インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第164話

「全く、貴様の所為だぞ……!」

 

 あれから数分後、一夏と二夏は互いの専用機とも言えるジャック・ザ・リッパー、白のジルドレを纏いながらアリーナの中央に居た。彼等は隣同士にいるが一夏は眉を顰めながら呆れ、二夏は哀しそうに微笑んでいた。

 双子とも言えるが性格は違う。が、彼等の目的は共通している。それは、奥にいる千冬擬きを叩く為でもある。と言っても、元々はラウラである。

 彼女は何かの突然変異で形を変えたのだ。異形とも言えるが彼女は千冬擬きの中にいる。今は何をしているのかは判らないが孤独を感じているのだ。

 が、二人がそこにいるのは彼、二夏の発言と、一夏の了承でもあるからだ。二人はラウラを助ける為にISを起動しているのだ。そんな彼等に千冬は微かに嬉しかったが一夏から見れば苦痛でしかない。

 楯無とシャルはピットに待機しているが二人を心配している。楯無は一夏を、シャルは二夏を心配しているのだ。そんな彼女等に二人は気づいていない。

 それに、この件は二夏が考えた事であり、一夏は彼の手助けをするに過ぎないのだ。一夏と二夏は互いの考えを隣にいる者に漏らさない中、放送から声が聴こえた。

 

『織斑、それに織斑のクローン、聴こえるか?』

 

 その声の主は千冬であった。二人は彼女の声に反応するが一夏は舌打ちし、二夏は困惑している。が、千冬は先を続ける。

 

『あれには何が遭ったのかは私にも判らぬ……が、あれを倒さない限り、何時までも続く……無論、ラウラの身も危ない』

「「…………」」

 

 二人は千冬の様子に気づく。後からの言葉のトーンが落ちている事に気づいたのだ。

 

『彼女は私を思って此処に来た……だが織斑、あいつはお前を私の汚点だと決めつけ、突っ掛かってきた……私はあいつを教えたとは言え、間違った方へと教育させてしまった』

 

 千冬はそう言った後、そこからは何も言わなかった。一夏と二夏は互いの相手を見合う素振りは見せないがスピーカーを見ている。千冬の言葉を待っているのだ。

 彼女は先を続けるか、或いは自分達に対して、行動を移すように促すのかを待っているのだ。

 

『……出来る事なら、彼女を助けてやってくれ……それに……否、今は止そう……二人共、頼んだぞ……!』

 

 千冬がそう言うと、一夏は溜め息を吐き、二夏は頷く。刹那、二人は千冬擬きを見る。異形である事に変わりはないが彼等は微機を展開する。

 一夏はナイフを、二夏は剣と盾を展開した。彼等は武器を千冬擬きに向けた。刹那、一夏はウィングスラスターを噴かす。更に刹那、黒い煙が噴き出され、煙はアリーナ全体に充満する。

 

「っ!?」

 

 放送室にいた千冬と、近くに浜屋や数名の教師達がいた。彼女等は黒い煙を見て驚きを隠せない。煙は視界を遮らせ、どうなっているのかを判断出来なくさせている。

 同時にあの黒い煙は死の宣告でもあるのだ。その被害に遭ったのはセシリアに鈴の二人だ。彼女等に恐怖を植え付けたのだ。が、それ以上に第三の犠牲者が出る事を危惧していた。

 次なる犠牲者はラウラか? 誰もがそう思った。反面、最善の策でもあるのだ。あれはどんな力を持っているのかは判らない。同時に今は彼等に頼むしか方法はないのだ。

 教師達は己の無力さに気づきながらも彼等が解決する事を願っていた。それ以上に千冬は指を絡めながら祈っていた。

 

「(お願いだ、一夏……! ラウラを助けてくれ!)」

 

 千冬はそう願っていた。一夏が彼女を助ける事を願っていた。彼ならラウラを助ける事が出来る。絶対的な自信があるのだ。彼は自分の弟……否、織斑一夏は実力ある生徒であり、どんな事件をも解決に導く事が出来るのだ。

 彼女は織斑一夏と言う者を信じていた。千冬はアリーナを見ているが祈っていた。そんな千冬を真耶は心配そうに見ているが声を掛ける気配はない。

 彼女は千冬の事を察しているからだ。真耶は千冬を心配しているが視線をアリーナの方へと向ける。黒い煙が充満しているが中で何が起きているのかは誰にも判らない。

 が、判るのは一夏と、彼のクローンとも言える存在の二夏だけであるのだった。

 

「……暫くは視界を遮らせておく……後はお前に任せる」

 

 一方、黒い煙の中では一夏が二夏にそう言っていた。呆れているようにも思えるが無駄な行動をとっている事に不快な思いをしていた。が、自分に出来る事はこれだけであり、後は二夏がやる事だ。

