インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第190話

「…………」

 

 その頃、ここは工場内にあるエントランス。そこには、受付近くには一也と一夏がいた。一也はアサルトライフルを肩に掛けながら一夏を見下ろしていた。

 一夏は仰向けに倒れているが肩口は抉られ、脇腹も抉られていた。何方も血が出ているが少量だった。しかし、彼は命の灯火が尽きかけていた。

 彼は青白い化物の攻撃によるものだがそれが原因でもあった。彼は気を失っているか、息はしていない。完全に死んだ訳ではないが脱落する危険もあった。

 そんな彼を一也は見下ろし続けているが表情は険しい。彼は死んだ、そう感じているのだ。

 

「チッ……貴様、さっき手を組むと言いながら死にかけやがって……!」

 

 一也はそう言った後、彼の脇腹を蹴る。怒り、呆れ、と言った彼に対してだった。一彦を倒すには共闘しかない、彼はそう言いながらもそれを破ったのだ。

 一也がそう抱くのも無理はないが彼は脱落する。さっき助けたのも、彼は一彦を倒す為の道具でしかないのだ。それなのに道具は使い物にならない、彼はそう気付いたのだ。

 同時に、彼には怨みがある。あの時、倉庫で一彦の不意打ちを喰らい、更には彼に不意打ちを喰らったのだ。それ以上に彼は背中を斬られ、負傷している自分に対して、ジワジワと追い詰めていたのだ。

 彼にはそれを、怨みを、借りとしていたが今此処で返そうかとも思った。

 

「……貴様に言っても無駄か……まあ良い」

 

 彼、一也は何故か一夏に対して、背を向ける。ふと、彼を肩越しで見る。彼は仰向けのまま気を失っている。死んでいるのかも、眠っているのかも判断出来ない。

 それでも一也は舌打ちすると、眉を顰める。

 

「お前はもう用済みだ……本当は此処で殺したかったが、今は夢見一彦を倒すのが先だからな……それに、あの小娘も倒すが……生き残るのは、俺だ……!」

 

 一也は一夏に対してそう言った後、風のように消えた。そしてそこには一夏しかいないが人の気配はない。周りには誰もいない。事実上、彼しかいないのだ。

 しかし、彼はもう脱落寸前である。誰にも看取られる事もなく、発見されるまでそこで寂しく死を迎えるだろう。が、ある人物が風のように現れる。

 三十代後半の男性かつ、黒髪黒眼。が、左目は抉られているのか眼球はない。黒い服を着ているが男は一夏を見て呆れたように溜め息を吐く。

 

「はぁ〜〜おいおい?」

 

 男は一夏の近くで跪くと、彼の頭を軽く叩く。

 

「お〜〜い? ……死んでんのか?」

 

 男は一夏に対して訊ねる。彼からの反応はないが男は軽く笑う。その男は主催者だった。彼は一彦に他のプレイヤー達を集めるよう言われ、メールを送った張本人。

 同時に彼は微かに喜んでいた。それは、プレイヤー達が殺し合う事と、誰が死ぬのかを期待しているのだった。そして、その脱落者とも言える、一夏の元へと来たのだった。

 彼は一夏を見て喜んでいたが口を開く。

 

「まっ、お前が脱落しょうが誰が脱落しょうが関係ない……まあ、今回だけは特別、お前にはメリットとデメリットをやるよ」

 

 男はそう言った後、彼の脇腹に手を当てる。刹那、グチュ、グチュと何かを抉るかくっ付ける音が微かに響く。男はその音に反応するが更に笑う。

 

「まっ、俺の愉しみもそうだけど……あの方がお前をいたく気に入ってるからな? それにメリットはこれだけじゃねよ?」

 

 男はもう片方の手の指をパチンと鳴らす。これには意味があるが男はそれを教えた。

 

「これは、お前にはもう一体の殺人鬼を付ける合図だ。どんな奴かはお前自身が見る事だな? 勿論、これもあの方からのプレゼントかつ、お前が良く知っている奴だ……それにもう一つ、お前の机の上には、ある資料を置いといた……それも、お前の右腕とも言える義手を造れる存在の情報であり、ドイツで捜していた資料を俺が見つけといたからな?」

 

 男は軽く言った。しかし、それ等は全て、男が口にしたあの方からの命令かつ、プレゼントだった。彼はそれを一夏に伝えるように言ったが男は一夏に対して、感情はない。

 一也に対してISを与えたのも、ドイツ軍基地にいる事を教えたのも一夏を陥れる為だった。が、今はあの方の命で動いているのだ。男は言葉を続けているが更にとんでもない事を言い出す。

 

「それ等は全てメリットだ……だが、デメリットはお前自身が知るべき事だ……この、夢見一彦が催したゲームが終わり次第、お前に命の危険が迫る……どうなるのかは、お前自身が知る事だな?」

 

