インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第132話

「教官、何故、そんなにあの織斑一夏の事を気に掛けるのですか!? 弟だからですか!?」

「それもそうだが、それはならん! お前のする事は赦されない事だぞ!?」

「そんなのは関係ありません! ですが許可を下さい!」

「ならんと言ったらならん!」

 

 その頃、此処は一年寮を纏め、その場所の管理を任された寮長、織斑千冬の部屋。その室内では千冬と、彼女を慕い、彼女が受け持つクラスに最近転入してきた少女、ラウラが話をしていた。

 その内容は至って簡単、千冬の弟であり、ラウラが憎む者、一夏に関する事であった。しかし、その話は平行線のままだった。ラウラは自分に一夏と戦わせる事を千冬に願い出ている。が、千冬は一夏が右腕を失っている間、ISを使っての戦闘はさせないと彼女の願いを拒否している。

 何方も意見が違うが織斑一夏に関する事には共通している。ラウラは未だに私闘を願い出ているが千冬は許可しない。

 

「教官! 私にあの男と戦う許可を下してください! 私はあの男のせいで教官が辛い思いをしているのを見たくないのです!」

「だからと言って私闘は赦さん! それに私の事は良いが一……織斑は今、右腕を失っている。その状態の奴とお前みたいな健全な状態の奴を戦わせたら、お前の圧勝だろう!? それを許可する教師が何所にいる!?」

「それは戦ってみなければ判りません! ですが私は負けるつもりはありません!」

「ならん! そんなのは私が赦さん! 許可もしない!」

 

 千冬とラウラは互いに譲らない。ラウラは兎も角、千冬はそれを赦さなかった。一夏を困らせたくないのとラウラの身勝手な行動を止めたかったのだ。

 彼女は我を忘れている。私怨に駆られている。織斑一夏を倒した、と言う目標がある。が、今はラウラを止めるのが先だ。一夏は何も悪い事をしていない。

 彼は辛い思いをしているが彼女も辛い思いをしている事には気づいていた。彼女は自分が来る前は落ち零れであった、孤独であった。まるで自分と似た境遇さえも感じた。

 彼女と出逢ったのは時を遡る事三年前だ。否、今は良いだろう。今は彼女を宥めるのが先であった。

 

「ラウラ、お前の気持ちは判るが織斑の事も考えろ!? あいつは辛い思いを……しているかどうか判らないが今は戦う時ではない! 今は耐えるんだ!」

「否です! それに私は奴を倒さなければならないのもそうですが、此処の者達は皆、ISを軽く見ているじゃないですか!?」

「なっ!?」

 

 ラウラの言葉に千冬は目を見開くが彼女は言葉を続ける。

 

「ここにいる者達は皆、ISをファッションか何かと思っています。ISは力ある者でしか使う事が出来ません。それなのに此処にいる奴等はそれを偉いと感じています」

 

 ラウラはそう言いながら憤りを覚えながらも下唇を噛みつつ俯く。

 

「ISは強大な力があります。それなのにそれをなんとも思っていない……っ!」

 

 ラウラは顔を上げる。

 

「それに貴女はこんな場所で教鞭を執っている……ですが私には貴女が此処で教えをしてはいけません! どうか私達の部隊で、いえ、もう一度ドイツで私達を教えて下さい! 此処では貴女の実力が発揮されません!」

 

 ラウラは千冬に対してそう願った。理由はラウラが彼女を慕っているのも彼女に救われたからだ。落ちこぼれの自分に手を差し伸べてくれたのは彼女だからだ。

 恩人でもあるが彼女の弟は憎悪でしかない。それぞれ印象は違うが今はそれどころではない。ラウラは千冬に今一度、ドイツに戻って欲しいと願っていた。

 あそこなら千冬の実力が発揮出来る。彼女の教えは厳しいが遣り甲斐がある。軍人気質であるが故だが推しているのだ。彼女はIS学園の教師よりも、ドイツで教官をした方が何倍も良い、ラウラはそう思っていた。

 身勝手とも言えるが尊敬しているが故だ。崇拝とも言えるだろう。しかし、そんなラウラの願いを聞き入れないように千冬は軽く応えた。

 

「大概にしてくれ、ラウラ……!」

「ッ、教官!?」

 

 千冬の言葉にラウラは驚くが詰め寄る。しかし、千冬は先を続ける。

 

「ラウラ、お前の気持ちは痛い程判る。私も曾てはお前達を教えた事に変わりは無いが今は多くの、この学園にいる者達を教えるのが先だ」

「教官! それは違います! ここにいる者達はそれを!」

「違うのはラウラ、お前だ!」

 

 刹那、千冬は怒った。これにはラウラも肩を震わすが千冬も肩を震わせている。

 

