インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第140話

「な、何ですって!? 嘘ですよね!?」

 

 その頃、此処は職員室。室内には疎らだが数名の教師が事務に追われていた。が、ある人物達のやり取りに驚き、仕事の手を止めている。否、最初からしていない事であった。

 彼女等も知っていたからだ。少女の言葉の前に知っている。それは室内に一台あり、娯楽目的かちょっとした情報を知る為に点けたテレビを観た為に知っている。

 速報であるが戦慄さえもしている。それ以上に本国が一番戦慄しているだろう。彼女達はそう思っている中、静かに、驚きながらも耳を傾け、見守っている。

 彼女達の視線の先には二人の女性教師と生徒がいた。生徒は驚いているが女性教師も微かに困惑しているが顔を引き攣らせている。理由は簡単、彼女達の話の内容は戦慄かつ、愕然とする。

 ドイツ軍基地が襲撃されたのだ。それだけでなく、多くの死傷者を出す等の壊滅的な打撃を受けている。兵器が破壊され、戦火が広がっている。

 駆け付けた消防隊は愚か、警察も戦慄や困惑する程であり、二次災害をも恐れていた。同時に報道陣も記事にしようと押し掛けているがそれらも困惑している、と。

 無論、それはテレビの速報で流れた物ばかりであり、これを観た全世界の人達も釘付けになる程であり、どの報道局も大騒ぎとなっている。

 が、彼女達がそんな会話をしたのも無理は無い、彼女達はそこでお世話になっている身内でもあるからだ。千冬とラウラにとって、驚く物でもあるからだ。

 ラウラがここにいるのは千冬に呼ばれたからである。その話にラウラは驚きを隠せないが話はややこしくなっていた。

 

「きょ、教官! 軍事基地は今!?」

 

 ラウラは千冬に詰め寄るが、そんな彼女を千冬は何とか宥める。

 

「落ち着けラウラ! そんなに慌てても何も変わらん!」

「これが落ち着いていられますか!? 軍事基地が何者かに攻撃されたのですよ!? 私はそれが赦せません!」

「だから落ち着けラウラ!」

 

 ラウラは怒りで我を忘れていた。軍事基地を攻撃された事が原因だろう。しかし、彼女は軍事基地は愚か、そこにいる者達の事は一言も話さなさい。

 これに千冬も直ぐに気づくがそれを指摘した。

 

「その前にラウラ! お前はクラリッサ達の事は気に掛けないのか!?」

「っ!?」

 

 千冬の言葉にラウラは言葉を詰まらせる。クラリッサ達……それは千冬とラウラの大切な仲間達である。自分達が日本にいる間、ドイツの守りに付いていた。

 否、千冬はドイツで一年間そこで教官をしていただけであり、ラウラは里帰り以外が基本、彼女達が実質的なドイツを守る盾でもある。そんな彼女達をラウラは気にしていないのだ。

 ラウラと彼女達は単なる軍人仲間ではない、ラウラは彼女達の隊長であるのだ。クラリッサは副隊長であるが彼女は他の彼女達と共に襲撃者と戦った。

 最初は男性隊員達の手助けもあり、数で押していた。しかし、襲撃者がパワーアップしたせいで押し返され、敗北した。彼女達は今、ISの絶対防御により命に別状は無い。変わりに暫くの間、前線を退く事になった事は言うまでもない。

 千冬はクラリッサ達の安否を気にしているがラウラは違う。彼女は千冬を崇拝しているが仲間達との仲は悪い。軍人故に娯楽を良しとしないからだ。

 それが原因でもあるがラウラは仲間達とは仲が悪いのを千冬は知っており、彼女を悩ませていた。仲を取り持つ事は何度もしたがラウラはそれを気にもしていなかったからだ。

 帰国の際も気にしていたが結局、彼女達の仲は悪いままであった。千冬はこの事で頭を抱えるが今はすべき事があった。ラウラに仲間達の事を教えるのが先であった。

 

「クラリッサ達は何とか一命を取り留めた。しかし、暫くの間は前線復帰は望めない」

「……そうですか、っ」

 

 千冬の言葉にラウラは納得する。が、その表情は険しい。

 

「クラリッサ達め……何故負けた!」

「ラウラ!?」

 

 ラウラの言葉に千冬は驚く。が、ラウラは言葉を続ける。

 

「あいつら、何故負けた!? 軍人なのに、何故だ!?」

 

 ラウラはクラリッサ達に対して辛辣に指摘する。仲が悪いのは兎も角、クラリッサ達が負けた事に驚きと怒りを沸かせている。彼女達は軍人だ。ISに関しては玄人だ。

 それなのに負けたのは軽蔑しか無い。軍人を名乗る資格も無いと思っていた。そんな彼女に千冬は怒る。

 

