インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第14話

「…………」

「フンフンフ〜〜」

 

 ここはIS学園と本州を行き来出来るモノレール。それは学園にとっての交通手段の一つであり、大抵はモノレールが使われる事が多い。生徒達の通学路とも言えるがこれしか利用出来ない。

 しかし、モノレールの中は閑古鳥が鳴く意味でガランとしていた。人気が無い訳ではない、今は春休みの真っ最中であり、全ての生徒は家で過ごし、休日を過ごしていた。

 否、IS学園は全世界から選りすぐりの女子が来る為、あまり使われない。使うのは大抵、外出届か休日、或いは帰省する時ぐらいだろう。

 モノレール内はガランとしている中、動く音だけが聴こえ、窓の外には紺碧色の空や青い海が広がってる。何気ない風景であるが何処か落ち着く。

 が、モノレール内は誰もいない訳ではない。二人の青年と少女がいた。一夏と楯無である。彼等はモノレールで二人っきりであった。他には誰もいない――二人だけの空間だった。

 祝福の意味ではない――彼等が独占している意味でもない――二人はモノレール内で目的地が付くまでの間、静かに待機しているだけであった。

 二人がモノレールに乗っているのは更識家に向かう為である。途中、千冬も生きたいと言い出したが十蔵は一夏の事を考えて、楯無に任せたからである。

 千冬は納得しない様子であったが楯無は一夏を連れてそそくさと此所へ来たのであった。

 現在の二人は、一夏は腕を組みながら瞑目しており、楯無に至っては鼻歌しながら嬉しそうであった。何方も正反対とも言える。一夏は静かに待機し、楯無は無邪気であったからだ。

 まるで子供の様にはしゃぐ者と、もう片方は落ち着いている大人の様にも思えるが楯無は一夏を見る。一夏は瞑目していたが眉間に皺を寄せている。

 

「どうしたの織斑君? モノレールが怖いの?」

「…………」

「それともあれかな〜? おねーさんと二人っきりだから固まってるのかな〜〜?」

 

 楯無は一夏をからかう。目的地に着くまでの間であるが彼女は一夏をからかう事で時間を潰そうとしていた。が、一夏は楯無がからかってくるのにも関わらず、相手にしていない。

 相手にするのが馬鹿らしく思っているのと、静かな方を好むからであった。楯無の様な子供らしい事はしたくない――同時に彼が大人の様にも思えるが彼は今、不機嫌であった。

 隣にいる楯無の存在が煩わしく思っていたからだ。隣にいる楯無は何かと自分に擦り寄って来るからだ。

 

「どうしたの織斑君? おねーさんと一緒が嫌なのかな〜?」

 

 楯無は一夏をからかう。それが一夏がどうしても楯無に対しての嫌悪感であった。楯無は痴女なのか? そう感じているのだ。しかし楯無は一夏をからかっているだけであり、痴女かどうかも彼女の性格が如何いった物かも判らない。

 判るとすれば彼女は自分を千冬から助けてくれた事だろう。

 

「む〜〜織斑君少しは私の相手をしてよ〜〜おねーさん哀しい」

 

 楯無は頬を膨らます。お茶目な性格としても伺えるが一夏は無言で目の前を見続けていた。彼は無言を貫き通しているが楯無とは話しをしたくないからであった。

 彼は眉間に皺を寄せているがある事を考えていた。

 

(取り敢えず……此方はISを動かせた――が、他の奴等はどう出るか……)

 

 一夏は思考を走らせていた。それは自分の他のプレイヤー達の動向を警戒していた。彼等は男性操縦者、言わば自分を捜す者達のお陰で上手く行動出来ないでいる。

 それならば自分が姿を現して自分を捜している者達の探索を打ち切らせるしか方法は無い。そうすればゲームは再開し、彼等も活動出来るだろう。

 彼等を助けた訳ではない――彼等を炙り出す為に自分から名乗り出たのだ。彼等が何者である以前にどう動くかも警戒していた。彼等の行動範囲は判らないが一カ所で殺戮をする者、各地を転々としながら殺戮をする者達もいる。

 前者は自ら名乗り出る意味で他の者達を誘い、後者は他の者達をかく乱する為にも行動している。何方も得策とは言えなかった――何方もデメリットである。

 前者は他の者達を一カ所に集まらせ、後者は別のプレイヤー達に見つかる危険もあるのだ。何方も標的外ながらも別の者達に見つかる危険がある。

 彼等はそれを顧みない者達や自ら死に逝く者達で別れている。一夏の場合は何方もそうであるが彼は負ける気はなかった。彼は思考を走らせるが同時に別の事も考えていた。

 

(しかし、俺がISを動かしたのは兎も角……他の奴等の中に俺がデスプレイヤーである事を察知されているか)

 

