インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

40 / 198
第40話

 あれから数週間後、ここは東京にある某所。今の時間帯は夜であるが人が絶える気配はなかった

 灯りは点いたままであり、騒がしい声が騒音のように耳に響き、道路を走る難題の車も音を足すように排気ガスを撒き散らしながら走っている。

 しかし、大半は外国人であった。観光目的か日本に移住している者が大半であるが何処か怪しい者達もいた。

 

 そんな街の中にある路地裏。そこは黴臭い臭いが充満しており、薄暗い。不気味としか言いようがないが其処には、一人の外国人が立っていた。

 三十代後半であるが白人であった。私服は派手と言うよりも地味であるが表情は険しい。彼は誰かを待っていたのだ。

 すると、奥から一人の男性が姿を現す。二十代前半の日本人であった。彼は外人を見るが外人も彼に気づくと、軽く笑う。

 

「オソイジャナイカ」

 

 黒人は男性に訊ねるが、男性は軽く謝る。

 

「ごめん、ちょっと手間取ってしまって」

「マアイイネ、ソレヨリモ約束ノ金ハ?」

「ああ、持ってきた。それよりも其方は?」

 

 男性は外人に近づくと、外人は頷き、ポケットからある物を取り出す。小さな袋であった、それも乾燥した葉っぱらしき物が入っていた。

 

「大麻ダ」

 

 黒人は袋の中身を教える。それを聞いた男性は喜びながら頷く。

 

「そ、それだ、く、くれ!」

「ダメダヨ? オカネガ先」

 

 外人の言葉に男性は何度も頷くと、ポケットから財布を取り出すと、一万円札を二枚取り出すと、外人に渡した。

 外人もそれを受け取ろうとした。刹那、男性は「うっ!?」と声を上げながら膝を突く。

 

「ウッ!?」

 

 外人は男性に気づくが、同時に男性の後ろには一人の、フードの付いた黒い上着を羽織った全身黒ずくめの人物が立っていた。

 外人は慌てて後退りしたが、その間に男性は俯せに倒れる。二枚の一万円札はヒラヒラと宙を舞いながら地面に落ちた。

 しかし、外人は黒ずくめの人物を見ながらも大麻の袋を仕舞うと、その人物を見ながら訊ねる。

 

「オ、オ前ハ誰ダ!? 警察カ!?」

「……違うな」

「ジャアナンダ!? マサカ、大麻ガホシイノカ!?」

 

 外人は彼に訊ねるが彼は無言で首を左右に振ると、彼に近づき、横蹴りした。

 外人は「うっ!?」と声を上げるが腹に激痛を感じていた。が、彼は無言で彼の顎にアッパーカットした。男は上を見上げるが彼は直ぐに外人の頬を捉える意味でフックした。

 一発ではない、二発であった。そして、彼は無言で彼の後ろに回り込むと、首筋に手刀を落とした。刹那、外人は膝を突き、前のめりになると、そのまま俯せに倒れた。

 外人と男性は何方も俯せに倒れているが、全身黒ずくめの彼は二人を見下ろしていたが、外人に近づくと、懐を探る。大麻ではない、彼はある物を探していた。

 そして、ある物を見つけた。スマートフォンだった。彼はスマートフォンを操作する。着信履歴であるが何れも同じ名の者があった。彼はそれを見た後、今度は自分の懐から、ある物を取り出した。

 スマートフォンだった。自分の物であるが彼はそれを操作すると、ある番号を押した。1、1、0とタップすと耳に当てた。

 

『もしもし?』

 

 向こうから男性の声が聴こえたが彼は無言を貫いていた。

 

『もしもし? ……何方様ですか?』

 

 向こう側から訊ねるよな声が聞こえるが、彼は口を開いた。

 

「……大麻の取引をしている奴等が気絶している」

『えっ!?』 

「二度は言わない……だが、場所は言う、メモしとけ」

『し、しかし……それが本当かどうかも……』

「いいからメモしろ……! もししなければ、密売人を取り逃がす事になるぞ……」

 

 彼はそう言うと、向こう側にいる者は何かをしていた。彼の脅迫に屈したわけではなかった。

 が、彼の言葉に偽りがないと感じたからだ。もしも嘘ならば犯罪であるが、大麻の密売なら逃がす訳にもいかなかったからだ。

 一方、彼は場所を教えるように話す。そして話を終える意味で通話を止めると、不意に外人の方を見る。

 彼は未だ気絶しているが男性も気絶している。しかし、何方も密売人と買取人であり、大麻所持の罪は大きいだろう。

 彼はそう思いながら彼等に対して、こう吐き捨てた。

 

「社会の、ゴミが……」

 

 彼はそう言うと、風のように姿を消した。そして、残ったのは気絶している外人と男性だけであるが、もう少ししたら、ある組織の一部であり、下っ端にしか過ぎない存在が彼等を逮捕するだろう……。

 

 

 

 