「何を言うんだラウラ!? クラリッサ達は一生懸命戦ったのだぞ!? それを何故、気苦労や心配しない!?」

「クラリッサ達は戦って負けたのは事実です! 敗北は軍人にとって、死をも意味しています!」

「それは違う! 彼女達が戦ったのは未知の敵だったんだぞ!? そんな相手に彼女達は知ってる筈も無いだろ!?」

 

 ラウラに言い返す意味で千冬は更に怒る。が、千冬の言い分は正論であった。クラリッサ達は未知の敵と戦ったのだ。どんな力を持っているのかも、どんな戦い方をしているのかも知らないのだ。

 それでも抗おうとしたのだ。ドイツと言う国を守る為に軍人として戦ったのだ。それをラウラは否定した事に千冬は怒ったのだ。彼女達が悪いのではない、襲撃してきたものが悪いのだ。

 しかし、ラウラはある事に気付き、更に怒る。

 

「それに教官! 襲撃者と聞いて思い出したのですがそれは学園を襲撃した奴ですよね!?」

「なっ!?」

 

 千冬は驚きを隠せない。が、ラウラはその襲撃者を学園を襲撃した者と同一人物ではないかと疑っていた。理由は何方も夜に責めてきたからだ。

 時間は違えど、夜襲は相手の隙を作るのには充分な戦略だ。が、ラウラはそれを同一人物だと認識している。無論、それは違うのだが共通している。

 学園では未だ無く、ドイツ軍基地では既に持っていた者、黒峯一也の仕業である。学園を襲撃した未知の敵は夢見一彦であるがドイツ軍基地を襲撃したのは黒峯一也だ。

 二人の目的は一夏であるがラウラは勘違いしている。同時に一彦は知らず知らずの内にラウラから同じ襲撃者として認識されている。言わば迸りを受けていた。彼は今どうしているのかは判らないが彼自身にしか判らないだろう。

 ラウラは襲撃者に対しても怒りを沸かせる。それは仲間達を思う物ではない、襲撃者をこの手で捕えると言う我が儘であった。力で捩じ伏せる。ドイツを攻撃したらどうなるのかを思い知らせてやる、と。

 

「ラウラ……っ」

 

 そんなラウラの考えの裏に千冬は頭を抱える。彼女は襲撃者に対して怒っている。相手はラウラが勝てるかどうかは判らないのだ。千冬は彼女を心配するが逆に心配するなと開き直るだろう。

 ラウラを心配しているがそれは千冬には届かない。が、千冬はラウラ自信が間違った正義を行なおうとしている事にも気づいた。出来る事なら直したい。彼女にはまだまだ時間があり、若いのだ。

 千冬はラウラに対し、そう思っているがラウラは瞑目していた。襲撃者をどう捕えるかを考えている。が、千冬はラウラを哀しそうに見ているが彼女は気にもしなかった……。

 

 

「ふ〜〜ん」

 

 その頃、此処は周りが黒い空間で囲まれた部屋。そこには独りの女性が。長いブロンドの髪に紅い瞳。目元には黒子があった。胸元が開いているドレスを着ているが抜群の美貌を持つ女性でもあった。

 彼女は今、高級感溢れる椅子に腰掛けているが目の前には薄型のテレビがあった。テレビにはドイツ軍基地が襲撃された事を報道されているが緊迫とした内容でもあった。

 視聴者に影響もあるが興味さえも示す。しかし、彼女が興味を示しているのはそれではない、彼女は、ある事に興味を示している。それは,軍事基地を襲撃してきた者達の

存在。彼女はそれを気にしていた。

 あれは何者で、何の為に襲撃してきたのかを気にしている。無論、女性はある事を考えていた。

 

「どちらも未知のIS、でも、それ以上に何かは気になるわね?」

 

 女性は口元を緩める。否、不敵に笑っていた。襲撃者を知りたいようでもあった。それは彼女にしか判らない。

 

「何れも手掛かりは愚か、そう言った個人情報も皆無に等しい。いえ、身元が判明出来るまで時間が掛かるかしらね?」

 

 女性はそう言いながら目を閉じる。思考を走らせていた。あれらはどうするべきか? ……否、既に応えは決まっていた。女性は目を閉じながら頷くと、瞼を開く。

 

「……誰かは知らないけど……欲しいわぁ……」

 

 女性はそう言った。それは襲撃者達を我が物にする願望でもあった。襲撃者達はそれ相応の実力がある。それは彼女の想像に過ぎないが何としてでも欲しかった。

 女性はそう思っているが少し笑っている。が、直ぐに口を開いた。

 

「待っててね……可愛い子猫ちゃん達……ふふっ」

 

 女性はテレビに向かってそう言った。そして、彼女の笑い声は室内に静かに響き渡っていた……。それは、自分の物になって欲しい、そう言う意味でもあった……。




 次回の土曜日での投稿はお休み致します。次回は日曜日からの投稿となります。

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