インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第3話

「取り敢えず、今の状況を……否、俺達の他のプレイヤー達を調べよう」

 

 あれから一時間後、青年とジェイソンは向かい合う様に座っていた。ジェイソンはホッケーマスクを付けている為、どんな表情をしているのかは判らない。

 一方、青年は眉間に皺を寄せているが彼はジェイソンに怒っている訳ではない――彼は、ある理由で怒っていた。それは自分の他にもいるプレイヤー達の存在――自分もプレイヤーであるが他のプレイヤー達と遭遇した場合、殺し合うのがルールであった。

 と言ってもプレイヤーは何人いるかまでは把握出来なかった――訳ではない。プレイヤーは元より、ジェイソン同様の殺人鬼達の存在だけは知っていた。

 その殺人鬼達の正体は――青年とジェイソンがいるテーブルの上にある数枚の写真で確認出来た。が、四枚だけが赤ペンでバツにされている。

 プレイヤーと言っても、彼等一人一人には殺人鬼が一人に一体、お伴として従う事が出来る。

 そして青年もデスプレイヤーの一人であるがジェイソンがお伴でもあった。

 

「取り敢えず、殺人鬼達の存在を知るぞ」

 

 青年はそう言いながら写真の一枚一枚をジェイソンにも判る様に教える。写真には隠し撮りされたかの様な一人一人の人物が写っている。が、人とは言えるかどうかも判らない異形な存在達ばかりであった。

 

「俺達が確認出来る全ての殺人鬼はレザーフィエス、ブギーマン、ゴーストフェイス、チャッキー、ピンヘッド、フィッシャーマン、ペニーワイズ、ハリーウォーデン――それとフレディ・クルーガー」

 

 青年はそう言いながら一枚一枚、異形な存在達の名を言う――が、言葉を続けた。

 

「だが、フィッシャーマン、ペニーワイズ、ゴーストフェイスは他の奴等に殺された為にプレイヤー達と共に脱落、ハリー・ウォーデンは既に俺達が殺した」

 

 青年はそう言うと、バツにされている写真を除外する様に纏めるが、その内、一枚の写真を手に取ると、眺めた。その写真には炭鉱内をバックにしながらライト付きヘルメットを被り、ガスマスクを着けた人物が写っていた。

 彼はハリー・ウォーデン――青年とジェイソンが彼や彼のプレイヤー達同様かは判らないが多くの人間を殺した相手でもあった。青年は自分が初めて殺した相手が彼のプレイヤーである事に驚愕はしつつも無慈悲にも、思い出としても片付けている。

 

「……兎に角、生き残ったのは俺達を含めて六人――その内生き残れるのは一人のみ、か」

 

 青年は写真をテーブルの上に置くと、軽く溜め息を吐く。一方、ジェイソンは写真を見ていたが、ある写真を手に取ると、それを眺めた。が、その写真には暗闇をバックにしつつも、茶色の中折れ帽を被り、右手にある鉤爪が妖しく光っている。しかしそれ以上にインパクトがあったのが顔が火傷しているのか焼け爛れた顔が特徴的な男性であるが笑っていた。

 ジェイソンはその写真に写る者を見て何かを思っていた。と言うよりも何処か怒りをも感じていた。何故かは判らない――怒りは自然と込み上げてくる。

 ジェイソンは写真を眺めている中、青年はジェイソンが手に取った写真に写っている者に気付く。

 

「フレディか? 其奴がどうしたんだ?」

 

 青年はジェイソンが手に取った写真の者を知っているが敢えて知らない振りをしてジェイソンに訊ねる。ジェイソンは無言で見続けていたが写真をテーブルの上に置く。刹那、ジェイソンはもう片方の手――否、逆手で持っている、ある物を写真に突きつけていた。

 それは先端が鋭いアイスピックであり、それを写真に突きつけていたがそれで写真を刺す。グサッ! と言う音が微かに響くがそれはフレディに良い印象は無いのと、殺したいと言う願望が見て取れる。

 ジェイソンの様子に青年は頬杖を突くと呟いた。

 

「おいジェイソン……テーブルを傷付けるな……と言うよりも、お前の力でだと壊れる」

 

 

 

 

 

 その頃、此所は東京の某所にある大きな豪邸。和を象徴としているのか和式を特徴とした屋敷だった。長い歴史がある様にも思えるが大雨のせいか不気味にも思えた。

 電気は点いているものの、夜であり、大雨のせいでもある為、不気味さの方が勝っている。

 そんな中、屋敷内にある、とある和室。そこは襖や障子等の物は兎も角、生け花や掛け軸等が置かれているが照明も設けられていた。

 しかし、電気は点いていない。部屋自体は暗い物の、完全に暗い訳ではない――小さなフロアライトも設けられており、電気が点いている。

 そして、和室には二人の人物が座布団の上で正座していた。何方も年が離れているが壮年の男性と十代後半に差し掛かる少女。

 壮年の男性は皺がある物のがっちりとした顔立ちに短めの白髪に黒い瞳。薄紫色の和服を着ているが何処か落ち着いており、貫禄もあり、年長者としての雰囲気も醸し出されている。

