インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第161話

「い、一夏が二人……如何いう事だ!?」

 

 箒は今、目の間に怒っている非現実的な光景に愕然としていた。現実でもあるが彼女から見れば非現実だろう。近くには楯無やシャルがいるが彼女は気にしていない。

 彼女が見ているのは一夏……否、一夏達だ。片方は織斑一夏である。しかし、もう片方は白き騎士を沸騰させるISを纏いながらシャルを抱き抱えている織斑一夏、否、二夏だ。

 箒から見れば瓜二つだが彼の場合、白く透き通った肌に赤い瞳が特徴的だ。箒は彼を見て震える中、一夏は彼女を冷ややかな目で見据えながら訊ねる。

 

「篠ノ之、何の用だ?」

「あっ……い、一夏……!」

 

 箒は一夏に詰め寄る。

 

「一夏、試合は!? それにあれは誰なのだ!?」

 

 箒は二夏を指差す。二夏はシャルを下ろすと、ISを解除し、地上に降りると箒を見る。彼女は一夏を問いつめているが彼は気にもせずシャルに訊ねる。

 

「……大丈夫?」

「えっ……あ、う……うん」

 

 シャルは頬を紅くしながら困惑するが二夏は哀しそうに見ていた。が、箒は彼を見て困惑しているがある人物に気づく。それは楯無であった。

 彼女は楯無を見て歯を食い縛る。嫉妬の視線を向けているが楯無はそれに気づく。彼女の様子にも気づいているがそんな彼女を一夏は自分の方へと引き寄せ、背中に隠す。

 彼の行動に楯無は驚くが一夏は箒と話し合う気でいた。それに楯無の腕にある傷も気になっていたがそれを咎めなかったのも箒が来た所為でもあるからだ。

 一夏は楯無の腕の傷を気にする前に彼女、箒を睨んでいた。

 

「い、一夏……」

 

 箒は一夏を見て怯える。彼の様子が可笑しい事に気づいた。が、何時もの事だろうと微かに思っている。しかし、箒はある事を指摘した。

楯無の件もあるが今は一番気になっている事があるのだった。

 

「それよりも一夏……あいつは誰だ……それにあれは何なのだ!?」

 

 箒は二夏の事や、ある事を訊ねていた。ある事とはアリーナにいる千冬擬きの事だ。彼女は自分が気を失っている間に何が遭ったのかを理解していない。それを追いつくまでの憶測が出来ていないでいた。

 千冬擬きの件はモニターで観た為に知ったが理解出来ないのは事実である。箒は一夏に何が遭ったのかを訊いている。そんな彼女に一夏は溜め息を吐いた。

 

「な、何故溜め息を吐く!?」

 

 箒から見れば怒るだろう。しかし、一夏から見れば億劫であるが一夏は言った。一夏は応えた。

 

「あれは、アリーナの奴は兎も角、あの男は、俺の贋物はお前の変わりのペアであり、パートナーだ」

「なっ!?」

 

 刹那、箒は驚きを隠せない。二夏が彼のパートナー? それは箒にとって衝撃的な事実でもあった。が、一夏は更に言葉を続ける。

 

「それにはっきり言おう……彼奴、俺の贋物の方がお前よりも何倍もマシだ……!」

「なっ……!?」

 

 一夏の言葉に箒は愕然とした。同時に彼の言葉は自分を否定し、二夏を選んだからだ。口は災いの元とも言えるが一夏は正直な事を口にしたのだ。

 箒を拒絶しているのだ。忌まわしき過去を思い出したくないのと、誰とも冷たく接しているのだ。箒も例外ではないが篠ノ之と言う言葉に怒りを感じているのだ。

 束、あの女が全ての元凶なのだ。ISの所為で過去は忌まわしき物となり、周りも大半は敵であった。箒に怨みはないが束には憎しみしかない。

 身内の妹であるから彼女を汚物を見るような目ではない。彼の彼女を見据える瞳は険しい。怒りその物であった。同時に彼女とペアになっても敗北は目に見えていた。

 だからこそ、二夏を選んだのだ。彼に親近感を覚えているからでもなく、弟が出来た喜びを感じている訳でもない。彼なら自分のペアになっても可笑しくないと感じたからだ。

 その結果、彼は一夏の期待に応えるかのように善戦した。彼とは寸分の狂いもない闘い方をし、彼とは息の合ったコンビネーションで押していた。

 一夏は二夏に対し警戒しながらも感謝している。億劫とも言えるが彼がペアになった事を後悔していない。彼を選んだのも、箒やよりも良いと感じたからだ。

 それに彼を造り、自分に推した者、一彦と手を組むよりも良いとも思ったのだ。不信感を抱きながらもであるが一彦とも取引をしたからだ。

 それは何かまでは教えられないが一夏は箒に対し、無情にも二夏がどれだけ良いのかを教えていた。時間の無駄とも言えるが本当の事を言っている。

 箒は彼の言葉に戦慄している中青褪めている。そして目にはうっすらと涙を浮かべていた。彼の言葉の一つ一つが自分の心を抉るのだ。嫌われていると言う事実を厭と言う程、理解してしまった。

