インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第172話

「…………」

 

 あれから数時間後、ここは一夏と楯無の部屋。今の時間帯は夜六時である。が、部屋の中はとても暗く、灯りは点いていない。しかし、その部屋のベッドの上には彼が居た。一夏である。

 彼は無言で俯いているが何かを考えていた。それは彼にしか判らないが数時間前にラウラと二夏、否、彼は彼等の話を聞く前に医務室を出て、風のように此処へと移動したのだ。

 そしてそれをした以外、彼は此処を動かなかった。誰とも話をする気配は愚か、彼は誰とも行動をしない。彼は一人でいる事を選び、此処に居るのだ。

 電気を点けていないのは面倒くさいとかではなく、彼は考え事をしていたのだった。

 

「…………」

 

 彼は俯いているが表情を険しくしている。ゲームでの事だった。自分は二人のプレイヤーを倒した。が、自分の他にもプレイヤーを倒している者達も居る。

 彼はそれを知りながらも他のプレイヤー達の動向を探っていた。一美や一也は兎も角、一彦は今夜、ある計画を起こそうとしている。それだけなら未だしも、最後の一人であるピンヘッドのプレイヤーだけが今の所、動きは無い。

 奴は、プレイヤーは何者かまでは判断出来ない。男か女かも判らない。年も判らない。彼はあらゆる角度から、人物像を割り出そうとしているがそれさえも出来ない。

 それ以上にドイツ軍基地で現れた全身包帯姿かつ布を覆っている人物も気になっていた。奴は何者で何の為に自分に攻撃してきたのかも気になっていた。 

 そしてそれは誰にも言ってない。言えば更にややこしくなるからだ。それにも仮説を立てるが何れもはっきりとした証拠も無いのだ。

 一夏は色んな思考を走らせる中、誰も助言を与える様子は無い。否、元から人と接する事を自ら閉ざした青年には無理に等しいだろう。更識姉妹を含めた更識家も利用する駒としか見ていない。

 同盟者である一美も利用する価値としか見ていない。千冬や束は毛嫌いし、箒や鈴、他にもいるが幼馴染み達とは交友を絶っている。彼は独りであった、孤独であった。

 否、ジェイソンがいるが今は待機している。事実上、彼は独りであった。交友を絶っている意味にも近いが一人でいる時間が彼の唯一の安らぎでもあった。

 

「…………?」

 

 刹那、一夏は何かに反応し顔を上げ、振り返る。扉の方だった。部屋を出入り出来る扉だった。一夏は誰かが来た事を知るが視線をそらす気配はない。

 誰が来たのかを見る為でもあった。箒や千冬は有り得ないとして更識姉妹、布仏姉妹、あるいは別の人……否、それは無いに等しいだろう。

 自分に対して恐怖し、警戒しているのだ。が、それも緩む意味である人物が来たのだった。その人物は部屋の奥へと来たが、部屋が暗い事に気づきスイッチを押す。

 刹那、電気が点いたがその人物は彼を見て哀しそうに笑う。

 

「織斑君……」

 

 その人物は一夏の上司にして、更識家の当主兼生徒会長である楯無だった。この部屋と同棲生活をしているが一夏を監視する為でもあり、行動を起こさない為でもあった。

 が、独断で動いたばかりで彼女を怒らせたのだが最近は簪の影響で緩和しつつあった。彼女は一夏を見て哀しそうに微笑んでいた。そんな彼女に一夏は何も言わず窓の方を見る。

 この前、レザーフェイスにより割られた窓はすっかりと修復されている意味で取り替えられている。外は暗いが満月は愚か、灰色の雲が一つも泳いでいない。

 彼はそれに気づくが気にもしていない。一夏は窓の外を見ているが楯無は声を掛けた。

 

「織斑君、どうしたの? 部屋の灯りも点けないで」

 

 楯無はそう言いながら彼に近づく。一夏は窓の外を見続けているが彼女の話を聞いていない。楯無はそれに気づくがある事を訊ねた。

 

「織斑君、どうして電気を点けないの?」

「……別にいいだろ」

「そうは言っても、目を悪くするわよ?」

「……心配されたくない」

「そうは言っても……それよりも貴方に教えときたい事があるの」

 

 楯無は話題を変える意味で一夏に言った。

 

「実は……鳳ちゃんの事なの」

 

 刹那、一夏は視線を楯無の方へと向けた。彼女の口から鳳、つまり鈴の事である。恐らく、この前の話をしたからだろう。しかし、その話は今の自分には何の関係があるのかは彼は判らなかった。

 が、幼馴染みでもあるが故に微かな情、否、それを絶つ意味で最後の情けを掛けたに過ぎない。一夏はそう思いながらも楯無に任せたが、当の本人である彼女は困惑しているが先を続けた。

 

 

 

「成る程な……」

 

