インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第26話

「…………」

 

 その頃、ここは簪の部屋。部屋には簪がいるが彼女はベッドに腰掛けながら項垂れていた。近くには虚や本音はいない。二人は簪に「一人になりたいと」と言われたのだ。

 二人は簪の気持ちを察知し部屋を出たが部屋の外にはいない。事実、一人しかいない。彼女が項垂れているのには理由があった。それは従者達の死であった。

 武藤、山岡、木村。彼等は一日で帰らぬ人となった。木村は兎も角、武藤や山岡はさっきまで生きていたが自分や母、美和や従者、美川が家に戻る為に歩き出した後、殺されたのだ。

 犯人の目星はなく、手掛かりもない。が、簪は従者達の死を嘆き悲しむ。否、出来なかった。彼女は項垂れていた。彼らの死が彼女にはつらく、あれが最後の会話である事に哀しんでいた。

 刹那、簪は目に涙を浮かべる。涙は頬を伝う事なく、簪の膝に滴り落ちた。一滴ではない、何滴も膝の上に滴り落ちる。簪の哀しみを表し、従者達への償いをしたいと言う想いがあったからだ。

 

「武藤さん……山岡、さん……木村、さん……うぐっ、えぐっ」

 

 簪は従者達の死を嘆く。伊藤は何故かない。彼女は他の従者達が見つかるまで、彼女の死を更識家に伝えられていないのだ。その為、簪は伊藤の死を知らない。

 酷であるが今は知らない方がいいだろう。簪は従者達の死で泣いている中、襖の方から声が聞こえた。

 

「おい、部屋にいるのか?」

 

 刹那、簪は目を見開き、顔を上げる。襖の声の主に驚いていた。それは良く知っている両親、嫌いな姉、布仏姉妹や従者達の声ではない事に気付いた。

 この声は他人であるがさっき逢った者の声であった。簪は腕で涙を拭いながら「だ、誰なの?」と訊ねる。

 

「……別にいいだろ……それよりも入っていいか?」

「あっ……う、うん」

 

 簪は頷く。すると、襖が開き、ある人物が部屋の中に足を踏み入れる。その人物は一夏であった。彼はさっきまで楯無といたが、ある部屋へと向かう為に楯無を通路へと置いていった。

 その部屋とは言わずとも簪の部屋である。彼が簪の部屋へと来たのは楯無が来ないと思い、楯無を嫌っている簪と一緒ならば彼女は容易に近づけられない。そう思っていた。

 一夏は簪を利用する形で部屋へと来たが彼は簪を見て、眉間に皺を寄せる。

 

「何故泣いてる?」

 

 一夏は簪を見てそう訊ねた。これには簪は驚くが、一夏は簪の両目に涙の痕があったのと、膝の上が少し濡れている事に気付いたからだ。

 簪は驚いているが不意に項垂れる。

 

「……死んだの、武藤さん達が」

 

 簪は一夏に対し答えた。彼女は隠すつもりはなかった。正直に言うしかなかったのだ。警察が近くにいるのと、嘘を言えないからだ。否、簪の性格からすれば、嘘を言えるような彼女ではないからだ。

 簪の答えに一夏は「……そうか」と静かに答えを返すと、不意に視線をある方角へと移す。そこには数十もあるDVDが納められている棚であった。

 一夏は視線を其方の方へと移しながらも其方の方へと歩き出す。彼は棚に収められているDVDを一つ一つ凝視する。ロボット、巨人、五人一組といった良く知る者達ばかりである。

 デザインは派手であるが地味な奴も多い。一夏はDVDを凝視するが簪は一夏の様子に気付き顔を上げると、彼が棚にあるDVDを見ている事に気付く。

 

「……好きなの、ヒーローが?」

 

 簪は一夏の様子に気付き訊ねるが、一夏は何も言わずDVDを凝視し続けていた。彼は何も言わない。どう見ても無視しているようにも思えあるが簪は再び訊ね。

 

「好きなの? 貴方も?」

「……否、俺はこう言った物は好きではない」

「……だったら、どうして見てるの?」

「……さあな。それよりもお前は好きなのか? ヒーロー物が?」

 

 一夏の問いに簪は微かに「うん」と答えた。実は簪はヒーロー物が好きであった。部屋にあるDVDや特撮物のフィギュア物があるのも集めている証拠であった。

 しかし、簪は一夏に変に思われているのではないかと思っていた。自分の様な年頃の女の子はぬいぐるみやオシャレ等が主流であった。逆に自分のような少年が喜ぶ様な物を集めているのは変だろう。

 同じ世代の少女達からどんな目で見られるのかは判った物ではない。しかし、虚や本音はそれを受け入れてくれている。恥ずかしくはなかったが一夏には覚えていた。

 変だ。そう言われると簪は思い、一夏に言えなかった。しかし、正直に答えるしか出来なかった。

 

「変だよね? ……女の子がヒーロー物を集めているなんて、おかしいよね?」

 

