インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第39話

「……どういう事だ?」

 

 源次の言葉に一夏は眉間に皺を寄せる。疑問としか言えなかった。意味不明だとも思っていた。が、隣にいる楯無は反論した。

 

「お、お父さん!? 何を言ってるの!? 織斑君を暗部に入れるなんて、だめよ!?」

「そ、そうですよ!? それに暗部は裏家業を生業とする者達です! それを一般の子供である彼を巻き込むのは間違っています!!」

 

 楯無が反論する中、美和と簪を除き、周りの従者達も源次の言葉に反対していた。それは一夏を暗部に引き入れる事だった。

 彼を暗部にするのは、彼を表社会から抹殺する意味で裏社会へと誘う意味にも近かった。それでも、源次は周りを見ながら答えた。

 

「私の言葉に反対するのは構わん。だがな、私は思うんだ」

 

 源次は一夏を見据える。彼は肩越しであるが視線は源次の方へと向けたまま、何も言わない。理由を聞きたい意味でもあるがそれは彼にしか判らない。

 それでも源次は理由を話す。

 

「私は彼を暗部に引き入れたいのは、彼の行動力なのだよ……」

 

 源次は彼をスカウトしたい理由を話し始める。彼は自分の娘である楯無を返り討ちにした事ではない。彼は誰にも気付かれず更識家から姿を消した事、気配を悟られずに簪の部屋にいた事だ。

 表情は険しいままであるが彼には只ならぬ雰囲気を感じていた。醸し出す空気は殺意に満ちており、楯無の説得にも気にもしなかったからだ。

 いきなり信用してくれと言われても、彼を保護すると言っても彼はそれを警戒していた。人を寄せ付けない何かがある事に気付きながらも、源次はある事も指摘した。

 

「それに私が気になるのは君は織斑千冬の弟でもあるが君は姉さんを拒んでいた。それにもう一つ、君の前にいるその大男だ」

 

 源次は一夏を指差す。否、縁側の向こう側にいるジェイソンであった。ジェイソンは源次に指差されながらも微動だにしない。気にもしていなかった。

 楯無や従者達、一夏はジェイソンを見やるが一夏は視線を源次へと戻す。

 

「どうしてだ? 何故ジェイソンを指す?」

「彼は君の相棒であると言った……それが君を何者かを思わせる事だった」

 

 源次はジェイソンを相棒と言った一夏に対して疑問さえも抱いていた。彼は化物であるジェイソンと共にいる事が何よりの謎であった。

 ジェイソンは今まで見て来た者達とはかけ離れており、それを平然と相棒と言ってのけた彼を警戒しながらも希望を抱いた。

 ジェイソンとは二日前に逢ったのだが彼は、一夏はジェイソンに連れ去られてしまった。しかし、彼は生きていた。殺されてもおかしくはなかったのだ。

 彼が命からがら逃げて来たのではないかと思っていたのだが、生きていたのだ。それも、自分に気付かれずに楯無と半蔵を連れて戻って来たのだ。

 楯無は屋敷の通路に、半蔵は病院の受付に、と。その後、一夏はどこへ行ったのかは判らないが源次は確信していたのだ。それを指摘した。

 

「織斑君……私は思うんだ……君は何時も険しい表情をしている。私自身の推測なのかもしれないのだが私は思うんだ」

「……何がだ?」

「……君には微かに、優しさが残っているのではないか、と」

 

 源次の言葉に一夏は舌打ちした、それだけでなく楯無は驚く。

 

「お、お父さん……それはどういう事なの?」

 

 楯無は驚きつつも訊ねる。が、源次は答えるように話し始めた。一夏に優しさが残っているの理由としては楯無と半蔵を連れて来た事だろう。

 半蔵が死にかけているのに病院へと連れて行った事、楯無を通路へと置いていった事もそうだが。彼からは優しさ等微塵も感じられない。

 気まぐれとも言えない上、見捨ててもおかしくない。なのに彼は連れて来たのだ。他の従者達を喪ったのはつらいが彼は二人だけでも連れて来たのだ。

 それだけではない、彼は更識家にも姿を現した。自分達を気に掛けていたのかも判らないが、ジェイソンに誘拐されかけたのも手を引かせる為の自作自演なのではないかと思っていた。

 姿を消したのも自分達を気遣い、守る為ではないかと思っていた。千冬にあんな態度を取ったのも、姉に対しての微かな情があったのではないか、と。

 

「一夏君……私は君の事は詳しくは知らない。だが、君を暗部に入れたいのはそれだけではない」

 

 源次は楯無を見る。楯無は源次が見ている事に驚いているが源次は再び、一夏を見る。彼は肩越しであるが眉間に皺を寄せている。

 源次が何かを言うのを待っていた。恐らく、楯無関係の事だろうと悟ったのだが彼は何も言わなかった。

 刹那、源次は何かを決意したように深く頷くと、答えた。

 

「君に娘の……刀奈の後ろ盾を任せたいのだ」

 

 刹那、楯無や瞠目し、簪や美和、従者達は目を見開いた。中には言葉を詰まらせる者もいたが一夏は無反応であった。と言うよりも、気にもしなかった。

 が、楯無は源次に詰め寄る。

 

