インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「えっ……織斑君、あの場所にいたの!?」
一夏の言葉に楯無は驚きながら指摘した。源次と虚は瞠目しているが一夏は無言で楯無を見据え続けたまま、深く頷いた。
「じ、じゃあ織斑君はどうしてあの現場にいたの? それに何か手掛かりはあるの!?」
楯無は一夏に問い掛ける。彼女は知りたかったのだ。あの事件は捜査は難航どころか、迷宮入りしそうでもあったからだ。
何か手掛かりさえあればいいのだが、逃げ惑う人達から話を訊いても彼等は皆、怯えており逃げる事で精一杯の為、出来なかったのだ。
楯無は一夏があの場所にいた事は想定外であるが何か手掛かりがあるのかもしれない。楯無は淡い期待を寄せていた。
源次と虚も一夏と楯無のやり取りを見守るが冷や汗を流している。一夏は無言である中、口を開いた。
「否……手掛かりはない」
「えっ……そ、そう……ごめんなさい」
一夏の言葉に楯無は項垂れる。源次と虚も顔を引き攣らせるが手掛かりがない事に悔しい思いをしていた。
一夏は正直に答えた。三人はそう思っていたが、その言葉には嘘も含まれていた。一夏は手掛かりを見つけていたのだ。物ではない、ある人での言う意味での者だ。
あの日、青年が悲痛の叫び声を上げながら身体中に血を噴き出している中、周りが逃げ惑う中、彼はその瞬間を静かに見ていた。殺される瞬間は何度も目撃していた為、慣れてしまっていたのだ。
しかし、彼は不意に二階を見た際、ある人物を見つけた。あの人物は青年を見て何も感じていないようにも思えた。
奴が犯人ではないかと睨んでいたが、彼はその事を隠している。理由は彼がプレイヤーの一人ではないのかも睨んでいるが彼が何者で、プレイヤーであるかどうかも怪しいのだ。
同時に、彼は思考を走らせていた。無意識でもあるが推理にも近い。そして、ある事を楯無に指摘した。
「それよりも更識、ある人物を調べてほしい」
「えっ? 誰なのそれ……?」
楯無は顔を上げるが表情は暗い。手掛かりがない事である事だろう。一夏は楯無の様子等も気にせずに、言葉を続ける。
「ああ、あの時、青年の近くに女がいただろう?」
「女……それって、変死した人の恋人の女?」
楯無の言葉に一夏はゆっくりと頷いた。そう、彼が調べたい者とは青年の近くにいた恋人らしき女性の事であった。
あの時の彼女は青年の死を目の当たりにして、泣いていた。しかし、楯無の言葉に一夏は、ある事に気づいた。
彼女は青年の恋人であった。今は、だったと言い替えればいいのだろうが一夏はその女性を調べたかったのだ。
自殺した女子高生と、変死した青年、青年の恋人である女性。この三人には共通点がある。そう直感したのだ。
「でも織斑君……一ついいかしら?」
「……なんだ?」
楯無は疑問を抱きながら一夏を見据える。
「……それは偶然って事じゃないわよね?」
楯無は一夏に疑問をぶつける。彼女は二つの事件が繋がっているとは思えなかった。もしも繋がっているのならば重要な手掛かりでるが、関連性があるかどうかも怪しい。
偶然って言う線も濃厚であり、間違っていたら無駄骨だ。楯無の言葉に一夏は静かに耳を傾けており、源次と虚は固唾を呑んで見守っていた。
三人は一夏が何かを言うのを待っていた。反論と思いつつも耳を傾けるつもりはあった。
「……偶然だろうがそれでも調べる価値はある」
「それでは理由にはならないわ、第一、私達暗部の人間は調べる事はそうだけど、依頼がない限り、動けないのよ?」
楯無は腕を組みながら指摘した。暗部は裏家業を生業としているが依頼が来ない限り、活動が出来ない。
依頼と言っても政府からであるが個人での依頼は受ける事は出来ない。たとえ事件が繋がっていても無理な話なのだ。
楯無はその事を一夏に言うと、彼は無言で本を閉じる。
そして立ち上がる。
「織斑君?」
楯無は一夏を見上げるが、一夏は自分を見下ろしている。その瞳には軽蔑が籠められていた。楯無は一夏を見て生唾を吞むが表情を険しくし続けていた。
当主としての使命でもあるが、自分の部下でもあり虚同様の側近でもある彼の言い分を認めていない。認めれば、彼を自由にさせる意味にも近い。