 簪は諦めた。同時に項垂れ、怯える。一夏が何かを言うのを重く受け止める覚悟はあったが、彼女は怖いと感じていた。

 

「……別にいい」

 

 刹那、一夏は微かに答えた。これには簪は瞠目しながら顔を上げるが、一夏は言葉を続ける。

 

「貴様がヒーロー好きであるのは別に構わん。だがな、俺は何方かというと、ダークヒーローだ」

 

 一夏の言葉に簪は「えっ?」と惚けるが一夏は特撮物のDVDを手に取りながらジャケットを凝視していた。そのジャケットには主人公と対立している意味でも別のキャラが写っていた。

 もう一人の主人公とも言えるが禍々しい姿をしている。一夏はそのキャラを見て親近感を覚える。彼がダークヒーローと感じているからだ。

 しかし、一夏は何故、ダークヒーロに感銘しているのかは彼等はヒーローである主人公達とは対立しつつも、自分達の正義を貫こうとしている。

 何れも間違い、ドを過ぎた行動でもある。が、中には殺人紛いな行動をしたり、殺人を平気で行なったりする者達もいた。

 それらは悪として認識されているが彼等も悪でありながら正義であるという、歪んだ思考を持っているだの。間違いでありながらも正しいと認識しているのだ。

 一夏は彼等に興味を示しているのも、自分達もダークヒーローと思っているからだ。理由は一つ、彼は救い様のない悪人ばかり狙っていた。

 何れも身勝手な理由で人を殺し、反省していようしていないが彼は関係なく、殺している。が、簪が一夏の言葉にむっとする。

 

「どうしてなの? ……それにダークヒーローは皆、間違った事をしている……そんな人達はヒーローじゃない……本当のヒーローは皆の為に戦う人達が名乗る物……逆にダークヒーローは、彼等は所詮、悪人だよ」

 

 簪は一夏に反論した。彼女は彼等を、ダークヒーローを悪人としか認識していなかった。彼等の行動は悪に等しく、簪から見れば彼等は悪としか認識出来ない。

 ヒーローの名を騙る資格はない……簪はそう思っていた。しかし、一夏はDVDを戻す意味でしまうと、簪を睨む。簪は「ひっ!?」と声を上げると、肩を震わす。

 彼の視線には怒りと殺意が籠っているようにも感じたのだ。彼の視線の先には、其の標的は自分である事を簪は気付いた。恐らくさっき会話であるが、簪は自分は間違ったことを言った訳ではないと思っていた。

 なのに、彼は何故か怒っているのかは判らなかった。刹那、彼は口を開く。

 

「貴様は何故、ダークヒーローが悪人と思っている?」

「そ……それは其の人達が正義でありながら、わ、悪い事をしている、から……!」

「……違うな」

 

 一夏はそう言うと腕を組む。そして、言葉を続ける。

 

「それは違うな、彼等は間違った事をしている訳ではない」

「う、嘘だよ……! その人達は人も殺しているし、単に楽しんでいるだけ……! 何処が正義と言えるの……!?」

「…………それは知らない」

「だったら!「だが中には自らの過ちに気付いている者達もいる」

 

 一夏は遮るように話し始めた。これには簪も驚くが一夏は簪に対し、言葉を続ける。

 

「更識、貴様は何を勘違いしている? ダークヒーローは皆、悪人だと? それは違う。奴等は愉しむ意味で人を殺している奴もいれば、好きで悪人をしている奴等もいない。そして、最初から悪人だと決めつけるな、好きで悪人という汚れ役を買って出る奴や、この世に絶望し、悪人に墜ちた奴もいる」

 

 一夏は簪に対して、ダークヒーローの事を語った。マニアではない。彼はダークヒーロー達の中に悪人がいる事でもなく、彼等の生き様に同情を感じたのだ。

 悪でありながらも人の為に悪を裁く者。彼は自分もその者と同じ境遇である。そう思っていた。親近感を覚えていたのもそれが理由である。

 

「奴等は悪なのは、人を殺しているか迫害しているからだろうな? だがな……ちっ」

 

 だが、一夏は突然、ある事に気付き下唇を噛むと、俯く。これには簪も「どうしたの?」と訊ねるが彼は顔を上げる。

 

「……何故、来た?」

 

 一夏は視線をある方角へと移しながら呟いた。簪は一夏の視線を追う様に顔を一夏が見ている方へと向けた。刹那、簪は瞠目した。何故なら其処には、一人の大男が立っていた。

 言わずともジェイソンであった。彼は一夏が遅い事に気付き、同時に何か遭ったのではないかと思い、更識家へと来てしまったのだ。

 

「あ、あぁっ!?」

 

 簪はジェイソンを見て怯える。しかし、ジェイソンは何も言わず一夏を見ていたが不意に簪を見てしまう。

 

「き、キャァァァァァァァっ!!!」

 

 刹那、簪は悲鳴を上げた……。


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