 同時刻、ここは東京の某所にある、大きな屋敷、更識家。そこは灯りが点いているが、何処か不気味にも思えた。

 そして此処は、更識家の前当主、更識源次とその妻、美和の部屋。そこには、前当主、源次がいた。彼は彼は腕を組みながら瞑目してた。

 誰かを待っているようにも思えるが、微動だにもしなかった。時間だけが過ぎていくが、彼はそのままの体勢を保ち続けていた。

 

「戻った……」

 

 刹那、障子の方から声が聞こえ、源次は瞼を開くと、視線を障子の方へと向ける。障子には人影があった。一人であるが室内が明るい事で源次は険しい表情をしているが、瞳には何処か安堵を感じさせる。

 それでも彼は障子の向こう側にいる、声を掛けてきた者に対し、訊ねた。

 

「その声は……一夏君か?」

「……ああ」

 

 源次はその者を一夏と呼ぶ。そう、障子の向こう側にいるのは一夏であった。それも、大麻の密売人と買取人を気絶させたのも彼であり、今は此処へと移動して来たのだ。

 フードを捲って、素顔を晒しているが、表情は無に近く、何を考えているのかも判断出来ない。

 しかし、源次が待っていたのも彼であった。だが彼は、一夏は今、暗部の人間となっていた。それはある取引でもあり、源次が飼いならされる意味でも、半蔵が戻るまでの意味でも部下になっていた。

 本来は現当主である楯無の影の護衛的な存在でもあるが、同時に半蔵が復帰するまでの間としても源次の護衛をも任され、仕えていた。

 源次は一夏の声を聞いて安堵するが険しい口調をしながら言葉を続ける。

 

「それよりも、大麻の密売人は?」

「……軽く痛めてから気絶させた。買取人は近くにいたが、手刀を落として気絶させた」

「そうか……それよりも彼等は?」

「……後は、奴らに任せて自分は退いた」

「……判った、何時ものように、命令通り動いてくれたのか……感謝する」

 

 源次は一夏の行動が自分が指摘した通りに動いた事に感銘していた。が、その間に逃げられる事もあるかもしれないが、それも仕方ないと思いつつも一夏の働きぶりに安堵していた。

 

「一夏君……よくやった。君を暗部に入れて正解だったよ」

「勘違いするな……俺は社会のゴミを潰そうとしただけ、それ以外の事は気にもしない」

「……そうか。だが、これで君の暗部を入れる事で楯無を任せる事はできた」

 

 源次の言葉に一夏は眉間に皺を寄せると視線を源次に向ける。障子で遮られているが源次へと向け続けていた。

 

「……一夏君、君はもうそろそろ、IS学園への入学試験が始まる。それまでの事を勉強したかい?」

「……ああ、一通りな……だが、実技試験は当日でなければ、無理だ」

「それもそうだ……しかし、君はいつも通りに動けばいい、ISを自分の身体だと思えばいい」

「……気遣い、感謝する……それよりも、約束の物は用意したか?」

 

 一夏の質問に、源次は「うむ」と言いながら頷く。

 

「君が欲しがっていた、あれは全て用意した……あれを準備するのには、少々骨が折れたがね……」

 

 

 

 

「ふう……いいお湯だったな……」

「本当だね〜〜」

 

 その頃、通路では二人の寝間着姿の少女が歩いていた。簪とその従者、本音であった。彼女等は少し前にお風呂に入ったばかりであり、丁度お風呂を終え、自分の部屋へと戻っていた。

 しかし、簪の部屋はジェイソンのせいで少し破壊されており、修復するまでの間、本音の所で寝泊まりしている。

 

「それにしても本音、半蔵さんは大丈夫なの?」

「あ〜〜何とかね、パパは全快に向かっているから、近い内に退院出来るって〜〜」

「そう……良かったね」

 

 本音は裾をヒラヒラと動かしながら喜んでいた。そんな本音に簪は微笑む。どちらも半蔵の無事で安心していた。

 しかし、簪は、美川を喪った事に未だ引きずっているが、前を向かなければならないと思っていた。

 

「……あれ、此処って〜」

 

 刹那、本音はある部屋に気づくと立ち止まった。簪も本音に気づき立ち止まるが訊ねる。

 

「どうしたの本音? あれ、ここって……」

 

 簪は何かに気づく。その部屋とは、一夏の部屋であった。彼は今、従者の一人となっており、屋敷に住む事を許されていあるのだ。

 二人は一夏の部屋に気づきながらも本音が、ある事を思い出す。

 

「そう言えば、オリムーの部屋に入った事ないね?」

 

 本音はそれを簪に指摘した。が、簪もその事を思い出すが、二人は知らなかった……。同時に、本音はある事を思い出し、少し意地悪的な事を思い浮かべる。

 入ってしまおう……そう、考えていたのだ。

 しかし、二人は知らなかった……その部屋には、襖を開けたら直ぐ、ジェイソンが目の前にいるのだという事を……。

 彼は一夏がいない間、一夏の部屋にいるのだ……それは、お留守番的な意味でも、あった……。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。