「お、お父さん! それは何でなの!? 織斑君を私の後ろ盾にするって!?」

 

 楯無は源次の言葉に驚きつつも問いつめる。そんな楯無に源次は静かに答えた。

 

「刀奈……お前は更識家の当主であるが、その前は一人の女の子だ、私の娘だ……」

 

 源次はそう言いながら楯無の頭を撫でると、言葉を続ける。

 

「お前は何時も一人で何でも出来る自慢の娘だった……だが、今のお前は自信を無くしている」

 

 源次はつらそうに言葉を続ける。源次は娘である楯無を心配していた。彼女は楯無を襲撃する前は刀奈という名前があった。

 楯無は襲名された物であるが当主となった者達に付けられる物であった。前の名前を捨てなければならないが名残惜しい者達がいるのも事実だった。 

 源次は刀奈に楯無を告げさせた事には後悔してはいなかった。しかし、父として娘を心配しているのも事実だった。彼女は危険な場所を何度も赴いたり、潜り抜けて来たのだ。

 楯無としての使命でもあるが、覚悟さえもあった。幼い頃から楯無の、暗部としての知識を叩き込んだ。今はもう、立派な当主であるだろう。

 が、一人でやる事も多いがそれを補佐する存在が欲しかった。虚という半蔵の娘がいるが彼女一人で補佐出来るとは限らない。戦う時になれば、困るのだ。

 逆に一夏は違う。彼は戦闘面で役立つ存在だろうと、思ったのだ。それに、楯無が自信を無くしているのには理由があった。

 

「刀奈、お前は今、大半の従者達を喪って、自信を無くしている」

「そ、そんな訳ないわ……」

「では何故、半蔵の時は泣いていた? 生きていた事に安心していたからか?」

「っ……あ、あれは」

 

 楯無は目を泳がせる。否、楯無は自信を無くしていた。従者達が死んでいるのに、自分は何も出来なかったからだ。

 半蔵を何度も呼び掛けていたのは虚と本音に約束されたからだ。半蔵が死んだと思って泣いていたのも自分の無力さを感じていたからだ。

 楯無は自分の行動を振り返り言葉を詰まらせる。父の言い分は正論であった。が、源次は楯無を見て気付くが、再び一夏を見る。

 

「一夏君……君に暗部に入ってもらいたいのは刀奈の後ろ盾になってほしいのだ。こんな事は言いたくないのだが、私は君が暗部に入る事を望んでいる。今までの行動もそうであるが、娘の背中を預ける存在が欲しかったのだ」

 

 源次はそう言いながら楯無から放れると、一夏に近づく。刹那、楯無は叫んだ。

 

「だめっ!」

 

 楯無はそう叫ぶ。刹那、一夏は源次が直ぐ近くにまで来るや否や、後ろに回り込みながら源次の腕を捻る。が、源次はもう片方の手で一夏の顔を殴ろうと後ろへと回す。

 しかし、一夏は無言で源次の腕をもう片方の腕で受け止めるように防いだ。此れには源次は驚くが一夏は無言で源次を睨んでいた。源次は腕を捻られながらも微かに笑う。

 

「さ、流石だ……反撃するとは思わんかっただろう?」

「……何度も同じ事を繰り返すのは無理があるからな」

「そうか……だが、此れで確信した……君は暗部に相応しい存在だ……君なら誰よりも強い……それに、あの大男を相棒にしているのならば、彼を手なずけるくらいだからね……」

 

 源次はそう言いながら冷や汗を流すが、一夏は腕を捻る。

 

「ああっ!!」

「お、お父さん!!」

 

 楯無は源次を助けるべく、一夏の元へと駆け寄ろうとした。従者達も動こうとしたが源次は叫ぶ。

 

「動いてはいかん!!」

 

 源次の言葉に楯無や従者達は肩を震わせる。が、源次は言葉を続ける。

 

「い、一夏君……君の本心を聞きたい……君が暗部に入るかどうかは君が決めてくれ……強制はしない……だが、君が望む事があるのならば、私達を利用すればいい……」

「……どういう事だ?」

「君が彼を相棒にしているのは私には判らない……だが君は何かを追い掛けていると、私は感付いている……私達に出来る事があるのならば……君の力になろう……」

「…………」

「無論、君が手を出すなと言えば、私達は何もしない……だが、君が調べ事をしたいのならば力を貸す……その代わり、君を暗部に入れる事のには変わりない……それに私達も君を利用する事になる」

「…………見返りか?」

「そうだ……互いを騙し合う事になるのだが……それでもいいか?」

「…………」

 

 一夏は思考を走らせる。源次の言葉の意味を探っていた。彼は何かを求めているようにも思えたのだ。それは諸刃の剣かどうかは判らないが、一夏は軽く頷いた。

 

「いいだろう……」

 

 一夏はそう言った。それは了承する意味でもあった。楯無達は驚くが源次は冷や汗を流しながらも微笑む。

 しかし、一夏はそれはチャンスだと思った。何故なら彼等を利用する為であり、デスゲームを制する為の駒としか考えていないからだった……。 




 次回の土曜日の投稿はお休みです。次回は、日曜日に投稿します。

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