インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第29話

「えっ……」

 

 美川の言葉に楯無は瞠目した。一夏が見つかった? それは楯無にとって嬉しい事であった。同時に安心感が沸いてきた。

 楯無は瞠目し続けるが半蔵は美川に問う。

 

「み、美川! 織斑君は何処に!?」

 

 半蔵は慌ただしく問い掛けるが美川は肩で息をしながらも何とか落ち着きを取り戻すと、静かに語る。

 

「い、いえ、ここにはいません、今は……それよりも水を下さい……私、この屋敷を来るまで走っていましたから……」

 

 美川は肩で息をしながらそうお願いした。これには半蔵は驚くが、源次は楯無に「水を持ってきてあげなさい」と命令した。

 これには楯無は驚くが彼女は慌てて立ち上がると、部屋を出て、水を持ってくる為に通路を走り出した。

 その間に美川は落ち着こうとして深呼吸をしていたが、源次と半蔵は微かに一夏が見つかった事への安心と、あの大男からどうやって逃げたのかに疑問を持っていた。

 会話はない。彼等は楯無が来るまで、その場で待機していた。

 

「それで、織斑君は何処に?」

 

 数分後、源次の部屋では源次と楯無、従者の半蔵と、そして一夏の居場所を知った美川がいた。全員正座しているが美川の手には楯無が持ってきたコップがあった。

 中に注がれている水は美川が飲み干したが今は落ち着いているのか安堵していた。が、他の三人は険しい表情をしていた。理由は織斑一夏の無事である事だ。

 それは更識家が望み、更識家が安堵し、不安にもさせている。三人は美川が一夏の事を話すまで落ち着いているが不安を隠しきれないでいた。

 本当ならば問いつめたいが冷静さを欠いては更に混乱する事態に陥るのではないかと察していたのだ。美川は軽く溜め息を吐く。

 

「ふう……では、言いますね」

 

 美川は三人に言うと三人は頷く。そして、美川は静かに語った。実はあの時、美川は他の従者達と共に街を探索していたが彼を見つけたのだ。

 彼はデパートのエントランスに居たがそこは謎の死を遂げた青年がいたエントランスであった。彼が何故そのにいるのは判らないが彼女は一夏に声をかけたかった。

 が、また逃げられると思い他の従者に連絡し、他の従者に一夏見つけられないように尾け、自分は更識家の屋敷へと戻ってきたのだ。

 

「申し訳ありません……私では彼に見つかると思い、他の従者に頼みました……」

 

 美川はつらそうに頭を下げる。これには源次と半蔵は怪訝な表情を浮かべるが美川の話を疑っている訳ではない。

 彼女の話には一夏の名があるが彼はどうやって大男から逃げたのかを疑問に思っていた。出来る事なら疑いたいが信憑性がない訳ではない。

 美川の話を信じるべきか、それとも疑うべきなのかと迷っていた。そんな二人を他所に楯無は静かに耳を傾けていた。

 一夏が生きていた。楯無にとっては嬉しい事であった。しかし、不安も拭いきれないでいた。彼はまた自分を拒絶するのだろうか? また信用しないと言うのだろうか?

 楯無にはその二つの言葉が重く伸し掛る。どちらも負であるが楯無はどうするべきなのかを悩んでいた。

 また手を差し伸べるべきなのか? それとも、今度は強行突破という形で取り押さえるべきなのか、と。何方かと言えば後者の方が濃厚であるが仕方ないのだろう。

 あれは命を狙われているのだ。女尊男卑主義者達か、あの大男か、それとも第三者の何者達かが彼を狙っている。

 が、大男の方が危険だ。あの……否、あの化物は警備を何ともないように思いながら簪の部屋に侵入し、尚且つ一夏を連れ去ったのだ。

 それだけでなく、あの馬鹿力はISを使わなければ勝ち目は……否、勝てるかどうかも怪しい。相手風のように消え、不意打ちも得意ような奴だ。

 自分が勝てるかどうかも怪しい。出来る事なら他の従者達を使ってでも倒さなければならない。そう思っていた。

 

「……織斑君が見つかったのはいいが、お前達に話がある」

 

 源次はつらそうに口を開いた。それは村木の死を知らせる為であった。源次の口調に楯無と美和は何かに気付いたが半蔵は気付いていた。

 彼は、半蔵は源次の言葉を聞いて俯くが彼は従者の死を誰よりも哀しんでいた。村木は部下の中では強者の部類に入るが彼も簡単に倒されてしまったのだ。

 半蔵は源次を見る。彼もつらそうであったが半蔵は静かに耳を傾ける事を選んだ。

 一方、源次は口ごもっていたが、ここは正直に話すしかないと思いつらそうに項垂れると、ゆっくりと教え、語った。村木の死を……。

 

