インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「貴女は、そんな男を庇うのですの? それになんですの? なぜ貴女がそんな事を言うのですの?」
セシリアは簪の言葉に呆れながら訊いた。簪の言葉や説明は一夏を守っているようにも感じられた。
それだけではない。簪が一夏とは知り合いのようにも感じられたからだ。
しかし、簪と一夏は知り合いである。当主との妹と従者の立場であるが簪は許せなかったのだ。
「貴女に、織斑さんの何が解るの? ……何も解らないのに、彼を侮辱、しないで……!」
簪はセシリアに指摘しながらもつらそうに怒っていた。セシリアは男が嫌いなら、別に構わない。
にも拘らず、一夏が嫌いなのは仕方ないがISを動かしたのは想定外であり、彼が動かすつもりはなかったのだ。
なのに、セシリアは一夏の気持ちを知らない。仕方ないとは言え、彼女の発言は彼を傷付けているのだ。
簪はそれに怒りながらも従者であり、仲間の一夏に畏怖の感情を抱きつつも、セシリアに怒っていた。
「貴女に、織斑さんを詰る資格はない……! 謝って……織斑さんに、謝って……!」
簪はセシリアに対し、一夏への謝罪を求めた。そんな簪の事をセシリアは鼻で笑う。
「ふん! そんな男に謝る理由はありませんのよ? 私はその男が気に入らないだけ、貴女がどうこう言う立場ではありませんわよ?」
セシリアは不敵に笑いながら指摘した。確かにセシリアは一夏のことを言っている。
簪の事は一言も口にしていない。彼女は簪にそう言うが、簪はつらそうに下唇を噛むが、反論した。
「それでも謝って……! 彼が悪い事をしている訳でもないのに、何も言ってないのに、貴女の言葉は人として、してはいけない事だよ……!」
「私は気にしませんわよ? 男がISに乗るのなんて、単に偶然に違いないですわ。勿論、私は男に負ける要素はありませんのよ?」
セシリアは言葉を述べながら自分の胸に手を当てる。自信があるようにも思えたのだ。
いや、彼女は確かな自信があるからだ。
「私にはイギリス政府より与えられたISをお持ちですのよ」
刹那、周りはざわつく。彼女がISを持っているからだ。即ち彼女は専用機持ちである事を意味しているのだ。
専用機持ち。それはISを持つ事が許される者達にしか与えられない者達の名称でもあった。
持つ事を許されるのは器量と強さ、カリスマを併せ持つ者にしか与えられないのだ。
セシリアはその専用気持ちの一人としてもイギリスからISを譲り受けられたのだ。
彼女が自信あるのも、クラス代表になりたいと言ったのも、それが理由であった。
「私と、私のISならクラス代表をしても問題ありませんわ。もしも文句を言うのならば、貴女を自分を推薦しなさってよ?」
セシリアは悪意のある含みで簪に問う。彼女を挑発しているのだ。自分は持っているのか?
クラス代表になれるだけの器量があるのかを試していた。
「……っ」
簪は言葉を詰まらせる。なかったのだ。それだけでなく、自分も専用機を持っている。
が、専用機持ちであるにも関わらず、ISが完成していないのだ。クラス代表になりたいのだが、自分は目立つのは嫌いだった。
簪はセシリアに反論できず困惑する中、セシリアは勝ったと思い、不敵に笑う。
「ないようですわね? だったら口を閉ざしなさい?」
セシリアは簪にそう言う。これには簪は何も言えずつらそうに項垂れた。
それだけではない、彼女は微かに震えていた。一夏を守りたいが為に、セシリアに言い負かされている感覚に陥っているのだ。
そんな簪を従者の本音は哀しそうに見据えていたが、不意にセシリアを睨む。
親友に酷いことを言ったセシリアに怒りを感じていたのだ。
が、本音はセシリアを言い負かす事はできず、専用機はないので、何もできなかった。
本音は自分の無力さに下唇を噛み締める。が、セシリアは本音に気づくが鼻で笑うと、簪に対し口を開いた。
「貴女がそこの男をどう思うが」
「止めろ」
セシリアが何かを言い終える前に、ある人物が口を開いた。
その言葉にセシリア、箒、本音、千冬、真耶、クラスの者達は一斉に声がした方を見やる。
声を出したのは、一夏であった。一夏は肩越しでセシリアを見ていたが表情は険しかった。
「なんですって? 男風情が何を言いだしますの?」
セシリアは一夏の言葉を聞いて不愉快になる。喋るだけでもいやなのだろう。
が、セシリアが訊ねているにも関わらず、一夏は立ち上がると、ある方へと向かう。
セシリアの方へではない。簪の方であった。
