インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

23 / 198
第23話

「……ふぅ」

 

 一夏への通話を一方的に切った頃、青年は軽い溜め息を吐いた。同時に彼は男性操縦者がプレイヤーである事に少し驚いていた。

 自分が睨んだ通りとはいえ、捜すのに苦労するプレイヤーを見つけた事には功を奏したと思っていた。が、これでプレイヤーが一人減る。 同時に自分が返り討ちにあう危険が伴う。それでも彼は負けるわけにはいかない、そう決意していた。

 青年は伊藤の携帯を何故かへし折る。証拠隠滅をする訳ではない、単に折っただけであった。自分は木村の携帯を持っている、それだけで充分だった。

 

「あーあー勿体ない」

 

 刹那、後ろから声が聞こえ、青年は後ろを振り返る。後ろは路地裏の奥であったが青年は咄嗟に身構える。

 

「誰だ? 出て来い」

 

 青年は警戒しながら問う。すると足音が聴こえた。どんどんと大きくなってくるが、奥から誰かが青年の方へと歩み寄ってきた。

 その誰かは一人であるが黒い鍔付きの帽子を深々と被り、赤と緑のチェックの柄のシャツに黒いズボン、黒いコートといった怪しくも何処か似合わない恰好をしている。

 しかし、それだけでも充分怪しいのだが青年は身構え続ける。目撃者か? そう感じていた。が、その人物は帽子の鍔を軽く掴むと、青年に素顔を晒すように帽子を軽く上げる。

 童顔だった。それもまだ幼いようにも思えるが澄んだ瞳をしており、口元もからかうように笑っている。髪の色は判断出来ない。夜中であるのと離れているからだ。

 青年はその者を見て顔を引き攣らすが警戒を緩めない。彼は何処まで聞いていたのだろうか? そう警戒していたのだ。

 

「……貴様、ガキか?」

 

 青年が訊ねると童顔の者は、むっとした表情を浮かべる。

 

「おいおい失敬だな? 初対面の人にガキはないんじゃない?」

 

 童顔の者は両手を腰に当てながら胸を張る。しかし、それは青年を怒らせる好意に等しい。

 

「だから何だ? ガキはガキだろうが?」

「あーあー初対面の人にガキっていわれた〜自分もガキな人にガキっていわれた〜」

 

 童顔の者は腕を青年に突き出しながら人差し指で指す。彼の意地悪ともいえるが青年は童顔の者の行動に怒りが湧き出てくるのを感じた。

 同時に彼は童顔の者に対して殺意を沸く。

 彼の性格に腹が立ってくるのと彼に警戒していた。彼は殺気の会話の一分始終を聞いていたのだろうか? 

 そう思うと、彼は童顔の者を殺そうとしていた。彼が何者で、どんな理由で自分に接してきたのかは判らない。

 しかし、殺害の瞬間や通話のやり取りを聞いていたのなら尚更容赦しない。青年は童顔の者に感付かれないように懐からある物を取り出す。

 ペーパーナイフであった。彼は童顔の者をそれで殺そうとしていた。首筋を切るか脳天を突き刺せば問題ない。

 刹那、青年は風のように消える。同時に童顔の者も風のように消えた。二人は風のように消えたが直ぐに現れた。二人は組み合っていた。

 青年は

手に持ってるペーパーナイフで童顔の者の顔を指そうと伸ばしているがた。が、童顔の者は飄々とした笑いを浮かべながら青年の手首を掴んでいた。

 同時に童顔の者のもう片方の手は青年の首筋近くまで伸ばしていたが手にはカッターの破片が人差し指と中指に挟まれるように掴まれている。

 童顔の者は青年の首筋を切ろうとしていた。が、青年がもう片方の手で彼の手首を掴んでいた為に切る事は出来なかった。

 青年は眉間に皺を寄せているが童顔の者は飄々とした笑いを浮かべている。何方も対照的であるが青年は何かに気付く。

 

「貴様……プレイヤーか?」

 

 青年は童顔の者に訊ねた。同時に更に警戒した。それは相手がプレイヤーではないかと疑う事しか出来ないと。

 さっきの行動と言い、自分に気付かれずに近くにいた事が理由であった。二つの理由が彼を疑う余地を与え、彼に反論をさせないようにしていた。

 青年の言葉に童顔の者は軽く頷く。

 

「そうだよ? 僕はデスゲームのプレイヤーの一人、夢見一彦だよ?」

 

 童顔の者は、一彦は青年に軽く自己紹介した。しかし、彼は更に何かを思い出す。

 

「あ、そうそう、後、僕の半霊の殺人鬼は……まあ、今はいいか」

 

 一彦は風のように消えた。青年は彼が消えた事に少し眉間に皺を寄せる。が、彼は青年の直ぐ近くに現れた。青年は再び身構えるが一彦は彼を見てむっとする。

 

「おいおい、戦う意志がない奴に刃物を向けないでよね?」

「……断る、貴様がデスプレイヤーなら尚更だ」

 

