インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第34話

「…………」

 

 一夏がブギーマンを殺した頃、青年は両手にある二丁の銃で辺りを探索していた。彼が捜しているのは夢見一彦という、自分や一夏と同じプレイヤーである。

 彼は一彦を抹殺するべく、倉庫内を歩いていた。倉庫はとても広い為、問題はなかった。

 彼は一夏と一対一を所望した際に此処を選んだのは、隠れる場所や暗い場所が多く、うってつけな場所でもあったからだ。

 青年は自分が勝つと言う自信があったのは、暗殺が得意であったからだ。それも隠れながらや暗闇の中なら尚更である。

 暗視ゴーグルが辺りを捜すのにはうってつけなアイテムでもあった。

 青年は辺りを探索する中、不意に大きな音が近くから聴こえ、銃を構えながら音がした方を見る。

 其処には何もなかった。否、誰かが横切ったようにも思えたのだ。足音は聴こえなかったが誰かがいたのだ。

 

「……ちっ」

 

 青年は舌打ちする。

 

「僕は後ろだよ?」

 

 刹那、後ろから声が聞こえ、青年は驚きのあまり、直ぐに振り返るが眩い光が青年の顔に当てられる。

 

「うがあぁぁ……!」

 

 青年は光を諸に見たがその所為で悲痛の叫び声を上げながら銃を落とすと、直ぐにでもゴーグルを外し放り捨て、目を押さえながら踞る。

 

「目が……目がああ……!」

 

 青年は目を押さえながら悲痛の叫び声を上げる。青年は暗視ゴーグルを付けたまま光を見てしまったのだ。

 その所為で目を思いっきりやられ、失明の危険をも伴わせていた。暗視ゴーグルが青年の役立つアイテムだけでなく、視力を奪う危険なアイテムともなってしまった。

 青年は目を押さえ続ける中、光の正体は懐中電灯であり、それを持っていたのは美川恵に変装した夢見一彦であった。

 一彦は懐中電灯を下から照らすように顔に近づけながら、青年の近くで屈む。

 

「どう? 目、痛い?」

 

 一彦は青年に訊ねるが、青年は目を押さえ続けている。

 が、一彦は子供のように無邪気に笑っていた。懐中電灯の光で尚更不気味であるが一彦は言葉を続ける。

 

「痛いみたいだね? それはそうだもんね? そんなコーグルを付けたまま見たらあれだけど、僕には全然、関係ないもんね〜〜でも、君は物凄く運が悪いよね〜〜」

 

 一彦は笑いながら言うが、青年は目の痛みをこらえつつ手を退かすが、近くに落ちていた拳銃を拾おうとした。

 刹那、一彦は風のように消えた。青年は少し驚くが辺りは暗く、一彦が何処にいるのかも判らず、歯を食い縛る。

 

「大丈夫、僕は君を殺さないよ〜〜」

 

 近くから一彦の声が聞こえるが青年は下唇を噛む。出来る事なら暗視ゴーグルを付けたかったが目を負傷している為、動けないでいる。

 しかし、一彦が自分を殺さないと言う事に不信感を抱いた。殺すチャンスがあるにも関わらず、彼は何故そんな事を言ったのかを疑問さえも感じた。

 そんな青年の一彦は言葉を続ける。

 

「僕の目的は君の排除でもないし、織斑を殺す為でもないよ?」

「……んだと」

「僕の目的はね……君達二人がプレイヤー達が殺し合うのを見に来ただけだよ〜」

 

 青年はそう言った後、くすくすと笑う。狂っているようにしか思えないが更に言葉を続ける。

 

「でも君も馬鹿だね? ブギーマンとだけで織斑に勝てるの? それに彼には強力な後ろ盾達がいる事には気付いていないの?」

 

 一彦は少し嬉しそうに指摘した。何故なら一彦は青年を馬鹿にしていた。彼自身、一夏の事を調べていたのだ。彼に目を付けたのは彼がISを動かし、更には自ら学園に現れた頃であった。

 一彦自身も最初は気にもしなかったが、男性操縦者が自ら学園に姿を現すのはおかしいと思っていたのだ。

 身を保護される意味にも近いが、自分達が活動を再会出来る意味にも近いと感じていた。

 それは一夏がプレイヤーの一人であり、自ら現れたのは自分達をおびき出す為ではないかと感じた。

 その結果、一夏はプレイヤーの一人である事に気付き、同時にもう一人のプレイヤーである青年が一夏を狙っている事に気付いたのだ。

 青年は一夏を保護したのは更識家の従者達を殺している事にも気付いたが、彼もまた、一夏が更識家の面々に保護されている事にも気付いたのだ。

 

「それにしても君が何故、更識家の人達を殺したのかは判らないけど、君も大胆だよね〜まさか、IS学園の……まあ、今はいいか?」

 

 青年は話題が逸れている事に気付くと、ある事を思い出した。

 