 一方、少女の方はと言うと可愛らしい顔立ちに外側に跳ねた一部の髪が特徴な長めの水色の髪に紅い瞳。白いブラウスに黒いスカートを穿き、白い靴を履いている。

 少女の壮年の男性を見る表情は険しく、紅い瞳には何処か決意を固めている様にも思える。男性も険しい表情をしているが何方とも崩す気配はない。

 二人がどんな話をしているのかは当人達にしか判らないだろうが彼等は何かを話していた。

 

「最近、この東京近辺で起きてる連続殺人事件の捜査、ですか?」

 

 少女が壮年の男性に訊ねると、壮年の男性は腕を組みながら「うむ」と答えると、その事を説明した。最近、東京の至る所で猟奇的な連続殺人事件が発生していた。

 首をあらぬ方向へと曲げられながら殺された者、両目を何かの鋭利な物で抉られた者、腕や足をあらぬ方向へと曲げられ頭を両側から挟まれそのまま押し潰された者達であった。

 何れも吐き気を催し、猟奇的な殺人事件である事を意味させているが少女は表情を崩さない――が、心の中では血の気が引いていくのを感じた。

 惨い、酷い――そう言った気持ち悪い感情を今直ぐにでも吐き出したかったが男性の――否、父親の手前、それは出来なかった。しかし、ある事も父親は言った。

 

「判らない事はその被害者全員が加害者でもある事だ」

「加害者、ですか?」

「うむ――その者達は少し前まで殺人を犯した者達ばかりであり、指名手配もされている」

「そうですか……その者達が殺されたのは兎も角として、何故私達が?」

 

 少女は父親に訊ねると父親はその訳を話す。理由は警察が手を挙げたからであった。それは証拠が無い事、凶器らしき物が見つからなかった事、何より犯人らしき者の手がかりが全くと言っていい程、何も無い。

 どんなに小さな物を見つけようにも手掛かりが一つも無く、捜査は行き詰まっていたからだ。何より問題なのは、あの事であった。

 

「そのせいかマスコミが今、その事を独自で追い掛けている――同時に警察への失望、何よりマスコミ経由から世間はその者達を殺した者を正義の使者とかヒーロー、と言う騒ぎになる危険もある」

 

 父親の言葉に少女は苦虫を噛み締める表情を浮かべる。それは少女にとって馬鹿らしくも不愉快な気分になる。人を殺しているのにヒーロー気取りにされるのも馬鹿らしく思える。

 世間が犯罪者は死ぬべきだと言っても彼等を裁くのは法律であり、人では無い。少女はそう思いながらも冷静さを欠かない様にしていた。

 

「それで本題に入りますがそれは誰からの命令ですか?」

「……政府からだ――政府からは警察が、この事件に手を焼いている警察の為らしい――否、政府が警察に恩を作る意味でも私達に請け負わせるつもりだろう」

「……っ!」

 

 父親の言葉に少女は下唇を噛む。政府がそう言った理由で自分達を使う事に怒りをも感じていた。自分達は政府の犬ではない――自分達は利益の為に動く為に存在する組織ではない。

 少女は下唇を噛んでいるが怒りは感じていた――そんな少女に父親は溜め息を吐いた。呆れいている訳ではない、父親は少女に、娘に対して申し訳ない気持ちで一杯だった。

 娘は今、自分の跡を継いでいる――喜ばしい事だが何処か不安が拭いきれない。娘に自分の跡を継ぐのは未だ早い――否、継がせる事に抵抗感はあった。

 小さい頃から当主になる為のイロハを叩き込んだが出来る事なら娘には、青春を謳歌させたかった。普通に学園生活を送らせ、普通に恋をし、普通に家庭を持ち、普通に母親になって欲しかった。

 が、跡目を継げるのは彼女しかいなかった、否、もう一人の娘もいるが姉妹はギクシャクとしていた。出来る事なら和解してほしい――そう思うと共にある願いもあった。

 ――誰かいないか、娘の傍に支えられる者で、否、跡目としても相応しい者がいないのか――と。父親はそう思いつつもそれを言わなかった。

 言えば娘を傷付けるだけである事にも気付いていた。が、出来る事なら他の者に継がせたい――父親としての、純粋な願いでもあった。


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