 彼女は何も言えず耳を傾ける中、一夏は言葉を続けている。

 

「俺はお前がペアになっても負ける事は俺自身、厭と言う程理解している……それにお前はISを剣道か何かの試合と同じだと思っているがそれは違う……!」

 

 一夏の言葉に箒は肩を震わせる。が、一夏は先を続ける。

 

「剣道は竹刀での戦いだ……だがISは幾多の武器や戦力を駆使しなければ勝てない……! お前は剣道でしか頭にない! そんな奴と一緒に闘っても負ける! 俺はそれが厭だった……!」

「い……一夏」

 

 箒は後退りする。彼の言葉に怒りを感じているがそれもその筈だ。一夏は箒に怒っているのだ。ISを剣道と同じだと思っている彼女に怒るのも無理はないのだ。

 

「……お前と組むくらいなら……」

 

 一夏は後ろにいる楯無を見る。楯無は彼に気づくが一夏は何も言わずに再び彼女を見た。そして、こう言った。

 

「更識か、そこにいる俺の贋物と組んだ方が良いからな……!」

「!? ……っ!」

 

 刹那、箒は嗚咽を上げながら踵を返し、ピットから出て行った。走り去っていったと言い替えれば良いが彼女は一夏の非定期的な言葉にショックしている。

 楯無と組むのはあの時の事である。あの時、箒はそこに居なかった為に知らないがあの時の二人は確かなコンビネーションを見せていたのだ。

 目撃者は少ないが誰もがそう言うだろう。が、箒は一夏の言葉に傷付いているがISの事を良く知らないのも原因だ。が、箒にも辛い過去がある為、それもISに関する事である為、仕方ない事だが一夏はそれを知らないだけだ。

 何方も有名な身内を持っているが何方も悲惨な過去の持ち主である事に変わりはない。箒がピットからいなくなる中、その場にいる者達はそれぞれの表情を浮かべていた。

 楯無とシャルは一夏の言葉と箒への拒絶に戦慄し、二夏は哀しそうに目を伏せている。皆、彼の言葉に反論出来ないからではない、彼に横槍を入れる事が出来ないからだ。

 彼の怒りは相当なもである事に気づいたのだ。楯無とシャルは兎も角、二夏はそれに気づいていた。彼の分身でもあるが義理の兄でもあるのだ。

 彼は哀しみを帯びた目で彼を見る。彼は表情を険しくしているがピットの方を見ている。箒のいなくなった後とは言え、怒っているのだ。

 彼はそれに気づくが不意に自分の右腕を見る。これは自分の右腕であるが彼はそれを優しく抱く。これは彼の、本来の彼である織斑一夏の物だ。

 これは彼の右腕であるが二夏は右腕を哀しそうに見ていた。クローンであるが、彼はある事に気づいていた。それは、この右腕は自分から離れると、彼は、二夏はその数秒後に生命を散らす、否、死んでしまうのだ。

 一彦の言葉でもあるが二夏にとって、右腕は命綱でもあるのだ。頭と心臓をやられるか、もしくは致命傷な出来事が起これば彼は死ぬ。二夏はそれに気づいているがそれを一夏には言ってないのだ。

 二夏はその事を気にする中、当の本人である一夏は溜め息を吐く。

 

「……さてと」

 

 一夏は不意に身を翻すと、楯無を見下ろす。

 

「っ……」

 

 楯無は一夏を見て微かに驚く。自分を見る彼の目は怒りに満ちていた。理由は簡単、爪で切られた傷跡の事を指摘するつもりである。何故切られたのか、誰がやったのかを問いつめようとしていた。

 さっきは箒の所為で邪魔されたが今は大丈夫である……筈だった。刹那、今度は別の人物の走る足音が外から聴こえた。一夏達は反応するが一夏は眉を顰めた。

 この足音、靴の音に反応したからだ。別人である線もあるが一夏はそう思えなかった。彼はピットの方を向くと、ピットの扉が開いた。

 

「織斑……今、篠ノ之……っ!?」

 

 ピットの扉が自動で開いた。否、誰かが来た事で反応したのだが此所へ来たのは、千冬であった。彼女は一夏にあるお願いをする為であるのと同時に箒とすれ違った事に驚いていた。

 が、ピットへと来るや否や、二夏を見て驚いていた。


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