インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第22話

「き、貴様は誰だ? 伊藤はどうした!?」

 

 半蔵は携帯電話に掛けてきた者が伊藤でない事に気付き、顔を引き攣らす。理由は声が良く知ってる者の声ではない。全く部外者である事に気付いた。

 伊藤よりも声が若く、まだ大人にも満たない青年である事にも気付いた。しかし、彼の様子に楯無と源次は眉間に皺を寄せる。伊藤の身に何か遭った。そう気付いた。

 まさか……楯無と源次は何かを悟る。殺された、そう嫌な予感しかしなかったのだ。そんな二人とは違い、一夏は眉間に皺を寄せ続けていたが自分の腕を縋り付いている楯無を乱暴に突き放す。

 楯無は突然の事で驚きながらも尻餅を突く。源次は楯無を見て、「刀奈!」と驚くが、彼は半蔵に歩み寄り、彼の携帯電話を奪う。

 半蔵は一夏の行動に怒り『おま!」と言い掛けた。刹那、彼は鋭い眼差しを半蔵に向ける。

 半蔵は『っ!?」と身を震わせた。彼の瞳は殺気が籠っている、そう感じたのだ。半蔵だけではない、源次と尻餅をついている楯無も彼の半蔵を見る視線に殺気が籠っている事に気付いた。

 それは金縛りにする様な感覚であるが一夏は携帯を耳に当てると、ある事を言った。

 

「貴様……俺と同じプレイヤーか?」

 

 一夏は訊ねた。それはいきなりの事であるが相手がプレイヤーであるかどうかを知る為でもあった。

 刹那。一夏の言葉に電話の向こう側は何故か黙った……否、プレイヤーである事を突かれたのだ。そして、向こう側の者、青年は一夏の言葉に静かに聞き返した。

 

『……お前、まさか……』

 

 

 

 

 その頃、ここは東京にある路地裏。そこには伊藤の携帯電話で半蔵に電話している青年がいた。が、肝心の伊藤は青年の近くで仰向けになって死んでいた。

 伊藤の正体は女性であるが彼女の首には物凄い力で締められた痕があった。ブギーマンの仕業であるが彼は青年の命により、精神病院に戻っている。

 青年は彼女の携帯で電話しているが電話の向こう側にいる者が半蔵ではなく、一夏である事に気付くや否や眉間に皺を寄せる。同時に彼は気付いた。

 彼が一夏、織斑一夏である事に気付いた。そして彼は自分と同じプレイヤーの一人である事にも気付いた。しかし、青年は敢えて一夏に訊ねた。

 

「お前が織斑一夏か? 噂の男性操縦者か?」

『……ああ、お前もプレイヤーの一人か?』

「ご名答、俺もお前と同じプレイヤーだ」

 

 青年は軽く目を閉じるが不意に思考を走らせる。自分の直感は当たっていた。やはり彼は、織斑一夏は初の男性操縦者だけでなくプレイヤーの一人であった。

 青年は彼を睨んでいたが男性操縦者の早過ぎる行動を考えれば尚更だろう。あれはまるで何かを待っているようにも思えた。が、それは自分達が活動を再会するのを望んでいるようにも思えたのだ。

 自分達が動く事が出来るのはいいが何処か出来過ぎていたからだ。青年は最初は気にもしなかった。が、男性操縦者はプレイヤーの一人ではないかと疑っていた。

 ISを動かしたのは何らかの理由であるが彼は男性操縦者の情報を探る為に行動した。そして、ある理由で一夏である事と彼が更識家に保護されている事まで調べた。

 どうやって調べたのかは青年にしか知らない。が、青年は一夏に問う。

 

「お前もプレイヤーだったとはな……まあいい、姿を見せろ」

『断る……見す見すお前の前に姿を現す事はしない』

「……根性無しが」

 

 青年は一夏の答えに舌打ちする。否、一夏の答えは最もだった。幾ら相手が同じプレイヤーでも自ら姿を見せるのは自殺行為だ。一夏はそれに気付きながらも青年に訊ねた。

 

 

 

 

「お前の目的は何だ? 俺が狙いか?」

 

 一夏は半蔵の携帯で青年と会話していた。近くには半蔵と源次、楯無がいたが彼等は一夏のやり取りを見守っていた。彼等はさっきまで一夏の行動を止めようとした。

 それなのに彼、一夏により一睨みされてしまうが彼の鋭い眼差しが彼等を金縛りに遭わせるようにしていた。同時に、一夏が電話の向こうにいる者とは関係がある。そう気付いた。

 関係は元より、一夏は何もかまでは把握出来なかった。彼は千冬は弟であり、三年前に行方不明になった者だ。それ以降の、空白の三年間は知らないが千冬は捜し続けていた事までは気付いていた。

