インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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 明日は予定がある為に投稿は出来ません。ですが水曜日の分を今日、投稿致しました。ご迷惑を存じますが申し訳ありませんでした。


第168話

「首、相……?」

 

 一夏は眉を顰めながら扉近くに居る壮年の男性、一義を見ていた。彼はこの日本の現総理大臣、藤間一義。彼の噂は色々あるが国民を第一に考えており、福祉を第一に考え、不正を嫌う熱血漢と言う印象があった。

 国民からの支持は高いが彼の人望から成る物だろう。が、一夏は彼が此処に居る事に疑問を感じていた。彼は何しに来たのか? それだけが一夏の心を支配していた。

 彼だけでなく、千冬達も彼が此処に居る事に疑問を感じているが彼、一義は彼等、彼女等を見て軽く笑う。哀しい笑みとも言える表情を浮かべているが彼は口を開く。

 

「済まない、さっきの会話の一部始終を聞いていたんだ、そこの彼の、織斑君の近くに居る女の子が来た後から」

 

 刹那、千冬達の間に動揺が走る。彼は聞いていたのだ。自分達とフランス政府の面々との話は兎も角、一夏の行動を見られたのではないのか、と。

 否、楯無が来た後であるが千冬達の間に動揺が走っているのはフランス政府の要求をも聞いた事を意味しているのだ。そう成れば日本政府にも大きな衝撃を走らせ、お手を煩わせる意味にも近い。

 最悪、一夏と二夏をフランス政府に引き渡さなければならない。千冬はそれに危惧し、楯無は泣きながらそれに危惧するが彼女は一夏の胸に顔を埋める。

 彼女の行動に一夏は視線を彼女の方へと向ける。楯無は嗚咽を上げているが一夏を想い泣いているのだ。彼はフランスへと強制入国される。それだけは厭だからだ、本音でもあるからだ。

 一夏はそれに気づきていないがフランス政府の一人が一義に話し掛ける。

 

 

「貴方は日本の総理大臣か?」

「えっ? ああ、はい、私が日本の総理大臣ですが、それが何か?」

「だったら話は……」

「それよりも学園長、ちょっと良いですか?」

 

 彼が言葉を言い終える前に一義は十蔵に話しかける。訊ねると言い替えれば良いだろうが話しかけた事に変わりはない。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 十蔵は一義の言葉に不意を突かれたが一義は先を続ける。

 

「済まないが、彼等をこの場所から外してくれませんか?」

「えっ?」

 

 十蔵が惚けるが一義は一夏と楯無を見る。

 

「ここから先は私達大人の話だ。子供である彼等には重くも辛い話になるかも知れない」

「えっ……ああはい、山田先生、織斑君と更識さんを」

「えっ? は、はい」

 

 十蔵は真耶に一夏と楯無を任せる事にした。確かにここから先は大人だけの話だ。彼の言うように重い話にもなるが一夏達に聞かせるような内容ではないからだ。

 一義はそれに気づきながらも彼等を気遣っていた。国民からの人望が厚いのも無理はないが大人としての気遣いでもあるのだろう。十蔵は彼の言動に気づきながらも真耶は一夏と楯無に近づく。

 

「織斑君、更識さん、此処を出ましょう」

 

 真耶は一夏と楯無に優しく話し掛ける。楯無は彼女の言葉に気づき小さく頷いていた。

 

「…………」

 

 が、一夏は一義を見続けていた。見据えていると言い替えれば良いが彼は一義に対して何かを感じていた。彼から自分と同じ匂いをしたからだ。

 それは何かまでは判断出来ないが警戒している。彼は何者か以前に警戒している事に変わりはない。一方で一義は一夏の視線に気づくが不意に微笑んでいた。

 まるで煽るような表情であるが彼は一夏と楯無を気遣っている事に変わりはなかった。

 

 

 

 

「…………」

 

 その頃、此処は医務室。室内にはラウラと二夏がいた。が、ラウラは今、自分が横になっていた簡易ベッドの隣にあるベッドで未だに横になっている二夏を見据えていた。

 彼女の表情は険しいが二夏は気を失ったまま、眠ったままのように目を閉じている。にも関わらず寝顔は哀しい。悪夢に苛まれているのかなにかに怯えているようにも感じられた。

 しかし、彼は何時も哀しい表情を浮かべている為にそう成っても可笑しくはなかった。よく知っている者以外から見れば変だと思われるが……。

 

「……この男が、私を……」

  

 ラウラは彼を見ながらそう呟いた。何故なら彼女は彼が自分を助けた事を千冬から聞かされ、知ったのだ。が、ラウラから見れば何故助けたのかは判らない。

 自分は織斑一夏に憎悪を抱いているのだ。彼が自分を助ける理由もないのと、彼の本音も判らない。ラウラはその事で考える。刹那、彼の指か微かに動いた。

 ラウラはそれに気付き目を見開くが彼の瞼が微かに動く。

 

「っ!?」

 

