インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第47話

「ふう……」

 

 更識家の屋敷。一夏は一時的な自分の部屋に戻っていた。彼はイスに腰掛けると、一息つく。暗部の仕事から一段落と言う意味でもあったが不意に視線を隣の方へとやる。

 隣には自分を見下ろすようにジェイソンが佇んでいた。彼はこの部屋へと戻っていた。一夏の帰還を待つ意味でも待機していた。

 しかし、一夏はジェイソンを見て溜め息を吐く。

 

「ジェイソン、何故、更識と布仏の妹達の近くにいた?」

「…………」

 

 一夏は彼に訊ねてた。しかし、ジェイソンから言葉はない。彼は無言であった。元からそうであるが一夏はそれを知りながら訊ねていた。

 一夏は彼を見据え続けるがジェイソンは不意に、ある方を見た。一夏はジェイソンの見た方を追い掛ける。

 そこは、この部屋を出入り出来る襖であった。一夏は襖を見て怪訝な表情を浮かべる。まさか彼は……、そう思いながらジェイソンを見た。

 

「まさかお前、さっきの事で奴等の所へと行ったのか?」

 

 一夏はある事に気付き、指摘した。そう、一夏はジェイソンが簪と本音の部屋に行った理由を知った。彼は懲らしめるつもりであった。

 理由は簪と本音が勝手に部屋に入ろうとした事、それに一夏が許したにも関わらず謝罪しなかった事と襖を開けたまま出て行った事に怒ったのだ。

 ジェイソンの行動は悪いのだが簪達にも非はある為、一夏は何も言わなかった。元はと言えば二人が事の発端であり、ジェイソンは仕返しをしょうとしたのだろう。

 しかし、彼にも非はある為、一夏は何方も悪いと思った。一夏はジェイソンの行動に呆れつつも、視線を机の方へと向ける。そこには一冊の黒の分厚い本が置かれていた。

 それは三年前から今日までにあった事件の資料であった。一夏は机と向き合うと、本を開いた。あるページを探していた。一枚一枚捲った後、直ぐに見つけた。

 彼はそのページを凝視する。そのページの内容は、女子高生が自殺した事件であった。彼はその事件をこの前起きた青年の変死した事件と関係あるのではないかと疑っていた。

 青年もそうであるが近くにいた女性も事件に関わっているのではないかと思っていたのだ。が、それは憶測であるが彼は何故か疑っていたのだ。

 同時に、片方の手の内側、手の平には血が微かに出ているが彼は気にもしなかった。事件の方を優先させていたのだ。

 本の捲る所には血が付着しているがそれも気にもしなかった。一夏はそのページを見ながら、思考を走らせる。

 

「この事件と、あの日に起きた事件……何が関係があるとしか思えない……それに」

 

 一夏は思考を走らせながらある事にも気づいた。数週間前、青年が口走った『夢見一彦』と言う人物。

 彼が何者でどんな殺人鬼を半霊にしているのかは判らなかった。否、候補はいた。

 フレディ……鉤爪の殺人鬼だ。

 あの殺し方はフレディにしかできない。切り傷がそうでもあるがそうとしか言いようがなかった。

 ジェイソンが選んだのもそうであるが彼しか疑えなかった。他の殺人鬼と言う線もあるが候補は……一応、一人いた。

 

「待てよ……奴もできるかもしれねぇ……」

 

 一夏はある殺人鬼をも思い出す。頭全体に刺さっているピンが特徴的な殺人鬼、ピンヘッドだ。奴は魔導士でもあり、霊体的な攻撃は得意な方だ。

 しかし、奴は行動していない。彼がしたと思える殺しは未だ判らないのもそうである。

 否、全世界で起きた殺人事件を一つ一つ調べるのは至難であった。

 それに、この資料は日本で起きた事件しか取り扱っていない為、世界中の事件を取り扱っている訳ではない。

 一夏はそう思いながらも夢見一彦の事を調べようとした……刹那、一夏は更なる疑問を浮かべる。

 それは、自分が拷問しながらも、後一歩の手前で取り逃がしてしまった青年の事であった。

 彼は自分の事を知っていたが一夏は青年が自分の居所を知った事さえも判断できた。

 それは、青年が自分がプレイヤーである事を知った事だ。

 奴が自分の居所を知ったのは、IS学園の教師を一人殺した事だ。少し前、楯無が千冬からの伝言で学園の教師が殺されたと教えられたらしい。

 その教師は全身を鋭利な刃物で何カ所も刺されるという、酷い殺され方をしていたのだ。

 一夏はその事件は青年が起こした物である事に気づき、同時に奴が自分の事を探った事を知った。が、千冬は一夏が無事である事に泣いて喜んでいたが彼は軽くあしらったのは、別の話だろう。

 一夏は青年が自分の事を知ったのは別にいいとして、問題は夢見一彦の方であった。彼はどうやって自分の事を知ったのかが問題であった。

 ……刹那、一夏は何かに気づき眉間に皺を寄せた。

 

「待てよ……まさか、奴は……」

 

 一夏は気づいた。夢見一彦もまた、IS学園の誰かを殺していると。しかし、彼は誰を殺したのかは判らない。

 候補はないにひとしい。何故なら自分は学園にいる教師を全員把握していないのだ。彼が誰を殺したのかも判らないのだ。

 