 今は何者かと話をしているが何者かの正体を知っているのは一夏だけであり、一夏の空白の三年間を知る手掛かりもあるのではないのかと思っていた。

 源次と半蔵は黙っている中、楯無は生唾を吞む。彼がどんな会話をしているのかを気にしていた。出来る事なら声を掛けてやりたいが出来なかった。

 さっきの一睨みのせいでもあるだろう。同時に彼が自分達よりも暗部に相応しいのではないかと思ってしまった。

 さっきの一睨みといい、あの動きもいい上、自分達に気付かれずに簪の部屋に居た事や姿を消した事。どれも暗部にとって必要な物であった。

 自分達は裏家業をしており、暗殺さえもする冷酷さが必要であった。自分も暗部の物であるから彼の尋常ではない能力に驚いていた。

 楯無は一夏の事をそう感じている中、源次は別の意味でも一夏を見て思っていた。

 

(……やはり、彼なら)

 

 源次は一夏を見て微かに頷く。楯無から聞いたとは言え、彼は一夏の事を全て知っている訳ではない。同時に、一夏を欲しいと思ってしまった。

 理由は楯無と同じであるが彼が四日間も行方を消したのは凄いと思ってしまったからだ。

 気配を消して更識家に侵入した事が彼の凄さと、娘達や右腕的存在の半蔵やその娘達に気付かれずに簪の部屋に入った事が、源次を感銘させているのだろう。

 そして源次は思った。出来る事なら彼を暗部に迎え入れたい、同時に年の近い楯無の右腕になってほしいと、思ってしまった。

 楯無には既に虚という従者がいるが彼女は戦闘の方は向いておらず、何方かと言うと知識の方を補佐する立場だ。逆に彼は戦闘面ではいいだろう。

 楯無は普段、一人で行動する事が多いがいざという時に危機的状況に陥る危険もある。当主、楯無としての宿命でもあるが隠密行動が当たり前でもあるのだ。

 数人で挑まれたら何か遭ったら困る上、楯無を喪うわけにはいかないのだ。父としてでもあるが娘の背中を預けるに値する者が欲しかった。

 それが今、その候補としてでも一夏がいた。彼ならば楯無を守れる盾になる。汚れ仕事を一緒に背負う覚悟さえもある。

 しかし、それは源次での憶測でしかない。彼がそれを受け入れてくれるのか、そして楯無を守る盾や、補佐をする事を自ら引き受けてくれるかまでは彼が納得するかまでは無理に等しい。

 彼を仲間にする事は多くの殺人を犯す事を意味し、更には彼の半霊でもあるジェイソンをも仲間にする事も意味する。彼の存在は諸刃の剣にも近く、仲間にする事も困難に等しい。

 彼は暗部よりも他のプレイヤー達を殺す事を選ぶだろう。しかし、一夏から見れば好都合であるだろう。彼は、ある理由で彼等を利用出来るのだから。

 一夏がそれに気付くのには、もう少し先であるが彼は携帯電話で青年と何かを話していた。刹那、一夏は歯軋りする。

 

「「「!?」」」

 

 彼の様子に三人は見逃さなかった。しかし、彼は眉間に皺を寄せるが携帯を下ろす。携帯からは音が鳴るだけであった。それは向こう側にいる青年が通話を終える意味で切ったのだ。

 にも関わらず、一夏は歯軋りしながら身体を震わせていた。

 

「お、織斑君、どうしたの?」

 

 楯無が彼に訊ねるが一夏は眉間に皺を寄せながら携帯を閉じると、携帯を半蔵の方へと投げる。半蔵は突然の事で驚くが彼は微かに口を開いた。

 

「野郎……ぶっ殺してやる……」

 

 一夏はそう吐き捨てた。その言葉を聞いた楯無は瞠目し、源次と半蔵は愕然とした。三人は一夏の様子に疑問を抱くが、一夏からは殺気が醸し出されていた。

 さっきの通話の邪魔をされたのとは違う。彼が怒っているのは青年の挑発的な言葉で怒っていた。

 それは一夏への言ってはいけない言葉であり、同時に青年が彼に狙われる危険をも意味していた。そして、青年は一夏に、通話を終える前、こう言っていた。

 

『明日の夜七時、東京にある港の〇〇倉庫で待ってる。其処で殺し合いをしてやるよ……無論、勝つのは俺だ』

 

 青年は一夏にそう言っていたのだ。それは一夏にとって怒りが沸いてくる言葉でもあった。しかし、青年は決定的な落とし穴を見落としている事には、気付いていなかった……。

 そしてそれは更識家の従者達を大勢喪う出来事である事にも、更識家の面々は気付かなかった……。


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