インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第4話

「…………」

 

 此所は霧に覆われ、周りが湖に囲まれた場所にぽつりと浮かぶ島らしき場所。そこには畑や鶏の養育場に二階建ての一軒家が建っている。

 こんな場所に住人はいない、訳ではない。住人はいた――二人だ。ジェイソンと青年であった。

 ジェイソンは湖近くに佇んでおり、青年はと言うと湖近くで膝を曲げる様に座りながら釣りをしていた。食料の調達でもあるが青年は表情を険しくしていた。

 掛かる気配がない事で不機嫌になっている訳でもない。彼は単に、どのくらい経っているのかを気にしつつも待っていた。

 

「なあ、見られていると気になるんだが」

 

 青年は近くにいるジェイソンに訊ねる。ジェイソンは青年を見ると不意に湖の方を見る。言いたくない――そう思えるが青年は無言で湖の方を見る。

 湖は白く濁っている様に思えるが霧のせいではない。湖には魚が泳いでいるかも判らないがいるにはいる。食用としても食べられるがいないとしか思えなくなる。

 それだけでなく、霧の中では時間が経っているのかも忘れるくらいであり、同時に長くいるだけでも不気味にも思える。霧はあまり発生しない現象として認識されているが視界を遮り、方向感覚さえを失わせる。

 悪いイメージとしかない訳ではない。逆に又、何処か不可思議な現象としても認識されている。しかし、この霧は他の霧とは違う。特別な霧である。

 

「それにしても、この霧はすげえ……」

 

 青年は何かを思い出したかの様に辺りに漂う霧を見る。霧は湖や家の周りを漂うがうっとおしいと言う感情はあった。が、この霧は青年の身体に異常を来したのだ。

 同時に、この霧は青年の運命を変える元凶であるが、それはまた、別の話である。

 

「なあジェイソン――確か俺が此所に来たのは、三年くらい前だったな?」

 

 青年は視線を横の方へと向ける。彼はジェイソンの方へと向けるつもりであったが敢えて振り替えようとはしなかった。彼の言葉にジェイソンは深く頷く。

 青年からは見えないが青年はジェイソンが首を振ったかどうかも判らない中、言葉を続ける。

 

「あの時の俺は酷く怯えていた――自分の無力さに己を責め、同時に家族と言う物に不信感を持った――俺はあの時、此所に来てから自分が何時死ぬのかも判らない恐怖を抱いた」

 

 青年はそう言うと、肩越しでジェイソンの方を見る。ジェイソンは無言のまま佇んでいるが何時も見る光景であり、別に気にもしなかった。

 

「同時にお前に殺されると言う恐怖を抱いた――が、お前は俺を殺さなかった――お前は俺の半霊であり、俺が死のバトルロワイヤルを制する為に決められた半霊だ――それに」

 

 青年は不意に右目を触る。

 

「この右目はお前の右目――同時にお前が俺の半霊になった理由も知った――復讐だ」

 

 青年はそう良いながら右目の事を話し始める。この右目は、ある人物から復元される形で埋め込また物であった。しかし、その右目はジェイソンの幼き頃の出来事を物語らせている。

 夢の中で微かに見える、幼き頃のジェイソンの出来事――それは胸糞悪くも何処か自分と同じ境遇にも感じた。あの時の彼は、ある理由で苛めを受け、誰にも手を差し伸べられなかった。

 唯一の救いは母から精一杯の愛情を受けられた事だろう。が、あの出来事がジェイソンの運命を変える。あの日、彼はキャンプで酷い苛めを受け、挙げ句の果てには頭に麻袋を被せられたまま湖に沈められた。

 誰も助けに来てくれなかった――大人はいたが彼等も……否、これ以上は言わないでおこうと青年は思った。

 

「あの時のお前はあの事が原因で復讐に走った――殺戮を起こしたのもあの時のキャンプ指導員達に復讐し、自分を苛めた者達への復讐だ――そして俺もまた、ある理由でデスゲームに参加した――復讐だ」

 

 青年はそう言うと、手に力を入れる。青年にはある願いがあった――それはバトルロワイヤルを制せば願いが叶う。好きな人に逢いたい――ある人を生き返らせて欲しい――ある事をして欲しい、と言った様々な願いが可能であった。

 一つだけではない、複数は可能であった。そして、青年の願いは、ある物であった。

 

「俺がデスゲームを制してまで叶えたい願いがある……俺を苛め、迫害した者達を絶望へと落とし、俺をこんな目にしたISを排除し、俺を気にもしなかった姉を絶望に叩き込ませる事だ」

 

