インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第167話

 

「お、織斑君!」

 

 十蔵は彼、一夏の行動に戸惑っていた。彼は今、ランスを展開しながらそれの穂先をフランス政府の面々に向けていた。一夏は眉を顰めているがランスを下ろす気配はない。

 

「織斑……!」

 

 千冬は困惑しながら立ち上がり、真耶は慌てて彼を止めようとした。刹那、彼は二人をギロリと睨む。これには千冬と真耶も彼の鋭い視線にたじろぐ。

 自分達を見る彼の目は鋭いが怒りが孕んでいた。自分の邪魔をすれば命はないと伝えているようにも思えた。二人は彼の視線に怯む中、彼は視線をフランス政府の面々へと戻す。

 彼等は怯えているが生唾を吞んでいた。穂先を見据えているが恐怖している。が、一夏が怒ってるのは彼等に対してだ。彼等は二夏をフランスへと入国させようとしている。

 一夏から見ればそれは無理に等しい。彼は大事な弟的な存在だからではない、彼は一彦が行動を起こすまでの間の人質でもあるのだ。彼が一彦と取引をしたのは一彦が自分に手を出さない事、二夏は人質と言う形で自分の元に置く事であった。

 彼はその取引に納得していないが彼が、一彦が第二の計画をも教えた為にそうなってしまった。一夏はその計画に納得すると二夏を手元に置く事を了承した。

 彼は人質である以外が親近感を抱いている。外面では信用しているふりをしているが内心では彼を完全に信用している訳ではないのだ。一夏はそのことを誰にも言わない中、ランスを下ろす気配はない。

 二夏はゲームを制する為の道具であり駒だ。一夏はそう思っている中、十蔵が口を開く。

 

「織斑君、止めなさい! そんな事をしても」

 

 十蔵は一夏の行動に怒りを感じていた。幾ら生徒とは言えあるまじき行動でもあるからだ。彼が二夏とはどんな関係なのかは判らないが今は一夏を思い、止めようとしていた。

 が、一夏は彼の発言に耳を傾ける様子はない、ゲームを制する為の駒でもある為に彼の発言を聞き流している。周りは一夏の行動に驚き、震える中、開いた扉の方から走る音が聴こえた。

 千冬、真耶が音に反応するが扉からある人物が飛び出すように出てきた。

 

「織斑君……!」

 

 その人物は楯無だった。彼女は汗を掻いているがさっきから走ってきたのと、此所へ来たのは一夏を止める為でもあった。自分は数分前まで彼と話をしていた。

 簪や布仏姉妹も一緒だったが彼は二夏の事を気がかりとも言えるように風のように消えたのだ。楯無は彼の行動に驚くが簪達も驚きを隠せないでいた。

 が、楯無は一夏の行きそうな場所を直ぐに判断し、学長室へと向かったのだ。二夏は医務室に運ばれたのだがフランス政府の事を知ったのは試合後に十蔵が彼に二夏での事で話を聞いたのと、その最中にフランス政府の者達が真耶を通して、十蔵と話をしたいが為に知ったのだ。

 楯無達と居るのは十蔵が一人では心細いとかではなく、彼と何時も一緒に居る彼女等が近くにいれば彼も話をするだろうと思ったからである。

 十蔵がフランス政府の面々と話をしている頃、一夏は苛立を隠せず、同時にフランス政府の思惑に気づき、此処に来たのだが今は違う。楯無は一夏を見て驚くが真耶は楯無を見て何かを言い掛けていた。

 が、それも楯無の行動かつ話を聞いていないが。彼女は一夏の近くまで来ると無理矢理ランスを下ろす。手で無理矢理でもあるが彼女は一夏を見る。

 

「織斑君……!」

 

 楯無は哀しい目で彼を見つめる。一方で一夏は楯無を見るが眉間に皺を寄せていた。楯無が行動の邪魔をした事に怒りを覚えていた。ゲームを妨害する行動を起こしたからだ。

 しかし、楯無は一夏の行動を止めたに過ぎない。彼はフランス政府に喧嘩を売るような行動を起こしたからだ。最悪の場合、日本とフランスとの間で戦争を起こしかねない。

 楯無はそれに危惧するが一夏は口を開いた。

 

「何しに来た?」

 

 一夏は楯無が来た事に不信感を抱くが楯無は答えた。

 

「貴方がフランス政府の人達に何かをするかと思ったからよ……!」

 

 楯無は辛そうに下唇を噛む。無論、それが理由でもあるが一夏を心配しているからでもあった。が、それは一夏から見れば何とも感じられてない。

 彼は楯無を見て溜め息を吐く。

 

「それが何だ? ……俺はコイツ等が二夏を連れて行こうとしたんだ……」

「だからって……!」

 

 楯無は一夏の言葉に言葉を詰まらせる。先が続かないからだ、言葉が見つからないからだ。彼を止める理由を見つけられないでいるからだ。

 

「お、お前……織斑一夏か!?」

 