 

 

 

 

 その頃、ここは東京にある路地裏。そこは今までの場所とは違い、人が通るとは思えない場所であった。通るとすれば、野良猫かk棚居場所を好むドブネズミくらいだろう。

 奥はとても暗く、今の時間帯は八時を回る頃だが雨であり、視界を遮る意味や不気味さを醸し出している。そんな場所には一人の青年がいた。

 彼はブギーマンを引き連れ、武藤、山岡、木村、伊藤を殺害した青年であった。彼は今、傘を差さずに立ち尽くしていた。彼の表情には何の感情も含まれていない。

 同時に彼の視線は下の方へと向けられている。そしれ彼の視線の先には一人の女性が仰向けに倒れていた。黒く長い髪で容貌は悪くない方であった。

 黒いスーツを着ているが息はしてない。辺りには血の海が出来ているが胸には何かの鋭利な刃物で貫通されている痕があり、肉が少し顔を覗かせている。

 瞳孔も開いたままであり、口をぽかんと開いているようにも見えるが端には血を流している。それだけでも女性は死んでいる事を物語らせているが彼女を殺したのは青年ではない。

 彼は次の標的を彼女に決めていたが彼が来た時には、既に殺されていたのだ。無駄足とも思えるが青年は片膝を突くと、女性の服を調べる。

 これといった手掛かりはないが青年はある物を手にした。財布であった。青年は財布の中を調べる。お札、カード、小銭といった物が入っていたが、ある物も入っていた。

 一枚の写真であった。青年は写真を見ると、ある人物達が写っていた。プリクラの写真だが背景は兎も角、水色の髪に眼鏡を掛けた紅い瞳の大人しそうな少女に、この死体の女性が仲良く写っている。

 微笑ましそうな写真であるが遺品の一つにしか過ぎなくなった。同時に彼女の笑顔はもう、写真の中でしか見られないのだろう。青年はそう思いながらも他人である為、気にもしなかった。

 しかし、青年は彼女の遺体を見て何かに気付く、カードであった。中には保険証もあるがそこには「美川 恵』、そう書かれていた。

 そう、彼女は美川であった。彼女は何者かに殺されていた。犯人の目星はつかない。否、青年は直ぐに気付いた。

 

「……やったのは、奴か?」

 

 青年は犯人の目星はついていた。否、疑わしい物がいた。夢見一彦、奴がやった、と思っていた。推測ではない、青年は致命傷とも言える胸の傷口が鋭い物で貫通されている事だった。

 青年は不意に美川を見る。彼女は瞳孔も開いたままであるが息はしてない。それだけでも死んでいる事は誰の目にも明らかであるが青年は不意に、ある事にも気付いた。

 

「……まさか、ちっ」

 

 青年は舌打ちすると美川を抱える。死後硬直であるのか重かった。しかし、青年は美川を抱えたまま、風のように消えた。血の海はまだ残っていたが、この大雨の事だ、雨水と共に流れるだろう……。

 それとも、誰かが発見されるまで、誰にも気付かれないだろう……。

 

 

 

「そ、そんな……む、村木さん、まで……!」

 

 楯無は今、源次から村木の死を教えられた。それは惨たらしい死であった。口にするもの、聞くだけでも吐き気を催す。楯無は口元を両手で押さえている。

 吐き気がするのではない。彼女は信じられないと言わんばかりであった。これで従者は五人も死んだのだ。武藤、山岡、木村、伊藤……そして村木。

 これで五人だが彼女は知らなかった。否、楯無と源次、半蔵は知らなかった。犠牲者はもう一人、即ち六人目がいるのだ。それは美川である。

 美川は既に死んでいるが彼女は今、生きている。それは偽物であるが楯無、源次、半蔵の近くにいるのだ。が、彼女は内心、微かに笑っていた。

 美川を殺したからではない、村木を殺したのは自分だ。そう思うと笑わずにいられなかった。今は微かに笑いたいがそれを隠す意味で外側、つまり表情はつらそうにしていた。

 楯無は村木の死を嘆き、美川は村木を殺した事で悦びを隠せない。源次はつらそうに語った後も項垂れ続けており、半蔵は下唇を噛み締めながら身体を震わせていた。

 重苦しい空気が室内に流れる。一部は違うがそれは儚い意味でも気付かれていない。この空気を打ち破るのは誰なのか? それとも誰かが出てくるまで続くのか、それは誰にも判らなかった。

 刹那、携帯の着信音が響く。これには全員驚くが音の場所は美川のポケットからであった。美川は突然の事で驚くが彼女はポケットからある物を取り出す。

 それは携帯であった。音の主は携帯であったが小さな画面にはある人物の名が映し出されていた。それは『木村』であった……。


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