インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第17話

「と言う訳で、私達は重大な任務を課せられる事になった」

 

 その夜、此所は更識家の大広間、そこには二十にも満たない黒服を着た男女が正座しており、表情を険しくしている。目の前には、この屋敷の前当主、更識源次とその隣の一歩下がった所には娘であり、現当主の楯無が正座していた。

 彼等の間には重苦しい空気が流れていた。理由は一つ、昼間の出来事であった。その出来事とは一夏という青年が突然、更識家から姿を消した事であった。

 敷地内は広く、隠れられる場所は愚か、今日来たばかりの者が屋敷内を知る事も出来ず、逃げだせられる様な場所ではない。それなのに彼は、一夏は姿を消したのだ。どうやって消えたのかは判らないが彼は、源次はこの状況を危惧し、急遽、従者達を集い、昼間の事を話した。

 従者達は驚きはしなかった物の、真剣に耳を傾けていた。更識家の従者達としてではなく、暗部の者達としての顔をしていた。彼等は源次の言葉の意味を深く理解していた。

 

「兎に角、彼を何とか保護しなければならない――他の国に保護されれば彼の命が危うい危険もある」

 

 源次は従者達に言葉を述べる。彼の言葉の意味――それは、織斑一夏の保護であった。それは暗部にとっては重大な任務でもあった。彼の身を保護しなければならない。

 集められたのもそれが理由であるが源次は彼等に対し言葉を続ける。

 

「彼は今、どこにいるのかは判らない――それだけではない、彼は私達と同じ臭いを感じた」

 

 源次の言葉に従者達は瞠目し、困惑した。自分達と同じ臭い――従者達にとって衝撃の一言でもあった。それは自分達と同じである事を意味していた。

 相手はただの一般の青年――そう思っていたのだが源次の言葉に困惑しかなかった。他の者だからではない、源次が前当主である以前に彼の言葉には嘘はないからだ。

 彼の口調は厳しい――命ずる時は嘘は言わないのだ。嘘の任務等危険を伴わせるのだが本来の任務ももっと危険なのだ。彼の保護は一筋縄ではいかない。そう教えられているようにも感じられた。

 

「諸君らには危険な任務でもあるが彼を保護しない限り、この任務は成功する事は困難にも等しい」

「あ、あのすみません!」

 

 一人の従者が手を挙げる。

 

「どうした?」

「差出がましいのですがその青年は何故、私達と同じ臭いを擦ると感じたのですか?」

 

 従者の一人は源氏に訊ねた。一夏の事であるが大半は一夏と接触した事がない為、彼が自分達と同じ臭いである事が理解出来なかった。疑問さえを感じるのも無理はないが彼は一夏が何者である事までは判らなかった。

 彼の問いに源次は瞑目した。

 

「私にも判らぬ――だが、私達を見る彼の瞳には殺意が籠っておったのだ」

 

 源次の言葉に従者達は更に困惑した。が、源次はあの時の一夏を思い出していた。彼の瞳には憎悪や殺意が籠っていた――それは紛れもない事実でああった。

 あれは人を躊躇なく殺す事ができ、何のためらいもない事を窺わせる。あれは自分達暗部の人間と対等か、それ以上の力量があるようにも思えた。

 しかし、彼の身体能力までは量れる事は出来ない。幾らにらみだけで相手を怯ませる事が出来ても体力があるかまでは判断出来なかった。

 そして的確な判断力までも判断出来ない。源次は一夏に対して警戒すると共に何処か淡い期待も寄せていた。もしかしたら彼ならば……刹那、源次は何かを思うのを忘れる意味で目を開けると、従者達に伝えた。

 

「私からの命だ――織斑一夏青年を保護するのだ――もしも抵抗してきた場合、手荒な真似をしてでも拘束しろ」

 

 源次はそう彼等に伝えた。これには楯無は瞠目するが従者達は無言で頷いた。刹那、楯無は表情を哀しくする。

 

(…………織斑君)

 

 楯無は一夏の事を考えていた。それは源次の命に反論したいようにも思えるが苦渋であり、最善の決断でもあった。彼は男性操縦者である以前に全世界に何をされるのかは判らない。

 同時にあの時、何故彼は自分達に敵意を向けていたのかも理解した。彼は自分達を信用してはいないこと。それは仕方ないが彼を保護するのは彼の安全を考慮しての事だ。

 源次の、父の命は正しくも間違っていると判りながら、彼女は暗部の人間として彼を捕える側として立つ事を決めた。

 

(織斑君……仕方ないけど、あなたを捕える為よ……それにごめんなさい)

 