 青年はそう言うと眉間に皺を寄せる。しかし三年前と言ったのは彼が此所に来てから三年と言う事を意味しているが、彼の正体は一夏、織斑一夏であった。

 彼は三年前、ジェイソンに助けられ、同時にデスゲームに参加しないかと言われたのだ。勿論、一夏は難なく了承した。自分を苛めた者達への復讐――それが彼の願いでもあり、ISや姉を絶望に叩き込むのも理由の一つであった。

 一夏は姉を憎み、姉を追い詰める事で復讐を成し遂げようとしていた。例え自分の手が汚れようが、復讐を成し遂げたいと言う気持ちは強かった。

 一夏は立ち上がり、身を翻すと、そのまま家の中へと戻る。途中、ジェイソンの横を通り過ぎるが彼は気にもせずに扉を開けると、そんな彼をジェイソンは見向きもせず、振り返りもしなかった。

 

 後ろから扉の開閉する音が聴こえたがジェイソンは音にも反応せず何かを見ていた。視線の先は、此所を囲む様に浮かぶ湖。ジェイソンは湖をじっと見ていた。

 何かを思っている様にも思えるが彼は湖には良い印象は無かった。そうだろう、湖は彼が沈められた場所でもある。彼が思う事と言えば湖は二度と見たくないという、強い気持ちがある様にも思える。

 ホッケーマスクの下にある素顔はどんな表情をしているかは判らない。湖に良い印象は無い事だけは判るがジェイソンは一夏に呼ばれるまでその場を動かず、湖を見続けていた。

 

 

 

 その頃、此所はアメリカの某所にある森林地帯。今の時間帯は夜であるが満月がよく見える日でもあった。が、森は不気味にも思えた。夜の森は静寂に包まれて居るが梟の鳴き声が不気味さをより一層強くしている。

 そんな中、森の中を走る囚人服を着た白人男性がいた。男性の表情は恐怖で支配されている。何からかに逃げている。そう物語っていた。しかし、森の中と言っても足場が悪い。

 男が逃げているのは、ある者からであった。羆からではない――何かの異形な存在からであった。彼は昔、殺人を犯して刑務所に入ったが最近脱獄し、そのせいで警察に追われていた。

 森の中に身を潜めていたがさっき、不気味な者と遭遇した。一人であるが手には大きな包丁に自分よりも一回り大きい体格をしていた。それ以上に不気味であったのが顔には白いハロウィンマスクを付けた作業着姿の男であった。

 男はそれに怯え、逃げ出した――これが今に至る。男は森の中を逃げて続ける。刹那、少し先にある人物が上から降りてくる形で現れる。

 

「ひっ!?」

 

 男は突然の事で驚くが不意に立ち止まる。しかし、降りて来た人物は俯きながら跪くずくように着地しているがゆっくりと立ち上がると、男を見る。

 白が混じった様な黒い髪に黒く澄んだ瞳に童顔的な顔立ち。黒いジャケットに黒いズボンに黒いスニーカー。黒を統一したかの様な服装であるが見た目は東洋人であり、二十代にも満たない青年であった。

 青年は男性を見続けていたが表情は険しく、憎悪が籠った様な視線を向けていた。

 

「な、何だてめえは!?」

「…………」

 

 男性は青年に怒るが青年は無言で見据えている。

 

「おい答えろ!? それ……」

 

 刹那、男は後ろに激痛を感じた言葉を詰まらせる。が、男は膝を突くと、そのまま前に倒れた。俯せに倒れた、と言い替えれば良いかも知れないが男の背中には包丁が突き刺さっていた。

 包丁のせいで囚人服の背中部分が微かに真っ赤に染まる。しかし、その包丁を投げた者は奥にいた。その者は無言で青年や男に歩み寄る。森にいたら不気味であろう二メートルを超す巨体に作業着を着て、顔にハロウィンマスクを被っている。そして、包丁は彼の者であり、投げたのも彼であった。

 男は青年と背中に包丁が刺さっている男性に近づく。男は彼等を殺すつもりではない――背中に包丁が突き刺さっている男性を殺そうとしていた。

 青年は眼中には無い――青年は彼の半霊でもあるからであった。そんな彼に青年は何も驚いてはいなく逃げようともしないのが理由であったが不意に呟く。

 

「俺を囮にして正解だったろ? ブギーマン」

 

 青年はそう呟くと、ハロウィンマスクの男、ブギーマンは無言であるが彼は二人の所まで辿り着くと、男性の近くに跪き、背中に刺さっている包丁に手を付けると、勢い良く抜いた。

 包丁の抜かれる音が聴こえたがブギーマンは包丁で男性の背中を何度も刺した。何回かは判らないがブギーマンは刺すのを止めない。

 そんな彼に青年は無言で見ていたが不意に満月の方を見る。満月は綺麗に思えたが青年は満月を険しい表情で見続けていた……。


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