 一夏は自分の身も危険が及ぶかもしれない事を察知し、危惧していた。もしも自分が他の奴等に存在を知られたら其れこそ危険でもあった。

 自分は思考を走らせているが相手を騙す為でもある。騙し合う事で勝利を掴み取り、最期に生き残る確率を上げる為でもあった。しかし、騙し合いもある最中、自分よりも頭が切れる者がいるかもしれない危機感をも抱いていた。

 最悪リタイアされる意味で殺される危険もあるが、一夏は一時の隠匿と言う意味で活動を止める事も考えた。ジェイソンには悪いが彼には一時的に鍛錬を怠らず、武器の手入れもしておく様に言い聞かせるしか無い。

 暫くは自分が表舞台で活動するしかない――ISを動かせた事は想定外だが逆にチャンスでもあった。暫くは奴らの動向を知る機会が増えた。

 同時にある事も頭に浮かべる。それはあの時の……。

 

「織斑君、織斑君!?」

 

 刹那、隣にいる少女、楯無が手で彼の肩を揺らす。その所為で一夏は思考を遮らされてしまうが一夏は楯無を見る。楯無は心配そうでありながら何処か不思議そうに一夏を見ていた。

 その純粋そうな瞳は彼女の心配が窺えるが一夏は楯無を見て歯軋りする。この女のせいで思考を遮られてしまった、と。

 

「どうしたの織斑君? さっきからぼ――っとして? それにどうしてそんな目をするの?」

 

 楯無は首を傾げているが一夏は更に虫唾が走るのを感じた。彼女には恩を売るつもりは無かった。彼女の家に行くと了承したのは千冬から離れる理由でもあるからだった。

 一夏は楯無のあどけなくも疑わない表情が彼を苛立たせていた。

 

「……っ」

 

 一夏は下唇を噛むと上着のポケットに手を入れると立ち上がる。楯無は「織斑君?」と不思議そうに訊ねるが彼は扉近くにまで歩くと、窓の外を見る。

 外には海と空が広がるが彼の心は晴れない。楯無に邪魔されたからだろう。その為、彼は怒りを落ち着かせ、冷静になろうとして窓の外を見るがやはり落ち着けなかった。

 楯無のせいで思考を遮られたのだ。一夏は楯無を睨む――楯無は一夏の鋭い視線にたじろぎはしなかったが少しむくれる。

 

「む〜〜どうして私を睨むの? それに私は貴方の様子がおかしいから呼んだだけよ?」

 

 楯無はそう言いながら扇子を取り出すと広げる。扇子には黒文字で『心外』と書かれていた。一夏は楯無を睨むが相手にするつもりは無いと言う意味で視線をそらす。

 

「あ――っ! おねさーんを無視した! レディに対して失礼よ? そんな事をしたら異性に嫌われるわよ?」

 

 楯無はからかう様に笑いながら扇子を閉じると、扇子を一夏に向ける様に突き出しながら問う。しかし、一夏は窓の外ばかり見ていた。これには楯無も不貞腐れるが何かを思いついた笑う。

 悪戯しょう――楯無は子供っぽい笑顔を浮かべた。後ろから抱き着く――そうすれば彼は慌てるだるし、何より背中にあれが当たっていたら男性は慌てふためくと思ったからだ。

 楯無は実行する意味で彼に後ろから抱き着こうとした。刹那、一夏は突然楯無を躱す意味で回転しながら移動する。これには楯無は「えっ!?」と驚くが一夏は楯無の後ろに回り込むと彼女の手を捻り、もう片方の手を彼女の首へと回すと彼女の顎を掴みながら拘束した。

 

「ううっ!?」

 

 楯無は一夏に拘束されて悲痛の声を上げる。突然の事で楯無は困惑した。が、楯無の行動は一夏に読まれていた。一夏は数分で楯無の性格を一部知ったのだ。

 理由はさっき自分をからかってきた事、それに異性である自分に対して躊躇していない事。それらを踏まえて、彼女は今度は後ろから抱き着くのではないのかと思ったからだ。

 窓の方へと向かったのは自分を落ち着かせるのと同時に、楯無も警戒していたからだ。楯無は悲痛の声をげる中、一夏は楯無に囁く。

 

「俺の後ろに立つな……それにお前の事だから抱き着こうと思ったんだろう? 馬鹿が……!」

 

 一夏はそう言い終えると楯無を乱暴に放す。楯無は扉にぶつかりそうになるが何とか持ちこたえ、不意に一夏を見る。彼は眉間に皺を寄せていたが腕を組んでいる。

 

「っ……」

 

 楯無は一夏に対して警戒した。からかうつもりが彼は只者ではない事にも気付いた。初めて会った時は単に千冬を睨み、近くにいたから気付かれたのではと思っていた。

 しかし、今は別の意味で警戒する。それは一夏が只者ではない事を確信した。楯無は一夏を少し警戒する中、一夏は楯無に対して軽蔑の眼差しを向けていた。

 一夏と楯無、何方も只者ではないが二人の周りには誰もいなかった。それはさいわいな事なのかは誰にも判らなかった。

 

 




 すみません、木曜日の投稿は休みにします。次回は金曜日投稿です。

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