 一夏は楯無からの話を一通り聞いた後、軽く納得した。彼女の話によれば楯無は鈴の件で色んな所に掛け合ったのだ。先ずは源次と半蔵、これは当たり前だが納得したのだ。

 彼等は鈴の周辺を調べ、両親の事も調べた。が、それ以上にある人物の協力も得たのだ。藤間首相、彼ならば外交での話は容易く、何とかしてくれる。

 彼は国民の話は良く聞くのと人の為に働く者だ。彼ならば、国民を思う彼ならば何とかしてくれる。彼女はそう気付いたのだ。それに十蔵も知っているが政府の事を漏らす訳にもいかないからだった。

 

「藤間首相や学園長からの協力も得たわ……これならば鈴ちゃんは安心よ?」

 

 楯無は一夏に対して微笑む。鈴が無事である事に喜びを隠せないでいた。彼女は一夏のお陰で何とかなる。それだけなら未だしも彼女は一夏が自分に頼ってきた事が嬉しかったのだ。

 同時に彼は微かな優しさが残っている。淡い期待も抱いていた。が……そんな楯無を見る一夏は眉を顰めていた。話を聞いて不快な想いをしている。同時に楯無は彼を、彼自身が浮かべている何時もの表情だと思っていた。

 

「……それで?」

「……えっ?」

 

 刹那、一夏の言葉に楯無は目を見開く。彼の言葉には感情はこもっていなかった。あるとすれば気にもしていない事だった。鈴が助かる事を歓ばす、安心している気配もない。

 楯無はその言葉を聞いて反論する。

 

「そ、それでって歓ばないの? 鈴ちゃん、身の安全を約束されたのよ?」

「……否、俺は気にもしない……どうだって良い」

「ど、どうだって良いって!?」

 

 楯無は愕然とするが一夏は先を続ける。

 

「俺はソイツを助ける為ではない……俺は俺に関わってくるその中国女を黙らせる意味で恩を造らせたに過ぎないんだよ……!」

 

 一夏はそう言った後、歯軋りした。彼は鈴を何とも思っていなかった。自分に関わってくる鈴を黙らせる意味でも中国政府の重鎮達を殺したに過ぎない、ジェイソンのストレス発散にさせた似すぎないのだ。

 そんな彼の言葉に楯無は愕然とするが一夏は何も言わず視線を逸らす。話は終わった。そう意味させているが今は誰とも話をしたくないとも思えた。

 楯無は一夏を見て驚くが一夏は何も話そうとはしなかった……。

 

 

 

「……何時見ても、此処から眺められる絶景だね〜〜」

 

 その頃、ここは東京の某所にある高層ビルの屋上。そこには彼が居た。夢見一彦である。彼は真下かつ、周りかつ、奥まで広がる絶景を見ていた。

 東京の街は夜空の真下にも関わらず、灯りで照らされていた。街の騒音も聴こえるだろうが屋上からでは聴こえる筈も無い。一彦はそれに気づきながらも笑っていた。

 あの計画の始動かつ、戦慄の一夜にもなる。それを愉しみにし、快楽を得ようとしていた。街の騒音が翌日には悲鳴へと変わる。悲哀、憎悪、因果応報と言う非業な最後を迎える者達。

 彼等は生贄かつ生きる価値もない。彼はそれに気づき、笑っていたのだ。彼は視線を真下から後ろの方へと向ける。刹那、ある人物が風のように現れた。

 フレディである。彼は鉤爪の爪を舐めるが笑っていた。これから起こす計画に狂喜を隠せないでいるのだ。もうすぐ、もうすぐ鉤爪を真っ赤な血で染める事が出来る。彼はそれに気づき笑っているが一彦はクスッと笑う。

 

「フレディ、今夜十二時、ううん、今夜の十二時から朝の六時に掛けて、出来るだけ多くの子供を殺して」

「任せろ! くぅ〜〜っ、早く十二時にならねぇかよ〜〜子供の泣き叫ぶ声が聞きてぇし、堪らなねぇ〜〜」

 

 フレディは子供のように歓ぶ。殺人を行ないたいが故の喜びでもあった。殺人鬼でもあるが彼が子供好きである事を意味している。それも歪んだ思考であるが計画に乗り気でもある事にかわりは無い。

 そんな彼を一彦は笑っているが視線を東京の街の絶景へと走らせるが彼もフレディと同じ気持ちであった。もうすぐ、もうすぐ始まる。彼はそう思うと両手を横に広げる。

 

「今宵、戦慄の狂宴、始まる。僕とフレディの考えた壮大な計画の序章にして最大規模の計画かつ、僕がゲームを……ううん、それは興味ないけど、僕は僕自身の願い、『この世界に蔓延る腐った人間共を、塵を一人残らず消す』為にもね?」

 

 一彦はそう言った。彼がゲームに参加したのもそれだった。彼も又、人間の醜さにより絶望したのだ。彼の出生は彼にしか判らないが絶望している事にかわりは無い。

 彼はその計画を、願いを叶える為に行動しているに過ぎないのだった。そして今夜十二時、戦慄が始まる。


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