インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「織斑、さん」
その頃、此処はアリーナ内にあるロッカー室。そこには一夏と制服を着ている簪の二人がいた。彼等はここに居るのは、アリーナで練習する為でもあった。
月末に行なわれる学年別トーナメント。その為に練習しに来たのだ。が、簪は彼、一夏を見て不安を隠せない。彼はベンチに座っているがISスーツ姿であった。同時に何かを思うように左手の掌を開いたり、閉じたりしている。
その仕草は何を意味しているのか、簪はそれだけは判らないでいた。が、彼の安否を気にするだけではなく、彼は参加する事にも気づいていた。
彼は右腕を失っている。その状態で参加出来るのかも怪しかった。出来る事なら辞退するよう勧めたいが彼の性格上、そう言い切れない。千冬もその事で悩んでいるが彼女とは何を話しているのかも判らないが、それをしたのかもどうかは判断出来ない。
簪は彼を心配する中、一夏は視線を走らす。簪の方を見る意味でもあった。
「……どうした?」
一夏が訊ねると、簪は肩を震わす。彼の突き刺さるような視線にたじろいでいた。自分が此処にいる事に疑問を抱いているのだろう。しかし、彼女は震えながら教えた。
「ご、ごめんなさい……た、ただ織斑さんが心配で……」
「……それで?」
「そ、それで私……織斑さんが、と、トーナメント……出ると」
「……出ない方が可笑しい」
「えっ……?」
一夏の言葉に簪は少し驚くが彼は溜め息を吐くと、静かに立ち上がり、左手を腰に当てる。
「……俺は参加しないとは言わない。俺は他の奴等と戦う……」
「で、でも右腕はないんじゃ……!」
「右腕はなくとも……左腕は、ある」
一夏はそう言いながら自分の左腕を見る。片方は欠けたとは言え、もう片方の左腕は残っている。利き腕ではないが今の自分に物を掴める手はこれしかない。
彼は左腕を見てそう思いながらも心残りがあった。それはドイツで……刹那、一夏は眉を顰めると瞼を閉じる。今はそれどころでは無い、今はゲームの事を頭の隅に起き、夢見一彦が行動を起こすまでの五日間をどうにか過ごすのが先であった。
彼はそう思いながらも何も言わない。そんな彼に簪は、
「あ、あの……どうしたの?」
簪は彼に訊ねる。彼の様子がおかしい事に気づいたのだ。自分は何か変な事を言ったのか? 簪から見れば不安があった。彼を怒らせるようなことを言った事に後悔と罪悪感に覚える。
しかし、簪の言葉とは裏腹に一夏は瞼を開くと、彼女を見る。表情は険しいが何時もの彼である。が、彼も表情とは裏腹に口調は違う。
「否、ただ、考え事をしていただけだ」
「……えっ?」
簪は驚くが彼はそれを教えた。
「あいつが何故、あんな事をしたのかを、な」
「……あの大男の事?」
簪の言葉に一夏は深く頷く。大男とはジェイソンの事だ。彼のお陰で色々と厄介事が増えているのだ。警備が厳重となり、他のプレイヤー達も迂闊に動けないだろう。
しかし、奴等は自分や一美同様、風のように移動出来る為、無駄に等しいだろうが一応、彼等も自分の身を守る為に近づけられないだろう。
命を散らす莫迦がいなければだが……一夏はそう考えているが咄嗟の判断かつ、即断でもあるのだ。洞察力が優れているとかそう言った訳ではない、一夏は別件を敢えて、学園が抱えている案件へと変える意味で簪に隠したのだ。
教えれば簪を不安にさせる。従者としてでもあるが利用価値もあるからこそだ。一夏は簪に対して学園の問題を指摘するが微かに舌打ちした。
彼は学園の問題だけでなく、他の問題をも抱えている。何故こんなにも問題は多いのか? そう思っているのだ。同時に腐った奴等が蔓延っている。何人殺しても第二、第三と増えてくる。どんなに片付けても絶える様子はない。
性なのか? 腐った人間は絶える事もないのか? と。他のプレイヤー達は一癖二癖もあるが
「織斑、さん?」
簪は彼の様子に気づくが一夏は首を左右に振る。
「何でもない……だが、俺は辞退する気はない……誰が何て言おうと、な」
一夏はそう言った後、室内から出ようと歩く。簪は彼の後ろ姿を見ているがふと、一夏は立ち止まり、肩越しで簪を見る。
「……何故来ない?」
「えっ……?」
彼の言葉に簪は惚けるが一夏は舌打ちした。直後、彼は身を翻すとそれを教えた。