 そんな中、フランス政府の面々の内、一人が恐る恐る彼に訊ねる。刹那、一夏はギロリと彼を見た。これには彼も震えるが先を続ける。

 

「う、噂は聞いているが何故、私達に武器を向けた……!?」

 

 彼は怒る。彼だけでなく他の二人も怒っていた。理由は簡単、ISの武器を向けたからだ。それも自分達は一般人かつお偉い立場にあるのだ。

 彼等はそれを利用しているが一夏が武器を向けた事に変わりはない。同時に上手くいけば二夏だけでなく、一夏も連れて行けると思ってしまった。

 フランスは今圧迫しているが彼等がいれば潤うからだ。彼等はそれを話さない中、一夏は彼等を見て何も言わない。が、ある人物が割って入るように叫んだ。

 

「ま、待って下さい! 彼は二夏と言う者を思ってあなた方に向けただけです! お赦しください!」

 

 千冬だ。彼は一夏の行動に驚きながらも困惑していた。彼は二夏を思ったに過ぎない。彼が何者であるが前に今は一夏を助けるのが先であった。

 

「それはならん! 幾ら男性操縦者とは言え一般人である我らに向けた事に変わりはない! 第一彼はあの者とはどう言う関係だ!? 私達の造ったIS、ジルドレを持っている事に疑問があるが私達に向けた事に変わりはない!」

 

 すると、今度は別の者が抗議に出る。

 

「我々はお宅等に我が国の大事な人材を送ったのだぞ!? それに最近、日本政府は良からぬ事で色々と叩かれたではないか!? 我々はそんな状態の中でお宅等に人材を託したのだぞ!?」

「ですが私達はあなた方の国の娘達もそうですが日本政府とあの娘等には何の関係もありません!!」

 

 彼の言葉に十蔵は怒るが彼は引かない。

 

「それを言ってもこの前未知のISが学園に来たらしいではないか!? そのISは三機も来たが彼、織斑一夏の右腕を奪い、更には夜中には襲撃者も来たではないか!? そんな状態で信用しろと言われても私達は信用出来ない!」

「そうだ! 俺達はその事で吹き返すつもりはないが彼の行動はあるまじき行為だ! この事をフランス政府に言いつける!」

「そんな……!?」

 

 さっきまで話していた者とは別の者の言葉に楯無は目を見開く。彼だけでなく十蔵も困惑し、千冬や真耶も困惑する。彼等は本気だ。フランス政府に言いつける気でいた。

 しかし、それでは二夏だけでなく、一夏をも連れて行こうと言う形にもなる。そうなればフランス政府の思惑ともなってしまう。

 

「あ、ああ……!?」

 

 そんな中、楯無は彼等の言葉に愕然としていた。彼等は何かをしてくる。何かまでは判らないが良からぬ事だと言う事だけには気づいた。彼を連れて行く。そう感じたのだ。

 楯無は無意識に彼等を見ながら彼、一夏に擦り寄る。

 

「…………」

 

 そんな彼女の行動に一夏は気づくが眉を顰めていた。が、楯無は目に薄らと涙を浮かべていた。一夏を想っている事を意味していた。無論、一夏は楯無の涙には気づいていない。

 楯無は涙を浮かべながら強く目を閉じる。止めて、連れて行かないで、と。彼のした事は赦される事で赦される事ではないが連れて行かないでくれと願っていた。

 切ない気持ちでもあるが一夏には気づかれていない。楯無の願いとは裏腹にフランス政府の面々は彼らを責めるが一夏と二夏を連れて行くだろう。

 千冬と真耶、十蔵は何とか宥めるが彼等は聞く耳を持たない。彼等では歯が立たないのだ。このままではフランス政府の思惑で混乱を招く。

 学園の教師である千冬と真耶、学園長でもある十蔵はそれに気づいていた。楯無は泣いているが誰も慰めない、一夏は見ているだけであった。

 室内は騒がしくなるがこの状況は混沌にも近くなっていた。刹那、開いた扉からノックの音が聴こえた。

 

「どうしたんですか? この騒ぎは?」

 

 同時にある人物の声が聴こえた。これには一夏、千冬、真耶、十蔵、フランス政府の面々は声に反応し、声がした方を見やる。

そこには、開いた扉の近くには一人の壮年男性がいた。

 スーツを纏っているが彼は困惑し、気にもなっていた。

 

「あ、貴方は!?」

 

 真耶は彼を見て驚くがその人物はIS学園の十蔵よりも偉く、日本では偉い立場でもある人物だった。が、真耶とは違い、その人物を見た十蔵は驚いていた。

 

「と、藤間首相!?」

 

 十蔵は彼を見て驚くが周りも更に驚く。が、楯無は泣きながらであるが驚いており、一方で一夏はその人物、藤間を見て眉を顰めるが彼は藤間と言う者であった。

 そして、彼は日本を統べる位置にあるも者、藤間一義と言う。そして、今の首相、つまり総理大臣でもあった。


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