インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第152話

「貴様、……私と戦え!!」

 

 ラウラは自身のISに備えられているレールガンを彼に向けたまま怒る。指摘とも言え、命令でもあった。全ては憎しみを抱いている彼、一夏に対してであった。

 彼が居るせいで崇拝している者は哀しみに暮れている。それは敵を取る意味にも近いが彼女自身の我が儘でもあった。思念に捉われているとしか思えなかった。

 一夏は彼女を見てそう思ったが溜め息を吐くと、ナイフを展開する。避けられぬ宿命か、それとも彼女の愚かな理念に付き合うしかないのかとも思っていた。

 無駄な時間を費やすが行動もそうだ。一夏はそう考えながらもラウラを見据える。彼女は何も言わないが不敵に笑う。一夏の臨戦態勢に微かな歓びと彼を潰す事が出来る、と。

 周りは何も言わないが誰も止める気配はない、否、止められる事が出来ないからだ。ISを使っているからだ。このまま時間が過ぎ、彼等が戦うのを見ている事しか出来ないのだ。誰もがそう思う中、誰も止める気配はない

 

「止めろ二人共!!」

 

 刹那、女性の叫び声がアリーナ内に響き渡る。これにはラウラも目を見開き、一夏は眉を顰めながら声がした方を見る。そこは観客席からであった。

 そこには、声がした方には一人の女性がいた。困惑しているのと同時に哀しみや怒りも孕んでいる。二人からは見れば遠くからであるが彼女はその表情をしている。

 彼女が此処に来たのは一夏を心配し来たのと、騒ぎを聞きつけ此処へと来たのだ。

 

「きょ、教官……!」

 

 ラウラは千冬を見て困惑する。一方で一夏は何も言わないが舌打ちしていた。が、千冬は観客席のアリーナに一番近い前に駆け寄ると、二人に怒る。

 

「貴様等何をしている!? それにこの惨状は何だ!?」

「教官! 邪魔をしないで下さい! それに私はこの男を倒さなければ気が済みません!」

 

 ラウラはそう言いながら一夏を睨む。彼は気にもしていないように軽く目を逸らす。ラウラは彼を睨み続けるが千冬は怒る。

 

「ならん! それに彼には手を出してはいかん! 織斑は右腕を失っているのだぞ!?」

 

 千冬はラウラに対して指摘した。それは一夏を心配しているからでもあった。一夏は自分の大切な弟。それに彼は右腕を失っているのと彼女とは戦っても不利であるからだ。

 ラウラは自分がドイツ時代で教えた部下の一人だ。軍人でもあるが実力は良く知っている。同時に彼は、一夏は素人だ。戦っても勝敗は目に見えている。

 千冬は一夏を守る為にラウラに対して、一夏が右腕がないのと素人である事を理由にしている。そんな千冬の言葉に一夏は舌打ちした。ああ、あの女、そんな理由で戦いを妨害するのか、と。

 

「兎に角ラウラ! この戦いは無効だ! それに戦いをするのならば私はお前に厳しい処罰を与える! 無論、トーナメント出場も白紙にする!」

「なっ!? きょ、教官! それは如何なる理由であってもそれは流石に酷すぎます!?」

「理由はどうだって良い! それが否ならば武器を下ろせ!」

「っ……ぐっ!」

 

 ラウラは悔しそうに歯を食い縛るとレールガンを下ろす。刹那、彼女は彼を睨む。千冬の邪魔があった所為でもあるが一夏を倒すチャンスを失ってしまったからだ。

 彼は憎しみの対象であり、倒したい男。右腕がなかろうがどうだっていい。そう思いながらもそれが出来ない事に遣る瀬ない思いをしている。

 ラウラは彼を睨みながら口を開いた。

 

「お前だけは絶対に倒す! ……それだげは覚えておけ!」

 

 ラウラはそう言いながら身を翻すと、アリーナから出て行った。ピットに戻る意味でもあった。

 

「……フン」

 

 一夏はラウラを見て軽く呟いた。が、一夏は視線を千冬の方へと向ける。

 

「一夏……」

 

 千冬は一夏の視線に気づき困惑する。彼の視線が冷たいと感じたのだ。溝が出来ているとは言え、千冬は一夏と和解したいつもりでもあった。

 ラウラに怒ったのも一夏を守る為でもあった。しかし、一夏から見れば余計な行動でもあった。彼女は単に彼を守る為とは言え,一夏から見れば余計だろう。

 千冬は哀しそうに彼を見るが一夏は何も言わずに身を翻すと、ピットの方へと戻る。その場に居たく無いからでもあった。

 

「一夏……っ……」

 