 楯無はそう言いながら彼に謝罪の言葉を述べた。あの時、自分が彼を警戒していれば、彼が何故人を信用していなかったのかを聞いとければ良かった。

 同時にあの時、彼に自分達を信用してと言ったが逆効果としても感じた。同時に彼の安否を気にしていた。

 彼は無事で有って欲しい――それは楯無の願いでもあった。しかし、彼を捕えなければならないという苦渋の決断もあった。

 彼女から見れば何方が正解化は判らない――が、何方も正解であり不正解でもある事に気付いていたが暗部の人間として、使命を果たそうと決めた。

 源次は従者達に特徴や彼がいそうな場所を探るよう調べさせる中、楯無は一夏は自分の手で捕えると言う強い気持ちを心の中で決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 あれから丸一日が経った頃、此所は霧で覆われた、とある大きな廃病院。其処は普通の病院ではなかった。そこは精神に異常を来した者達が隔離されると言う意味で入院される精神病院であった。

 その病院は外から見れば綺麗であるが中は酷く荒らされてはいないが所々ヒビがあり、今にも崩壊しそうであった。

 

「男性操縦者が学園に現れたそうだ」

 

 そんな中、病院の一番奥にある、とある病室。その病室は狭く、緑の壁や白い床であるが壁には色々なマスクが飾り用として飾られていた。何れもデザインが違うが不気味さを醸し出している。

 それだけではない、ベッドや作業机が置かれているが作業机には一人大男が作業をしていた。彼が作っていのはマスクである。そう、壁に飾られているマスクは全て、男が一から作った物であった。

 何れも精巧な出来栄えである。が、男の近くには白いハロウィンマスクが置かれていた。そして後ろには彼に背を向けながら腕を組んでいる青年が立っていた。

 黒で統一された服を纏っているが表情は険しい。彼は大男に訊ねるが大男は作業の手を止めず、作業を進めていた。

 

「ブギーマン、作業を進めながらでも良いが俺の話を訊け」

 

 青年は大男をブギーマンと呼んだ。そう、一夏同様、デスプレイヤーの一人であり殺人鬼、ブギーマンを半霊にした者であった。ブギーマンは作業机に向かって作業を進める中、青年は言葉を続ける。

 

「取り敢えず全世界の様子は俺にも判らない――だが、他の奴等がどう動くのかも判らない」

 

 青年は眉間に皺を寄せながら思考を走らせる。彼は男性操縦者の存在等どうでも良かった。彼が考えている事は他のプレイヤー達の存在。彼等がいる限り、自分の安全な場所はない。

 此所は安全であるが最悪、場所を知られたら元も子もない。ならば相手がどう動くかを泳がせる意味で調べるしか方法はない。ここは病院であるが解剖も出来る場所だ。

 青年は思考を走らせる中、ある事に気付く。

 

(待てよ……男性操縦者は何故、自ら姿を現したんだ?)

 

 青年は男性操縦者の行動に疑問を抱く。彼が動いたから活動が再開出来るのだ。それは死を意味し、制する事をも意味する。しかし、それは余りにもタイミングが良過ぎる。

 男でISを動かした事は衝撃を与える物だ。それだけでなく何故逃げたのだろうか? ――いや、青年は直ぐに気付いた。保護されれば問題ないが解剖される件も伴うからだ。

 しかし、それでは理由にはならない――男性操縦者は何故、自分からIS学園に現れたのか? 身の安全の為か、それとも単に――青年は思考を走らせる。

 刹那、青年は鋭い目つきをする。もしかしたら男性操縦者は……。

 

「ブギーマン……他のプレイヤーが見つかった」

 

 青年はブギーマンにそう言った。すると、ブギーマンは作業する手を止めると、振り返る。青年は背を向け続けていたが青年はブギーマンを肩越しで見る。

 目つきは鋭かった。が、確かな自身があり、疑問を抱いていた。

 

「ブギーマン……恐らく男性操縦者は俺達と同じプレイヤーかもしれない――それに上手くいけば、他の奴等を一網打尽に出来る」

 

 彼はブギーマンにそう言い放った。それは青年が男性操縦者――否、織斑一夏の考えを先に呼んでいるようにも思えたが一夏の予感は的中していた。

 自分よりも頭のキレる者――それは確かにいた。青年がそうであるが他もいるかもしれないが今は青年が最初の一人であった。同時に彼がプレイヤーであるかどうかは判断出来ないが青年は彼を、一夏を最初の標的にした。たとえ一夏に何かしょうとする集団がいようとも彼はそれらの者達を全て皆殺しにするつもりでもあった。

 が、青年は知らなかった。更識の面々も一夏を探しているが保護しょうとしている。同時にこの時、三つ巴線が繰り広げられる始まりをも告げていた。

 

 人を信用しないという理由で楯無の前から姿を消した青年、織斑一夏。

 彼を、一夏を手荒な真似をしてでも保護しょうとする少女、更識楯無。

 そして、疑問を抱きつつも一夏を最初の標的とした青年による三つ巴戦でもあった。


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