インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第46話

「君でも判らないのか?」

 

 源次は彼の言葉に違和感を感じていた。彼は自分でも何故、楯無と半蔵を助けた事をしたのかを判断できなかった。

 無視意識という事もあるが彼はその事さえも覚えていなかった。

 覚えていても、二人を見捨てる事はできた。なのに、それさえもできなかった。源次は一夏に訊ねると、彼は舌打ちした。

 

「そんなのはどうだっていい、それよりも俺は……」

 

 一夏は楯無を見る。楯無は一夏の視線に気づき生唾を吞んだ。その表情には困惑が見て取れた。一夏は楯無を見た後、視線を源次の方へと向けた。

 源次は困惑、とういうよりも険しい、というよりもどの表情をしているのかは判らなかった。一夏は源次から目を逸らす意味で肩越しでジェイソンを見ながら、不意にジェイソンに命令した。

 

「消えろ……俺も後から行く」

 

 一夏はジェイソンにそう言い放った。ジェイソンは無言であるが彼は風のように消えた。ジェイソンが消えたのを目の当たりにした源次達は驚く。

 いきなり言えた事には驚いているが未だ慣れなかった。彼が消えたのは二、三度しか見ていない。人が突然消えるのは愚か、化物で歩かれならば容易い事だった。

 一夏は彼が消えた事を確認すると、再び源次と向き合う。

 

「奴には後から俺が言っとく……それにアンタの言葉は妄言としか思えない」

「なっ、あんたね!」

 

 一夏の言葉に楯無は歯を食い縛り、詰め寄ろうとした。しかし、源次は首を左右に振る。楯無を制止する意味での行動でもあった。

 楯無は源次を見て下唇を噛むが引き下がった。そんな源次に一夏は溜め息交じりに呆れると、言葉を続けた。

 

「アンタに付き合っている暇はない、俺は調べたい事が山ほどある……それに」

 

 一夏は腕を組みながら眉間に皺を寄せる。

 

「俺には優しさは不要だ……情けをかければ、やられる。俺は自分やジェイソンしか信じない……」

 

 一夏は、はっきりとそう言った後、広間を出ていった。襖を後ろ手で閉めたが大きい音を立てながら閉めたのだ。

 これには簪と美和、虚と本音、従者達は肩を震わす。一夏が怖いからではない、一夏の行動に少し戸惑ったのだ。

 そんな彼を源次は静かに見据えていたが襖の向こう側にいる為、彼は何をしているのかは判らない。判るとすれば部屋に戻る為に通路を歩いているのだろう。

 源次はそう思いながらもある事に気付いた。源次はそれを見て顔を引き攣らす。確か彼は……源次はある事を楯無に頼む。

 

「刀奈、お前にお願いがある」

「えっ? 何?」

 

 楯無は源次の言葉に聞き返す意味で訊ねた。すると、源次は答えた。

 

「一夏君の手を手当てしなさい」

「えっ、それは一体どういう事なの?」

 

 楯無は判らないが源次は畳の上に転がっている、ある物を指差した。

 楯無は源次が差した方を見た。そして目を見開いた。そこには、自分が展開したランスが転がっていた。

 胸ぐらを掴まれた際、手放した物であった。しかし、そのランスの切っ先には血が付着していた。

 最近付いた物としか思えないがその血は一夏の物であった。彼は楯無のランスの切っ先を掴んだのだ。その所為で手の平には怪我をしている。

 楯無は驚く中、源次は指摘した。

 

「刀奈、その血は彼の物だ。そのランスはお前の物だが、お前にも責任はある」

「……ですが、私はあの化物に向けた事で、彼に向けた訳ではありません」

「そう言っても怪我をした事には変わりはない。お前は違うと言っても、事実上、彼を怪我させたのだぞ?」

 

 源次は指摘した。説教ではないが理由を話している。楯無はジェイソンに向けたのは事実であるが一夏に向けた訳ではない。

 彼はジェイソンを守る意味でも楯無のランスを掴んだのかもしれない。が、彼が怪我したのは楯無のランスが原因でもあるのだ。

 

「刀奈、お前は当主としてもそうであるが、彼は私達の仲間だ。それに織斑先生の身内であり、彼を頼むと言われたのだ」

「…………」

「彼は私達から見れば他人でもあるが暗部では他人ではない。それに彼は自分やあの化物以外、信じないと言っても、私達は信じるしかない」

 

 源次は楯無の頭に手を置く。表情は父親のように優しくも厳しそうであった。娘に対してでもあるが彼は言葉を続ける。

 

「彼はお前の側近だ、お前の背中を任せられるのは彼しかいない。同時に彼の背中を任せられるのは刀奈、お前しかいないのだ」

「……でも、彼が自分からお願いするとは限りません」

「それでもいい……だが、少しずつでも彼が心を開いてくれるのを待つしかない。否、周りの助けを借りなければ無理なのかもしれないだろう」

「……お父さん、判ったわ」

 