「まあ兎に角、僕の目的はこれで終わり。僕はこれから色々とやる事があるけど、君は相手を調べた方がいいよ? バイバイ〜〜」

 

 一彦はそう言ったが彼の気配はしなかった。本当に消えたのだ。戦線離脱という意味でも一彦は消えたのだ。

 が、彼は青年に対して一苦労させる意味でもあり、重要な事を見落としている事を教えていた。

 前者は更識家の従者達の相手をしてもらうのと、後者は調べる意味でもあったのだ。

 一彦の言葉に青年は目の痛みを堪えつつも近くに落とした二丁の銃を拾おうとした。が、目の負傷が仇となっているのか瞼を思うように開けられない。

 青年は下唇を噛むが戦線離脱する事は出来なかった。逃げた事にもなるなのだ。

 それだけは許せなかった。青年は何とか銃を身構える。刹那、後ろから気配を感じ振り返った。

 直後銃を発砲した。同時に銃声が響くが直撃した音は聴こえない。外れたのだ。

 青年は驚くが瞠目した。彼は背中に激痛が走ったのを感じたのだ。否、彼は背中を斬られたのだ……鋭利な刃物で。

 

「……がはっ」

 

 青年は銃を落とすと、膝を突き、そのまま俯せに倒れる。青年の背中には斜め一文字の切り傷が出来ていた。

 青年の周りには赤い鮮血が血の海を作るよう広がり、傷口からが微かに血が噴き出ていた。致命傷ではない。それは手加減しているようにも思えた。

 そして、彼を斬ったのは一夏であった。彼の服には青年に返り血が付着しており、手には青年の背中を斬ったであろう鉈を手にしている。

 その鉈は家に戻り再調達したのと、青年を捜す為に辺りを歩いていたのだ。

 青年は一彦と会話をしていたとは言え、一夏に捜す猶予を与えてしまったのだ。青年は背中に走る激痛と収まりつつも目の痛みで司会がぼやけて見える中、一夏は青年の横に歩くと、青年の背中を踏みつける。

 

「がああ……っ!」

 

 青年は背中を踏みつけられ悲痛の声を上げようとしたが背中の激痛が勝っていたのかあまり上げられないでいる。

 それでも一夏は青年の背中をグリグリと動かすように踏み続けた。

 青年は声を上げそうになるが一夏は青年を無表情で見下ろしていた。嘲笑う意味でもなく、Sでもない。彼は青年をジワジワと追い詰めながら嬲り殺そうとしていた。

 本当ならば直ぐにでも殺したかったのだが、電話ごしで会話した際、彼が「勝つのは俺だ」と聞いた時には怒りを隠しきれないでいた。

 ならば、その何処からかも判らない自信を粉々に砕いてやる意味でも、追い詰めようと考えた。

 

「……どうだ? 自分の立場をどう思う?」

「……そ……その、声、は……」

 

 一夏は氷の様な冷たい口調で青年に訊ねる。無慈悲でもあるが敵対プレイヤーである為、容赦せず、情けもかけないと、考えていた。

 一方、青年は声で一夏である事に気付くが更に、ある事にも気付いた。しかし、声は上手く出せなかった為、それを言えなかった。

 それだけでなく、それを代弁するように一夏は更に冷酷な事を言う。

 

「ブギーマンは死んだ。残るは貴様だけだ」

 

 一夏はそう述べると、青年は目を細める。ブギーマンがやられた。青年はそう思ったのだ。一夏が此処にいるのも、ブギーマンが倒された事を意味している。

 青年はそう思っていたが彼は知らなかった。半霊である殺人鬼には其々、ある秘密がある事を。

 勿論、青年や一夏はその事を知らない。殺人鬼は何故、半霊であるのかを……。

 青年はブギーマンがやられた事に驚く中、一夏は手に持っている鉈を逆手に持ち帰ると、鉈の先端を青年のある場所へと向けた。

 そこは青年の左手の甲だった。一夏は鉈の先端を向け続けるが一夏の瞳には怒りはない。あるのは、無関心であった。

 一夏は青年を殺すつもりであったが彼はやる事として最初の意味で、鉈で青年の甲を深く刺した。

 

「ああああ……!!」

 

 青年は甲を刺されるが手の甲からは血が出ている。チクッとした感覚ではない。深く突き刺さっている為、激痛を感じていたのだ。

 しかし、一夏はそんな事を気にもしなかった。同時に彼は何かを思ったのか鉈を引き抜く。

 微かに音がしたが一夏は鉈の先端を、青年の右肩へと突きつける。彼の表情は無表情であるが慈悲はない。

 そして、その意味で彼は鉈で青年の右肩を刺した。

 

「あああ……!」

 

 青年は悲痛の声を上げるがさっきよりも弱々しかった。が、一夏は無言で鉈を微かに動かし続ける。

 グチュ、グチュ、と言う痛々しい音がするが一夏は青年を殺す前に愉しむと言う意味で拷問をするつもりでもあった……。

 

 


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