 男はそう言った後、彼の脇腹に当てていた手を彼から放れるように動かす。が、彼の、一夏の抉られた脇腹は無くなっていた。否、男が彼の脇腹を治したのだった。

 男にはそう言った能力がある訳ではない、彼の能力がとんでもない物だがそれを一夏自身が体験しなければ判らない物だった。男は一夏を見ながら笑うが立ち上がると、彼に対して手を振る。

 

「じゃあな……せいぜい、生き残る事を願うぜ? ……あの方の為にもな?」

 

 男はそう言いながら風のように消えた。そして、そこには一夏しかいないが彼は目覚める気配がない……訳ではない。彼の瞼が微かに開き、そして彼は目を覚ました。

 

 

「っ!! たあっ!」

 

 その頃、楯無は一美を守りながらIS・霧纒の淑女の両腕部分だけを展開していた。彼女はランスで顔が焼け爛れた男、目や歯釘が剥き出しの白衣の男を相手にしていた。しかし、白い仮面の大男は何故か見ているだけだった。

 それでも楯無は必死に抵抗するが一美は彼女の後ろに隠れながら怯えている。化物達は楯無の攻撃を何とか浮けとつつ、闘っている。そして今、楯無は、目や歯釘が剥き出しの白衣の男を相手にしていた。

 目や歯釘が剥き出しの白衣の男は電気が流れている鉄の棒で何とか抗戦していた。が、楯無はランスで彼を薙ぎ払う。彼はデスクの方へと激突するが書類が宙を舞う。

 

「……ドクター……」

 

 そんな男を、仮面を着けた大男はくぐもった声で彼を、ドクターと呼んだ。が、今度は別の、顔が焼け爛れた男を見ながら言った。

 

「……ヒルビリー……」

 

 仮面を着けた大男は顔が焼け爛れているような大男をヒルビリーと呼んだ。彼、ヒルビリーは手に持っているチェーンソーで楯無に迫る。

 

「っ!」

 

 楯無はランスで彼の武器と鍔競り合う。チェーンソーの歯の部分が回る音が耳に響くが彼女はランスで何とか対抗していた。が、彼女は力を込めて、弾き返した。そして、その隙にランスでヒルビリーの腹を突いた。

 ヒルビリーは腹を突かれるが仰向けに倒れる。チェーンソーを落としてしまうが楯無は白い仮面の大男をキッと見る。

 

「…………」

 

 彼、白い仮面の大男は何も言わない。が、楯無はランスを構えながら警戒していた。彼だけは違う。さっきの二人とは何かが違う、と。それは何かまでは判らないが雰囲気かつ、その姿がだった。

 見た目で判断する訳ではないが彼女はその大男だけを警戒していた。

 

「……っ」

 

 彼女等はランスを構え続けているが動けないでいた。無闇に動けば負ける、そう悟ったのだ。暗部としての直感でもあったが彼女は動かない。

 一美は彼女の後ろに隠れ続けているが彼女等はあの大男を相手にしなければならなかった。同時に不安が彼女等を支配していた。それ以上に更なる恐怖が彼女を襲う。

 

「……ギ、ギ」

「ガ……」

 

 ドクターとヒルビリーが起き上がったのだ。彼等は近くに落ちている武器を拾うと、彼女達に向ける。これには楯無や一美は驚くが彼等は彼女等を殺そうとしていた。

 

「グッ……!」

 

 楯無はそれに、否、そう直感したのだ。化物達は自分達を殺そうとしている。それは彼等が望んでいる事だ、と。奴等は何故、此処に居るのかは判らない。同時に誰が彼等を操っているのかも判らない。

 楯無は色んな推測を立てるが彼女達は絶体絶命だった。逃げられない訳ではないが迂闊に動けないでいた。どうすれば良い? どうすればこの状況を打開出来るのか? と。

 楯無は冷や汗を流すが一美は怯えていた。刹那、彼女達の直ぐ近くに、一人の大男が風のように現れた。

 

「なっ!?」

 

 楯無は声を上げ驚き、一美は怯える。彼女達の前に現れたのは、白いホッケーマスクを着け、ヨレヨレの服装に青白い肌が特徴的な大男だった。

 楯無が良く知り、一美が同盟している物、一夏が引き連れている殺人鬼、ジェイソンだった。彼は一彦の攻撃で瀕死の重傷だったが蘇ったのだ。

 

「キ、キ、キ、マ、マ、マ……」

 

 ジェイソンは化物達を見る。が、彼は何故か白い仮面の大男に気付く。彼は自分と同じ背丈かつ、マスクを着けているのだ。怒りは沸かないがジェイソンは彼に対して、自分の口癖を口にする。

 

「…………」

 

 一方で白い仮面の大男はジェイソンを見ていたが何かを思うようにドクターとヒルビリーに言った。

 

「……退ケ」

 

 その言葉に二体の化物は風のように消えた。これには楯無と一美は驚くがジェイソンは驚かなかった。が、白い仮面の大男はジェイソンを見据えていた。

 それはまるで彼、ジェイソンとは一対一の死闘を申し込むように、だった。


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