インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第162話

「……何しに来た?」

 

 一夏は彼女、箒が此処から出て間もない頃に来た者に対して眉間に皺を寄せながら棘のある声で訊ねた。その物は一夏達が受け持つクラスの担任でもあり、姉でもある彼女、千冬に対してそう言ったのだ。

 一方で千冬は彼の言葉に少し怯むが彼の後ろ、楯無を見て歯を食い縛る。彼女が、彼女の一族が彼、一夏を暗部に入れた存在であるからだ。

 彼女を見る千冬の目には怒りがあるが楯無はそれに気づき、冷や汗を流す。刹那、一夏は楯無を背中に隠す。

 

「えっ……?」

 

 一夏の行動に楯無は驚くが彼は楯無とは目を合わせていない。今は千冬が来た事に怒りと疑問を抱いているからだ。千冬も一夏の行動に驚くが一夏は今一度、訊ねる。

 

「……貴様、何しに来た?」

「あっ……お、織斑……それに」

 

 千冬は彼の言葉に反応するが不意に視線を近くにいる者達に向ける。二夏とシャルであった。が、彼女が見ているのは二夏である。何所からどう見ても一夏であるが一夏ではない事に気づいていた。

 千冬は彼を見て疑問を抱くが今はそれどころでは無いのだ。彼女は後の事を真耶に任せ、彼の所まで来たのだ。それには理由があるが千冬はそれを枯れ、一夏に言った。

 

「……織斑……」

 

 千冬は彼と向き合う。哀しみを帯びた目で見ているが一夏から見れば苦痛でしかない。が、それでも千冬は枯れ、一夏に対して、こう言った。

 

「否、一夏……私に力を貸してくれ!」

 

 千冬は彼に対してそう述べるのと同時に、頭を下げる。彼女が此処に来たのも自分を崇拝する存在であり、生徒の一人でもある彼女、ラウラを助ける為であった。

 自分が行けば、彼女を助ける事が出来るがそれでは、彼女の為にはならない。一夏に頼んだのは周りに頼り、交友を深める為でもある。それに彼女を助けるのは、憎しみの対象とされている彼、一夏しかいない。

 彼にしか頼めないのだ。自分の弟なら助ける事が出来る。同時に憎しみは消え、ラウラに人と接する事の大切さを教える事が出来る。一か八かの賭けでもあるが彼なら出来る、そう確信していた。

 間違っている事にも気づいているが千冬は彼、一夏を信じているからだ。千冬の切願とも言える言葉に壱夏は眉を顰めていた。楯無は彼女の言葉に戸惑っているが一夏の裾を強く掴んでいた。無意識とも取れる行動であるが彼に全てを託しているのだ。

 一夏は楯無の行動に気づくが知らない振りをしていた。

 

「…………」

 

 一方で彼のクローン、二夏は千冬を哀しそうに見ていた。彼女の弟ではないとは言え、自分は一夏の血を持っている為に彼の双子の弟的な存在だ。

 同時に生前の彼の記憶を持っているのかは彼に叱らないが微かに心揺らいでいた。千冬のあの姿を見てだが彼は彼女、千冬のラウラを思う気持ちは教師として、一夏に頼む思いは姉としてだと言う事に気づいた。

 しかし、自分は部外者であり口を挟む資格もない。彼はそれに気づき目を附せる。同時に両手を拳に変え、強く握りしめていた。シャルは戸惑っているが皆、一夏がどう言うのかを気にし、心配していた。

 彼の一言で全てが決まる。彼の一言で状況が変わるか変わらないかで決まる。誰一人、反論する事や詭弁的な事を口にしない。周りは壱夏を見る中、彼は眉を顰めたまま千冬を見下ろしていた。

 千冬はラウラを助けたい。それに気づいたのだ。即断でもあるが彼は溜め息を吐き、そして言った。

 

「……知るか」

 

 彼はそう呟いた。千冬はそれを聞き逃さなかった。彼女は頭を上げると彼、一夏を見る。彼は冷ややかな目で見ていた。自分の頼みを断っただけでなく、それさえを拒否していた。

 

「な、何故だ……!?」

「……それはお前が何とかしろ、お前等の私情に付き合うつもりもなく、その義理もない」

「い、一夏……!」

 

 千冬は彼の言葉を信じられないと言わんばかりに口元を両手で押さえた。一夏は関わるつもりはなかった。彼女の問題は彼女自身が解決すれば良い。周りも協力したいのならばそれで良い。

 が、自分は彼女のお願いを聞くつもりはない。無駄な時間であり、無駄な行動でもある。それに自分は千冬を嫌い、ラウラも嫌っている。頓珍漢にも思えるが彼は関わるつもりはないでいた。

 