「……否、奴は変装も得意なのかもしれない……」

 

 一夏は一彦の行動を探ろうとして、彼の立場を考える。彼は美川と言う従者を殺した。確証はないが彼女に姿を変えた事は殺した事を意味している。

 彼は美川になったのだが、殺した人物が見つかったらもう使えないだろう。しかし、もしもだ。

 もし、もしも彼が自分の行動を知り、尚且つ

青年と同様、IS学園の誰かを殺し、その物の成り代わりとして姿を変えたのならば話は別だ。

 同時に彼が誰を殺し、誰に変装しているのかは判断できない。一夏は一彦の行動を辿りつつ、別の仮説も立てる。

 この事件と関係しているかどうかであった。青年の変死している事件が起きた最中、彼らしき人物が二階に居た。

 あれは彼かどうかも判らない。しかし、できる事なら同一人物であって欲しいが、自殺した女子高生とは関係しているのかどうかも判らない。

 これとは関係ないのか。が、この事件と青年の事件、夢見一彦らしき人物の存在。美川に変装した事やIS学園の誰かに紛れ込んでいる事。

 何れも難しく、真実が繋がらない。事件とは無関係なのか? 否、そうとは思えなかったのだ。自分の判断でもあるが何故か嫌な予感しかしないのだ。

 一夏はページを凝視しながら思考を走らせる中、眉間に皺を寄せた。確か自分はもうすぐ……同時に、ある考えを浮かべた。

 

「否……一つだけある……奴をおびき寄せる方法が」

 

 一夏はある事に気付いた。あれならば夢見一彦をおびき寄せる。奴がどう動こうが、どんなに変装しょうが流石に無理だろう。

 一夏はそう思いながら頷くと、立ち上がり、ある部屋へと向かった。奴を、夢見一彦を誘き寄せる為であった。

 一夏は部屋を出ると、襖を閉めた。そして室内にはジェイソンしかいなかった。

 ジェイソンは無言であったが彼がいる限り、誰も一夏の部屋には入れないだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、ここは霧で囲まれたレンガの造りが特徴的な倉庫。

 そこは広くもなく瀬間もない室内は何処にでもある家庭的なのが特徴的であった。

 ソファーやテレビはあり、少し離れた所には台所も設けられていた。そして、向かい側の部屋の隅には一台の簡易ベッドが置かれていた。

 此処には誰かが住んでいる。そう物語らせていた。しかし、それは倉庫の半分を占めているだけであり、もう半分は壁で遮られていた。

 そこを出入りできるのは、扉だけであった。

 

「それにしても、向こう側達はどう動くのかな〜?」

 

 そんな中、ソファーには一人の青年がくつろぎながら嬉しそうに呟く。

 赤と緑のチェックの柄の服に黒のズボンが特徴的な童顔の青年、夢見一彦であった。

 彼は嬉しそうに足を軽く動かしていた。何かを期待し、何かのイベントが起きるのを楽しんでいるようにも思えた。

 しかし、彼は青年の目を負傷させ、美川を殺し、美川に成り済ました人物でもあった。それでも彼はそれを遊びと認識していた。

 しかし、彼はプレイヤーの一人である事を自覚しながらもゲームを楽しんでいた。

 誰が死のうが関係なく、殺しもまた悦びを得る為でもあった。そして、青年を殺したのは、彼の半霊とも言える殺人鬼であった。

 一彦は何かを思い出したのか、不意に扉の方を見る。この倉庫のもう半分を占める所を出入りできる扉であった。

 

「それにしても長いな〜〜いつまで研いでいるのかな?」

 

 一彦はキョトンした表情を浮かべながら疑問を抱く。彼は何かを待っていた。それは殺人鬼の一人であった。

 彼はさっきから何かを研いでいた。一彦もそれに気づきながらも待機していた。

 一彦は扉の方を見続ける中、扉が開いた。向こう側にいる者が開けたのだ。一彦は頬を膨らますが、開けた者は一彦を見て軽く笑う。

 

「どうした? 俺を待っていたのか?」

 

 扉を開けた者はからかう。三十代後半の全身が焼け爛れた肌が特徴的かつ、赤と緑のセーターに黒いズボンが特徴的な男であった。

 が、そんな彼を一彦は頬を膨らましながら指摘した。

 

「君が遅いからだよ? フレディ!」

 

 一彦はそう言いながらもそっぽを向いた。そう、彼こそが夢見一彦の半霊でもある殺人鬼、フレディ・クルーガーである。

 彼は一彦を見てからかうが彼はさっきまで鉤爪を研いでいたのだ。

 さっき終えたばかりでもあるが、殺人鬼の中では二番目に異形な存在であった。

 そして、彼等は他の、既に脱落した殺人鬼、ペニーワイズを倒したのだ。

 

「悪い悪い、許してくれよ」

 

 フレディは謝る。が、謝っているようには思えなかった。そんな彼に一彦は視線をフレディの方を見て反省していない事に気づくと、再びそっぽを向く。

 既に向いているのだがそんな彼を、フレディはからかうように笑う。面白がっている様にも思えたがそれはいつもの光景だった……。


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