インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第35話

「痛いか? ……痛いだろうな?」

 

 一夏は鉈を青年の右肩に刺しながら訊ねる。が、彼は鉈をグリグリと動かしていた。

 快楽を得る為ではない、拷問しているのであった。そんな一夏に青年は声を上げるが弱々しく、意識が遠退いていくのを感じた。

 反撃しょうにもその力さえも残っていない。されるがままの状態であった。銃を拾えばいいが左手は使い物にならず。右手だけでも使えばいいがそれさえも出来ない。

 青年は自分の無力さを怨みながらも一夏は手を休めない。

 

「貴様に問う。お前は他のプレイヤーを殺したか?」

 

 一夏は不意に口を開く。冷たい口調であるが慈悲は微塵もない。同時に彼が答えない限り、鉈を更に激しく動かそうと考えていた。

 否、彼は其処まで慈悲を与えるつもりはなかった。理由は、青年が教えている。

 

「が……こ……こた」

 

 青年は微かに呟く程度であった。一夏はそれを見て鉈を軽く動かす手に力を入れる。鉈の先端が青年の右肩に深く突き刺さる。

 此れには青年も「ああ……!」と微かに声を上げるが一夏は無言で動かし続けていた。

 何故なら一夏は気付いていた。彼は拷問するつもりでもあるが青年が上手く話せない事をいい事に聞いていたのだ。

 青年はもうすぐ死ぬ。プレイヤーが一人脱退するのを、この目で見たかったのだ。

 自分は別のプレイヤーを既に倒している。此れで二人目でもあるが彼は敢えて、死に行く時間を与え、早まらせようとしている。

 一夏は瀕死の青年に対して追い討ちをかける中、不意に鉈を引き抜くと、今度は青年の右腕を深く突き刺した。

 

「ああああ……!!」

 

 青年は更に悲鳴を上げる。青年の右腕から血が噴き出るが一夏は気にもせずに、鉈を左右に動かす。

 右腕からは、くちゃくちゃと言う音が聴こえるが一夏は青年の背中を踏みつけている足も軽く動かした。

 青年は更に声を上げそうになるが一夏は冷酷な眼差しを向けながら口を開く。

 

「答えろ……まあ、お前が弱まっているから無理だろうがな?」

「……ぐ……うっ」

「生憎俺は慈悲や情けはかけない。生き残る為には優しさは不要だ……身を滅ぼすからな?」

 

 一夏はそう言うと青年の右腕から鉈を抜くと、今度は青年の左肩を刺した。青年は声を上げなかった、否、出来なかったのだ。

 声を出す力はもうないからだ。青年の微かな抵抗は愚か、それさえもない。青年は苦しそうに目を閉じるが、目を負傷している為、無駄に等しかった。

 しかし、一夏は青年の背中を踏みつけた足を退かす意味で離れさせると、今度は青年の後頭部を踏みつけた。グリグリと足を動かすが拷問にも等しい行為であった。

 既に拷問であるが一夏の表情は無表情に近いが眉間に皺を寄せている。怒り、憎しみと言った感情が見て取れるが慈悲はない。

 

「苦しいか? 痛いか? まあ、無理だろうな?」

 

 一夏はそう言いながら鉈を動かす手を止めず、足も止めない。青年に苦痛を与えているのだ。青年は二つの激痛に耐えきれず歯を食い縛る。

 それでも一夏は休む手を止めない。拷問はまだ続く、そう教えていたのだ。

 刹那、一夏や青年の所から棒状の物が飛んできた。それは鉄パイプであるが一夏目掛けて突き進む。

 一夏は眉間に皺を寄せながら倒れるように躱したが鉄パイプは奥の方へと消えて行った。が、青年から離れてしまう。

 青年は一夏の拷問から解放された意味にも近かったが死にかけていた。出血多量で死ぬ危険もあった。輸血しなければ命の危険が迫っている。

 一方、一夏は起き上がるが鉄パイプが飛んできた方を見る。そこから大きな走る足音が聴こえた。

 その音はどんどんと大きくなっていくが一夏は鉈を持っていなかった。鉈は青年の左肩に突き刺さったままであった。

 しかし、一夏はそれに気付きながらも身構える。そして影が見えた。その影は大きいが大男であった。

 

「おま……」

 

 一夏は何かを言い掛ける前に、姿が判断出来た。ブギーマンであった。彼は青年の命の危険を察知し、復活したのだ。首筋を切られながらも何故か復活したのだ。

 一夏は舌打ちしたがブギーマンはそのまま一夏に体当たりするように走り続ける。一夏は身構え続けていたが受け止める体勢であった。

 ブギーマンが直ぐ近くまで来たがブギーマンは突然、消えた。一夏は目を細め続けるが何かに気付き、風のように消えた。

 刹那、一夏が消えた後の場所にブギーマンの腕が振り下ろされる。それは空を切ったようにも思えるがブギーマンがいた。

 彼は一夏の背後へと移動したのだが、一夏がそれを先回りする意味で風のように消えながら回避したのだ。

 ブギーマンの攻撃は無駄に終わったがブギーマンはそのまま前のめりになりそうになるが何とか踏ん張ると、ゆっくりと顔を上げる。

 