彼は従者の中では新参者でありながら猛者の立場にいる。今までの任務を軽くこなし、証拠さえも残していない。痛めつける程度であるが目撃者は愚か、気配を消すのも一番上手い。
同時に、ジェイソンという者を引き連れている。彼は一夏でなければ言う事を聞かず、二件だけであるが殺しの依頼は主に彼が遂行していた。
殺し方は悲惨であるが従者達の中では、一番に恐れられている。
一夏もそうであるが一夏は暗部にとって、なくてはならない存在であり、諸刃の剣である。楯無は一夏を危惧しているが仲間としても受け入れている。
楯無は一夏を見据え続けるが彼もそうだ。何方も退こうという気はなく、つもりもない。そんな二人を源次と虚は見守っていた。
沈黙だけが流れるが、先に動くと言う意味で一夏が口を開いた。
「だったら、此方で調べる」
一夏はそう言うと身を翻し、部屋を出ようとした。
「ま、待ちなさい織斑君!」
楯無は一夏を呼び止める。一夏は楯無の言葉に気づき、肩越しで彼女を見る。彼の瞳は怒りが籠っていた。楯無に対してであった。
一方、楯無は一夏を見据え続けていた。どちらもピリピリとしているが、楯無は口を開いた。
「織斑君、勝手な行動は許さないわ」
「……だからなんだ?」
「これは当主としての命です。あなたの依頼は個人で行なうような物であり、独断です。それを許可出来ないわ」
「……それでも、俺はやる」
一夏はそう言うと、前を見る。刹那、一夏は何かに気づき、素早く横に移動する。同時に何かに気づいた。
白い槍のような物……それも、穂先がとても大きい物があった。自分が躱した為に当たらなかったが当てるつもりはないのか少し離れている。
しかし、一夏はそれが槍の一つ、ランスである事に気づいた。そして穂先の後ろ、柄の方を見るが視線を楯無の方へとやる。
楯無が立っていた。それもランスを身構えながら、近くにいる源次と虚が驚いているが源次は楯無の行動に怒る。
「か、刀奈!!」
源次は怒っているが、楯無は耳を貸さなかった。彼女は怒っていた。それは一夏にである。彼女の独断ではない、当主としての強制的な命令とも捉える行動でもあったのだ……。
そして、そんな楯無を一夏は睨み続けていた……。
「どうしょう、本音……」
その頃、此処は本音の部屋。彼女の部屋は和室であるが可愛らしいぬいぐるみが沢山あり、癒される感覚に陥る。
その部屋には本音と一時的な住人、簪がいた。二人は寝間着であるが困惑しながら何かを話していた。原因はさっき、一夏の部屋に入ろうとした事、襖を開けたまま逃げ出した事に後悔していた。
自分達が悪いと気づきながらも謝罪していない。彼は許してくれたような事を言ってたがそれでは自分達の立場がない。
二人はその事で罪悪感を抱いているが本音は簪の言葉に項垂れる。
「判んない〜〜でも、私達が悪いのはそうだけど〜〜どうすればいいの〜?」
「私にも判らない……でも、謝るしか方法はないね……」
簪も項垂れる。二人は一夏に悪い事をした事には気づいていた。謝るしか方法はないがそれが出来れば苦労しなかった。なのにそれが出来なかった。
一夏は誰も寄せ付けない何かがある。自分達よりも暗部に仕事に向いているのもそうであるが半蔵の代わりとしか認識されていなかった。
大半の従者は彼を怖がり、不信感を露にしている。青年の件でもあるがジェイソンの件でもあった。あの化物は彼の手下でもあり、彼が唯一、心を許す存在でもあった。
そんな化物を引き連れている彼が怖いのだ。見た目はイケメンであるが性格は冷たい。接し方も判らないのだ。
二人はその事で悩む。彼に謝りたい。なのに、ジェイソンが近くにいたら怖いし、彼が許すかどうかも判らない。
時間だけが過ぎていく中、簪はある事に気付く。
「そういえば……っ!?」
簪は顔を上げた直後、隣を見て目を見開く。同時に彼女は震えた。
「あ……き、きやぁぁぁぁぁぁ!!」
刹那、簪は悲鳴を上げた。これには本音も驚くが、彼女も簪が見ている方を見る。
「い、いぁぁぁぁぁぁ!!」
本音も悲鳴を上げた。二人は同じ方角を見ながら悲鳴を上げていた。彼女達が見た方向、そこには、ジェイソンがいたのだ。それも二人がいるベッドの直ぐ近くに立っていたのだ……。
次回、木曜日はお休み致します。そして金曜日……皆さんもご存知の通り、あの日であり、その日に投稿致します。