インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第21話

「……お、織斑、君?」

 

 ここは更識家の源次の部屋。その部屋には源次、半蔵、楯無、そして一夏の四人がテーブルを囲むように座っていた。灯りは点いているが重苦しい雰囲気が流れていた。

 四人共、表情は険しいが源次、楯無、半蔵は全員、一夏を見ている。彼は眉間に皺を寄せながら瞑目している。疾しい事がある訳ではないが彼は黙っている。

 彼が部屋にいるのは、楯無と半蔵が彼を前当主である源次の元へと連れて来たからだであった。彼を問いつめる為である。あの時、何故逃げたのかを、何故自分達に保護される事を拒んだのかを、訊く為でもあった。

 なのに会話は一向に進まない。彼が黙秘をし続けているからだ。今は年の近い楯無が訊き続けているが効果はない。

 

「織斑君……どうしてあの時、逃げたの?」

「…………」

「黙ってても何も変わらないわ……出来る事なら教えて?」

 

 楯無は彼に優しく問い掛ける。彼は無言であったが教えるつもりはなかった。彼は死のバトルロワイヤルを制する為のプレイヤーの一人である事を言うつもりはなかった。

 自分が逃げたのも他のプレイヤー達を捜す為でもあった。彼はISを動かしたのは想定外であるが自ら名乗り出たのも他のプレイヤー達が活動再開をさせる為でもあった。

 しかし、更識家に保護される気は毛頭なかった。逃げた事は兎も角、彼が姿を現したのには理由はあった。保護される為ではない、ある事を訊ねる為でもあった。

 

「……それよりも」

 

 一夏は口を開く。それを訊いた楯無は「えっ?」と惚けるが源次と半蔵は何かを悟る。彼の、一夏は何かを言いながら瞼を開いたのだ。

 彼の眼差しは鋭かったが何かを悟っているのだ。前当主と従者の筆頭格であるのと年長者であるからだろう。

 

「……あれは何が遭った?」

「何が遭ったって?」

「惚けるな、何故近くに警察がいるんだ?」

 

 一夏の言葉に楯無は顔を引き攣らす。源次と半蔵は少し驚くが彼は気にしていた。近くに警察が黄色いテープで部外者を遮断し、パトカーが数台に、鑑識や刑事らしき者達が辺りを探索している。

 事件が遭った。そう意味しているが彼が何故、それを知っているのかと言うと、彼は買い物の途中、不意に更識家の様子を伺う為に近くへと来ていた。

 それは楯無を心配したからではない、彼女達は自分を捜しているのではないかと警戒していた。しかし、あれを見てしまったら流石に疑惑を持つ。

 それは、更識家の近くであったからだ。疑う訳ではないが彼女達から何か手掛かりがあるのではないかとおもったからだ。

 一夏の問いに楯無は冷や汗をかく。彼は何かを知ってる。否、彼は何かに気付いている。そう思ったからだ。

 

「そ、それは……」

「お嬢様……そこからは私がお話し致します」

 

 壱夏の問いに楯無は戸惑う仲、半蔵が助け舟を名乗り出る。

 

「半蔵さん?」

 

 楯無は半蔵を見る。半蔵は表情を険しくていた。その表情には従者を喪った事への怒りと哀しみが見て取れる。同時に彼が只者ではないと感じた。

 殺気の事件とは武藤と山岡の喪い、殺害された事件である。半蔵にはつらいが彼は一夏に言おうとした。彼に不信感はありつつも彼に全てを話そうとした。

 楯無が何かを言おうとしたが源次が「刀奈!」と言葉で制止する。源次の声に楯無は肩を震わすが不意に源次を見ると、源次は無言で首を左右に振る。

 半蔵に任せる。源次はそう楯無に言おうとしていた。楯無は源次が何かを伝えようとしている事に気付くとつらそうに目を伏せる。

 一方、源次の言葉に半蔵は源次を見た直後に黙ってしまう。が、彼は気を取り直す意味で一夏と向き合う。一夏は半蔵を見ているが何も語っていない。

 自分の言葉を待っているように思えるが彼への警戒が高まる。しかし、半蔵はそれに気付きつつも全てを語った。

 

 

 

「成る程……従者が三人も、か」

 

 一夏は半蔵から全てを聞かされ、腕を組みながら瞑目する、武藤、山岡、そして木村の三人の従者達の死。それは更識家の面々にとって哀しい出来事であった。

 半蔵は一通りの事を一夏に話したが彼は何故か黙っていた。否、彼は思考を走らせていた。

 

(おかしい……偶然にしては出来過ぎてる)

 

 一夏は不信感を抱く。武藤達従者達が三人も亡くなった事に違和感を感じた。事故は兎も角、殺害された事に疑問しかない。彼等を怨む理由までは聞かされてないが死因までは聞いた。

 武藤は首をあらぬ方向で曲げ殺され、山岡は鋭利な刃物で首筋を切られ、木村は胸を刃物で刺されたのだ。どれも死因はバラバラであるが一夏は武藤の死に疑問を持つ。

 彼の死因は何かの力による、あらぬ方向へと曲げられた事。それは一夏にとって不信感しかない。人一人の首をあらぬ方向へと曲げる事が出来る奴はいない。

 プロレスラーは兎も角、その力を出来る人間は限られている。

 が、もう一つ、山岡と木村の死。彼等は鋭利な刃物で殺害された。

 何方も殺害方法はバラバラであるが一夏は不意に、ある事を思い出す。

 