 青年はペーパーナイフを一彦に向ける。ナイフの先端が妖しく光るが一彦と言う物を獲物として認識しているようにも思えた。そのナイフの持ち主である青年の変わりに代弁するようにも思える。

 青年は一彦にナイフを向け続ける一方、一彦はムッしたままであったが不意に飄々とした笑いを浮かべる。

 

「まあいいし、僕の目的は果たしたから、バイバイ〜〜」

 

 一彦は青年に手を振りながら風のように消えた。青年は一彦が消えた事に瞠目するが彼がいた所まで駆け寄ると、辺りを見渡す。

 彼の気配はなかった。それは彼が消えた事を意味していた。青年は一彦の気配がない事に気付き下唇を噛むが彼も何かに気付き、その場から姿を消すように風のように消えた。

 そして、その場には伊藤の絞殺したいとへし折られた携帯しかなかった……。

 

 

 

 

 

「織斑君、彼はなんて言ったの?」

 

 その頃、ここは更識家の源次の部屋。部屋には源次と半蔵、楯無と一夏がいた。しかし、今は一夏への尋問が最中であった。尋問官らしき者達は楯無と半蔵であるが楯無が殆どであった。

 源次は一夏と向き合うように座っているが一夏は腕を組みながら瞑目していた。左には楯無、右には半蔵がいるが尋問官である上、楯無が一方的に一夏に訊ねている。

 だが、一夏は何も喋る気配はない。何故なら彼はプレイヤーの存在を話す気はなかったからだ。

 話せばややこしくなる上、バトルロワイヤルを制する道が遠退いていくのだ。そうなればゲームの進行は困難を極めるどころか他のプレイヤー達を見つける事も困難になる。

 一夏はそれを危惧していた。が、さっき、その一人らしき者が日本にいる事が判った。いつ、他の国へと向かうのかも判らない。しかし、彼とはしたくもない約束をしてしまったが一騎討ちらしい約束をされたのだ。

 一夏が怒りを沸くのも無理はなかった。それには罠があるようにも思えたからだ。彼を殺すチャンスはあるがメリットが大きい。そう感じていたのだ。

 今の彼、一夏はそれを楯無達にはいえなかった。言えば更に立場を悪くする。最悪、変わりに行くと言い出し、自分を軟禁する意味で家から出そうとはしない。

 彼等の本来の目的は自分を保護する事だ。それ以上に彼等は自分を捜す為に従者達を街へと赴かせたが既に四人は死んでいる。

 自分の他にも捜している者がいたのだ。青年……つまり他のプレイヤーだ。彼は何故か自分の名前を知っている。

 何故知っているのかは判らないが、一夏は青年の正体を探ろうと思考を走らせる。

 否、既にブギーマンという殺人鬼を半霊にしている事までには気付いたが、自分の正体を知っている事までは解らないでいた。

 一夏は思考を走らせる。しかし、楯無が一方的に彼に問い続けていた。

 

「ねえ織斑君? 電話に出た奴は誰なの? それに向こうはなんて言ったの?」

 

 楯無は一夏に問い続けるが彼の肩を揺らす。これには一夏は我に返るが楯無を睨む。楯無は『っ!?』とたじろぐ。

 自分へと向ける彼の視線が冷たく殺気が籠っているからだ。今まで見てきた奴とは違う。そう感じていた。半蔵は彼を見て生唾を吞むが源次も生唾を吞んでいた。

 半蔵は元より、源次は一夏が暗部にはいるに値するかどうかを見極めていた。殆ど入ってほしいという思いがあったが娘を思うがあまりであった。

 逆に今は一夏を問い質していた。というよりも楯無と半蔵に任せているが彼は一向に話そうとはしない。

 

「お、織斑君、どうして私達に話さないの?」

 

 楯無は一夏の視線にたじろぐ中、彼に問い続ける。しかし、彼は楯無の問いには答えなかった。二人の間に重苦しい空気が流れる。

 生唾を吞むどころかそれさえも許されず、その瞬間さえも許されない。一夏と楯無、二人は互いを見合う中、襖の方から誰かの声が聞こえた。

 

「貴方様、私です」

「うむ? 美和か? 入れ」

 

 源次は襖の方から誰かの声の主に気付く。妻の美和であった。彼は襖の向こうにいる美和に入るよう促すが襖が開いた。

 美和がいたが彼女は正座していた。しかし、表情は少し困惑しているようにも見える。

 

「どうした美和? 何か遭ったのか?」

 

 源次は美和に訊ねる。半蔵や楯無も見やり、何故か一夏は視線を美和の方へと向けるが美和は口を開いた。

 

「実はお客様です」

「お客?」

 

 源次が答えると美和は小さく頷くと再び口を開いた。

 

「はい、其処の一夏君の姉である織斑千冬様という方がいらっしゃいました」

 

 




 次回の月曜日の投稿はお休み致します。次回は火曜日に投稿します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。