「…………」

 

 ブギーマンは辺りを見渡す。彼の気配はなかった。あったとしても戦う姿勢だけは崩さないようにしていたが不意に、ある方を見る。

 青年であった。青年は死にかけている。息は微かにしているが意識はない。手当をしなければ危険であった。

 自分は青年の半霊であるがブギーマンは何かを思いついたのか、彼に近づき、肩に担ぐ。

 そして、前線離脱と言う意味で風のように消えた。それは、青年が一夏に負けたのと、一彦に負けた事を意味していた。

 

 

 

 

 その頃、一夏はある場所に移動していた。彼がその場所へと現れると、彼は眉間に皺を寄せる。

 そこはジェイソンと楯無、半蔵がいる壁近くの場所であった。しかし、ジェイソンは俯せに倒れたままピクリとも動いていない。

 それだけなら未だしも、楯無が煩かったのだ。

 

「半蔵さん……っ」

 

 楯無は泣いていたのだ。彼女の近くには壁に凭れ掛かりながら座っている半蔵がいた。

 彼は項垂れていたが動く気配はない。息もしていない。誰から見ても死んでいるようにも思えるが一夏は何かに気付いていた。

 が、彼は軽く動くと、ジェイソンの近くで屈む。

 

「……っ!?」

 

 楯無は気配に気付き、振り返る。一夏がいた事に気付いた。

 

「お、織斑……君!」

 

 楯無は一夏がいた事に驚くが涙は止まっていない。しかし、楯無が泣いているにも関わらず、ジェイソンの背中を軽く揺らす。

 

「おい、ジェイソン、いつまで寝てる」

 

 一夏はジェイソンの事を気にしていた。これには楯無も驚くが彼女は泣きながら怒る。

 

「何を言ってるの!? 其奴は私が殺したわよ!」

「……それが何だ?」

「死んでいるわよ! そんな奴よりも半蔵さんよ! 半蔵さんは……半蔵さんは……うっ」

 

 楯無は更に涙を流す。彼女は半蔵が死んでいると思っていた。動かないのもそうであるが楯無はもう一つ、後悔していたからだ。

 それは半蔵の娘達である布仏姉妹からのお願いであった。

 父である半蔵と共に生き残って欲しいと約束された事だ。しかし、その約束を果たせなかった。その意味でも泣いているのだが一夏がその事を気にもしない事に怒っていた。

 

「貴方は何とも思わないの!? 人が大勢死んでいるのかもしれないのよ!? 半蔵さんだけじゃない! 山岡さんや武藤さん達も皆……半分以上の従者が皆……皆……ううっ」

 

 楯無は嗚咽を上げる。従者達の死や半蔵の死が彼女に大きな負担を抱えていた。当主としても従者の死は重く受け止めるつもりであった。

 が、流石に多過ぎると彼女には負担しかないのだ。半蔵までもが喪った事は彼女にはつらいのだ。

 楯無は従者達の事を思い出すが、一夏の無反応にも怒りが沸きながらも項垂れながら泣いた。

 

「山岡、さん……武藤、さん……皆……」

 

 楯無は従者達の名を言う。そして……半蔵の名を言うが……。

 

「半蔵さん……ごめんな、さい……虚、ちゃん……本音、ちゃん……」

 

 楯無は半蔵の名と布仏姉妹の名を言った。謝罪と言う意味でもあり、罪悪感からの言葉でもあった。

 謝っても半蔵は帰ってくる訳でもない、布仏姉妹に謝っても半蔵は死んだままであり、自分を許さないだろう。

 楯無はそう思い泣き続ける中、一夏は無言で見ていた。彼は視線をジェイソンの方へと向ける。彼はまだ俯せに倒れているが彼の身体が一瞬だけ微かに動いた。

 一夏はそれを見た後、不意に半蔵を見る。彼からは動く気配はないが一夏は何かに気付いていた。

 が、それを言うつもりはなかった、彼はめんどくさいと思っているが無駄な時間である事にも気付いていた。

 しかし、言わなければ楯無は更に煩くなると思い瞑目すると、直ぐに瞼を開いた。眉間に皺を寄せているが立ち上がると、楯無に近づく。

 

「おい」

 

 一夏はそう言いながら彼女の前に屈むと、そう訊ねる。一夏の言葉に楯無は顔を上げる。涙でくしゃくしゃになっていた。

 そんな楯無に一夏は何も言わなかったが、楯無は何かを言い掛けた。

 

「うっ!?」

 

 刹那、楯無は首筋に激痛を感じた。彼女は声を上げたが意識が遠退いてくのを感じた。

 そして、彼女が最後に見たのは眉間に皺を寄せ続けている一夏であった……。


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