「それは違うぞラウラ、ここにいる者達はお前が思う程の奴ばかりではない……」

 

 千冬はそう言った後、項垂れた。そんな千冬にラウラは困惑するが彼女は千冬に対して、どう接すれば良いのかが判らないでいた。目の前にいるのは自分が尊敬している師である。

 そんな弱気の千冬を見たのは久しぶりとも言えるがやはり、困惑でしかない。が、千冬は口を開いた。

 

「ラウラ……お前に私の気持ちが判ってたまるか……!」

 

 千冬は辛そうに言葉を述べた。これにはラウラは更に驚くが千冬は言葉を続ける。何故なら千冬は、この学園に来てからは変わろうとしていた。

 一夏を喪ったのは自分のせいだと思いながらも、自分が犯した過ちを償う為にもこの学園で多くの者達を教えようとしていた。理由はISを力のある兵器と認識しながらもそれを危惧しながらも力に溺れないようにと、教える為でもある。

 生徒達と向き合うのも一夏と向き合わなかった分、彼の為にもでもあった。が、一夏が生きていた事に驚きながらもそれが出来ないでいた。

 気がつけば、かなりの時間を使っている。彼と向き合うどころか、それが出来ないでいた。同時に彼は傷付いている。更には楯無達の従者になっている。

 千冬から見れば怒りと哀しみが沸いてくる。どうすれば良いのか、と。これでも悩んでいるのだ。一夏を見守ると決めていたのに彼は我が身を犠牲にしている。

 姉として赦す事も出来ないのだ。助けたい思いで一杯なのだ。それを良い意味で裏切ったのはラウラだ。彼女は力を知りながらも他人を想いやる心が欠けている。自分の事を思いながらも他人を気にしていない。

 それでは彼女は孤立してしまう。それだけは避けたかった。同時に自分の教えは間違っていたのか? そう思ってしまった。

 

「ラウラ……お前はまだ若い……青春を謳歌するには良い年頃だ」

「きょ、教、官?」

 

 ラウラは困惑しながらも訊ねると千冬は顔を上げる。辛そうであったがラウラを心配しているからであった。一方、ラウラは彼女を見て困惑するが千冬は言った。

 

「ラウラ……お前は人を思いやれ、それにお前は一人ではない……お前には私や他の者達がいる……その者達に助けや力を貸してもらえ……」

「教官……私には教官しかいません! それに私が崇拝しているのは教官だけです! 他の者達は……!」

「それは違う……! 私の他にも私自身が知らない事を多く持っている者達がごまんといる……! その者達の知識を盗る意味で学べ

……!」

「否です! 私は……私は……っ!」

 

 ラウラは何も言えなくなった。千冬の言葉が正論だからではない。弱気の千冬を見て哀しみが込み上げてくるのだ。否、判らないのだ。自分は誰かに頼ると言う事を。

 自分は基本的、千冬にしか頼っていない。それが原因でもあるがラウラはそれを理解出来ないでいた。千冬の教えが原因でもないが誰かに捨てられると言う恐怖があるからだ。

 誰かに後ろ指を指される事を恐れているからだ。孤独を恐れているからだ。千冬に縋るのもそれが原因だ。ラウラは千冬の言葉に困惑する中、彼女は言った。

 

「私は……っ! 無理です!」

「……ラウラ……」

 

 千冬は心配そうに訊ねるがラウラは下唇を噛みながら身を翻す。

 

「私には誰かに頼る事は出来ません……私には教官しかいません……それに教官をこんなに困らせた織斑一夏だけは赦せません……!」

「ラウラ!」

「失礼します……!」

 

 ラウラの言葉に千冬は怒るがラウラはそう言った後、部屋を出て行く。

 

「ラウラ……っ」

 

 ラウラが出て行った後、千冬は一人項垂れた。ラウラは変わった。人を信用していない。が、自分しか信用していない。それでは彼女はダメになる。

 千冬はそう気付いているが彼女を変える何かが無い。彼女はまだ幼いが多くの事を知らなければならない。が、今は己の無力さに歯を食い縛る。

 彼女は姉としてラウラを止めたい。が、ラウラを変えたい。何方も姉として教官としての葛藤だ。何方も選べない。片方を犠牲にする事になるのだ。

 

「どうすれば良い……どうすれば……!」

 

 千冬は両手で顔を覆い隠す。が、泣いていた。理由は自分の無力さに怒りを感じていたからだ。一夏を思い、ラウラを思っている。どうすればいいのかを悩んでいたからだった……。

 それは優しさとも言えるが彼女は変わりつつある証拠でもあった……。

 

 

 

 そしてその頃、一夏は一人ドイツにいた。それは、レクター博士が言った義手を造れる存在を教えて貰っていたからである……。


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