 楯無はそう言った後、頷く。源次は微笑むが楯無は彼から離れる意味で行動を開始した。彼女はランスを掴む。

 刹那、ランスは渦を生む形かつ風のように消えた。そして直ぐにそこを出る意味で通路へと向かった。一夏を捜す為であった。

 

「刀奈……ふう」

 

 そこには源次、簪と美和、虚と本音、従者達しかいなかった。皆、源次と楯無のやり取りを見守っていた。

 否、割って入る事はできなかった。源次が一夏を気遣う意味と、楯無のする事が正しいかどうかも判らなかったのだ。

 簪と美和は兎も角、従者達は自分達は口答え出来なかった。部下と言う立場上、逆らう事はできなかった。

 同時に源次の言い分は正しくも間違っていると思っていたのだ。一夏が心を開く? それができるかどうかも疑わしかったのだ。

 従者達は困惑する中、源次は哀しそうに溜め息を吐いた。

 

「すまない、刀奈……」

 

 源次は楯無に謝るかのように呟いた。罪の意識に嘖まれていたのだ。娘もそうであるが一夏もそうであった。彼を暗部に入れた事に正しいと感じていたのだ。

 同時に千冬には酷い事をしてしまった。それは、千冬には、一夏を暗部に入れた事を黙っていたからであった……。

 

 

 

 

 

 

「あっ、織斑君!」

 

 一方、楯無は通路の中を走っていたが、少し先にいる一夏に気づき立ち止まる。少ししか離れていないが、楯無は声をかけた。

 

「…………」

 

 一夏は楯無の声に気づき立ち止まると、肩越しで彼を見る、視線は厳しいように鋭かった。お前に用はない、そう訴えていた。

 楯無は一夏の視線に生唾を吞むが、声を掛ける。

 

「手は、大丈夫なの?」

「…………」

 

 楯無の言葉に一夏は手を見る。片方の手の内側……手の平は血だらけであった。ランスを掴んだ際に出血したのだが強く掴んだ事が原因でもあった。

 一夏は手の平を見た後、視線を楯無の方へと向ける。楯無の表情は険しくもどこか哀しそうであった、罪悪感により後悔している様にも思えた。

 自分のせいで怪我させた。一夏はそう感じた。しかし、彼は答えた。

 

「怪我してるが、それがどうした?」

「……手当て、させてほしいの」

「……なんだと?」

 

 一夏は眉間に皺を寄せるが楯無は顔を引き攣らせながら言葉を続ける。

 

「私に貴方の手を手当てさせて欲しいの……! その手の血は私のランスを掴んだ際にできたんでしょう……だから!」

「断る」

 

 一夏はきっぱりと言い切った。これには楯無は瞠目したが彼は身を翻す。楯無と向かい合う形でもあった。

 

「……更識、俺は誰の手も借りない。借りるのはジェイソンだけだ。貴様の手を借りなくても、このくらいの怪我、自分で手当て出来る」

「でも織斑君! その手の怪我は私のせいでもあるのよ!? それなのになんで!?」

 

 楯無は反論した。しかし、彼は楯無を睨んだままであった。理由等は言いたくないがその理由は無いに等しいからだ。

 

「……更識、貴様に言いたい事がある」

「えっ? なに、を?」

 

 楯無は一夏の言葉に惚けるが一夏は腕を組む。同時に口を開いた。

 

「更識……俺は政府の狗になりさがる気はない」

「っ!?」

 

 一夏の言葉に楯無は言葉を詰まらせる。彼は聞いていのだ。政府が自分達を利用している事や、一夏はその政府に飼いならされている事も。

 しかし、彼は最初から聞いていた為に全てを知ってしまった。これには楯無達も困惑していたが彼は話題を変える意味で青年の変死と女子高生の事件を出したのだ。

 彼は政府の事を気にもしないように思えたが気にしていたのだ。楯無はそれに気づき言葉を詰まらせる中、一夏は言葉を続ける。

 

「俺は政府に飼いならされたくもなく、飼い殺される気もない……それに、もし政府が俺を利用し続けるのならば……」

 

 一夏は一旦、口を閉じる、そして直ぐに口を開いた。

 

「政府のくそったれ共を破滅に導く、という新たな願いも考える。それだけは覚えておけ……じゃあな」

 

 一夏はそう言うと、踵を返し、歩き始めた。部屋に戻るつもりであった。

 

「待っ……!」

 

 しかし、楯無は追い掛けようとした。刹那、彼はある事を言った。

 

「来るな……!」

「っ!? ……っ」

 

 一夏はそう言い放った。これには楯無は驚いたが追い掛ける気力を失った。否、否定されたと感じたのだ。

 その言葉には怒りと拒絶が見え隠れしているようにも思えたのだ。そのせいで楯無は何も言えず、行動さえもできなかった。

 そんな楯無に一夏は気にもせずに歩き続ける。楯無は一夏の背中を黙って見る事しかできなった。そして彼は通路の奥へと進む形で、消えて行った……。

 そしてそこには楯無が取り残される形で通路に立ち尽していた……。


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