ったのは箒でもある。

 箒はそれに気づいていないが彼はトレーを手にしたまま、厨房があるカウンターの方へと向かおうとした。

 

「ま、待ってくれ一夏!」

 

 箒は呼び止めようとし、肩を掴む。刹那、一夏は肩越しで彼女を見る。鋭い眼差しを向けていた。

 箒に対しての怒りであった。箒はそれに気付き肩を震わせる。簪や本音も肩を震わせるが彼は箒だけを睨んでいるのだ。

 しかし、一夏は簪に気づく。一夏は簪を見て溜め息を吐くと、そのままカウンターの方へと向かった。

 

「い、一夏……」

 

 箒はそんな一夏を見て何も言えなかった。追い掛ける事もできなかった。

 同時に彼に対して後悔した。余計な事を口走ってしまった。

 箒はそれに気づくと俯きながら下唇を噛んだ。彼は変わった。

 あの時もそうであるが確信したのだ。箒はそう思うと身体を震わせた。

 

「篠ノ之さん……」

 

 簪は箒を見てつらそうに下唇を噛む。が、一夏の方を見た。

 彼はカウンターに向かっているが箒に対して、気遣いをしていなかった。

 箒に対して怒っている事には気づいたが彼女は何もできなかった。

 一方で簪は確信した。彼はもう、自ら心を閉ざしている。前から気づいていたがそうとしか言いようがなくなった。

 簪はそう確信したのであった……。

 

 


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