 そんな彼の言葉に二夏は深く頷いた。同時に哀しそうに眉を顰めると剣と盾を構える。周りは黒い煙で包まれている。視界を遮らせ、不安にさせていく。

 反面、相手を不安にさせるのには充分過ぎる物だ。二夏はそう気付くが彼はISを動かして、突き進む。狙うは千冬擬き……否、ラウラを助ける為だ。

 彼はISを噴かすが目の前には千冬擬きがいた。彼よりも一回り大きいが彼はそれに怯える気配はない。ラウラを助ける為でもあるが彼女を救いたいと言う気持ちが、彼女に同情する気持ちが彼の恐怖をぬぐい去っているのだ。

 二夏は千冬擬きを見ているが千冬擬きは彼を見るや否や突然、攻撃してきた。が、彼はそれに気づいたかのように風のように消え、千冬擬きの攻撃は空を斬る。

 千冬擬きの攻撃は無駄に終わったが彼は逃げた訳ではない。彼は風のように現れたのだ。千冬擬きの真後ろに、剣を振り下ろす体勢であった。

 彼は攻撃を受けると思い、即座に風のように消え、風のように攻撃しょうとしていた。彼は哀しい表情を浮かべているが剣を振り下ろした。

 刹那、何かを斬る音が微かに響く。千冬擬きの背中が斬られた音であった。が、それは無駄であった。ダメージをあまり与えられなかったからだ。

 

「っ……!」

 

 二夏は哀しそうに下唇を噛むが即座に離れる。攻撃されると思ったからだ。攻撃が無駄に終わったのと、相手の反撃を受ける危険もあるからだ。

 彼はそれに気付き離れた。が……。

 

「……えっ?」

 

 二夏は驚きを隠せない。何故ならあれは、千冬擬きは攻撃して来ないのだ。相手が後ろにいるにも関わらず、攻撃してきたにも関わらず何もして来ないのだ。

 二夏はそれを不思議に思うのと同時に不信感を抱いていた。

 

「……まさか」

 

 彼は何かに気づいた。あれは攻撃してくるのではない、眼前に敵がいた場合に攻撃する事以外、頭にないのだ。後ろから攻撃されている事にも関わらず何もして来ないのはそれしかないのだ。

 二夏はそれに気づくのには遅くはないが彼はあれは、千冬擬きは背中からの攻撃に反応しないのではなく、あれ自体が攻撃されている事に気づいていないのだと、彼は気づいたのだ。

 

「……でも」

 

 二夏は更に思考を走らせる。普通の攻撃ではあれにダメージを与える事は出来ない。何度同じ事をしても結果は同じだ。彼はそれに気づくがどうすれば良いのかを探していた。

 同じ所を何度も攻撃しても無駄だ。だとすれば……二夏はある決断を出す。

 

「(こうなったら……)」

 

 二夏は盾を投げ捨てると、剣を両手で持ち直す。彼は剣に全てを賭けるつもりであった。

 

「……ジルドレ、僕に力を……!」

 

 二夏は辛そうに呟いた。彼はジルドレに全てを賭けるつもりであった。彼女を助けるには自分が纏っているISに力を貸してもらう他方法はないのだ。

 自分の身も危うい事には気づいているが自分の身は自分で守る事は出来る。だからこそ、彼はジルドレに、この剣で全てを賭けたのだ。彼女を助けるの最善の策でもあるが彼は剣を持つ両手に力を入れる。

 刹那、ジルドレを白い光に包まれる。希望の光とも言えるが彼の強い気持ちを表していた。黒い煙の中に白い光がポツンと照らし出される。

 それは黒い煙を出している一夏も気づき、放送室にいる千冬達も気づいた。が、二夏は白い光に包まれながらも瞼を閉じる。そして瞼を開くと、剣に力を入れ、風のように消えた。そして、千冬擬きの背中に現れると、剣を振り下ろした。

 刹那、大きな音が響き渡る。それは千冬擬きの背中の斬られる音であるがそれはさっきのよりは大きい物であった。それ以上に背中には大きな切り傷が出来た。

 

「未だ……!」

 

 刹那、二夏は剣を投げ捨て、切り傷に手を入れる。何かを探しているようにも思えるが彼は手に何かが振れている事に気づき、目を見開く。

 が、直ぐに哀しそうに目を逸らすと、それを掴み、力一杯引き抜いた。刹那、更に音が聴こえたがそれは二夏がある者を引き抜いたからだ。

 それはとても大きいが、それは千冬擬きの中にいた哀しき少女、ラウラであった。




 次回、土曜日での投稿をお休み致します。次回は日曜日からの投稿となります。

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