「あっ……」
簪は一夏が近づいてくる事に気づき、顔を上げ、一夏を見る。
彼は簪ではなく、セシリアを見続けていた。彼の横顔は爽やかでありながらもどこか険しい。簪はそう気付いた。
彼は怒っている。それにも気づいた。自分は余計な事をしたと思い、震えた。
「……えっ……!?」
刹那、一夏は簪の腕を掴む。簪は驚いているにも関わらず、彼は簪を背中に隠した。
「っ……!?」
簪は目を見開く。が、周りは一夏の行動に驚きと顔を赤くする者達がいた。彼の行動は簪を守る意味を表していた。
彼は従者として守るベき者の簪を背中に隠したにすぎない。本来ならば関わる気はなかった。
しかし、簪のおかげで余計な事態になってしまったのだ。
一夏は簪に対して呆れていた。が、守るべき者達、更識姉妹の一人を守ろうとしていた。
彼女がセシリアに責められるのは、従者として面白くなかった。他人なら未だしも、利用する為でもあるのだ。
一夏は簪を守りつつ、セシリアを睨む。簪は一夏の行動に驚きを隠せない。一方、セシリアは一夏の鋭い視線に不愉快そうに顔を歪める。
そんな二人に周りは愕然としていた。二人の間に異様な空気が流れているのを感じたのだ。
「い、一夏……!?」
そんな中、箒は一夏の行動に驚いていた。彼は簪を守るように背中を隠した事であった。
どうみても好意を持っている者に対しての行動にしか見えなかった。
同時に、簪と付き合っているのではないかと疑う。箒は簪を見る。簪は驚いているが少し顔を紅くしていた。
箒はそれを見て嫉妬したのか、歯を食い縛りながら目を逸らす。
箒がそんな事を考えているのを他所に誰もが穏やかではない事に気づいていた。
が、そんな空気を打ち破るかのように、千冬が手を何度も叩く。
「そこまでだ織斑、オルコット」
千冬はさっきまで傍観していたが生徒の諍いを止める意味でもあった。
さっきまで何もしていないのは、喧嘩にならないだろうと思っていたのだ。
千冬の言葉に一夏とセシリアは千冬を見やる。セシリアは兎も角、一夏は直ぐに目を逸らした。
「っ……」
一夏の行動に千冬はつらそうに下唇を噛んだ。弟が自分を見ていない。そう気付いたのだ。
悪いのは自分であるが、何か切っ掛けはないかを探していた。が、源次の言葉もあり、あまりしゃしゃり出ないでいた。
できる事なら和解したい。しかし、それさえも自ら言い出せないでいた。千冬は悩む中、真耶が声をかけてきた。
「お、織斑先生?」
「あっ……す、すまない、山田先生」
真耶の言葉に千冬は我に返ると、目の前の事に集中する。
「では、他に推薦者はいないか? いなければ織斑とオルコットでクラス代表決定戦を行なう事にする!」
千冬の言葉にクラスは微かにざわつく。二人が戦う。それはクラス中の女子生徒にとっては想定外であった。
一夏を推していたのに、セシリアが自ら立候補した事でそのような事になったのだ。
クラスの生徒達は驚く中、千冬が一喝して黙らせた。
「静かにしろ!!」
千冬の言葉にクラスは肩を震わせる。同時に黙るが静かに耳を傾ける事にしたのだ。が、一夏だけは無反応だった。
千冬に興味ないのか、目を逸らし続ける。千冬は一夏の様子に気づきにがい表情を浮かべるが、気にしつつも真耶に訊ねる。
「や、山田先生、空いてるアリーナはあるか?」
「あっ、は、はい」
真耶は教卓の隣にあり、箒の座っている前の席にある教師用の机に向かう。
机の上には一台のノートパソコンが置かれていた。真耶はノートパソコンを開くと、軽くキーボードを叩く。
彼女は空いているアリーナを探していた。すると偶然のように一つだけ、空いている所があった。
「あ、ありました、第三アリーナです! 使える日は一週間です!」
「そうですか……では、一週間後に第三アリーナにて、そこで勝利した者がクラス代表とする! 異論は認めん!」
千冬の言葉に、一夏とセシリア以外の周りは肩を震わす。千冬の言葉に驚いていたからだ。
しかし、そんな千冬の他所に一夏とセシリアは互いの相手を睨み合っていた。
セシリアは一夏に対して見下す視線を送るが、一夏はセシリアに対して怒りを隠せないでいた。
自分を馬鹿にした事は兎も角、簪を侮辱した事は従者には怒りしかなかったからだ。
そして二人は互いを睨み合う中、彼等は千冬に席に着くように言われるまで続けていた。
しかし、一夏はセシリアに対して、無言であった。
無論、セシリアは知らないが一夏は怒りに震えている。無表情であるが内心、憤怒していた。
そして彼はこう思った。この女、殺ってやる、と。