 ラウラは軽く後退りするが彼は瞼を動かしていた。刹那、ピクリと止まったがその直後に瞼を開く。彼の紅い目が見えるが彼が目覚めた事を意味していた。

 

 

 

「成る程……織斑君は貴方方に、ですか」

 

 その頃、此処は戻って学長室。そこに一義がソファーに座りながら向かい側にいるフランス政府の面々の話に耳を傾けていた。内容は至って簡単、二夏の件や一夏が自分達に武器を向けた件での話であるが彼等は二人の身柄をフランスに引き渡す事を願っていた。

 が、一夏の件を出汁にしているが一義が首相であるならば日本政府に対して要求を呑むよう強要しているのだ。一方で彼の言葉に千冬は歯を食い縛り、十蔵は下唇を噛んでいた。

 彼等の目的が一夏と二夏を欲しがっているとしか思えなかったのだ。しかしそれは呑む事は出来ない。十蔵は生徒達を守る為、千冬は弟を守る為でもあるのだ。

 が、彼等から見れば理由等、どうだって良い。一刻も早く二人の身柄を祖国、フランスへと引き渡す事を願っていた。

 

「取り敢えず貴方方には我々の要求を呑んでもらう。無論、織斑一夏が我々に武器を向けた事もな」

 

 フランス政府は彼等に対して自分達の要求を呑むよう言った。如何なる理由があっても彼等は聞く耳を持たない。同時に一義の許可ならば直ぐにでも動くだろう。

 これでフランスは安泰、彼等はそう思っていた。が、彼等の言葉に一義は静かに耳を傾けたまま何も言わない。表情は険しいが何かを考えていた。

 

「取り敢えず貴方からの事も聞きたい。彼等を我々に引き渡すかをな?」

 

 彼等は一義に聞いた。そんな一義に千冬と十蔵は彼を見やる。彼の一言で全てが決まる。二人はそう気付いたのだ。二人は心配そうに一義を見たのだが彼は溜め息を吐くと、軽く目を閉じた。

 

「……そうですか……では、貴方方の要求を呑みましょう」

 

 刹那、千冬と十蔵は目を見開いた。が、フランス政府の面々は彼の言葉に微かに歓ぶ。

 

「そうですか。だったら」

「ですが、その要求を呑むのは貴方方にとって自殺行為です」

 

 更に刹那、一義は言葉を続ける。これにはフランス政府の面々は驚き、千冬と十蔵は更に驚くが一義は目を開ける、険しい表情を浮かべていた。

 

「それを呑む事は貴方方にとって自殺行為だ。そう成ればフランスは崩壊する」

「な、何だと!?」

「如何いう事だ!?」

 

 彼の言葉に彼等は怒る。一義の言葉が原因でもあるが一義は怯みもせず先を続ける。

 

「貴方方は気づかないのですか? 此処はIS学園、国からの干渉を受け付けない場所でもあるのです」

「それが何だ!? 第一織斑一夏は我らに武器を……」

「そんな事をしても貴方方には何の意味もない」

「なっ!?」

 

 一義の言葉に彼等は驚くが一義は言葉を続ける。

 

「それに貴方方はフランスの為としか思えない。二人の身柄を引き渡す事を願っているのはフランスを潤う為か? それともIS関係で国を発展させる為か?」

「っ……!?」

「図星のようですな? それに貴方方は彼、織斑一夏の瓜二つである二夏を欲しがっていると言うがISを返還すれば良いだけだ。それなのに何故、彼を必要とする?」

「そ、それは彼がISを盗んだかもしれないからだ! それに……」

「それは此方で事情聴衆をする。が、それは織斑一夏を怒らせる行為にも等しい。彼が貴方方に武器を向けたのは彼の事だ。貴方方は彼を欲しがっている事を見透かして、織斑君は怒ったのだ」

「だがな! あのISは……」

「織斑一夏君は兎も角、男性操縦者は貴重な存在だ。そんな彼等を欲しがっているのは何所もそうだ。貴方方だけではない」

 

 一義がそう言うと彼等は冷や汗をかいた。が、一義は更に畳み掛ける。

 

「彼等はIS学園にいれば彼等は安全だ。だが外に出すのは彼等の身が危ない事を意味している。そんな状況で外に出せば貴方方が叩かれる。同時に貴方方は学園の規則を破る行為にも等しい。それに……」

 

 一義は言葉を止める。が、直ぐに口を開いた。

 

「彼の後ろには強力な者達が居る。その者達を怒らせれば貴方方は破滅する……それに、彼等は貴方方の玩具ではない! 欲に巻き込まれる為の生贄でもないのだよ!!」

 

 彼は怒った。これにはフランス政府の面々は肩を震わせるが千冬と十蔵は驚きを隠せなかった。が、それは一義が二人を思い彼等に言ったからだ。

 彼等は一人の人間として見ている。同時に彼等には青春を奧化して欲しいからだ。一義はその事を言ったが更に続けた。

 

「それに此処は学園です……此処には子供達が居る……大人達の欲望で人生を左右させる為ではない! 人生をレールの上にしかせる為でもないんだぞ!!?」


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