「……奴は俺に対して、憎悪を抱いている。そんな奴を助けたとしても、奴は恩義を感じない」

「そ、それは違う! ラウラはお前に対して悪い印象を抱いているが私の所為なんだ! あいつは私をよく見てやれなかった……」

 

 千冬は項垂れる。瞼を強く閉じながら下唇を噛む。

 

「あいつは……ラウラは私に固執し過ぎた……私が可愛がる所為で自らの依存先を私に向けてしまったのだ……」

 

 千冬は辛そうに訳を話し始める。彼女と出逢ったのは三年前。千冬が一夏の探索をドイツ軍に頼んだ事で教官になった際であった。彼女はそこでラウラと出逢ったのだ。

 彼女は周りから落ちこぼれと言われ、罵られていた。そんな彼女は周りに対して期待を裏切る行為と思われている事に次第に孤独を感じていた。

 そんな彼女を、千冬は精一杯の愛情を注ぐように優しくも厳しく教えた。彼女を亡き弟、否、亡き弟だった一夏と重ねて見てしまったのだ。

 それだけでなく、彼女は次第に心を開かせ、周りが羨む程の強さを手に入れた。強力なISを手に入れた。ラウラは千冬に対して恩義を感じていた。

 次第に彼女に対して、尊敬してしまった。が、同時に千冬を哀しませる存在、一夏に対して憎しみを抱いていた。日に日に増していった。千冬に対しての恩義を返す為にも、であった。

 ラウラが一夏に憎悪を抱いているのは千冬に対しての恩義と執着でもあった。千冬はその事に気づいたのだが全ては自分が元凶。尻拭いは出来ないどころか、彼女の気持ちを理解出来なかった自分にも責任はあると感じていた。

 

「……あいつは私が止めなければならない……だが、それではあいつの為にはならない……」

 

 千冬は目に薄らと涙を浮かべた。

 

「あいつは未だ若い。これから先、色んな事を知る事になる。が、私に執着してばかりではあいつの為にはならない……頑固者だがあいつはとても強く、優しい。それに……あいつを止める事が出来るのはお前しかいないのだ……一夏……」

 

 千冬はそう言うと彼を見据えながら頭を下げた。

 

「頼む! あいつを助けてやってくれ! あいつは人の温もりを知らず、産まれた時から戦場で身を置いていた! 孤独であった!」

「…………」

「勝手な事だと理解している! だが、あいつだけは助けてやってくれ! 頼む!」

 

 千冬は泣きながら切願した。ラウラを助けたい、教官としてではなく、一介の教師として一夏にお願いしていた。彼なら助ける事が出来るのも彼の実力を知っているからだ。

 今の所、自分のクラスかつ、学園最強の生徒であり憎しみの対象でもある楯無と同格の強さを誇る一夏しかいないのだ。自慢の弟だからでもなく、彼を信じているからだ。

 そんな彼女に一夏は見ているだけであった。楯無は一夏の背中に隠れながら困惑しており、近くにいる二夏は哀しそうに見ており、シャルは楯無同様、困惑していた。

 

「……断る」

 

 彼の言葉に千冬は目を見開く。一夏の言葉に驚きを隠せないからだ。が、彼の決意は変わらない。彼はラウラを助ける義理はないからだ。千冬の一方的な懇願を彼は聞き入れる気はないのだ。

 千冬は驚く中、一夏は何かを言おうとした。

 

「……助けて、上げたら……」

 

 刹那、ある人物が横槍を入れてくる。その人物の言葉に一夏は眉を顰め、楯無は目を見開き、千冬は驚き、シャルは近くにいる者を驚く。

 更に彼と彼女等は一斉に声がした方を見やる。その人物は、ラウラを助ける為に千冬の願いを聞き入れようとしたのは、彼、一夏のクローンである二夏だった。

 彼は哀しみを帯びた目で一夏を見ていた。が、彼の言葉に周りは反応しているのだ。彼は千冬の願いを聞き入れている。それだけは判断出来るが一夏は彼の言葉に反論した。

 

「貴様……どう言うつもりだ?」

 

 一夏は彼に訊く。千冬の願いを聞き入れる彼に微かな怒りを感じていた。千冬は彼の言葉に驚いているが一夏は二夏に訊いているのだった。

 周りも彼の言葉と、彼等のやり取りを見守っていた。彼等は瓜二つかつ、双子のようにも思える彼等を見ていた。口出しする様子もなく、それをしたら何をされるのかは目に見えていたのだ。

 一方で一夏は二夏を見据えていた。彼の言葉に怒りはあるが彼が何て言うのかを気にしていた。しかし、二夏はそれに答えた。

 

「僕は感じたんだ……彼女……やっぱり僕と同じだったって……」

「……同じ?」

 

 一夏の言葉に二夏は頷く。

 

「……彼女、僕と同じ、人から産まれたんじゃなく、人から造られた存在だったんだ」


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