(待てよ? 確か殺人鬼の奴に……)

 

 一夏は何かを思い出す。それはジェイソンに見せた殺人鬼達が写っている数枚の写真。その中で一人だけ、該当する者がいた。フレディでもない、チャッキーでもない、ピンヘッドでもない。

 そして、レザーフェイスでもない。だが、一人いた……大男でジェイソンとは対等的な力持ちで尚且つ、包丁を主力武器とする殺人鬼……ブギーマンだ。

 彼ならば剛力だけでも人を殺せる上、包丁で相手を殺す事が多い。奴ならば……それに三人の従者を殺したのが彼ならば、全ての辻褄が合う。

 そして、ブギーマンが活動しているのは恐らく……刹那、一夏に声を掛ける者がいた。

 

「織斑君、織斑君!?」

 

 楯無だ。彼女は一夏の様子が気になり、彼の肩を揺すりながら訊ねていた。源次と半蔵も一夏の様子を気にしていた。が、一夏は我に返ると楯無を睨む。

 

「どういうつもりだ?」

 

 一夏の言葉に楯無は「えっ?」と惚けるが一夏は怒っていた。彼女のせいで思考を遮られてしまったのだ。これには一夏も怒る筈であるが彼は言葉を続ける。

 

「惚けるな? 何のつもりで俺に訊ねた?」

「えっ……私は只、貴方が何かを考えていたからつい」

「それが理由か? それにお前達は身を引け」

「えっ? どういう事?」

 

 楯無は訊ねるが一夏は静かに立ち上がる。

 

「お、織斑君?」

 

 楯無は訊ねるが一夏は彼女を見下ろしながら口を開く。

 

「身を引け……自分達の命が惜しくばな」

「織斑君? それは一体……」

「俺からの警告だ……慈悲を与えるつもりはない。助ける義理もない……じゃあな」

 

 一夏はそう言うと、踵を返し、部屋を出ようとした。楯無が「待って!」と言いながら立ち上がり、彼を腕を掴もうとした。

 刹那、一夏は彼は屈む。楯無は一夏の行動に目を見開くが彼女の腕は空気を切るように躱された。が、一夏は屈んだまま素早く楯無の後ろに回り、楯無のもう片方の腕を捻りながら立ち上がり、楯無を拘束した。

 楯無は悲痛の声を上げる。源次は「刀奈!」、半蔵は「お嬢様!」と声を上げながら立ち上がるが、一夏は楯無を拘束しながら振り返る。

 楯無を人質にしているが彼はそう言ったつもりはなかった。彼は……源次と半蔵にいい放った。

 

「警告だ……俺に関わるな……それに命が惜しくば身を引け」

「それは出来ぬ! 従者達を街に赴かせたのは君を捜す為だ!」

 

 半蔵が彼の言葉を拒否するが一夏は眉間に皺を寄せる。

 

「それが余計だ……! 貴様等では奴には勝てない」

「か、勝てぬだと?」

 

 源次が訊ねるが一夏は無言であった。理由はブギーマンの存在を知られたくはなかったからだ。知られれば彼等が殺される。彼の気遣いではない。

 彼は警告していた。しかし、楯無は痛みをこらえつつ訊ねる。

 

「お、織斑君……奴って誰なの?」

「…………」

「も、もし知っているのなら教えて……! 奴って誰なの?」

「…………教えない、自分達の身の安全を心配しろ……それが嫌なら俺の知った事ではない」

 

 一夏はそう言うと、楯無を突き放すや否や踵を返そうとした。刹那、楯無は激痛を堪えつつ素早く振り返り、彼の腕に縋り付く。

 一夏は驚くが彼は楯無を見て。楯無は激痛を堪えつつも一夏を見ていた。彼を引き止める意味でもあるが彼女には理由があった。

 

「行っちゃダメ……織斑君、何かを知ってる、みたいだから」

「…………」

「それに私達は一夏君の味方……それに奴って言っても織斑君に関係あるのなら、私達にも関係あるから!」

 

 楯無はそう言いながら彼の腕に縋り付く力を入れる。逃がさない。傍にいてほしい、自分達は貴方を保護する役目がある。そう教えていた。

 が、一夏は舌打ちすると彼女を乱暴に突き放そうとした。刹那、何かの音がなる。一夏は突然の事で驚かなかったが辺りを見渡す。楯無や源次も見渡すが半蔵は何かに気付く。

 

「あっ……私です」

 

 半蔵は音の正体に気付いた。それは、自分の携帯電話の振動音であったが彼は懐から携帯を取り出し、画面を見る。伊藤からであった。半蔵は携帯電話を耳に当てる。

 三人は半蔵を見るが、半蔵は瞠目していた。そして彼は「貴様は誰だ!?」と叫んだ。しかしそれは、ブギーマンを半霊とした青年からの連絡と、伊藤の身になにが遭った事を意味していた。しかしそれは殺害された、という事を意味していた……。

 


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