 千冬は一夏の行動に驚くが微かに震えると、項垂れ、泣きそうになった。無理なのか、自分には彼と和解出来る事は出来ないのか、と。悪いのは自分だと判っていた。

 が、それを彼に言う事は出来ない。和解したくても自分にはその資格がない、千冬はそう気付きながらも彼を止める事は出来なかった。此処から遠い訳ではない。彼に嫌われる恐怖が彼女を支配しているからであった。

 千冬は自分の愚かさを痛感しながらも後のことを誰にも言わなかった……そして、アリーナにはISを纏った鈴、セシリア、二人の女性達が倒れているのと、エスピや婦警達が居る以外、他の者達は来なかった……。

 

 

「織斑さん?」

 

 その頃、一夏はピットへと戻っていた。そこには簪がいた。外には女性SPが待機しているが簪は一夏がピットに戻って来た事に驚きつつも怯えていた。

 

「簪様……どうかしたのか?」

 

 一夏は眉を顰めながらISを開場するが彼女の様子に気づき訊ねる。すると、簪はぎこちなく答えた。

 

「だ、だって……織斑さん……さっき……」

 

 簪は震えながら何かを言い掛けていた。彼女はさっきまでピットにあるモニターを観ていた。しかし、そこには彼がラウラとの会話の一分始終が流れていたからだ。

 簪はそれを見て怯えているのだ。彼はラウラに対して怒りや憎しみを抱かれている。それに一夏はそれを気にもしていない。同時に彼の周りは敵だらけである事にも気づいていた。

 彼女は彼を心配しているが彼は簪を観て何も言わない。が、彼は簪の前に立つと、彼女に対して、手を伸ばす。

 

「っ……!?」

 

 刹那、簪は彼の行動に驚く。それは想定外かつ、驚愕としかない。同時に彼からは有り得ない行動でもあった。彼は誰も寄せ付けない事を平気でしているのだ。

 簪は彼の行動に驚きながらも自分よりも背が高い彼を見る。彼は無表情で見ているが手を動かしている。自分の頭を撫でているのだ。彼は簪の頭を壊れ物を扱うように撫でているのだ。

 簪は彼の行動に驚くが一夏は何も言わなかった。否、彼は簪の言いたい事を直ぐに察知したからだ。ラウラの事で気に掛けているのと気づいたのだ。

 別に自分は気にもしていないが簪は気にしている。同時に彼女に何かを聞かれる前に頭を撫でたのだ。聞かれない意味でもあるが無駄な行動をしている事に怒りを隠しきれないでいた。

 自分はラウラに怒っている、同時二輪やセシリアの敵を取る気は毛頭ない。それに千冬の願いを聞き入れる気もないのだ。一夏はそう考えているがピットを出入り出来る扉が開く。

 

「……」

「あっ……貴女は」

 

 一夏と簪は扉の音に反応し、扉の方を見やると、そこには一人の女子生徒と近くには護衛用の女性SPがいた。しかし、一夏と簪が見たのは生徒であった。

 その生徒はシャルロットである。彼女は一夏を見てぎこちない笑みを浮かべていた。

 

「や、やあ……織斑君に簪」

 

 シャルロットは二人に対して挨拶する。彼女が此処に来たのは、ある人物に用がある為でもあった。その人物はシャルロットが一番探している者でもあった。

 その人物は目の前に居る彼、一夏である。彼に用があるのは、ある事でもあった。しかし、彼女はSPと何かを話し、その後に二人の方へと歩く。SPは外で待機している。シャルロットに言われたからだ。

 

「シャル、どうしたの?」

 

 簪はシャルロットが此処に来た事に疑問を抱いていた。しかし、シャルロットは簪の言葉に返事した。

 

「うん、ちょっとね? ……それに僕は彼に用があるんだ」

「織斑さんに……?」

 

 簪の言葉にシャルロットは頷いた。一方で一夏は彼女の言葉に眉を顰める。彼女が此処に来たのは自分に用がある。それに気づくが何所は不信感を沸き上がらせていた。

 何かは判らない。否、それ以前に彼女に対して何処か不信感を抱いているからだ。暗部に張った事かゲームを制したいが為に精神を強くしたのかのどちらかまでは判らない。

 しかし、一夏は彼女を見て眉を顰めるが彼女は、シャルロットは一夏を怯えながらも、そして言った。

 

「う、うん……も、もしもだけど……織斑君、トーナメント、僕と、組んでくれないか……な?」

 

 シャルロットはそう言った、否、それはシャルロットが一夏をトーナメントのパートナーにしたいからでもあった。これには簪も驚くが一夏は眉を顰め続けていた。




 次回、土曜日での投稿をお休み致します。次回は日曜日からの投稿となります。

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