「アンタ……一人でいると怒られるぞ?」
一夏の言葉に簪は目を見開いた。が、それは一夏の言い分は理由があったのだ。ジェイソンの件で生徒達は二人一組みで行動するよう言われたのだ。
大抵はSPか婦警と行動するのが良いのだが数に問題がある為、揃える事は出来ない。しかし、彼等は二人一組で行動している。咎められる事もないが一人で行動すると咎められるのだ。
一夏はそれを見越して簪に言ったのだ、これには簪も驚くが彼女は謝る。
「ご、ごめんなさい……き、気づかなかった……」
「……今度から気をつけろ……」
一夏はそう言った後、突然、近くのロッカーに凭れ掛かる。
「……行け」
「えっ?」
簪の言葉に一夏は更に舌打ちする。
「俺は後ろに立たれるのが厭なんだよ……!」
「ひっ……!」
一夏の怒りが孕んだ口調に簪は怯える。が、それは一夏の癖でもあったのだ。彼は後ろに立たれるのを嫌っている。楯無が被害者でもあるが他の者達も被害に遭っているのだ。
もしも自分が被害にあったら、そう考えただけでもゾッとする。簪はそれに気づきながらも青褪めると慌てて彼の前を足早に通り過ぎる。
簪が通った後、一夏は呆れるように溜め息を吐くと、簪を追い掛けるように歩き、二人はそのままロッカー室を出て行った……。
「あがっ……!」
「ウグッ……!」
その頃、アリーナでは戦慄が走っていた。観客席に居る女性SPや婦警達は戦慄し、驚愕している。彼女達の視線の先はアリーナの中央であった。
そこには五機のISがいた。しかし、それは乱闘ではない。その後であった。二機のISは既に倒された後であった。量産きである事は兎も角、彼女等は気を失っている。
が、残りの三機は、黒を基準とし、赤紫を基準とし、青を基準とした専用機であるが黒を基準とした一機しか起き上がっていない。残りの二機は倒された後であった。幸いな事に彼女等は気を失っていない。
そして、そのISや彼女達は、赤紫のIS、甲龍を纏う鈴。蒼きIS、ブルーディアズを纏っているのはセシリア。そして、黒を基準としたISを纏っているのはシュヴァルツェア・レーゲン、そのISを纏っているのはラウラであった。
彼女は鈴とセシリアを相手に一人で、否、他の二機のISを含め、四機のISを相手に勝ったのだ。軍人であるが故ではない、力を過信しているからこそ、ISをファッションとしか見ていない彼女達を倒したのだ。
「何だ、この程度か貴様等?」
「っ……あ、アンタ……!」
鈴はラウラを睨む。が、このような事になったのはラウラが原因でもあった。彼女は一人で練習しょうとアリーナへと来たのだ。が、彼女達を見て軽く笑うと、挑発したのだ。
これには二人も怒るが返り討ちにあったのだ。ISの世代関係とかではない。力量も実力も彼女の方が凌駕しているからだ。しかし、ラウラは二人を見て不敵に笑う。
見下ろしているが嘲笑うかのようでもあった。二人はラウラを見て怒りを沸かせ、憎しみを抱く。同じ学園とは言え、これほどの怒りは今までにない。
彼女達もそれに知る中、ラウラは辺りを見回し始める。まるで誰かを探しているようにも思えた。それは憎しみを抱き、怒りを沸かせる存在。
崇拝している者の身内であり、彼女を悲しませる元凶。刹那、音に反応する。それはISの噴き出す音であった。ラウラが音に反応し振り返る。そこは、此処とピットを出入り出来る出入り口だった。そこから音が聴こえるが、どんどんと大きくなっていく。
刹那、一機のISがアリーナに姿を現す。
「貴様……!」
が、ラウラは下唇を噛む。そのISは黒を基準としたIS。そのISを纏っているのはラウラが探していた人物でもあった。
「お前は……」
そのISを纏っている者はラウラを見て眉を顰める。彼も彼女に対して良い印象はないのだ。皆無にも等しいが彼は彼女を見て何も言わないがラウラはISに備えられているレールガンを彼に向けた。
「貴様……私と戦え!」
ラウラは彼に言った。宣戦布告とも言えるが私闘とも言える。否、彼、一夏に対して憎しみを抱いているからであった。憎悪に駆り立てられている彼女から見ればだが一夏はラウラを見て何も言わない。
が、右腕のない状態で彼はどう戦うのかは判らない。しかし、二人の間には重苦しい空気が流れている。一触即発の危機を意味していた。それは誰が止めるのかは、誰にも判らない。同時に周りは固唾を呑んで見守る事しか出来ないのも事実だった……。